5-1 三人目、海への道
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「森人族が一人で、大鳥の魔獣が出ると言う山へ、山羊を狩りに行っているというではないか。これは会っておかねばなるまいと、馬を飛ばして来てここで待っておったのだ」
俺は鍛冶士のつもりでいつも頭に布を巻いてる。さすがに貴族の前で被り物を取らないといけないだろう。レストは前に見た軽装姿じゃなくて、貴族らしい高そうな上等の服を着ていたし。すぐに頭から布を取り払い、無言でその場で跪いた。
もちろん目なんか合わせない。今はエルドレッドに付き従う一人の御者兼下男であるつもりだ。エルドレッドが軽く動揺してるのが分かる。でもここは上手く切り抜けて欲しい。
「久しぶりだなスチュワート殿、今日は何の用だ? まさか、私達の狩りを見に来ただけの訳では無さそうだが?」
「……エルドレッド殿だったか? 別に協力要請に来たというつもりは無い。だがまさか、山羊狩りの森人が貴殿だったとはな。いやなに、腕利きの森人族を探しておったのよ。今、イグザギで新造の軍艦の話を聞いた事はないか?」
「確かに港で大きな船を見たな。あの船にスチュワート殿が関わっていたのか? ……まさか、その軍艦を使って北に攻め入るつもりじゃないだろうな?」
「ははは、それもいいかも知れんな。だが、我が上から命令されたのは、その様な事ではない。どうだろう? 協力してもらえればその内容を教えるのも差し支えないが?」
戦人族の居住区に攻め入るつもりじゃない? 北の海に何かあるのか……戦人族が言っていた渦潮に関係する何か、なんてある訳無いか? でも少しそんな予感がする。
「協力すると言うのは、軍艦に乗船してか? せめてどちらに向こうのか聞かせてもらわないと、検討も出来ないな」
「確かにそうだな、北、とだけ言っておこう。安心しろ、魔族の住む場所には向かわん。それらとの戦いは無い」
──? 今の言い方に何か引っ掛かった。何を企んでいるんだ? でも今は、この場を切り抜けるのが優先だな。このままレストと分かれて、宿でエルドレッドとどうするか決めたい。
「しばらく考える時間を貰っていいだろうか? 明日には返事する、スチュワート殿は……どちらにご滞在か?」
「そうだな、港に軍の仮設支部が置いてある。おそらくそこに居るだろうから、そこに来て貰いたい。貴殿の良い返事を待っている」
そう言って、レストは馬に乗って帰って行く。その時に俺の方を少し見てた気がするが、俺は頭を下げたまま、レストとは目を合わせなかった。鷲の魔獣といい、レストといい、今日は緊張しっぱなしだったなぁ。
エルドレッドか案外、ちゃんと対応出来ていたのが驚きだったが。さすがに里長の孫と言うべきだろうか? 今日だけは褒めてやろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ぐったりしながら宿に戻り、夕食もそこそこに部屋に篭って話し合う。レストの目的をちらっと聞いただけだが、戦人族への襲撃では無い様子。確かに俺達は船に乗って北へ行くのが目的だった。でもレストの目的は何かは分からないが、軍艦が必要な事とは?
