4-9 三人目、森人の仲間
今回も読んでいただけると、うれしいです。
あれだけ酒を飲んだはずなのに、普通に見えるエルドレッドに改めて脅威を覚える。本人は海産物がこんなに美味しい物だとは思わなかったよ、と上機嫌である。
俺は諦めて、とりあえず船を見ておこうと港の方に向かう。荷車がそちらから行き来しているので間違いないだろう。エルドレッドも周りを見ながら付いて来る。この街に来た時と大違いに、街に漂う潮の香りには気にならなくなっていたようだ。
港に行くと岸壁があり、桟橋もあるにはあるが、大きな船は係留出来るようにはなっていない。岸辺から五十メートル以上離れた場所に泊まって、小船で人や荷物を積み下ろししてるようだった。
頭の中では北の地形はどうなっているのか分からなかったが、東の海岸線を北上し、戦人族が言っていた渦潮や周辺を見てくるつもりでいた。出来れば戦人の船がどのような物か参考にしておきたかったんだけどな。
桟橋に繋いである漁船から漁師が魚介類を下ろしているのを見ながら、どうしようかと考える。
船だけ借りてエルドレッドと二人で……無理だろうな。貸してもらえるとは思わないし、当然買うことも出来ない。まして二人で操船なんか出来そうに無い。港に泊まっている船を見れば漁業用の船ばかりに見える。遠くまでの航海は無理だろう。
まさかこの街には来ただけで、北に向かって陸地を行く可能性が出てくるとは思わなかった。平坦な道なら良いが、山あり森ありな旅となったらどれぐらい時間が掛かるか分からない。
まいったなぁ、と辺りをぐるりと見渡すと、岸壁から一番遠くに見えていたから気付かなかったが、港では他に見かけない二本マストの船がある。形は良く分からないけど、昔映画で見た海賊物の軍艦に見える。
──なるほど、酒場で聞いた貴族の船ってあれか。軍艦、って事はまさかあれで北から回り込んで戦人族の村々を襲うつもりじゃないだろうな?
少し嫌な想像をしてしまった。エルドレッドにあの船が良く見えるところまで行こう、と声をかけると、エルドレッドが別の方向をじっと真剣な顔で見てる。そちらに何かあるのか?
「あそこにいる草原人、前に我らの里に来た軍人だぞ」
えっ? 森人族との交渉に来た軍人が居るの? 慌てて俺もそっちに振り向いて、エルドレッドが指差した人物を見……ないようにして、慌てて視線を逸らす。エルドレッドにもそっちを見るなと体の向きを変えさせた。
──レスト、確かレスト・ステュワートだったはず。何でこんな所に? そのレストは軍艦のような船を見ながら、誰か職人に見える男と話をしてた。
「あれは一応、貴族だ。多分、あそこに泊まっているデカイ船の事に関係してるんだと思う」
小声でエルドレッドに話し掛けながら、不自然に見えないようにゆっくりその場を離れた。レストの観察眼は半端では無い。俺がケインと知らなかったとしても、森人族と一緒に居る所を見つかれば面倒事が起きるかも知れない。
「あの男をオスカーは知っているのか?」
「前にちょっとな。出来れば会いたく無い。王国軍に関係して、エルドレッドたち森人族に協力要請したみたいに、あちこち動き回っている軍のお偉いさんだぞ」
「何だって? あの船を使って何かやろうとしてるのか?」
「たぶんな」
俺達は港から離れて、街の入り口に近い場所で宿を取った。借りた部屋でエルドレッドと話し合いをしなければならない。
「とりあえず、この街から離れた方がいいと思う。エルドレッドも里での事があるから、面倒なのは分かるだろ?」
「ふーむ、確かに面倒だけど、王国軍の者は我ら森人族には強く出れないから、そこまで心配することかなぁ?」
「なに? 強く出れないってどういう事だ?」
「魔法具を作り、王国に卸しているのは我らだからな」
──初耳なんですけど?
考えてみれば当たり前の事だった。魔法剣に『魔法』の加工が出来るのは森人と一部の者だけって親方が言ってた事を思い出す。最初に見た魔法具の値段が高すぎたので、すっかり存在を忘れていたのだ。
エルドレッドの話によると、一般の者は回復と生活に使える魔法具だけ、一部の上級冒険者と軍の関係者以外は戦闘用の魔法具は買うのを禁止されているらしい。生活の魔法具って何? 聞いて見ると竈で火を焚いたり、水瓶に水を張ったりできる物らしい。
回復の魔法具は特別に強力な物だから高額だけど、他の物は金貨一枚はしないとの事。──くそぅ! 回復の魔法具が高すぎて他の物に目が行かなかった! あの魔法具屋の店主め!
