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優しさにふれる

目覚めているのか、夢をみているのか、ルーシュはベッドの上でぼんやりとした時間を過ごしていました。


みるともなしに部屋の中をみているような心持ちではありますが、どんよりとくぐもっておぼつかない知覚では、記憶の中から切り取ってきた景色のようで、はっきりしているのにどこか遠く感じられます。


ルーシュがひとりで眠る部屋。


ルーシュはひとりきりでした。


ふいに、黒くて暗い眠りの中に落ち込んだ気がしました。


そうして、ルーシュは自分が今意識を取り戻したのだということに気が付きました。


閉じていた目を開けて、あらためて部屋の中を確認します。


天蓋にかかった白いレースの紗幕が見えました。


そっと身じろぐと、そばにいた誰かが急いで顔を覗きこんできました。



『ああ、ルーシュさま!

お加減はいかがですか!?



心配そうに声をかけてきたのはリディでした。



『………リディ…?



かすれた声がこぼれます。


目の周りから奥にかけて熱くて痛くて、そしてその痛みは全身をはいまわるようにルーシュのからだをさいなんでいます。


目を覚ましたときには起き上がるつもりでいましたが、ルーシュはそのまままぶたを閉じてだらりと横たわることにしました。


眼の奥で、ざわりざわりとした血液の流れを感じます。


ルーシュの頭の中をめぐる血流の音が聴こえてくるかのようです。


ひやりとした感触が額にあたりました。


じんと重い痛みをこらえてまた目を開くと、リディが水でしめらせたらしい布でそっと額の汗をぬぐってくれていました。



『――…、少し起き上がれそうですか?

何か口にして、お薬をのんでいただきたいのですが……。



ルーシュは今なにかを口にしたいとは思えませんでした。


けれどもあまりにもリディが心配そうなので、小さくこくりとうなずいて、からだを起こすことにしました。


リディが小さなルーシュのからだを支えながら半身起き上がらせてくれ、具合のよいように寝具をととのえてくれます。


そうしてリディがこまごまと世話をやいてくれるなか、温かいスープをほんの少しお腹にいれ、粉の薬をむせないように気を付けながらのむと



『すぐに横になってしまってはお腹によくないですから、もうしばらくからだを起こしておきましょう。

おつらいでしょうが、お薬がきいてきっと楽になるはずです。

そうしたらまたお休みになってください。



そう言ってにっこりと落ち着いた笑顔をみせてくれました。


ルーシュはぼんやりとうなずくと、もう一度ととのえなおして楽にもたれられるようにしつらえられた寝具にからだをあずけました。


さきほどまでみていたような光景です。


ユリシアを世話する姿と違って、絶望を打ち消そうとするような悲壮な表情はありませんでしたが。



『……ルーシュさま、旦那さまをお呼びしてもよろしいですか?

朝からご心配なさっているんです。

お顔をみせてさしあげても……?



ルーシュの頭はまだずきずきとした痛みを訴えます。


ティオールは確かにルーシュのことをとても心配しているでしょう。


会いたいと思います。


けれども、会いたくないとも思います。


喉の奥が、こみ上げてくる熱にぎゅうと締めつけられます。


ルーシュの瞳は何をもとらえることができず、左に右に彷徨ったあげく、じわりとにじんだ涙をほろほろとこぼしてしまいました。


寝台のそばに控えるリディは一瞬戸惑いをみせましたが、瞳を潤ませ続けるルーシュの熱いからだを静かに支えてゆっくりと横たえさせ、かたく絞った冷たい布で目元をそっとおおってくれました。


ルーシュはそのひやりとした布を両手で押し付けるようにして自分の目をおさえました。


どうしてよいのかわかりません。


あとからあとから涙がこみあげてきます。


時折ぐずりと鼻をならして、とめどのない涙をぬぐい続けました。


しばらくののち、ルーシュからあふれるしずくが落ち着いた頃、寝台横の椅子からリディが立ち上がるような気配がしました。


ずっとそばにいてくれていたようです。


そうして涙で濡れきった布を冷たい水で洗い流して、そっと目元へと戻してくれました。


ルーシュはもう一度、すんと小さく鼻をすすりました。



『ルーシュさま、旦那さまへはルーシュさまはお薬を飲まれておやすみになられましたとお伝えいたします。


『……、随分と心配なさっておいででしたので――…、もしかするとご様子を伺いにいらっしゃるかもしれませんが……。

お気になさらずそのままおやすみくださいませ。

旦那さまはお優しい方です。

無理をされるくらいなら、やすんでいるようにとおっしゃられるはずですから。



ささやくようで、しかしながら筋の通った優しい声です。


リディはそう言い残すと、ほとんど聞こえない静かな足音と、丈の長いエプロンドレスのささやかな衣擦れを耳に届け、はたりと扉を出入りしてルーシュの部屋をあとにしました。


ルーシュは目をおおう布をそのままに、上掛けの胸もとで手を組むようにおろしました。


さらに一度、鼻をすすります。



『リディ、ありがとう……。



もうリディに聞こえないのはわかっていましたが、ぽつりともらしました。



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