本音を言えば、レストとは一緒に船に乗りたくない。しかし、船に乗れる事を考えれば、普通に乗ろうとするより数倍は早く目的が適う。
「少し大変になったが、北の海を見るという最初の目的を叶えるなら、悪い提案じゃないな。戦人族との戦いにも関わらないと言うのが大きい。エルドレッドには交渉とか大変な役割になると思うが」
「軍艦を使って北の海、あるいはそこに何かあるかだろう? 胡散臭いんだよなぁ。森人族の腕利きが欲しかったと言う言葉にも考えてしまうな。絶対碌な事は無いだろう?」
「戦人族が言っていた大渦に関係するんじゃないかと思うんだ。戦争じゃなくて、あんな軍艦を使う事は今はそれしか考えられない。それ以外の事は俺達が知らないだけって可能性もあるんだがな。どっちにしろ、エルドレッド次第だから、お前が決めろ」
「うーん、不安があるが、とりあえず北の海に行ける。戦人族との戦いは無い。しかし、他に何かする可能性もあるか……。まあ、行ってみるか」
「決まりだな。これからは俺はお前の従者として振舞うから、上手くやってくれ」
船に乗ることを前提に仕事内容を聞く、それによっては最悪断ることにする。エルドレッドと二人でそういう話になった。
翌日、港にある軍の仮設支部に向かった。あまり目立ちたく無いので、弓と剣二本は宿に置いたままにする。……置いて行くのは盗まれそうでちょっと怖いが、レストに剣が見つかる方が怖いので我慢するしかない。
通りすがりの港の者に建物の場所を聞いて向かう。その建物は港にあった倉庫を中だけでも改装したようだった。場違いに広い内部を軍の関係者と船の建設に関わっている職人らしい者とがばらばらに動き回っている。
入り口に居た歩哨だと思う兵に、レストの居場所を聞いて案内してもらった。ちなみに、これから人前で交渉するのはエルドレッドである。案外交渉事はまともなので安心して見ていられる。
「良く来た、貴殿のその顔は受けてもらえると見ていいのかな?」
「ああ、そのつもりだ。その代わり自分に何をさせようと言うのか、詳しく聞かせて欲しい。あまりにも無謀な事なら、断らせてもらう」
「いいだろう。ではこちらへ」
レストの後に付いて行くと、仮設支部の一角に客を迎えるテーブルと上等な椅子が置いてあった。レストとエルドレッドが椅子に座ると、俺はエルドレッドの斜め後ろ、少し離れた場所に立つ。雑用の兵が二人に香草茶を待ってきた。
「説明の前に貴殿の後ろに居る男はどう言った関係だ?」
「イヒシンの鍛冶士見習いで、今は私の雑用をしてもらっている。船に乗る時も連れて行って構わないか?」
「……鍛冶士か、なるほどな。その方がいいだろう」
何がいいのか分からないが、俺は結構緊張している。たまにこちらに向ける視線に身が竦みそうになる。
「では説明しよう。我らが軍艦で行く先は、北の大地の果て、それより更に北にあると言う大陸だ」
何!? どうしてレストが北の大陸を知っている? その大陸に何があると言うのか?
「今までは伝説に過ぎなかったんだが、北の大地に居る魔族達の場所から、更に海を越えて北に向かうと大陸がある。そんな噂がある所から広がった」
どうしてそんな噂が出たのか分からない。どこから? そして誰から? 戦人族の者が話す可能性は、無いとも言い切れないか。
「王国としては、北に軍を送り、魔族達を殲滅させて、そこから船で北に向かうつもりだったのだ。それが、どうも上手く行かなくてね。貴殿達が協力してくれたらもっと早く進められたのだが……それは今は関係無いな。それで、ここイグザギで船を新造し、北に向かえと勅命が下ったのだよ」
「北の大陸か、それが本当か分からないが、私に何をさせようと言うのだ?」
「軍艦は港を離れれば、帆に風を受けて進むことが出来る。しかし、小回りが効かなくてね、船を『水』の魔法で押し流す、帆に『風』を送って進める、そんな力がある者を探していたのさ」
なるほど、あんな大きい船だと風が無いと全く進めなくなる。それの漕ぎ手としてエルドレッドを雇いたいのか。それは森人族の乗り手を探す訳だ。でも、一人で賄えるのか?
「私でも、あんな大きな船一隻を動かすのは難しいと思うが……」
「なに、補助としてだ。櫂の漕ぎ手の奴隷が居るからな。アチクの近くで盗賊を捕まえて、そのまま船に放り込んだ。勇者が殺さないで捕まえた時は、無駄なことをすると思ったが、こんな使い方があったとはな」
そう言って、貴族らしい黒い笑みを作った。元盗賊の奴隷か……イマニアムの東の村で助けた盗賊達は運が良かったんだな。しかし、勇者は殺さずに捕まえたのか。俺だったら、もしかすると殺していたかも知れない。
しかし、レストは北の海の渦潮の事は知らないらしい。まさか、それを見てそのまま進むとは思えないが、もしもの時はエルドレッドに言って止めてもらえばいいだろう。
「どこまで出来るか分からないが、協力させてもらおう。とりあえず、北の海はどうなっているのか見ておきたいとは思っていたんだ」
その後、十日に金貨二枚と言う破格の報酬で雇われることが決まり。約五日後の出発ということで話が終わった。
……俺の報酬はもちろん無かった。
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