5-6 三人目、海で魔獣と
今回も読んでいただけると、うれしいです。
軍艦に戻り次第、海豹の居る砂浜に向け、船を南下させる。
予定としては北の海を見に来るつもりではあったが、最初から渦の原因調査に挑むとは思わなかった。今は渦と砂浜との行き来に時間だけが浪費していく。船旅が思っていた以上に身動き出来ないのが辛い。もう少し停泊できる港とかがあったら良かったのに。
またも見所も無い岩場だらけの海岸線を横に見ながら、四日ばかりの時間を掛けて砂浜が見えてきた。食糧補給もそうだが、あの渦に居る『何か』を釣り上げる為に沢山の海豹を狩らねばならない。
前回は小船二艘で一往復だけだったが、今回は二往復、もしかすると三往復することになるかも。海豹は前回と同じぐらいの数が砂浜に見える。前以上の見たくも無い凄惨な光景になるだろう。今から憂鬱である。
前と違ってエルドレッドも連れて行く。時間短縮の為に魔法剣の使用を解禁してもらう。あまりにも狩り過ぎて、将来海豹が居なくならないだろうなぁと心配になりながらも海豹達に心の中で手を合わせ、スマンと今から詫びをする。
何故かレストも付いて来た。まさか狩りの作業は手伝わないだろうに。乗組員達がそれぞれ五六人に分かれて海豹を囲む、バリッ! 音が響き、遠くからエルドレッドが使う剣の雷光が瞬いていた。俺も反対から牙狙いで戦鎚を振るった。
案の定、レストはただ端の方でで俺たちの作業を見てるだけだった。
「おいっ! 何か大きい鳥が来たぞっ!」
乗組員の一人が南の空を指差し、全員に聞こえるような大きな声で怒鳴った。
鷲の魔獣の餌狩りに、タイミング悪く重なってしまったようだ。俺とエルドレッド、他に鷲の討伐を見た者はじっと身を竦めて鷲を見ていたが、初めて見た者はその大きさに圧倒されたのか腰を抜かして逃げ始めた。小船一艘に乗り、母船に逃げ出そうとしている。
馬鹿野郎! 自分達だけで逃げてどうするつもりだ! 今までの経験だったら、恐らく海豹を一頭か二頭捕まえて飛び去る筈だから、じっとしておけばいいものを……。今から叫んで連れ戻してもしょうがないから、そのままにして黙って待つことにする。
「何もしなくていいのか?」
「……ええ、ここは場所が悪い。どうせ海豹を一二匹捕まえて、帰っていきますよ。そのまま動かないで待ちましょう」
レストがいつの間にか俺の傍に居て、そんな事を聞いてきた。俺は静かにしておくようにと説明する。本当なら逃げ出した乗組員達にも言っておけばよかったのだが、まさか小船で逃げ出すとは思わなかったな。
鷲の魔獣が俺達に気にも留めずに飛んで来て、海豹に襲い掛かろうとした。……何も無かったらそのまま行動したのだろう。何故か鷲は頭を海に向けてじっと見てる。何だ? そっちの方向には獲物なんて無いぞ。小船ぐらいしか。
急に鷲が方向を変え、小船の方に向かった。まさか!? 小船が獲物に見えた? それとも小船に乗ってる乗組員達をそのまま小船諸共捕まえるつもりか!?
「海に飛び込め! 捕まるぞ!」
まだそれ程離れていないはずなのに、大声で叫んでも聞こえてない。自分たちの絶叫で俺の声が耳に入らないみたいだ。
「エルドレッド! 『小雷』で牽制しろ! 鷲は船ごと持って行くつもりだ!」
さすがにエルドレッドも鷲の魔獣相手に場慣れしたのか、俺の指示に慌てずに行動する。魔法剣を向け、雷光が発する寸前、鷲がこちらを見た。辺りが光に染まり、周りが一瞬、見えなくなる。それでも鷲には魔法が届いたはず。
「効いて無い!? まさかそんな!」
エルドレッドの驚く声に鷲を見ると、もう小船の上に降りて来ていて、今にも爪を突き立てようとしていた。あの魔獣、魔法を耐えたのか!? 『小雷』を前に見たからか、それとも最初から耐性が有ったのかは分からない。
前に討伐した鷲も効いたのは一瞬だけだった。俺が驚きに呆けている間にも鷲が小船を掴んで持ち上げ始めている。くそっ! 何て力だ! いや、自力だけじゃなく、『風』の魔法の力で浮力を強化しているのか?
