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異世界に召還された三人目  作者: こたつねこ
第五章 三人目と海
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5-7 三人目、海の主

読んでいただけると、うれしいです。

 岬からは小さく見えた渦でも、近くで見ればやはり大きな渦だった。

 

 渦に対して直角に進入したこの軍艦は、潮の流れの強さによって、直ぐに向きを変えなければいけなくなった。今は渦の流れに沿ってぐるぐると回りながら、徐々に中心に向かっている。船全体がぎぃぎぃと軋んで恐怖に身が竦むようだ。

 

 もしもエルドレッドの魔法によって微調整が出来ていなかったら、渦に巻き込まれて、あっという間にばらばらになっていたかも知れない。そのエルドレッドは額から汗を流しながら必死で魔法を行使している。帆は使い物にならないので畳んだままにしてある。

 

 船の前方に括り付けられた鷲の魔獣の死骸は、船より先に中心に近づいている。その中心に居る正体が何なのか分からないが、場所を変えずに罠を張っていると言うことは、身動きが取れないか、もしくは鈍い生き物ではないかと思う。

 

 海に沈んだままなので、記憶に照らし合わせると鯨や鯱、海豚などの哺乳類では無い。海蛇や海亀……でも無いと思う。ありがちな大蛸や大烏賊だったら困る、というか凄く嫌だ。別の意味でも地獄絵図になると思う。見たくない。

 

 でも蟻の時の前例があるから、何が出るか分からない。どこぞの混沌生物だったら悲鳴を上げる。ふーむ、変な事を想像したせいで怖くなったぞ。もういいや、出て来た瞬間に撃っちゃおう。と背中の魔法剣を取り、戒めを外した。

 

「その剣はやはり貴様の物か? 恐らく強力な威力があって、今まで使えなかったのだろう?」

「ええ、まあ」


 隣で渦の中心を見てたレストが、俺が取り出した魔法剣を見て言う。こんな危険な事態になったら、見つかるとか取り上げられるとか関係無い。それに何だかレストは物分りがいい気がする。見なかったことにしてくれそう。

 

 甲板の上では乗組員達は近くの物に掴まったまま、船の軋む音を聞いて目を閉じて震えている。船長と舵取りの者だけが必死に耐えているだけだ。乗員それぞれが縄を握り、海に投げ出されないようにしている。俺達三人も同じだ。

 

 ある程度、船が中心に寄ったと判断したレストは、合図を出して樽に詰まった海豹肉を、蓋を開けた樽のまま海に放り出させた。数は六樽。それが渦を凄い速度で回転しながら中心に向かい、そして沈んでいく。鷲の死骸も中心に寄った。

 

 ──作戦通りなら、そろそろ渦の正体を見えてくるはず。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 樽が全部、中心に沈んで鷲の死骸が渦の中心の海中に引き寄せられそうなまま、十分程過ぎると、急に渦が弱まり船が外側に飛ばされそうになる。エルドレッドが慌てて船を押し止めるように魔法を使って操作し、何とか中心付近に留まらせた。

 

 船の軋む音は消え、誰も声を発しない。辺りから一切の音が消えた。耳の奥で血の流れる音が五月蝿い。自分でも緊張しているのが分かる。手のひらから汗が止まらず、魔法剣を落とさないか心配になる。

 

 風の音も波の音も聞こえない海の上、自分の唾を飲み込む音だけがやけに大きく聞こえる。五分過ぎても変化が無い。じりじりと焦燥感に駆られて、魔法剣をぶっぱなしそうになる。

 

「初撃は我がする」


 そのレストの言葉にビクッとなってしまった。……俺は緊張し過ぎのようだ。深呼吸をしてレストに頷く。エルドレッドも疲れた顔をしながらも、魔法剣を抜いて構えた。恐らくそれが通用する相手ではないと思うが。

 

 

 ──更にしばらく時間が掛かると思っていると、一分も経たずに中心付近の海底から黒い影が見えてくる。そこには鷲の死骸。もしかして、鷲の死骸に喰い付いたら、そのまま潜ってしまわないか? と今更心配になった。

 

 影は更に近づいている。その大きさはこの船の三分の一を越えているように見える。もし動きの素早い魚型だったら、逃げ切れないかも……。そんな予想をしていたら、大きな影はその巨体に相応しい口を開け、鷲を咥えてそのまま頭を海上に出した。

 


 俺の記憶の中に照らし合わせてみても判断が難しい怪物だった。ウナギ? いやウツボに近いか。 海蛇じゃないと思う、多分。

 

 そのウツボらしい魔獣? は頭を出したまま、鷲の胴体を食いちぎり、その鋭い牙が並んだ頭を船に向けて凝視してくる。乗組員達の悲鳴がそこら中から聞こえた。その巨体で船に圧し掛かられると、それだけで沈没しそうだ。俺も足の震えが止まらない。

 

 それでもも、すでに空に雷雲が来ているのが見えている。すぐにでも攻撃するはずだ。

 

「目と耳を塞いで伏せろ!」


 俺の声が聞こえた連中は直ぐに指示通り伏せた。自分達の悲鳴で聞こえなかった者は諦めた。俺が指示したことにより、余計な手間が省けたレストは無言で魔法剣を振るった。

 

 ドォオオオーーーン!!


