4-5 三人目、森人と英雄の子
心配ですが、予約投稿となります。
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それから里長は、勇者は黒髪と黒い瞳で、腰には変わった形の魔法剣を下げていたと教えてくれた。
間違いない、あのサーベルっぽい刀だ。本当ならば勇者に直に会って、色々話を聞いた方が詳しいことが分かりそうなんだけど、今の俺に会う理由が無いだろう。第一、行っても会わせてもらえない。俺が会いたくないしね。
「まさか戦人族の住む場所に行って、話を聞く訳にもいかないでしょう」
「……そうでもないさ、あたしら森人族が軍の要請を聞かず、北に行かなかったのは、あたしらは少なからず交流があったからなんだよ。とは言っても、頻繁に行き来してる訳じゃないけどね。それでも麦の収穫時期になれば取引があるのさ」
麦の取引で年に二回以上か、北は荒地だらけって言ってたから、食料が足りないのかも知れないな。
「どうだい? 戦人族のモンと会ってみるかい?」
里長の何かを試すような笑顔に、少し怯んだ。
「会うと行っても、この近くに居るわけでは無いでしょう? それに親方達が近々ここに来るって言ってましたし、俺にもここに居て色々勉強しろって言われてます」
特にウェルとの仲を良くしたいし。
「この辺りでは麦はほとんど作ってないけど、アチクの西の村周辺ではそろそろ収穫なんだよ。だから北からそれを仕入れに来るのさ、あたし達を仲介にしてね」
「というと……戦人族の人が? 大丈夫なんですか? アチクとかの人間に見つかったら、大騒ぎですよ? この里も問題になるかも知れない」
「心配しなさんな、この里周辺の森、その中で取引するのさ、森の狼だって居るんだ、見つかりっこ無いよ」
なるほど、森の中なら狼に見張ってもらえば、そんな心配は要らないか。……それよりも、何か俺がその人達と会う前提になっているんだけど? 意味不明だ。
「俺が会って、何をするんですか? 向こうが草原人と会いたく無いんでは? 親方達がここに来る理由も分からないんですけど」
「話を聞きたいんだろう? 別に向こうは草原人だからって気にしないさ。特に森の狼族と一緒に居ても平気な者なんてね。イヒシンの大地人が来る理由なんて、戦争の事だと思うよ。森人族はどうするんだって聞きにさ」
うーむ、とりあえず話は聞きたいかな? 問題無いなら森人族の取引の時に一緒に会ってみよう。俺は里長に会ってみると返事し、しばらくこの里にご厄介になる事にした。
……ウェルが住むこの家に泊まりたかったが、許可が下りなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
考えてみれば、俺は森の中を突っ切り、移動時間に掛かる日数を狼さんによって大幅に短縮した。親方達は王都からアチクを経由して来るんだ、二十日ぐらい見てたほうがいいだろう。
俺は宿に泊まるのは金銭的に難しかったが、里長のご厚意により空き家を一件借りられた。食料も融通してくれるそうだ。俺は一人前では無いが、鍛冶の技術を使って、簡単な鋳掛や小物作りに刃物の砥ぎなんかをやってたりした。
ウェルと一緒に居た森の狼は、狼の長の娘だそうだ。この周辺の森の狼達は昔からこの里の守り役みたいな関係だそうで、狼の長と里長は昔からの馴染み、仲が良かったらしい。
俺はどうしようか迷ったが、人間には言わない約束で、狼の長に月の光を千回の話をしてやった。どうやら狼達はやはり月の光を浴びないような行動をしてたらしい。
『この御恩は必ず……』 いいから! そんな顔は止めてくれ!
森で狼に会うとキラキラとした目で見てくる。そんな光景をエルドレッドが一緒に居ると不思議がっていた。ウェルや里親に見られなくて良かったと思う。
エルドレッドとは魔獣の討伐に一緒に付いて行った。どんな魔法を使うか知りたかったからだ。その時に見たのは犬の魔獣だった。黒っぽい毛皮で確かに狼より小さいが、それでも普通の大型犬ぐらいある。
犬派の俺としては、微妙な感じだったが、驚くぐらいの素早さで襲い掛かられて何も考えられずに普段使いの片手剣を抜いた。犬の口から後頭部まで振り抜いた俺をエルドレッドがじーっと見てた。いや持ってる剣か。
「いいなぁ……」 やらんぞ!