もうすでに五メートル程も上に持ち上げられている。乗組員達は海に飛び込んで逃げ出すことも出来ずに竦みあがっているだけだった。今から俺の魔法剣を使っても、乗組員達にまで被害が及ぶ。残念ながら弓も持って来ていない。
一か八かで戦鎚に縄を縛りつけて鷲に向かって投げ、羽根に絡み付けて引っ張るしか……。そんな絶望的な手段しか考えられなかった。そんな時、いつの間にか空は暗くなっていた。
「目を閉じろ!」
反射的に言われたままに目を閉じ。次の瞬間、瞼を閉じたままでも真っ白な光景と、ほんの一瞬だけずれて、耳を 劈 く轟音が聞こえた。出来れば耳も塞げと言って欲しかった。
バリバリッ!ドォォォォンーーーー!!
──しばらく経っても、目を閉じたままでも目の前が真っ白なまま、耳も聞こえなくなっている。目を開けると薄っすらと砂浜の様子が見えてくる。海の近くにいた者は倒れているし、他の者でも腰を抜かしたのか立ち上がれない者ばかり。
鷲の魔獣は? 小船の乗組員はどうした? まだ耳がボヤっとして聞こえにくい。鷲がいた辺りの海を見ると、小船は引っくり返りもせずに海に落ちていたが、乗組員達は倒れたまま気を失っているみたいだ。鷲は背中から煙りを上げて海に浮かんでた。
砂浜に居た他の乗組員が我に返ると服を脱いで小船に泳いで向かった。そっちは任せて、もう一艘の小船に乗り込み、浮かんでいる鷲にさっき使おうとした戦鎚付きの縄を放り投げて翼に絡ませる。そのまま小船に括り付けて砂浜に戻った。
砂浜で倒れていた者はどうやら轟音と光で気絶していただけのよう、小船に乗っていた者は雷撃の余波で痺れて倒れたみたいだった。とりあえず様子を見たが、特に火傷みたいな怪我など無かった。
しばらくは立ち上がれないかも知れないが、逃げ出そうとして他の者に迷惑をかけた罰としてもらおう。……レストや他の者からも罰があるはずだから。
その後はまだ動ける者で海豹を狩った。鷲の魔獣が来た時点で何頭も海へ逃げ出していたが、鷲の死骸が手に入ったので、もう数は要らない。まだ砂浜に居た五頭ぐらいを狩って終わりにした。
海豹の処理を他の者がしている間、俺とエルドレッドが先程の雷撃の使用者に話を聞く。
「レスト様は魔法剣を持っていられたのですね」
「里長から、軍の者に『雷』の加工をしたと聞いた事は無かったのだが?」
「なに、我が家の家宝よ。もう百年以上前に大地人と森人族に作ってもらったと聞いている」
抜いては見せてくれなかったが、前にイマニアムの西の村で見た時の長剣とは違う別の片手剣を腰に下げていた。まさか『魔法』加工付きの剣を持っているとは思わなかった。まあ、わざわざ話すことでも無いと思うけど。
それでもこの『雷』は日に五回しか使えない事を教えてくれた。一日、いや二日? に一回しか使えない、俺の魔法剣より使いやすそうで羨ましい。レストは最初から鷲程度の魔獣なら簡単に倒せたのか。俺達の力を見ていたのかも知れないな。
結局、海豹の肉の補充と、鷲の魔獣という釣り餌にお誂え向きの獲物を持って、また四日かけて北の岬に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺には大渦を発生させているモノが何なのかも見当がついていない。エルドレッドはあの渦が『水』の魔法によるものとだけしか分からないと言っていた。他の大渦は自然発生なのか、同じような生き物のせいなのかも分からない。
たまたま、小さ目の渦に鯨か何かの大きな魚が捕まったから、渦が消えただけなのかも知れない。でも他のあんな巨大な大渦が生き物が発生させた物だなんて考えたくも無い。今はあの小さ目の渦だけに集中しよう。
渦に行く前に、鷲の魔獣をマスト用の太い縄で軍艦の先に括り付ける。ある程度、長さに余裕を持たせてあり、船が危険になったらいつでも切り離せるようにした。鷲の死骸と一緒に道連れなんて御免だからな。
そして海豹の肉を大き目に刻んで撒き餌にする。海豹の肉の匂いで引きつけて、鷲の死骸で釣り出す作戦だ。さながら軍艦が浮きと言った所かも知れない。最悪の事態は軍艦ごと海の中に引っ張り込まれる事だ。それだけは勘弁して欲しい。
話し合いの最初、鷲の死骸をそのまま渦に放り込み、渦が消えている間に抜けてしまえばどうだ? という話が出た。それでもいいが、しかし、行って帰って来る為には同じくらいの餌が必要になる。それに渦の正体が分からない。
もし、この先の北の海には何も無かった場合、俺達は戻って来れないかも知れない。行きに苦労して退路を確保するか、帰りを諦め、前方の進路に希望を見出すか。話し合いの結果、レストの決定で渦の正体を暴く事になった。
岬近くに着いてから準備を始め、次の日の出に合わせて、作戦開始となる。
船旅の描写が難しいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




