5-4 三人目、海の岬
今回も読んでいただけると、うれしいです。
海豹の居た砂浜から出発して、今は高い山は無いけど、岩場ばかりで、たまに木が生えてる地形の横を通っている。これでは例え獣を見付けたとしても、小船を近づけて狩り、と言う訳にもいかないだろう。
肉を大量に仕入れてからの俺の仕事は、料理長の手伝いの続き、そして海豹の肉の塩漬け作業の最中である。血の匂いが凄くて、胃酸が込み上げる寸前だ。砂浜では毛皮とか脂は食料とは別に使い道があるために分けられていた。それでも肉の脂が凄い。
手を脂と血でぬるぬるさせながら、吐き気を堪えて肉を切り分け、それに塩をすり込む。時間が過ぎれば肉の傷みも早くなるので俺も必死で作業した。おかげで皆が喜んで食べている肉を見ても、しばらくの間は美味しそうには見えなかった。
砂浜から五日後、そろそろ北の果てが見えてくるらしい場所まで来た。普通の帆船だったら風が無い時は釣りをしたり、海で泳いだりするかも知れないが、そんな楽しみは一切無い。ほぼ止まる事無く進んできたから。せいぜい風が無い夜に漂ってたくらい。
船に揺れに慣れて、船酔いすることが無くなったエルドレッドは、最初は船旅の珍しさから喜んでいたみたいだが、今ではもう、陸に上がりたい、草原を歩きたいとぶつぶつ言っている。大地が恋しいよな。
でも想像通りなら、更にしばらく船に乗りっぱなしになるだろう。別の意味で退屈はしないと思うけどね。
誰かが北の果てに着いたぞと声を張り上げた。皆が外で見てる傍で俺も外に出て船の先を見つめる。確かに岩だらけの海岸線が切れてるようだ。そこは山の一部が海に突き出ていて、岬になっている。ふと上の方を見ると風車? みたいな物が見えた。
あれは何だ? と近くの者に聞くと、岬から少し陸に入り込んだ場所まで、森人族が住んでいるらしい。あの風車で深い井戸から水を汲み上げているんじゃないか? みたいな返事。でもそこに住んでいる森人族は変わり者ばかりで、外には滅多に出ないらしい。
俺は生気を無くした様な顔したエルドレッドに今の森人族の話を聞いてみる。
「ああ、前にお婆さまから聞いた事がある。ずっと昔に草原人とか大地人とかの他の種族と交流するのを拒み、自分達だけで生活するために里を離れた者達が居ると、そうおっしゃっていた」
「それでわざわざ、あんな住みにくい場所に居ついたのか?」
「詳しい事は私にも分からないよ。森人族なんてあちこちに居るんだから、あの岬の森人が、今言った者達って証明出来ないしさ」
それはそうだな。その岬の森人族が物好きなのか、排他的なのか、今の俺達には関係無いことだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その森人達が居る岬を通り過ぎ、一日もすると海が荒れてきた。でも空を見ても嵐が近いわけでも無いみたいだ。それに海は荒れていると言うか、何だか船が流されているような……?
周りの者に聞いても、こんな所まで来た者はあまり居ないらしく、この辺りの海流がどうなっているかまでは知らない者ばかりだった。知っていても岬から先は船の事故が多いから、普通は行かないらしい。
ここからが問題の場所なんだろうな。渦潮があるって言っていたけど、どの辺りだろう。もう少し先か? 前方には白い波が立っているのが見えてる。……あれ? よく見ると潮の流れがある一定の方向に流れているのが分かった。
──記憶にある渦潮の映像を参考に大きさを考えていたから気付かなかったが、前方の一面に広がる白波は渦の一部だ。ぱっと見だけでも一つの街の大きさを超えている。それに気が付くと、船が引き寄せられている想像に総毛立った。
「エルドレッド! 今すぐ船長、いやレストに船を引き返せと言ってくれ! 目の前にでかい渦が有って引き寄せられているかも知れん」
「なっ!? わ、分かった。すぐ言ってくる」
慌ててエルドレッドがレストに前方の渦を説明し、船を引き返すように説明してる。説明を聞いたレストはすぐに船長に指示して、それに従い船長が怒鳴る。
「面舵いっぱい! 奴隷共に櫂を用意させろ! 魔法を使え! さっさと逃げださねぇか!」
エルドレッドも魔法で船を反転させるのを手伝う。船が反対を向き次第、櫂の漕ぎ手も必死で動かし始めた。『水』の魔法が効きにくいのか、エルドレッドも『風』の魔法を帆に送り、船を進ませる。
船が、もう少し早い速度で進んでいたら危なかった。徐々に離れていく渦潮に心底ほっとする。渦潮と言っても記憶にあるものとは違いすぎるな。大きさもそうだが、何かまるで近くに通る物を引き寄せて捕まえるアリ地獄のような物を想像した。
