5-5 三人目、海の大渦
読んでいただけると、うれしいです。
その森人族の居住区に行くためには、本来、海豹が居た砂浜から向かうのが正しい道らしい。
改めてそちらに向かうのもいいのだが、時間が惜しい。食料にも不安がある。飲み水には最悪、魔法具を使えば最低限の量は確保出来るみたいだが。その代わり料理が劣化する事になる。それは勘弁して欲しい。
幸いの事に岬から少し戻った場所に小川が流れていて、多少の高低差を我慢すれば小船で上流に上る事が出来た。その時にはエルドレッドに魔法で頑張ってもらった。
その森人の所へ行く顔ぶれであるが、俺とエルドレッド、二人の乗組員、そして何故かレストが付いて来た。草原人の軍人なんて、面倒事が起こりそうで心配なのだが……
「服装も変えてきた。我は冒険者の護衛として付いて行く。交渉の時には黙っているから好きにやってみろ」
俺の不安そうな顔を見て、そんな事を言ってくる。うーん、だいじょうぶかなぁ? ちなみにエルドレッドには俺の事がレストにばれて、今以上に手伝いをする事になった、とだけ伝えておいた。冒険者時代の事は話さなくていいだろう。
時間が掛かると思っていた川登りは、村が案外近くにあった事で短時間で終わった。その村には他の場所と比べて少ないけど麦が育てられている。住人も五十人も居ないんじゃないかな?
岬に見えた風車は井戸水の汲み上げじゃなく、麦の製粉の為のようだ。この先、いつか海上貿易が盛んになれば、灯台として使われる事になるかもしれないな。
村の周辺を眺め回してみると、村の傍には俺達が上ってきた川が流れており、南に見える低目の山から続いている。西側の丘の向こうには海が見えた。どうやらここは半島になってるようだ。更にその向こうには中央に高い山が聳え立つ島だろうか?
まさか入り江になっている訳じゃないだろうし、たぶん島なんだろうと思う。思ったより複雑な地形なようだった。……戦人族はあの向こうで漁をしているのか。
今までの経験から、島に見える高い山は、大昔に使った英雄の魔法の跡だと思った。魔獣も居そうだ、それも鳥の魔獣が。とりあえず、この村の長に会ってみる事にした。変わり者じゃなければいいのだけれど……
「珍しい、外からのお客人とは」
ほぼ村の中央の、少し大きな家に村長は居た。こんな場所だから外からの来訪者も珍しいのだろう。話してみると余所者嫌いとか、排他主義という訳じゃなく、ただ静かに暮らすのが好きなだけらしい、そんな人達の村だった。
同族のエルドレッドと何やら談笑している最中、俺は職業を生かして鍛冶の仕事をしてた。生活用具や農機具など、多少の直しと鏃の製作だ。矢が少なくて困ってたらしい。どうもこの村の人は魔法を使える人は少ないみたいだ。
山に行って狩りをするのだが、熊とか猪とかの大型の獣を獲るのは苦手で、鹿や狐、兎が中心とか。魔法が使える者がもっと居ればと話してた。岩場ばかりだと大変だろうなぁ。
俺は思い出して聞いてみる。あの西側に見える島、その中央の山には何か言い伝えがあるか? そのような質問に、ここはそんなに古い村じゃないから知らない。だが、大型の鳥が島の周辺を飛び回っているのを見たことがあると。
うーん、やはり魔獣が現れる山なのか、しかも鳥類。鷲の魔獣もあそこから飛んできたのかも知れないなぁ。この村は獲物が少ないから見逃されただけとか? 海豹とかも鳥の魔獣のせいで減ってたなんてありそうだ。
後は肝心の渦についても聞いた。渦はずっとあのままなんか? そう聞いてみても、ここに来た時から渦は有った。自分達には関係無いから気にしてなかったけど、詳しく聞きたいなら風車の管理人と所へ行ってみたらどうだ? と返ってきた。
風車の管理人……。なるほど、あの高い建物に居れば何か、もしかすれば渦の変化について知っているかも。その村人に礼を言って、レストに話を伝える。
「風車の有る場所に行って、渦の様子を見る。管理人に話を聞く。とりあえずはそれだな」
村長と森人の話で盛り上がってたエルドレッドを無理やり引きずって風車に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その風車は海の水面より五十、いや七十メートル以上高い場所に建ってた。確かにここは風が強くて四枚羽根の風車は良く回っている。しかし、嵐が来た時に羽根が折れてしまいそうで困りそうだが大丈夫か?
