3-9 三人目、物作りの結晶
色々心配になってきました。
それでも読んでいただけると、うれしいです。
参章ノ九 三人目、物作りの結晶
勇者が描いた絵で作られた剣だ、そのまま作れば……マーヴィン名匠は凄いな。
魔法剣の作りたい者と作る者の相互関係の重要性が良く分かった二振りの剣。自分の剣を作ってもらうには、今の俺と親方、師匠と弟子という関係は理想的だと思う。好き勝手に口を出せるからな!
最初に色々質問する。加工の種類と内容だ。
『硬化』── そのまま。硬くして切断力を高めたりする。
『柔軟』── しなやかに折れにくくする。『硬化』と合わせれば更に良し。
『機敏』── 重量はそのままなのに、取り回しが軽くなる。
『加重』── そのまま。重くなり、破壊力を高める。
『再生』── 刃が欠けても徐々に直る。折れた物は無理らしい。
『魔法』── 詳しくは分からない、ここで加工出来る訳でもない。
昔は更に色々有ったらしいが、時代の流れと共に失われてしまったとか。加工はあくまで剣自体に影響する物。『魔法』は例外で森人族や他の一部だけの加工技術だ。それに組み合わせによって効果の強まるもの、弱まるものがある注意しろと。
約束どおり四つ分加工を付けていただけるらしい。何だか、親方が急に男前に見えてきたなぁ。そんな事を重いながら親方を見てたら、寒気が走ったのか親方は震えていた。それはイカン! ささ親方、ベッドでお休みを。
何故か、親方の態度が余所余所しくなった事もあったが、剣の加工種類の希望を伝えた。『硬化・柔軟・機敏・再生』だ。『加重』で攻撃力の底上げするのも良いが、結局基本的な加工にしてもらう。
さすがに四つとなると親方と俺だけでは難しいらしく、特別にマーヴィン名匠にも手伝ってもらえることになった。今回の貢献者だからな、と言ってもらえた。
四つ分の手順は難しいらしい。まず中心になる部分、心鉄を打ち『柔軟』の加工をして、剣身になる部分を被せ『機敏』の加工、切っ先と刃の部分を付けて砥ぎ出し『硬化』の加工、最後に柄の部分、中子に『再生』の加工だ。
俺は言われたままに手伝いをした。相鎚を打ち、親方達の作業を準備したり。だが剣を打ってる最中、親方達は酒を一滴も飲まなかった。それだけ真剣に打ってくれているのかと心が熱くなる。
「良い仕事を終わった後の一杯の酒が、またうめぇんだよな、コレが!」
それが楽しみらしい……俺の心は凪いだ湖のように澄んでいる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
最後に親方と名匠は色々話し合って、微調整をしているらしい。ここまで来ると俺にはさっぱりと分からず、ただ見てるだけだった。
それでも、手伝いをしながら何日か経ったある日、豪華ではないが堅実な作りの柄と、見たところ簡素だが丈夫そうな鞘に入った片手剣を親方に寄越された。
「ほら、約束どおり作ってやったぞ。苦労したんだから、大事にしやがれ!」
「ありがとう親方」
照れくさそうな親方から受け取り、剣を抜いてみる。……すごい。形は前の剣とよく似ているな。もしかすると親方は前の剣の事を気にしてるのかも知れない。それにしても青く光る剣身が美しい。自分が持つのに不安になるくらいだ。
「ちょっと裏で試してみろ、想像以上に軽く振れるから、周りに気をつけろよ?」
「分かった」
ヨロイの乗った丸太の前に立ち、言われた通り、周りを見渡してから剣の鞘口を持ち、柄に手をかけ──ヒュルッ、……まるで剣が手からすっぽ抜けたと勘違いするほど抵抗感が無かった。ヨロイは逆袈裟で切れ、今にも落ちるところだ。
それを心のままに逆側から上段の袈裟切り、更に落ちる前にそれを横一文字に剣を振るった。バラバラと落ちていく欠片を見ながら考える。
これ、人前で抜いちゃダメなんじゃね?
怖くなって、いそいそと剣を鞘に戻し、振り返りって親方を見ると、親方も呆気に取られてた顔をしてた。え? 親方が作ったんだよね? 何でそんな顔をしているのデスカ?