離れた場所で船長や他の者がエルドレッドに感謝しているのが見える。エルドレッドもこっちを見ながら、きまりの悪い顔をしている。褒められるのはそっちに向けて欲しいんだから、気にしなくていい。
レストもエルドレッドに礼を言っていたが、エルドレッドがこっちに顔を向けたのに合わせて、何故か俺の方にやって来る。慌てて頭を下げて視線を合わせないようにした。
「ふー、なんとか危機を乗り切ったな。咄嗟の判断が無かったらと思うと、冷や汗が止まらん」
レストは船べりに背中を預けて、まるで誰かに聞かせるように話してくる。俺は黙って頷いた。
「これは我の独り言なのだが、前に腕の良い冒険者が居た。噂では獣との戦いに強くて、仲間を助けると評判だった男だ。」
……何を話すつもりなんだろう? 俺は身動きが出来ない。
「会う前にその者に関して、色々聞き回った。いわく槍の達人、草原の治療士、戦いの先導者等、色々聞き及んでいた。特に急場での指示が只者ではないと。その者の名はケイン。我もその者と会い、非凡の才を感じた」
「……」
「だが、まだ雪が残ったある日、王都の北の森で熊に喰われて死んでしまったわ。我が雇い入れ、森人族との交渉の役に就けようとしたらすぐにだ」
それから俺の方を見て、にやっと笑い、話を続けた。
「可笑しな事に、その者の遺品の剣が違ったのだ。あの剣には見覚えがある。イマニアムの南の村、盗賊に襲われて、一時は滅び、今は復興の最中なのだが、その村が盗賊共に襲われるより前、かなりの剣の使い手が居た。その者の持っていた剣だった」
俺の今の剣をチラリと見やり、改めて俺と目を合わせて聞いてくる。
「よく似てるが違うな。あの時の剣はどうした? どこかに置いてきたのか?」
「──人を助ける時に折れてしまいまして」
「ふっ、人助けの為に剣を捨てるとは、貴様らしいと言う事か。山でエルドレッド殿と一緒に居る所を見た時は驚いたぞ。我から身を隠して、二度と見つからんと思っておったわ」
俺も二度と会いたくなかったんですけどね。最初から正体がばれていたのか。金に目が眩んで船に乗ってしまった。この場合は口車というべきか?
「逃げ出した事に関しては別に咎めてはおらぬ。軍役に就く前だったからな。それに船に乗せてしまえばもう逃げ出せなかろうし、何かの役に立つと思ったからな。今日は思ったとおり、見事活躍してくれたな。はっはっは」
そういって愉快そうに笑った。そっかー、剣で分かったかぁ。でも捨てられなかったんだよ、しょうが無いよね。もう折れちゃったけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、レストは俺に今までの事をとくに聞かずに離れていった。まあ、お咎め無しみたいだから、大丈夫かな?
大渦の事に、レストに正体がばれた事と、今日はもうおなかいっぱい。船だって岬まで戻っても、西に舵を向けて戦人族の居住地帯に入る訳にはいかないし、大渦には近寄ることさえ出来ない。イグザギに帰るしかないのか?
船長とレスト達と一緒にエルドレッドが話し合いをしてる最中、乗組員の一人が俺にも来いと言ってると、連れて行かれた。
エルドレッドは不思議そうにこっちを見て、レストは愉快そうに笑っている。
「オスカーだったか? 貴様にも意見が聞きたくてな」
レストのその一声に船長が怪訝な表情になる。俺もまさか作成会議に呼ばれるとは思いませんでしたよ。
「いやなに、別の職を持つ者にも話を聞いてみれば、何か妙案が浮かぶかも知れぬだろ?」
「俺達だって何もいい考えが浮かばねぇんですから、それはいいんですがね。コイツに何か出来るんですかい?」
そう言ってくる船長。それにエルドレッドが俺を見て何で呼ばれたりしたんだ? 見たいな顔をしてるな。……色々あったんだよ、後で詳しく話す。
「とりあえず地形が知りたいんですが、誰か分かりますか?」
聞いてみても、この辺りの地図も海図も無いみたいだし、来たことのある者もほとんど居なかった。
うーん、ふと岬を通った時に見た風車を思い出す。あの場所から毎日海を見ていれば何かの変化を見つけたり出来ないだろか? 問題は変わり者と言われている森人族の方かぁ。
「岬の周辺に住んでいる森人族に会って話を聞きたいと思うのですが、どうでしょう?」
他に案が浮かばず、岬に住んでいる森人族にこの辺りの事を聞くということで、そちらに向かうことになった。
この話が投稿される頃には、北の地図が活動報告に載ると思います。
参考にしていただけると嬉しいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