その管理人は思ったより若くて、レストと同じ三十くらいに見えた。村に自宅があり、毎日通いで来ているらしい。嵐みたいな風が強い日になると、泊り込みで羽根を見たり、羽根に張ってある帆布を折りたたんだりするらしい。
「ここの仕事は長いのか? 他の者と交替でやったりするのだろうか?」
「親父から引き継いでしばらく経つな、子供にもよるが、大体同じ家系で担う。構造を覚えるのが大変だからな」
建物の中を見せてもらうと風車の軸が真ん中に有って、軸にに付けられた棒によって、何本かの突き棒が時間差で持ち上げられて、それが落下して麦を突いている。この村の麦の製粉を賄っているのか。
「この場所でずっと見ているのか?」
「はははっ、さすがにそんな事は無いさ、風車の部品を交換もあるし、羽根だって少しずつ直していかなければならない。麦を持ってきたり、粉にした麦を運んだり忙しいよ」
「ここに居れば目に入ると思うけど、あの海に見える大きな渦はずっとあのままなのか?」
「いつも見ている訳じゃないからな。あのままだったと……いや、確か前に一回だけ、渦が消えた時があったような……?」
「どんな時だ!? ちょっと思い出してくれよ」
「うーん、いつだったか、何かの、そう鯨か何かの鳴き声が聞こえた事があったんだよ。何だと思って海を見たら、大きな魚の影が渦に巻き込まれて、しばらくしたら一ヶ所だけ渦が消えていたんだ。それでも半日もしないうちに渦は元に戻った」
大きな魚が巻き込まれて、渦が消えた? 俺は最初に渦を見た時を思い出す。あれはまるでアリ地獄のような……。まさか!? 慌ててエルドレッドとレストを建物の片隅に呼び寄せ、小声で話す。
「あの渦の正体は、大きな生き物が獲物を捕まえる為の罠かも知れない」
言葉も発せず、驚愕の表情で俺を見る二人。
「いや、ありえないだろう。渦であの大きさだぞ? 魔獣でもあれだけ大きなものは見た事も聞いた事も無い」
「我も信じられぬな。疑いたくは無いが、そのまま信じるには確証が無さ過ぎる」
──俺も言ってて、それは無いだろうと思ったからな。二人の反応を見ても納得出来る。だけど、確かめてみないと駄目だろう。
「その消えた渦ってどこか覚えているか? それと鯨かそれぐらいの魚って、よく見れるのか?」
管理人の所に戻り、そう聞いてみる。
「ここからすぐ北に見える他に比べれば小さい渦だ。後、鯨は雪が降る時期になると、この辺りの海で見ることがあるんだけど、暖かくなる頃に南へ向かうらしいんだ。今はもう南に向かった辺りだろう」
かぁー、時期が悪いか。まあ、鯨を生け贄にするって俺もひどいけどな。でかい餌って他に無いかね? あー、鷲の魔獣の死骸。こんな事なら持って来ればよかった。
海豹、は小さいかな。この辺の漁はどんなものなんだろ? 聞いてみても釣りでたまに小魚を獲るくらいで、大物なんかは釣れないらしい。結局、生け贄になりそうな大型の獲物は獲れそうに無い。今は諦めて戻る事になると説明する。
レストは何も言わずに外に出て、海を指差しながら管理人に確認してる。消えた渦はあれなのかと。管理人が頷くと、
「……船を囮にすれば良いではないか」
──凄い、いやいや、おっかねぇ。さすが軍人、何て事を考えつくんだ。
「船が沈むとは、考えないのですか? 帰りはどうするつもりです」
「わざわざ作った軍艦、それなりに丈夫には出来ているだろう。前見た大渦ならともかく、あの大きさの渦だったらすぐに沈むとは思えんがね。」
「でも船が沈む前に出てきますかね? 渦の正体が」
「そうなるようにするのが貴様の役割だろう?」
また悪い笑顔で言ってくる。くそぅ、最後に面倒事を押し付けてきやがる。せめて何か大きい餌を釣り餌にしたいが……
結局、俺たちは母船に戻り、海豹狩りに行く事になった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




