4-2 三人目、森人の里
予約投稿となります。
今回も読んでいただけると、うれしいです。
「初めまして、イヒシンから来ました、鍛冶士見習いのオスカーと申します」
本当なら、その女性の足元に片膝ついて手の甲にキスしたかったが、この世界でそれが通用するのか分からなかったので、自重した。……ハグしてほっぺにちゅーでもいいなぁ。
目の前の女性は、何故かちょっとだけ後ずさったけど、すぐに立ち直り挨拶を返してきた。
「ようこそ森人の里へ。草原人の方だったので、また戦争の参加の要請に来たと思い、勘違いをしてしまいました。ごめんなさいね。ところでどんなご用で里にいらっしゃったのですか?」
んー、声も綺麗だ、耳に心地よい。耳元でささやいて欲しい。……おっと。
「こほん、前に私の街へ、エルドレッドさんが来られまして、魔法剣を希望したのです。その時は非常に残念ながら材料が足りませんで作れなかったのです。今回幸運にも手に入る機会に恵まれまして、それで剣を製作して、お持ちしました」
「エルドレッドが……、そうですか、今は所用で出掛けておりますが、それまでは我が家でお待ち下さい」
よし! エルドレッドさん、しばらく戻って来なくていいよ!
「ありがとうございます、長殿」
俺がそう言った後、女性は一瞬だけぽかんとして、くすくす笑い出した。笑い方まで可憐だ。エルドレッド、俺の事おじいちゃんと呼んでいいからな。
「失礼しました。申し遅れましたが、私はこの里の長の孫で、ウェルシーと申します。良ければ『ウェル』とお呼びくださいね」
「はひぃ……」
ウェルシー、何て素敵な名前なんだ! しかも愛称で呼べとか、ご褒美か!
そうじゃない、重要なのはそっちじゃない。(遥か)年上でも問題ないと思ってたのに、孫、(おそらく)まだ未婚!、エルドレッド、お兄ちゃんと呼んでいいかな?
自分の輝く未来の予想を立てていたら、すっかり忘れてしまっていた。俺の視界から完全に外れていた森の狼さん。さすがに失礼なので聞いてみた。
「あの、ウェルシー……ウェルさん、そちらの森林狼さん? はどのようなご関係で?」
「ウェル、と呼び捨てにして下さい。でも不思議ですねぇ、普通なら例え森人族でも、森の狼を見たら、驚くか逃げ出そうとするはず。それなのに草原人の貴方は驚きも怖そうにもしませんでした。どうしてでしょう?」
ウェルは、いいなぁコレ、ウェルはいたずらっぱい笑顔で話し掛ける。そんな些細な事はいいじゃないですか、と言いそうになるが、ちょっと真剣に考えよう。
「私の事もオスカーと呼び捨てにして下さい。以前に狩りでイマニアムの西の森で、森林……森の狼と会った事があるんですよ。その時は驚きましたけど、襲われも威嚇もされませんでしたので、敵対する事は無いと知っているのです」
「なるほど、そうだったのですか。それでオスカーは里の南の森を抜けていらしたのですか? あの森にも森の狼が居たはずですから」
「そうなんですよー、それで案内してもらえましたから」
「……案内ですか」
あ、何か言っちゃいけないこと言った気がする。
さっきからウェルの隣の狼さんが、じーっとこっちを見て『もしかして神さまじゃないかな?』って顔してる。余計な事言っちゃダメって目で合図を送る。
「兄……エルドレッドは私の兄なんですが、しばらく戻らないと思います。お婆さまはすぐ戻ると思いますのでお茶でも飲みながら待ちましょうか、どうやら色々聞きたい事がありますので」
嬉しいと思う半面、緊張するなぁ、話す内容に気をつけないとな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ウェルは木と草の繊維で出来た椅子に俺を座らせると、良い香りがする香草茶を出した。あ、このお茶甘い、花の蜜でも入ってんのかな? 狼さんはウェルの足元で伏せて目を閉じて撫でられている。俺も撫でられたい。
そういえば、この狼さんが大きいから長だと思って、一緒に居たウェルを里の長と間違えたんだよなぁ。この狼さんの大きさはどうしてだろう? でも聞くとまた余計な誤解を招くからなぁ、黙っていよう。
「美味しいお茶ですね、これほどのお茶は初めてです。」
「お口に合ってよかったです。イヒシンの大地人はお酒が好きですから、お茶はお口に合わないかもと心配しました」
うーむ、ちょっとずつ試されてる気がするなぁ。でも何にだろ? 夫?
