4-3 三人目、森人の話を聞く
今回も読んでいただけると、うれしいです。
狼の長を見張りをさせるかのように家の入り口に残した。
里長は香草茶を入れ直してくれて、改めて俺に話し始める。
「お前さん、何に使うつもりで、そんな剣に魔法の加工を付ける?」
「あー、いやいや、親方が魔法剣の代金代わりに付けてもらえと言ったんですよ」
「あんたの親方が? 代金代わりにだと? お前さんが付けたいからと言う訳じゃないのかい?」
「はあ、その魔法剣に魔法の加工が付けると言う事も、里に向かう前まで知らなかったんですから」
そう言った俺を、里長はしばらく無言で見ていた。
「確かに、もう一本剣を待ってるね。そちらは普通の剣なのかい」
「はい、まあ護身用みたいな感じですね、狩人と言う訳でも無いですから」
「ふーむ、そちらは魔法剣じゃないのかえ?」
「え? いえいえいえ、普通の片手剣ですよ、何の加工もしてません……してないはず?」
自分で言ってて不安になってたので、里長に許可を貰い、失礼して鞘から半分抜いて見た……よかった、魔鉱石特有の青白い光は見えない、普通の剣だ。
「ほお、分かりにくいが、加工してある魔法剣だね」
なんだとぉ!? もう一回まじまじと剣を見る、ちょっと俺には分からない。それにしても何で親方が? あ、でも代金に有り金全部取られたからなぁ、魔法剣の分も取られたと思っていたよ。
「お、長殿、どんな加工か分かりますか?」
「んー、『硬化』と『再生』だね、表面にうすーく処理してあるよ」
あー、叩き延ばして加工じゃなくて、表面に塗布して加工してあるのか。材料がもったいないからね。ううむ、まぁいいかな。蟻でも切れそうだし。
「こほん、失礼しました。普段使わないので、知らなかったのです」
「なるほどねぇ、しかし、使わない魔法剣を二本も持っているのは贅沢じゃないかい? 一本譲っておくれ」
「ダメです」
即答した。一本目は約束で作ってもらった剣だし、苦労したし? もう一本は親方の厚意で作ってもらったみたいな物だからね。
「ま、そうだろうね」
里長は駄目元で言ったのか、あっさり引き下がった。
「ところで、何故魔法剣が必要なんです? エルドレッドさんは結構強引にでも魔法剣を作って欲しいと言ってましたが?」
里長が説明してくれたことによると、この里の北東部には魔獣がよく現れる山がある、前からも居たことは居たが、近年その数が増えて来たらしい。魔獣は知ってる通り、魔法によって死ににくかったり殺傷力が高かったりする。
この里は森の狼族の縄張りに入るので、魔獣はほとんど来ないか、来ても弱いモノだけ。それでもある事情により、里の狩人も魔獣狩りを始めた。
森人族は弓の扱いがうまく、それに魔法を使える者も多少は居るから、何とか対抗出来ていた。しかし、最近強い固体が混じり、仕留め切れなくて苦労している。エルドレッドはそれを憂いて、魔法剣を欲しがったと言う訳だ。
「なるほど、しかし、エルドレッドさんはその……魔法剣の事、よく分かってないみたいですが」
「ほんとにねぇ、魔法剣を打つ鍛冶士とよく話し合って、一緒に作らないと出来ない物なのに、あの大馬鹿者めが」
頭を抱えている里長を、エルドレッドで苦労しているなと見つめる。
でも、ここでも魔獣の襲撃の話なのか、王国軍はどうしたのだろう? 勇者が活躍して大分減ったんじゃないのか? それを里長に聞こうしたら、入り口で誰かが里長を呼んでいる。
「お婆様、ただ今戻りました。何でも魔法剣が届いているとか?」
あー、エルドレッドさん帰って来たんだ、タイミング悪いなぁ。にこにこ顔のエルドレッドが現れて、里長に魔法剣の事をたずねる。ウェルが入らせないようにしたらしいが、魔法剣と聞いて強引に入ったらしい。
久しぶりに会った俺に、せっかく魔法剣を持ってきたのにも関わらず、適当に挨拶した。この野郎……
「エルドや、お前、魔法剣の事をよくもまぁ、勉強もせずに買いに行ったねぇ。それで加工前の素材のままな魔法剣を注文したって? それでどうするつもりだったんだい?」
おお、怒ってる怒ってる、親方はある程度、こうなる事は見越してしたんだろうが、俺は知らなかった事にしておこう、とばっちりが怖いもんね。
「素材の魔法剣さえあれば、我ら里の者で加工出来るではありませんか! お婆様なら素晴らしい魔法剣が出来るに違いません」
「ほぉー、それでどんな魔法を付けるつもりだったんだい?」
「それはもちろん『轟雷』です! それがあれば、魔獣なんて怖くないですよ!」
「この大馬鹿モンがぁ!!」
何も分かってないみたいだけど、『魔法』の加工の前に、剣としての加工が付いていないじゃないかと。
俺が居るのに、里長はエルドレッドに懇々と説教を始めた。魔法剣は鍛冶士と一緒になって作らなくてはならない。他の加工をして『魔法』を付けるとなると難易度が上がって、職人の質と金額も跳ね上がる。
第一、『轟雷』なんて加工、私にしか付けられないし、その魔法だって一日に一回しか撃てないじゃないか。もう作って持って来てもらったんだから、『魔法』の加工しか出来なくなった。どうするんだ? と凄い剣幕だ。
こえぇ、正に孫を叱るお婆ちゃんだ、あの歳で、いくつか分からないけど、成人して怒られるってキツイものがあるな。
