4-1 三人目、森人に会いに行く
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それから数日後、旅の準備を終え、親方と話す。
俺は王都経由で北の街アチクへ行き、そこから森人族の里に向かうつもりだと説明した。
「そんなんじゃ、二十日以上掛かるかも知れんなぁ。ここから北の村へいって、そこから森を抜けて行けばぁ?」
「何言ってやがるんです、普通の旅のモンは森を抜けたりしないんですよ?」
「えー? そんな剣持ってて、怖いのかなぁ?」
「使えるかぁ!」
俺の魔法剣を使って森を抜けろと。何という無茶ぶりである。
殺傷力が高すぎて、普段は使えない、使いたくない。もう家宝として飾ったままでいいくらい。
「獣でも魔獣でも、戦ってる最中木を切りまくって道が出来るかもね」
「……いつのまにか、巨木が無くなってたなんて事になったら怖ぇな」
無くなりません。
まあ、俺も王都に行って万が一でも顔見知りに会うのは避けたいし、アチクになんか行ったら戦争に巻き込まれるかも知れないから、森を抜ける考えは悪く無いと思う。
それよりも親方が俺は簡単に森を抜けられると思っている事が腹立たしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
別に永遠の別れとか、帰ってこないとかいう訳じゃ無い。マーヴィン名匠とか顔見知りの鍛冶士達とは、ほんの二三日出掛けて来るみたいな感じの挨拶で終わった。
背中には二本の魔法剣を厳重に縛りつけ、腰には新しい片手剣。前に持ってた物とよく似た剣を親方に打ってもらった。防具は無し、大きな獣や魔獣相手じゃ気休めにもならないし、動きが鈍くなる。擦り傷を防ぐ厚手のベストぐらいだ。
槍を持とうか迷ったが、剣だけでもこんな重武装してたら、盗賊に間違えられる、槍は諦めた。鹿や猪なんかだったら、こちらから襲わなければ攻撃して来ないだろう。熊が出たら……背中のアレを抜くしかないのか?
北の村に用があると言う、顔見知りの街の人に馬車に乗っけてもらっていた。そんな沢山の剣持って、配達にでも行くのかい? と言われて、そうなんだよと適当に誤魔化す。森を抜けるなんて言えないよね。
西の村は炭焼きを主な産業としてたが、この北の村では普通に麦の農業のようだった。村に入るまでに見た畑は、麦の穂が伸びて、後もう少しで収穫出来るのだろう。
前に親方と来た時泊まった酒場兼宿に泊まる。夕食に出た蒸留酒入りのエールを飲みながら、まさか自分がコレを普通に飲めるとは思わなかったなぁ、と感慨深くなる。今は見た目もヒゲ面の職人風であるが。
次の朝、起きて顔を洗っている時、しばらくイヒシンの街に戻らないのならとヒゲを剃る。工房では自分でも少しは物を作れるので、形を思い出しながら剃刀みたいな物を作った。自分のヒゲを整えるために作ったが、親方の分も作らされた。
宿の者に保存食とぶどう酒を売ってもらい、剣と身の回りを確認して、最後に気合を入れて森に入った。
この森はそれほど深くは無い。それでも馬車は使えないし、歩きなので目的地には十日ほどは掛かるかも知れない。……俺、そんなサバイバル技術持って無いんだがなぁ。やっぱり槍とか弓とか持ってくれば良かったかな?
今から村に引き返して、狩りの武器を買ってこようかと考えてると、木々の間から見た事があるような顔が見えた。毛は灰色で、耳がぴんと立って、牙がある。……森林狼である。
「──こんな所で何してんの? (イマニアムの)西の森に帰れと言った……あれ? お前、誰だ?」
『それはこっちが聞きたいです』 とその顔は言っていた。
ほう! この森に住んでらっしゃる森の狼族! 数は十五頭ぐらいの少ない群れで、森人族の里の付近を縄張りとしてると、長は……森人の長老と一緒に居ると?
