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異世界に召還された三人目  作者: こたつねこ
第五章 三人目と海
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5-3 三人目、海の異変

読んでいただけると、うれしいです。

 巣に居た鷲はオスなのかメスなのか性別の判断がつかない。先ほどの鷲より大きいのでオスだと思うけど。

 

 巣から俺達を見下ろしている鷲は俺達が倒して、水の中に漬かっている死骸をじっと見た後、こちらにはほとんど関心を示さず、北に向けて飛び去った。

 

 ……えらくドライな反応なんだな? 蟻の魔獣だって仲間が倒されたら怒って向かって来たぞ。自分の相方とはいえ、死んで繁殖の機会が無くなったから、もう次の相手を見つけにでも行ったのか? よく分からんが助かったみたいだ。

 

 

 魔法を撃つ用意をしてたエルドレッドは、今の事態にポカンとしてた。俺はエルドレッドの肩を叩き、木の影に隠れてた乗組員達に向かって、母船に戻ろうと声を掛けた。安全だと分かったからか、慌てて小船に向かい始める。

 

「あんた達、その水の中の大鳥はどうするんだ?」


 どうしようか? 確か魔獣の肉は不味いから食べないって、森林狼の長は言ってたし、使い道が無いような? せめて討伐の証明と記念に風切り羽根とか尾の羽根とかを何本か持って行こうか。

 

 肉は旨くないから捨てていくと説明して、皆が自分の欲しい分だけ、鷲の羽根をぶちぶちと毟りだした。羽根自体が大きくてかっこいいから、いいお土産になるね。

 

 

 結局、森の中の獣は鷲の魔獣が食い尽くしたか、恐れて逃げ出したようだ。俺達は飲み水を汲んだだけで、他には収穫無しで、余計な体力を消耗しただけで探索を終えた。

 

 心配になって乗組員に食料は足りるのか? と聞くと、魚を塩漬けした物や干した物、硬いパン、酸っぱい酒なら十分あるらしい。でも食べ飽きると。そんな事を聞かされれば、肉が欲しくて狩りしたくなる気持ちも良く分かった。

 

 しかし残念ながら、ここでは無理である。今まで鷲の縄張りも広かっただろうし、この先にたとえ獣が居た可能性があったとしても、もうすでに狩り尽されて居ないだろう。色々な疲れから俺達はがっくりと肩を落として、母船に戻った。

 

 ──そう言えば、山羊狩りの時に鷲が俺達に襲い掛からなかったのは、餌としては小さいだけだと思っていたが、先ほどのこちらを無視するような反応を見ると、何か感じ取ったか?

 

 

  ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 時間を掛けて水を汲んだだけで戻って来た俺達に、船長をはじめ、他の乗組員達は役立たずだの穀潰しだの罵ってくるが、鷲の魔獣の羽根を見せると驚愕して黙りこんだ。

 

「鷲の魔獣が襲い掛かって来て、倒すのに大変だったんだ」


 エルドレッドがそう説明すると、今度は船長たちは逆に、鷲の魔獣が? 倒して来ただと? と驚き、騒がしくなったった。俺が船長にエルドレッドの魔法で仕留めたと説明すると、目をキラキラさせながら、

 

「すげぇな! さすが狩人の達人、森人族だぜ!」


 そう言って、エルドレッドの肩をバンバン叩く。エルドレッドも満更ではなさそうだ。このお調子者め。

 

 

「森人のダンナも確かに凄かったけど、あの付き人だと思ってたヤツが色々ダンナに指示してなかったか?」

「タメ口で話してたな。草原人だけど、あの人も狩人じゃないのか?」

「いや、見習い鍛冶士でダンナの従者って聞いてたぜ? でも、魔獣の肉も食ったことあるような事、言ってたなような」



 ──俺達と一緒に行った乗組員達がこちらを見ながら、ぼそぼそと話し合っている。こりゃイカン。後はエルドレッドに任せて、俺は静かにしていよう。

 

 そんな事を思い始めた時に、ちょうどレストが来た。俺はささっと自分が持って来た何枚かの鷲の羽根をレストに差し出す。レストがそれを見て唸っている内に、エルドレッドに後は頼むと目線を送ると頷き返してきた。

 

「済まなかったな、ステュワート殿。鷲の魔獣が居たせいで、ここらに獣は居なかったようだ。それに魔獣に襲い掛かられて、戻るのが遅くなってしまった」

「そんな事になるなら、その場に我も行きたかったぞ。それでエルドレッド殿が鷲の魔獣に止めを?」

「……まあな。鷲の魔獣と言っても、所詮は鳥。川に落としてやれば、水から打ち上げられた魚じゃないが、空も飛べなくなる」


 レストが一瞬、俺の方に視線を寄越す。少々驚いたが、目を伏せて頷き、今の話は本当です。みたいな態度を取った。

 

「さすがだな、あの大きさだったら肉が多く取れそうに思えるが……何やら聞けば魔獣は不味くて普段は食わぬみたいだな」 


 山で見た鷲と倒した鷲は別の個体だけどね。


 その後、俺の分の羽根をそのままレストへ記念として贈呈し、代わりにエルドレッドは討伐報酬として金貨五枚を貰ってた。一緒に行った乗組員達は分け前を辞退し、羽根を貰ったからこれだけで十分だと笑顔で言っていた。

 

 俺も貰うつもりが無かったのだが、エルドレッドから金貨二枚いただいた。──お前、良いヤツだな。

 

 結局、肉は仕入れられなかったが、鷲の魔獣狩りで皆の気分が向上したようだった。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 それ以降は高い山とそこから続いた崖ばかりで出来た海岸線を横目で見ながら、船は進む。

