ヨウ
「あなたは、一人で生きられるのね」
何年前だっただろうか?彼女がそう言ったのは。
ジープの荷台の上で長身の銃に身を持たれかけてまどろんでいたヨウは、やけに鮮明に彼女のことを思い出していた。
朝日が淡い時間を作る。後続のジープのヘッドライトが消された。
「どうかしたのか?浮かない顔だぜ」
同期のタリームが朝食の時声をかけてきた。
「生理なんだ」
すっとぼけてそう言うと、タリームはばか笑いしてヨウの髪の毛をぐしゃぐしゃにして隣の席についた。こいつは人がいいから笑ってくれたが、他のやつはどうかな?とヨウは人知れず溜め息をついた。
「お前、中央州の名門高校出らしいな?」
「・・・だから?」
「なんで進学しないで軍に入隊したんだ?」
「貧乏でね、早く稼ぎたかったんだ」
「奨学金は?」
「俺なんかより必要としてるやつがごまんといた」
「ふうん」
ヨウの食事のプレートからミニトマトをひょいと取り上げてぱくりとやるタリーム。
「これは?」
小指を立てて聞く。
「いたよ。何人か」
「こいつ・・・」
ひじで小突かれる。ヨウはやり返す気分じゃなかった。
「毎回相手が本気になって、俺が冷めて、振られた」
「お前が振ったんじゃなく?」
「向こうから振られたよ」
ミレニアは美人だった。高嶺の花といわれていた彼女でさえもヨウのことが好きになったのに、ヨウは彼女をほったらかして自分のことで手一杯だった。
ミレニアは将来弁護士になるつもりで猛勉強していたからそのままほっとけば自然消滅する恋だとたかをくくっていたのに、彼女は本気で二人の将来を、未来予想図を描いていた。
恋人ではあったかもしれない。だけど、ヨウには二人の未来が見えなかった。
ハイスクールを卒業したら?
その恐れていた話題になったとき、はぐらかそうとするヨウをミレニアは真正面から対峙した。
「・・・俺は、軍に入隊するよ」
絞り出した答えに、ミレニアは言った。「あなたは、一人で生きられるのね」
俺は、一人では生きられない。だけど、こうなってしまった・・・
一瞬浮かんだ泣き出しそうな顔をタリームに気づかれた。
「わりぃ。みんななんやかやあるよな」
自分は弱いと思う。だからこそ強くありたい。ヨウはタリームと馬鹿話で盛り上がった。軍に所属している間、タリームが一番仲の良いやつだった。
やがてヨウは軍をやめて傭兵になった。いつも未来が見えない。だけど、かすかな希望を抱いてヨウは生きていた。