「やれるとは思っていたが、ここまでとはな」
「え? いやいや、剣を作った親方が一番分かっているでしょ?」
「剣じゃねぇよ! お前ぇのことだよ! やっぱりどこか有名な冒険者だったんだろ?」
「ち、ちがいますぅ、俺はここの鍛冶場の弟子ですぅ」
「ちぃっ! まあいい、人前で、特に貴族サマなんかには見せんなよ?」
絶対取られるからな、と親方に忠告された。俺は首を縦に振って了解した。そしてついでにお願いした。
「普通の剣、作ってくれませんかね?」
「……」
代金には今までの弟子と手伝いで稼いだ分を全部取られた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
やっと普通の日々が戻って来たと、工房帰りに酒場で親方と一緒に食事を取っていると、でかい声で話をしている者が居る。何でも勇者が魔族に負けて敗退したと、王都では大騒ぎになっているらしい。
「魔法剣を使って負けた? そんな事が考えられるか?」
「分からん、もしも相手もそれを持っていたら、剣じゃ勝てねぇかもしれんが」
親方と話をしても、詳細なんて分からないんだ。どうなったかなんて判断が付く訳無い。親方は酒場を抜け出し、マーヴィン名匠の所へ向かった。俺には今日はもう寝ておけと言い残して。
翌日、朝になっても親方は戻って来なかった。
マーヴィン名匠と街の顔役達と、そのまま話し合いを続けているらしい。
俺は考えてみた。女神様の話によると、勇者は三人も居ればこの星の破滅を招く存在だ。その一人が魔族と言われているとはいえ、唯の人種であるその者達に負けるとは普通は考えにくい。何か別の要素があったのだろうか?
前に一回だけ噂で聞いたが、魔獣の群れを一撃で、いや魔法で? 倒したと噂では言っていた。虎と蟻しか見ていないが、魔獣の強さはしぶとさにある。魔獣は持っている魔法によって、回復力を高めたり、防御力を上げたりしてた。
それら防御力の高い魔獣を一撃で倒せる勇者の力でも倒せない? まさか女神様は魔族ではないが、勇者より強いって事を言わなかった訳じゃないだろう。言ってる事が矛盾しそうだし。それとも種族全体の戦力は勇者一人より強いとか?
そんな事を考えて、親方の自宅に居たら、親方が戻って来た。今まで見た事が無い真剣な表情で。そして俺に言った。森人族の里に向かえと。
「森人族の里まで、この前作った素の魔法剣を持って行ってくれ」
「……それは良いですけど、この時期にですか?」
「どうやら俺達も森人族と会って、話をしなきゃいけなくなったらしい」
「それは一体なんの?」
「まあ、ともかくお前ぇには一足先に行って欲しいんだ」
そして、素の魔法剣を俺に寄越し、ついでとばかり話始めた。
「代金は決めてあるから向こうで受け取れ。ただし、先に代金を受け取ってから商品を渡すんだぞ? それを忘れんな」
「はあ、それでいくらなんです?」
「──お前ぇにやった魔法剣に『雷』の魔法を加工してもらう事だ」
どうやら俺の魔法剣には、もう一枠加工できる『空き』があるらしい。なるほどね、それでか、親方と名匠が色々と調整してたのは。でもなんで『魔法』の加工なんて?
「色々と人間を見てたが、お前ぇはどこか違う。悪い意味じゃなくて、人とは違う『何か』をやってくれそうな気がする。その『何か』は分からないが、『魔法』の加工がその時に役に立つと思ってる」
「……親方、そんな事言われても、俺には何も出来ないぞ。今でも生きていくのに精一杯なのに」
「今はそれでいい。俺が言った事は忘れて、森人族の里に剣を届けるだけでいいから」
何かを覚悟したような親方の顔を見ながら、釈然としない心持ちになる。
「届けたら、しばらく森人族の里に居ろ。里の人間に話を聞いたり、里の様子を見ておけ」
「……分かった」
親方が俺に何を期待して、何をさせたいのか分からない。
疑問だらけのまま、俺はこの街をしばらく離れることになった。
三章 終わり
四章も半分は終わってますので、引き続き明日に投稿したいと思います。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




