甥っ子、なろう作家デビュー
2017年 8月
私はお盆のため実家に帰省していた。
ダラダラと実家で過ごしていると兄貴に声を掛けられた。
「ちょっといいか?」
「ん? 何?」
「タックがお前みたいに小説を書きたいとか言ってるから、教えてやってくれ」
「は?」
突然の頼み事に私は驚いた。
「叔父さん、お願い!」
タックも兄貴の横で俺に手を合わせて頼み込んでくる。
「小説を書きたいって……書籍化するのは、そんなに簡単じゃないぞ?」
簡単どころの話ではない。才能だけでなく、運にも大きく左右される。私ももう1シリーズ書籍化出来るか? と問われれば、答えはノーだ。そんなに甘い世界ではなかった。
「書籍化なんて狙ってないよ! ただ、俺も……なろうに投稿したいんだよ」
「なろうに投稿……? アカウントの作り方を教えればいいのか?」
「それもあるけど……一応、俺プロット考えたんだ! 叔父さん見てよ!」
「へ? プロット?」
「ちゅーわけで、タックもお前に懐いているから、立派な作家にしてくれ。頼んだぜ、ガ・チャ・空・先・生」
兄貴が皮肉たっぷりの言葉を残して立ち去ろうとする。
「立派な作家って何だよ……。ってか、おい! なら、タックにノートパソコン買うから、金寄越せ!」
特にすることもなかった俺は、兄貴の無茶な頼みを引き受けてノートパソコンを購入しに出掛けるのであった。
◆
私とタックはノートパソコンも無事に購入し、タックの部屋へと向かった。
パソコンの初期設定を済ませ、フリーメールを取得。なろうのアカウントを作成したら、タック曰く『プロット』なるものを確認することにした。
それはプロット言うよりも、中二要素をふんだんに詰め込んだメモ帳。
どこかで見たことのある設定に、何て読めばいいのか分からない漢字の数々。
教えろと言われても、何を教えればいいのだ?
まずは、『小説家になろう』の基本的な使い方を教えた。執筆フォームの使い方。投稿の仕方。ついでに、PVの見方など……。
「使い方はわかった! それで、どういうのを書けばいいの?」
どういうのを書けばいい?
「タックの好きなモノを書けばいい」
「じゃあ、どうやって書けばいいの?」
どうやって……?
さっき、なろうの使い方を教えただろ! って意味ではないだろう。恐らく、創作理論もしくは基本的な創作の知識を聞きたいのだろう。
うーん……難しいな。
悩んだ私は、創作理論とはとても言えない、精神論にも等しい教えを伝えることにした。
「まずは書いてみろ! 書き終わったら添削する」
「……わかった」
「後は、楽しんで書け! 書いてて楽しくないなら、書く意味はない」
「わかった!」
結局、その日タックは3時間ほど書いては、消してを繰り返し……最終的には1文字も執筆出来なかったのであった。
◆
2017年9月
私は所用から実家へと帰省していた。
ご飯を食べていると、タックが姿を現した。
「叔父さん! 後で時間が出来たら俺の部屋に来てよ」
「わかった」
私はご飯を済ませるとタックの部屋へと向かった。
「来たぞ。どうした? ってか、なろうへの投稿は諦めたのか?」
「へへへ。実はなろうには投稿を開始したよ」
「ほぉ」
私はタックが私を呼んだ理由を察した。
「タック、いいか……小説家になろうの中には50万を超える作品が投稿されている」
「そうだね」
「その中で100ptを超える作品がいくつあるか知っているか?」
「……知らない。半分くらい?」
「約5万作品だ。つまり、90%以上の作品が100pt未満だ」
「へぇ」
「PVも同様だ。最初は二桁……いやひょっとしたら1桁PVが当たり前だ」
「ふーん」
「だから、今はポイントが付かなくても、PVが少なくても……それは普通のことなんだ。書き続けていたら、いつかその積み重ねが報われる……かもしれない」
私はしたり顔で、何かで見た『小説家になろう』の現状を伝えた。
「で、タックの作品はどんな感じだ?」
タックは中学生だ。PVはひょっとしたら1桁かもしれない。ポイントは0の可能性も高い。私は、慰める言葉を頭の中にいくつも用意する。
「えっとね……これだよ」
――!
タックの執筆した作品はポイントが500を超えており、PVは1日で1000を超えていた。
「へへへ……凄くない? 俺も選ばれた10%のなろう作家だ」
タックが嬉しそうにドヤ顔を浮かべる。
「凄いな! ちなみにこれが叔父さんの作品な」
大人げない私は『ジェネシスオンライン』のデータでタックからマウントを取ったのであった。
余談となるが……タックは貰った感想には全部返信をしていた。子供っぽく喧嘩腰の返信もあったので、その点は注意した。私は自宅に帰ってからタックの作品を読み、感想を書いた。
1週間以上待ったが、私の感想だけ返信が付かないのであった。
◆
2018年2月
タックは学業に専念するために一年以上、小説家になろうから離れることになった。