3-8 三人目、物作りの本質
今回も読んでいただけると、うれしいです。
参章ノ八 三人目、物作りの本質
俺は傷が深い者を後ろに下がらせた。
もう一匹の近衛蟻は、相方の亡骸に覆いかぶさるように立つと、蟻酸を撒く為なのか、腹を前方に向け最初から吹き付けてきた。どうやら相方の蟻を殺されたのが逆鱗に触れたらしい。……仲間意識が強いんだな。
近衛蟻の行動に、共感してしまう。考えてみれば坑道で出会わないかぎり敵対する事も無いし、今まで群れで襲って来たことも無い。人間が勝手に巣を壊しに来たのだ。こちらは唯の略奪者でしかない。
──だが、今はそんな事を考えてる暇は無いな。今逃げたら、もしかすると追ってこないかも知れないが、俺の感情だけで逃げ出す訳にはいかない。
「戦鎚を投げ飛ばして脚を狙え! 近づくと蟻酸に殺られるぞ!」
そう叫んで、脚を重点に攻撃してもらう。蟻酸の吹き付けは幸いにも遠くに届かない。親方達の投げる戦鎚や金鎚は脚に当たるのもあれば、外れて蟻の向こうに飛んでいく物もある。外れた物は拾いに行けばいい。
少しずつ脚のダメージが大きくなったのか、近衛蟻は小回り利かなくなった。脚の三本が、胴体から外れかけている。牙をガチガチ鳴らしながら威嚇し、蟻酸を振り撒くが、その量も少なくなっている。
それでも戦鎚や金鎚が当たれば、それは蟻の足元に落ちることになる。ツルハシを投げたって脚には当たりにくい。目にでも刺さらないと効かないだろう。攻撃する手段が無くなっているのはこちらも同じだ。
──戦っている間は忘れていたが、他の蟻達の事もある。いつ動き出すか分からない。それを思い出し、武器が手に無い者に、あわてて巣の中に投げ捨てた魔鉱石の回収を頼んだ。もう掘らなくていいから、袋だけ持って来てくれと。
恐 々と松明を持ちながら、巣の中に入って行く者に構わず、近衛蟻を伺う。もう蟻酸は出なくなっている。念のために後ろには近づくなと指示し、俺が蟻の正面に立って的になり、横からツルハシでの頭の攻撃を頼む。
俺はツルハシを縦に構え、牙の攻撃を捌く。親方達は目を中心に頭を狙って攻撃している。ゴツゴツ音をさせながら叩いていると蟻の攻撃がそちらに向きそうになる。俺はツルハシを突き出して俺に狙いを集中させた。
誰かの攻撃が目を潰した。前の一匹の様に穿つことは出来なかったが、周りの皆はもう終わりだと思ったのだろう。皆の気が緩んだ瞬間、蟻は腹を地面に向け、それをバネにして、近くに居た親方に飛び掛った。
「危ない!」
俺はツルハシを突き出して牙を逸らそうとしたが、僅かしか逸らせなかった。
親方と蟻との間にツルハシが挟まり、それこそ即死は防げたが、親方の右鎖骨付近を深く牙が抉った。俺は剣を抜き、隙間から蟻の牙の間に剣を突き刺した。
それでもまだ牙が外れなかったので、剣を梃子にして捻る。ビキッ! 音を立てながら剣にひびが走り、最後には折れながらも親方から牙を外すことが出来た。血が噴出し、気を失った親方を横目に、腰の後ろに差してあった短剣を抜く。
剣の残骸を握り、蟻に下を向かせて頭に魔法剣の短剣を突き刺した。
──自分が何か叫んでる気がする。何回も無茶苦茶に刺していたら、後ろから誰かに止められた、もう終わったと。手を見ると魔法剣の短剣は折れていた。いつから折れてたのか分からない。いつの間にか、近衛蟻は動かなくなってた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
短剣の残骸を捨て、親方の様子を見る。出血がひどいし顔色も悪い。俺は運んでくれと言って、離れた巨木の下に親方を移してもらい、傷口の血を持っていた飲み水で洗い流す。大きな傷口に我を忘れそうになって回復の力を使いそうになる。
──深呼吸をして冷静になる。腰の小袋に入れておいた、虫から取ったらしい強い糸と縫製用の針を取り出す。何をするんだ? という顔の一人に松明を地面に置いてもらい、その火で針を炙って消毒した。
それから念の為、押さえてくれと言って手足を固定してもらい。傷口を二分割、四分割、八分割という感じで縫った。消毒用の酒が無く、解体用の短剣を火で炙り、傷に沿って傷を焼いた。その後は薬草の葉を傷口に貼り付け、布で傷を押さえるように巻く。
もしも誰かが同じような怪我をした場合に参考になったらと思う。そして最後にこっそり回復の力を使って終了だ。糸と火傷は残るようにした。