 耳を塞いでいても、その轟音が聞こえる。それでも衝撃から直ぐに復帰した俺は急いで、結果を見届ける為に魔獣を見た。

 

 ──魔獣の表面を水が覆っていて、特に損傷は見られない。まさか……、あの水で雷撃を受け流したのか? 電気が通りやすそうな海水なのに? これだから魔獣は嫌なんだ。いつもながらそのしぶとさに呆れる。

 

 愕然としているレストを強く肩を叩き、正気に返す。

 

「あれは駄目です! ただちに後退しましょう!」


 それでも軍人であるレストは直ぐに我に返り、船長に向かって退却を指示する。エルドレッドも自分の攻撃が意味が無いのを察したのか、剣を仕舞い、操船に全力を傾けた。下では誰かが怒鳴って奴隷達に櫂漕ぎを全力でやらせ始めた。

 

 多分、この場所から離れてしまえば、あのウツボの魔獣だって追ってこない気がする。自分で移動するのが苦では無かったら、わざわざ同じ場所で罠を張ったりしないだろう。少しずつ離れていく事に俺はほっとした。

 

 相手が『魔獣』だった事も忘れて。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 いつの間にか船の周囲の流れが逆向きの強い流れになっていた。

 

「後ろに流されてる!? 私の魔法を打ち消して、引き寄せられているぞ!」


 離れた相手を海流を変えて引き寄せるのか! 完全に俺達の船を捕まえる気でいる魔獣。──逃げられない、食われる前に殺るしかないのか。

 

「レスト様! もう一発、『雷』をお願いします!」


 レストは黙ってうなずき、撃つ構えをする。俺は周りの者を先程のように伏せさせた。今回俺は、耳を塞ぐ事もしないで、手でひさしを作り、ギリギリ目が眩まぬように攻撃を見届けた。

 

 ドォオオオーーン!

 

 今度は轟音で耳が聞こえなくなる。それでも魔獣の行動が分かった。レストが雷雲を集め、撃つ直前、魔獣はその行動が分かっていたように水の防御壁を作った。……魔力の流れを感じたとでも言うのか? 雷撃は表面だけに流れ、海に散らされた。

 

 聞こえない耳に回復の力を使い、苦い顔をして魔獣を見つめるエルドレッドに尋ねる。


「レスト、様が魔法剣を使った時、水の流れはどうなった?」

「あ? いや、引き寄せられたままだったぞ」


 くそっ、引き寄せと防御壁に魔法を同時に使えるのか。──こうなったら少しでも離れている今しかない。俺は魔法剣を抜いて周りに怒鳴る。

 

「船首の方に行け! 目と耳を塞いで伏せていろ! 後ろには絶対、近づくんじゃないぞ!」


 少しでも被害を出さぬように、皆を前方へと離し、俺は船の後部へと走った。エルドレッドとレストが俺を見てくるが、俺は首を横に振り、離れているように示した。

 

 ウツボ野郎はその場で動かずに、獲物を手繰り寄せているつもりか余裕を見せている。殺せずとも、驚かしてやると気合を入れる。

 

 

 『雷雲』 心の中で念じる。空には先程とは比べ物にならないくらいの厚い雲が現れ、雲の中で稲妻が光っている。魔獣は空を見ると、少し早いが前と同じように水の防御壁を作り始めた。

 

 『稲妻』 次に念じると攻撃もしていないのに、空から何本もの雷が落ち、辺りは雷光で明るくなる。初撃の雷から俺の耳は聞こえなくなっていて、目の前も真っ白になり、良く見えない。それでも魔獣にも雷か何本か落ちているのが分かる。

 

 何故か急に船が前に進んでいるように感じた。……魔獣が防御壁に力を集中して、船を引き寄せるのを止めたのかも知れないな。

 

 このままなら逃げれそうだが、──もう遅い、コレの止め方が分からん。

 

 よく見えないが、魔獣が慌てて海の中に潜ろうとしているのが分かった。ここまできて、今更逃がさねぇよ。

 

 『落雷』 ──次の瞬間、辺りが光で真っ白になったとしか覚えてなかった。

 

 

 

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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