「オスカーは、イマニアムの西の森で森の狼と会ったといいましたが、会話する事が出来る狼は見たことありましたか? そんな事を聞いたことは?」
「……私も狼もお互い、ほとんど不干渉でしたので、話す事が出来る狼と会った事は……」
ウェルにはあんまり嘘はつきたくないので言葉を濁して誤魔化す。狼の長も他に会った事は無いって言ってたし、先祖ぐらいって言ってたよな確か。
「そうですか、ある程度大きくなると話せると言い伝えにはあるのですが、ここにいる狼でもまだ駄目のようなのです。その方法が分かればいいのですが」
なるほどー、満月の光を千回ってヤツだな。これくらいの個体なら千回ぐらい浴びていそうだけどね? 夜は建物で寝てるとか? ありそう。
俺はチラリと狼さんを見る、撫でられて気持ち良さそうに目を閉じている。寝てんじゃねぇよ。
「そんな言い伝えがあるのですか、狼と人が話せるようになれば、余計な争いは無さそうですね、ハハハ」
「あら、言い伝えにある英雄様と同じ事を言われるのですね」
一瞬驚いた後、にっこり微笑んで言ってくる。やっべ、狼の長の話を何となく使って言っちゃった。
それから二人して無言で見詰め合って、微笑を交わす。その光景そのままなら良かったのだが、その中身は探りあいである。ウェルさん中々手ごわい。
そんな事をしてたら、入り口に誰か来たようだ。そのまま扉を開けて入ってくる誰か、と一匹?
「ウェルや、今帰ったよ。おや? お客さんが来てるのかい?」
おお、こちらまで容姿が変わらなかったどうしようかと思ったけど、長とつくほどには、お年を召された女性。見た目からは年齢は分からないけど。そして西の森の長より一周り小さいけど、それでも大きい森林狼。あ、俺見てびっくりしてる。
「はじめまして長殿、イヒシンから参りました、鍛冶士見習いのオスカーです」
「ようこそお越しくださった、この里の長をしておりますヨランダと申します。ほぉ、色々変わっておるな、それで……エルドレッドの剣の事かな? それを持って来たと見たが」
おお、何か凄い。察しも良いし観察眼もありそう、気をつけよう。そして、隣の狼の長でいいのかな? 長に『余計な事は言わないで』と目でお願いする。
「そうです、エルドレッドさんに頼まれました、魔法剣を持って来てます」
「そうかいそうかい、剣を見せてもらっていいかい?」
持ってきた素の魔法剣を里長に貸す。まだ渡せないけどね。長は一歩下がって左手で鞘から剣を抜く。そして鞘を壁に立て掛け、両手で剣を持ってまじまじと観察する。
「なんじゃこりゃ? 形だけの素材ではないか。エルドレッドはどんな注文したんだい?」
「えーと、加工は自分達でするから、剣だけ打ってくれと……」
里長は剣を鞘に納め、俺に渡した後、両手で顔を覆い、ため息を吐く。
「あの大馬鹿者、これでは一つの加工の、魔法を撃つだけの飾り物になるではないか。はぁ、それで代金はいくら渡せばいいのかえ?」
「あのー、親方から言われまして、大変言いにくいのですが、こちらの剣に『雷』の加工をしてもらえと」
「何? 『雷』だと? ちょっとそちらを見せておくれ」
言われた通りに俺の魔法剣を渡す。先ほどのように剣を抜いた長は、両手で持ってる剣を見てぎょっとした顔になった。
「これは誰の剣だい? しばらく前、この里に王国の勇者が来たが、まさかその勇者の為の剣じゃないだろうね?」
「あー、いえ、それは私の持ち物でして」
お前さんの!? 更に目を見開き驚愕した顔になった。もう、ちょっとだけ帰りたくなった。それに勇者が来ただと? 会いたくないなぁ。
その後、しばらく俺の顔をじろじろ見てた里長は、ウェルに家から出るように、この家に誰にも近づきさせるなと言い含めて、家から追い出す。
「それは……はい、分かりましたお婆さま、それではオスカー、失礼しますね」
一礼して家から出て行く。あぁ、俺の潤いがぁー。
「とりあえず話しは分かった。あんたの剣に魔法の加工をしてやろう」
「ありがとうございます。『雷』の加工は楽しみにしてまし……」
「少し話しを聞きたいんだけど、いいかい?」
いくないなぁ……
見た目はそれっぱいけど、耳は長くないand長生きでもありません。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