 

 天気も良く、追い風ではないが、帆に受ける風も強くて、速度も十分。確かに魚に偏り、食糧事情は悪化したが、もう後四日もすれば砂浜が見えてくる。そこには海豹が居るはずだから、肉がいっぱい食えるぞ。そんな事を料理長から聞かされる。

 

 そう、俺は今、船の炊事場で料理長の手伝いをしている。エルドレッドには少なからず仕事があるのに、俺が何もしないでぼけらっとしているわけにはいかない。そこで、手伝いを料理長に自ら申し出た。

 

 船には食料の冷蔵なんて出来る物は無い。塩漬けや干物、日持ちするものばかりである。ここで火を焚く薪とか、料理に使う水まで制限されていればお手上げだったが、ここには『火』と『水』の魔法具があった。

 

 ……最初から、この存在を知っていたらもっと生活が楽だったのに。今更そんな事を思いながら、便利な道具と利用させてもらっている。一日の使用量には限りがあるが、何回も使えるのが良いな。

 

 俺は料理長の言われた事をやってた。皿を用意しろ、料理を盛り付けろ、さっさと飯を食え、皿を洗え、ゴミを捨てろ……ってあれ? 目にゴミが入ったかな? 塩水が出てくる。

 

 作る料理は簡単な物で、塩漬けした白身魚を水で戻し、フライパンを使って油で焼いて終わり。それに焼きしめた硬いパンと、醗酵が進んでいるような、すっぱぬるいぶどう酒である。

 

 さすがにひどいと思った。これなら森に行った時に、薬草でも探して来て、乾燥させて振りかければちょっとはマシになると思えた。俺も少しは香辛料を持って来ているが、これはこれ。自分用である。皆、スマン。

 

 他に聞いた話では、船長とレスト、一部の軍の関係者は燻製肉とかチーズや蒸留酒とか、保存食でも他よりマシな良い物を食べているらしい。これだから貴族ってヤツは! 食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ。

 

 

 料理長の手伝いをしながら、いつか自分の店を持てたら……。あまりの重労働により、未来の妄想をして現実逃避していると、砂浜が見えてきたぞと、外から声が聞こえる。肉! 真っ先にそう思いついて、外の甲板に飛び出す。

 

 他の者が甲板に大勢集まって、砂浜の方を見ている。俺もそちらを見ると、確かにアザラシっぽい動物が居るのが見える。でも、アザラシにしては牙があって長い。セイウチかトドのように見える。

 

 あれを殴り殺すのかぁ。そんな事を考えていると、そちらを見てた乗組員達から、いつもより海豹の数が少ないとか、何か小さいなとか、そんな話が聞こえてくる。そうなの? 繁殖期がずれているだけなんじゃないの?

 

 それでも船を座礁しない海岸線ギリギリに泊め、小船二艘を降ろして、乗組員十五人ほどで砂浜に近づく。記憶にあるアザラシだったら、船が近づいた時点で逃げているよな……、と考えるも、警戒心が薄いのか砂浜に寝転んだままだった。

 

 乗組員達は櫂を漕いでいて、どうやらその櫂がそのまま武器になるらしい。どこぞの剣豪を思い出すな。その海豹は、思ったより好戦的らしく、その身を起こして逃げずに牙を向けてくる。

 

 何だかちょっぴり安心した。無抵抗の海豹を殴り殺すのは嫌だなぁと思っていたから。俺も偽装のつもりで持って来た戦鎚を握り締め、乗組員達に付いていく。一応エルドレッドは置いてきた。ヤツの魔法剣を使ったら大量虐殺になりそうだから。

 

「グルゥアアア!!」


 予想より野太い声で威嚇してくるアザラシ。周りを囲みながら櫂で殴りつけていく乗組員。アザラシは素早く牙を振り回し乗組員達を近づけさせない。皮下脂肪のせいか、櫂で殴っても効き目が薄い様子だ。

 

 三頭ほどのアザラシをそれぞれ五人ずつで囲んでいて、少しずつ体力を奪っている。時間を掛ければいけるだろう。それで何頭狩るつもりだ? 近くに居た人に聞いて見ると十頭くらい狩って帰りたいらしい。さすがに魚は飽きたもんね、よく分かるぞ。

 

 でも長引けばそのうち逃げてしまいそうなので、俺も真面目に参加する。他の者が注意を引いている間に、後ろに忍び寄って後頭部に一撃! ……分厚いゴムを叩いている感触。牙が来たので、とりあえず下がるが、致命傷には程遠いぞ。

 

 それならと攻撃力を奪う方向で牙を狙う。バキン! こっちには思ったより効き目があったのか、鈍い音がしてひびが入ったみたいだ。それからの俺は他の所の分も含めて、牙折り専門になった。でも殴り殺すのって、結構気持ちが萎えるな。

 

 その後、獲物の処理は他の者に任せて海を見て休んでた。現場は辺り一面が血だらけで凄惨な光景になったてからね。近くに人が居たので気持ち悪くなったのか? と聞いてみたら違った。

 

 どうも海の様子が前来た時と違うらしい。今回の海豹もそうだったが、ここから見える魚が少ないとか。小魚くらいは居ても、大物が見えないと話していた。

 

 うーん、ここから西の方に魔獣がよく現れる山があるけど、それに関係しているのでは無いだろうな。まだ北の果てたどり着くにはしばらく時間が掛かるし、山の魔獣の事なんか考えていられない。

 

 いつか不測の事態が起きそうな気がして不安になる。

 

 

 

 

トドカレーは牛肉みたいな味がしました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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