エルドレッドは涙目になりながら、こっちを見るが、スマン助けてやれそうにない。俺は自分の魔法剣をそーっと見えないところに隠しながら、心の中で謝った。
「知らなかったんだ、ごめん婆ちゃん、どうしたらいいんだろう?」
「ふー、──『小雷』を付けて、数で稼ぐしかないねぇ、もう杖だね、それ」
魔法の杖になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
後で加工してやるからと、エルドレッドを家から追い出し、里長は俺との会話を再開させた。
「あんたはどうすんだい? やっぱり『雷』じゃなきゃ駄目なのかい?」
「特に希望は……、親方に付けてもらえと言われた『雷』でいいと思います」
「ふむー、特に使うつもりは無いんだね? 使う予定も?」
「そうですね、出来れば家宝として飾ったままにしておきたいくらいで」
「あっはっは、面白い事を言うね。うむ、よし分かった付けてやろう」
「ありがとうございます」
「なら『轟雷』にしようじゃないか。さっきの話しは聞いていたんだろ? 一日一回しか使えないんだけど、強力な魔法だよ?」
「はぁ? あー、まあ、いいかな?」
俺の反応に里長は笑って、轟雷と言っても剣先から太い稲妻が出る訳では無い。出たら持ち主も死んでしまうから。頭上に雷雲を呼び、稲妻を集めてから目的の上に落とす。時間も掛かるし、撃つ状況も選ばないといけない。そう説明された。
「心の中で、『雷雲』、『稲妻』、『落雷』と三段階に分けて唱えるんだ、お前さんには、まあ、使う機会は無いかも知れないけどね」
そう言うと、早速俺の剣を引き抜き、手を当てるとしばらくの間、何やらモゴモゴと口の中で何かを唱えたと思ったら、剣がバチッ! と大きな音を立てた。
おお、完成かと思い、礼を言おうと里長を見る。、
「こりゃイカン、やりすぎたかも」 おいおいおい、何してくれやがりますか。
「失敗したんですか!? まさか駄目になったとか……?」
「そうじゃない、ただ、ちょーっと強くなったと言うか」
「はい?」
お婆さま、どうせ飾りモンだからって、遊んだの?
大丈夫なのか? と詰め寄る俺に、大丈夫大丈夫とまるで自分に言い聞かせるみたいに言い訳してた。手順も変わらないからと、ただ、絶対人が居る所では使ってくれるなと注意された。二日に一回かも、と小声で付け加えながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇
完成した魔法剣を、里に来る前以上に厳重に縛った。これもう封印していいんじゃないかな? 抜いたら死人が出るなんて嫌だよ?
とりあえず、必要事項が済んで、お茶をいただいて落ち着いてから、改めて魔獣の状況や勇者、王国軍の動きを聞いて見た。
「勇者が負けて、敗退したと聞いてます。そもそもどうなっているのか、魔獣の事とか聞かせてもらえませんか?」
「魔獣の被害と言う物は昔からあったんだよ、それが最近、王国のアチクの北側まで被害が大きくなってね、王国軍まで出張って来るようになったのさ」
アチクの北にある山は、ある事情で魔獣が生まれやすい、それでもその種類は弱い犬の魔獣ばかりだった。この森人の里は友好な関係を築けている森の狼が居ることで、魔獣の被害も無かった。
ある事情で魔獣が? とりあえず、今はちょっと聞けないかな。
「それであまり気にしてなかったんだよ、ここには魔獣が来ないからってね、でも、アチクの周辺は大騒ぎさ。家畜は襲われる、怖くて馬や馬車も使えない、酷い時には人も襲われた。」
冒険者や傭兵だけじゃ相手出来なくなって、軍隊まで出てきた。そんな混乱してる最中に、アチクの東の村が盗賊に襲われた。あたしらは慌てて魔獣の討伐に手を貸し始めたんだが、魔獣の種類が強いモノばかりで驚いたよ。とその時の状況を話してくれる。
「でも不思議なのは王国軍が魔獣の居る山だけではなくて、その向こうに進軍する様子を見せ始めたのさ、魔獣が居るのは山の周辺だけ、その向こうは……王国の人間が言う、『魔族』の住む場所、関係無いはずなのにね」
魔獣に軍が出て来るようになった頃、勇者が呼び出されたとの事。その頃になると、森人の里にまで協力要請が来るようになった、『魔族と戦うために力を貸せ』と、そう言う訳らしい。
「魔族とはどんな人々なんですか?」
「……おや? お前さん、面白い言い方をしたね? ところで大昔にこの大地で大きな戦いがあった事は知っているかい?」
「え? ええ、まあ……」
それから里長は俺の顔を見ながら、雰囲気が似てるとか、ブツブツ言ってたと思ったら、何か思いついた顔になった。
「まさかと思うが、もしかするかもね」
「えーと? どういうことでしょう?」
「森の狼を怖がらない、大きな戦いを知っている、あんたが只モンじゃ無いってことさ」
「……」
「まあいい、ちょっと話をしてやろう、遥か大昔の話をね」
雰囲気の変わった里長に驚きながら、無言で頷く。
「英雄達、今で言う勇者って人達は、元々はこの世界の人間だったのさ」
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




