リリア
部屋の片隅で暖炉が燃えていました。
薪がパチパチとはぜ、いかにもといった具合で気持ちのよい暖かさが感じられます。
暖炉から離れた場所に、赤ん坊用の囲いつきのベッドがありました。
そこには可愛らしい女の子の赤ん坊が横たわっています。
産まれてからどれくらいでしょう。
体つきや頬がふっくらとし、目が合えば笑顔がこぼれるような頃合いです。
ベッドのすぐそばのソファーでは、編みものの途中でうたた寝にいざなわれたらしい女の人が、うなだれるように頭を傾けて背をもたれています。
と、膝からはたりと落ちた右手に意識が戻ったようで、ふいに頭をもちあげました。
『眠ってしまっていたのね……。
そう呟くとベッドへ一旦目をむけてから、ほっとしたように表情をゆるめました。
赤ん坊はまだ眠っているようです。
女の人は編みかけの小さな上着を手にとりなおしました。
いつの間にか眠ってしまっていたので、どこまで編んだのか確認しておきたかったのです。
しっかり見てみたところ、きちんときりのよい状態でとめてあります。
それをみてにっこりとした女の人は、その編みかけの上着を、そばのテーブルの上に置いておいた蓋つきの藤かごに丁寧に片付けてから、そっと立ちあがりました。
静かに我が子のベッドへとむかいます。
軽く握られたような形をとる小さな手が布団からはみ出しています。
小さな小さな我が子は、なにもかもがいとおしいものです。
ただ眠っているだけの姿でも見飽きることなく、ずっと眺めていられます。
しかし、赤ん坊を眺めた女の人はふと表情をくもらせました。
『……リリア?
赤ん坊に呼びかけます。
リリアは動きません。
頬に触れても、小さく開いた口元はそのままで動かず、それどころか胸元の上下すら感じられないのです。
『リリア?
………リリアっ!?
『奥様、どうなさいましたか!?
知らず声が大きくなっていました。
気配に気付いた屋敷の者が、部屋の外から声をかけて扉を開けました。
『リリアが!
リディ、リリアが―――……!
リディと呼ばれた使用人は女主人の元に駆け寄りました。
女主人は赤ん坊を抱きかかえて、床に座り込んでいます。
リリアの腕は力なく、母親の動くさまに合わせてだらりとたれさがるばかりです。
リディははっと顔色をかえました。
『誰かっ!
お嬢様のお部屋へっ!
部屋の外へ叫ぶとリディは女主人を赤ん坊ごと抱きかかえるように腕をのばしました。
『奥様、お医者さまをお呼びいたしましょう。
ね、奥様!
『どうして!?
リリアっ!
リリアーーーっ!!!
女主人は半狂乱で赤ん坊を抱きかかえ、リディの声も届かないようでした。