最初に遭遇した時、森林狼は驚いた顔をしてた。その表情を見るのは久しぶりである。その狼が言うには、草原人なのに自分を見ても驚くどころか、逆に話し掛けてくるし、頭と目が光ってるし、神様かもと思ったそうだ。
んー、そのやり取りも懐かしい。俺は落ち着いて、俺は神様じゃないよー、唯の鍛冶職人だよー、とにっこり微笑んで言い聞かせた。髪と目の事は誤魔化した。月の光を浴びすぎたんだと言って。
「その森人族の里に届け物があるんだ、良かったら案内してもらえるかい?」
森林狼が居れば、少なくとも熊みたいな獣は怖くない。せっかく会ったのだからとお願いしてみた。その狼は少し考えていたが、
『良ければ、背中に乗って行きます? 案内するのは良いんですけど、このままだと時間が掛かりそうで……』 そんな表情で提案してくる。
「ぜひ、お願いします!!」
素晴らしい速度だと思ったのは最初だけ。前に西の森の狼達の長に乗ったときはゆっくり歩いてたから分からなかったが、全速力で走る背中は視点が上下に揺れてガクガクだった。……腹に食べ物をほとんど入れてなくて良かった。
おそらく厚意で急いでくれていたのであろう、まだ日の入り前に里が見える所まで運んでくれた。俺はしがみついた格好のままで転げ落ち、ぷるぷるする手を何とか使って袋から燻製肉全部出し、お礼代わりに渡した。
「あ、ありがとう、助かったよ」
『いえいえ、どういたしまして』
どうやら森人族の近くで生活をしているせいか、言動に気品が感じられる。
『先に長に話をしておきますね』
そんな表情の狼さんに、まだしがみついた格好のまま、手を振って見送り、固まってた体が解れるのを待ってた。しばらくしたら、よろよろと歩きながら森人の里に向かう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
うわっ! まぶしい!
里の入り口の門に近づき、門番の者に鍛冶組合の認識板を見せる。その時に門から覗いた里の中はきらきらと輝いているようだった。皆ほとんど金髪、白金や濃い金色がたまに居るくらい、目は碧眼や鮮やかな緑色ばかり。
……女性ももちろん居た。身長は高めで、細身の体型、肌は白くてキメ細やか。もう芸術品を見ている感じ、大変美しい。
俺、ここに来て良かった。ここから離れたくない。ここに住む。決めた! 俺はもうこの里の住民に……
「お、おいアンタ、どうした? いきなりぼーっとして? この里に、何か用事があって来たんじゃないのか?」
──はっ!? 俺、何しに来たんだっけ? 確か、結婚する為だったような?
「それ! 魔法剣じゃないのか? 確か前にエルドレッドが買いに行ったとか聞いてるぞ?」
ちぃっ! 思い出してしまったじゃねぇかよ。はぁ、仕方が無い。
「はい、頼まれてたから、まだ欲しいなら買い取ってもらおうと思って」
「いきなり元気無くなったな!? ま、まぁいい、それならこの道まっすぐ行った所にある長老の家に行け、大きな家だ。エルドレッドはその長老の孫だ」
「はぁ、ありがとうございます」
大丈夫か? 怪我しているんじゃないか? 門番の人は色々親身になって心配してくれた。いい人だなぁ。女性だったら求婚してた。
言われた道をとぼとぼ歩きながら、回りの(女性の)森人族を観てた。頭は動かさずに目の稼動範囲ぎりぎりで。俺は頭の中で考えてた、どうしたら結婚出来るのかと。
やはり、この里の為になるような事をしなければならないよなぁ。誰か若い女性が困ってて、何かを退治して欲しい、と言われたら背中の魔法剣を迷い無く抜く覚悟がある。……近くに怪物居ないかな?
自分が何か失礼な事を考えている気がしたが、今は些細な事である。魔法剣で活躍、魔法剣で活躍、魔法剣で……?
あれ? そういえばエルドレッドは何で魔法剣を欲しがっていたんだ? まさか!? 魔法剣を使って活躍する為じゃないだろうな? ゆるせん! ライバルを叩き落とす為に、この素の魔法剣を叩き折ってしまおうか……
素の魔法剣を手に持ち、そんな事を考えながら長老の家に向かうと確かに大きな家が建ってた。その家の手前に、他の森林狼より一際大きい森林狼とその背中を撫でている……目が眩むような光輝く麗しい森人族の女性。
(うん、いける) そんな事を考える。
想像通りなら、恐らく高齢であろう長老らしき女性を観ながら。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