「この魔獣は結構、素早かったんだが……」
「あ? こほん、この犬の魔獣は『火』の力を使う、体を温め、血の巡りを良くして、体の動きを迅速にさせるんだ。ちょっとした回復も使うらしい」
「なるほど……」
普段は群れで襲ってくるから、知らないで遭遇すると熊なんて目じゃないくらい危険だと言われた。確かに群れであの素早さで襲われたらひとたまりも無い。
エルドレッドの魔法も見せてもらった。まだ敵が遠くにいるうちに手を向け、何かを念じるような仕草をした。二三秒、間があいたと思ったら、三十メートル程離れた猪が燃え上がった。
おおっ! これぞ魔法だ! 感動してた俺に構わず、エルドレッドはもう一度火の魔法を使った。
「止めをたのむ!」 おお? その言葉にあわてて俺は剣で頭を突き刺した。
うーむ、硬い猪の頭蓋骨も一刺しだ、剣の加工に感動した。
その後、エルドレッドに聞いてみると猪の体の周辺を燃やしただけで、猪自体に火がついた訳じゃないらしい。それでも驚きと目くらましになるからと聞かされた。そう話ながらするエルドレッドは解体も大した腕だった。
それからも、獲物の手足を一瞬凍りつかせたり、土から硬い輪っか……戦輪? そんな物を投げつけたりした。最後に魔法剣というか杖? で小雷を使って見せてくれた。十メートルぐらいの距離をバリッという音と共に電光が走る。
当たった犬の魔獣が一瞬飛び上がり、痙攣したまま手足を突っ張らせ倒れた。死んだ訳じゃなさそうだが、戦闘中には致命的だろう。確かに凄い加工だと思う。これがちゃんとした魔法剣なら……エルドレッドと顔を見合わせ、同じ事を思った。
俺たちは他の里の者を含め、アチクの西と北の村には出来るだけ近づかないように魔獣討伐を続けた。
ちなみに森人族には女性の冒険者が居ると聞いたが? と質問したら、居ないなぁ、たまにお婆さまが討伐に付いて来るぐらいだ、と聞かされた。ハハハ……冒険者辞めてヨカッタヨ。
そんな風に日々を過ごし、先に親方達が来ると思っていたら、 件 の戦人族が到着したらしい。俺も里に戻り、会う準備をする。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は結構緊張してた、戦人族はどういった姿なのだろうと。やはり森人族と近い姿なのか、それとも……銀髪褐色肌? 薄紫肌のいかにもな感じだろうか? 案外意表をついて灰色肌もありうる。べ、べつに見たかった訳じゃない!
ドキドキしながら里長達と森で待っていたら、戦人族の者が五人程で現れた。
……橙色に近い赤髪、森人族より少し高い身長、白い肌、それでいて筋肉で引き締まった体躯、その割には目は穏かな色をたたえている。なるほど、何故か戦いを好まない人達だと思った。
見た目だけなら戦人族と言われているのに不思議は無いが、雰囲気が戦う者じゃ無い。色々質問したいのを堪えて、里長達のやり取りを見ながらじっと待つ。
「久しぶりだねぇ、色々聞いてるけど、そっちは大丈夫なのかい?」
「ああ、山の付近で騒がしいが、こちらは相変わらずだ。それでも先日、勇者と名乗る者が現れて襲い掛かってきた。その一回の接触の後は姿を見せなくなったが」
「その時の話を詳しく聞きたいんだがね?」
戦人族の一人が俺をちらっと一瞥した。そして目線で里長にいいのか? と聞いているようだ。
「ここに居るのは、あちらとは関係ないモンさ。どちらかと言うとあたしは是非話を聞かせてやりたいくらいと思ってる」
「……そうか、なら聞かせよう。勇者が魔獣討伐に功績を挙げていた事は知っていた。恐らく戦う力も凄いのだろうと、それが何故我らの前に姿を現したのか分からなかったが、現れた勇者も我らを見て驚いていたようだった」
「驚く? あんた達の事を聞いてなかったというのかい?」
「そう見えた。勇者は『想像と違う、こんなんじゃない』とも叫んでいた」
……まあ、王宮の人間から魔族だなんだと言われてたら、初めて見た時は驚いただろうね。
「それでも剣を抜いて向かってきた、叫び声を上げて。我らも死にたくなかったから、必死で防ごうとしたよ、でも駄目だった。前に居た一人が切り裂かれたんだ」
勇者は自分が切り裂いた者を見て、唖然としていたらしい。片腕が飛び、体に斜めに走る刀傷、大量の血が流れ、息も絶え絶えのその戦人族を見て、勇者は呆けた後、その場で吐き、震える手で飛んだ腕を傷口にくっつけ、両手を乗せたそうだ。
何かを祈るような様子を見せたと思ったら、その戦人族の傷が消えたらしい。我らが唖然としていると、『ごめん』と一言残して、走り去ったらしい。
その後は王国軍も大混乱になって、そのまま逃げ帰った。我らも驚きながらも自分達の村に帰って、今現在と言う事だ。
俺は何となく、勇者の気持ちが分かった。魔族と言われてた者が普通の人間に見え、それでも我慢して切りつけたら、自分と同じ赤い血だ、自分の行動に怖くなったんだろう。真相らしきものが分かった気がした。
でも戦人族の誰も殺さなくて良かった。
一人でうんうん、頷いていたら、周りから変な目で見られていた。
恥ずかしいから見ないで……
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