「魔鉱石はどうした? 袋、全部持って来れたか?」
「あ? ああ、問題ない、長剣でも三本以上作れる分はあるぞ」
「それなら安心だな、もうここには用は無いから、さっさと帰ろうぜ」
「……ダリルは大丈夫なのか? さっきは死んだかと思ったぞ」
心配するな五日後にはぴんぴんしてるよ、と返すとようやく皆に安堵の表情が広がった。心配させやがってとか、くたばり 損 いめとか、ひどい言い草だったが、皆で笑ってた。
親方を背負う者以外、他の者は魔鉱石の入った袋を持ち、ひでぇ目にあったとか言いながら、蟻塚を後にした。
──俺は何となく、戦った近衛蟻の冥福を祈った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
背負われてた親方を見て、マーヴィン名匠は言葉を失ったが、俺達の表情が明るかったので心配ないと判断したようだ。ちなみに治療した時の縫った事は念の為、口止めさせてもらった。色々と面倒が多過ぎんだよと苦笑しながら説明した。
翌日には親方は目を覚ました。自分の体を見て不思議そうにしてたが、俺は有無を言わさず、布を取り傷口を見た。軽い火傷と皮膚に糸が食い込んでいるだけだ。それを見た後、新しい薬草を乗せ、綺麗な布で縛りなおす。
「しばらくそのままにしてろ、後で糸を抜く」
「……俺は助かったのか、もう駄目かと思ったんだがな」
「親方の悪運の強さに驚いたよ。ま、当分、酒は飲めんし、金鎚も振れないがな」
それを聞いて、親方は情けない顔になった。
あれから蟻塚の様子を見に行ったが、近衛蟻の死骸は他の蟻が片付けたのか、見当たらなかった。その他は変わらないように見える。問題なければ、そのままで良いだろう。皆にそっとしておくように言っておいた。
「アレは魔獣だったのかも知れんなぁ」
親方の禁酒解除の願いを却下してると、そんな事を言い出した。あの硬さは異常で、まるで『土』の力が使われているようだと。戦鎚どころか、親方の金鎚でもまともに効かなかったからな、俺も剣が折れ、魔法剣の短剣が折れたと言った。
「あんな作りの短剣でも、同じ加工物か、魔法の力でもないと折れたりなんかしねぇ。あの蟻はやっぱり魔獣だったんだな」
蟻塚には蟻の魔獣が居る。そう言う結論になった。魔鉱石は欲しいが命を粗末にしたくない。今回は運が良かったと、蟻塚の事は俺達、イヒシンの鍛冶士だけが知る秘密になった。この事が広がれば大騒ぎになるからな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺達、魔鉱石の採掘団は親方の回復を待って、イヒシンの街に戻った。実際は五日間きっちり親方に酒を飲ませなかっただけだ。
蟻塚から持って来た魔鉱石は純度が高く、これだけの量を取るとなると、この辺りで採れる三年分になると言われた。その純度の高さが蟻を魔獣に変えたんじゃないだろうな? 俺の疑問に、魔獣は変化じゃなくて生まれるモンだと返って来た。
魔獣は魔獣から。なら、あの蟻の魔獣の親は、部屋の中に居た女王蟻なのか? 蟲の魔獣はよく知らねぇがそうかもなぁ。と親方は言ってた。まあ、あまり刺激しない方のがいいな、という話になった。
魔鉱石から剣を作れる本数は片手剣なら五本、長剣でも四本になるらしい。一本は勇者サマ、一本はしょうが無いが森人族、そして一本は俺に作ってくれる。残りは何かの為に取って置くということだ。
マーヴィン名匠は早速、長剣一本分を持って行き、勇者用を作るらしい。親方は傷の具合を確かめて(本当は問題ないが)、森人族用の一本を作り始めた。さすがに仕事となると、あの森人族の為と言え、真剣だった。俺も真面目に相鎚を打つ。
……真剣に打っていたが、それでも注文が滅茶苦茶だからか、普通の素の剣に見えた。これで向こうが加工しても大丈夫なんだよね? 俺、知りませんよ?
マーヴィン名匠は注文通り、『硬化・柔軟・機敏・再生』の加工を付けた……これはもしかして、刀か? 片刃のそりがある刀剣だった。でも、刀というよりサーベルに見える。誰がデザインしたのだろう?
名匠に見せてもらった、勇者の描いた絵は非常に残念なモノだった。
日中暑すぎです。クーラーの効いてる部屋から出られない。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