今更のことに怒ってもしょうが無い、諦めて他の事を聞いてみる。エルドレッドも作れるのか? と、俺には無理だと言われた。里長や妹……ウェルや一部の者だけか作れるらしい。材料も魔鉱石じゃない森人族、秘伝の物だと説明される。
エルドレッドのお世話代、魔法具にしておけば良かったんじゃね? ほんと今更である。
衝撃の話を聞いて、ついつい脱線したが、これからの話に戻す。
さっきの貴族に会いたく無い、船を借りるにしても金が必要だから、北の山付近でしばらく狩りを中心にしないか? そう説明するとエルドレッドも狩りがしたかったのか、その話に食いついた。
じゃあ早速……そう言うとエルドレッドが冒険者組合で依頼書を見てくると。まあ、そうだな。獣を狩ったとしても、依頼の無い獣じゃ金にならない。
俺達は辺りに注意しながら、組合に向かった。俺はその建物の前にある酒場で待つことにする。酒場でも冒険者は居るが、幸い顔見知りは居なかった、それでも俺が弓と剣を持っているのでチラチラ見てくる。特に背中に括り付けられた剣を。
うわーしまった、二本の剣と弓だと目立つかぁ、今度から気をつけよう。
エルドレッドが依頼書を見たのか戻ってきて、山羊は生きて連れ帰れば金貨一枚、死んだら銀貨三枚、それと昨日見た鷲の魔獣の討伐に金貨五枚が出るらしい、と興奮したように大きな声で話してきた。
今の話に注意を引いたのか、周りの冒険者の視線が集まる気がする。俺は慌ててエルドレッドを引っ張り、酒場を出て宿に戻った。森人族って周りから本当に狩人として優秀だと認識されているんだなぁと改めて理解した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は一旦、宿にエルドレッドを残し、剣と弓を宿に置いて商店が並ぶ場所を探した。欲しい物は山羊を捕まえるための縄、エルドレッドによると魔法で足止めするから長さはそこそこでいいらしい。本数だけ予備を入れて五本買っておく。
もしも捕まえられずに狩り殺したらどうするかな、荷車か荷馬車が欲しいなぁ、エルドレッドに頼んで冒険者組合から荷馬車を借りてもらおうかな。
鷲の魔獣は……無視しよう。話を聞くと、どうやら人間を餌と認識して無いみたいだし? 討伐なんてなったら魔法剣を使うしかなくなるだろう。討伐自体に成功しても目立ち過ぎる。うん、無視がいい。
他に保存食とぶどう酒、もしも野宿した場合の事を考え、塩と香辛料、燻製肉も欲しかったが少々お高い、代わりに海豹? アザラシの塩漬け肉があったので買っておいた。
宿に戻り、エルドレッドに明日の朝一番に、組合から荷馬車を借りるように頼む。とりあえずは必要な準備が終わった後は宿の酒場で夕食を取り、早めに就寝した。
翌朝、早めに組合に行き、エルドレッドに山羊の依頼を受けてもらい、ついでに荷馬車を借りてもらう。一人で行くことに職員は驚いていたらしいが、森人族と分かって納得したらしい。建物に三人ほど居た冒険者が羨ましそうに見てたとか。
一応、俺は冒険者じゃないし、狩りはエルドレッド一人でという事になっている。俺は御者のつもりで馬車を操縦する。やってて良かった馬車の操縦。
恐らく一時間も掛からずに山の手前の林を抜けて、その林の終わり間際の木に馬車から外した馬を括り付ける。軽くブラッシングをした後に、飼い葉と水を与えておいた。エルドレッドが俺を見ながら、結構慣れているんだなと呟いた。
さあ行こうぜ、とエルドレッドの肩をぽんと叩き、崖の上に見える山羊の所へ向かう。結構斜度がきついが登れない程では無い。それよりも山羊を生かして捕まえられるかが問題である。
エルドレッドに大丈夫なのか? と聞いてもこんな斜面が急な場所で捕まえたことなんて無いから分からないと頼りないことを言う。まあ、やってみるしかないんだからと気合を入れた。
山羊が居る崖の向こうに、結構、急斜面になっている山肌が見えたが、そこから山羊が登っているのが見えた。……どんな脚をしているんだ、でもあの場所で捕まえるなんて無理だ、俺が無理。
崖まで山羊が逃げ出せ無い場所に向かって慎重に登っていく、まさかあそこから飛び降りないだろう、そんな感じで登っていくと隣でエルドレッドの息を呑む音がする。足でも踏み外しそこねて驚いたのか? そう思って隣を見ると後ろの方の空を見てる。
……ああ、やばい。羽音って全然聞こえないんだな。後ろを振り返ると空中で何故か俺達を見て、襲うかどうしようか迷っている鷲の魔獣が居た。素直に山羊を襲ってくれよと心の中で毒づいた。
「……エルドレッド、襲ってくると思ったら、『小雷』を撃て」
こくこくと無言で頷いているエルドレッドに攻撃を任せ、俺は弓を持ち矢を準備する。これ、目とか頭に当たらないと効き目無さそうだな。それよりも吹き飛ばしの『風』の魔法が来るかも知れない。
弓矢での攻撃を諦め、万が一の為に捕獲用の縄で自分の胴とエルドレッドの胴を縛り繋げる。これで二人とも吹き飛ばされなければ助かるだろう。そして使いたくねぇなと思いながらも、背中の剣を取り、縛っていた紐を緩めた。
──しばらく悩んでいる感じだった、鷲の魔獣は俺達の肉の少なさを感じたのか、山羊の方に向かい、先日のように風で吹き飛ばし、山羊が落ちている空中で捕まえてどこかへ飛んでいった。
はぁ、助かったぁ。緊張が緩むと膝ががくがくと今更ながら震える。さすがに今のは危なかっただろう。隣でも魔法剣を両手で固く握り締めて、エルドレッドが膝をついている。もう今日は止めておこうと話し合って馬車のところに戻る事にする。
話が違うんじゃねぇか! とエルドレッドに文句をつけた。あの鷲、俺達を餌と見ていたと。でも、結局襲われなかったじゃないか、と苦しい言い訳を返してくるエルドレッド。やっぱりこの人、要注意だ。
そんな事を言い合いながら、馬車に戻ると誰か人が待ってた。
「鷲の魔獣を狩れる場面が見れると思ったんだがな」
楽しそうに、そう言ってくる、今一番会いたくなかった貴族サマ。
なんでここにレスト・ステュワートが居るんだ?
四章 終わり
変な所でこの章の終わりとなります。区切りが分かりづらくてすいません。
引き続き、明日から五章になります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




