3-6 三人目、物作りへの期待
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参章ノ六 三人目、物作りへの期待
何だか急に逃げ出したくなった俺は、その場から走り出そうとする。
「まあ待て、慌てんな」 がっしりと親方が肩を掴んだ。あ、肩痛いです。
「これは確かにニセモンだし、使い物にはならんが……コレ、どこで見つけた?」
「森の中、北へ向かって歩いてたら蟻の巣を見つけて、そこで拾った」
「なるほどなぁ、蟲の巣か。ちょっと面白くなってきやがった」
そう言って、凶悪な笑みを浮かべた。何が何だか分からないし、親方が気持ち悪いしおっかないし。
意味が分からず、ぼけっとしてた俺を残して、基地に張ってある天幕の中に入って行った。しばらく待ってると同じくらい気持ち悪い笑顔をしたマーヴィン名匠と二人でこっちに向かって来る。
「オスカー、いいモン見っけたなぁ! おいおい、何を訳の分からねぇって顔をしてやがる。『欲深い者の鉄』の鉱石があるって言う事は、魔鉱石が近いって事だぜ。まあ、掘ってみんと確かめられねぇんだが」
「そう言う事だ。さっさとその蟻塚に案内しやがれ!」
なるほど、そう言う事か。無駄な時間を潰したと思った俺はほっとした。せめて今回の注文分の魔鉱石が取れるといいなぁ。
それから目利きが出来る人間を何人か引き連れて蟻塚まで案内する。魔鉱石が取れそうな可能性が出て、皆の顔も期待に目がギラついている。でも蟻はどうするんだろ? 数は多いし、兵隊蟻なんか危険だと思うんだが……
近くまで来て、木の影から覗くと前見た通りに蟻が居て、兵隊蟻は入り口を守っているように見える。ニセ魔鉱石を拾った場所に皆を手招きして連れて行き、その山になっている鉱石らしい物を見せる。
何人かが黙って色々見てたが、その積み上げられた石の中から何個かの鉱石を持ち、興奮した様子で語りだした。
「──ちょっとばかり薄いが、間違いねぇ。魔鉱石があったぞ」
「ここにある分で、どのくらい作れそうだ?」
「そうだなぁ、出来ればもう半分、いや、四半分でもありゃ、今回の注文の分には足りるだろう」
「そうか…… ま、しょうがねぇ、ここにある分だけでも持って帰ろうぜ」
蟻に見つからないように、コソコソと持って来た袋に詰めていく。俺なんてさっきから黙ったままだ。もしかして巣を壊して魔鉱石を取り出すなんて物騒な事の予想してたから安心した。穏かに済ませればそれでいい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
蟻塚で取って来た分と、採掘場で掘り出す分を合わせれば、勇者の注文の剣は問題無く出来るだろうと思ってました。今日の昼までは──
天幕に戻ってくると、親方達は集まって蟻塚から持って来た魔鉱石を見て、ああだこうだと色々話合っていた。俺はもう今回の仕事は終わったつもりでいたから、坑道を覗いたり、怪我人を捕まえて無理やり治療したりしてさぼってた。もとい仕事してた。
「オスカー、いやオスカーさん? ちょっといいかなぁ?」
その猫なで声に背筋に寒気が走る。オスカーさん? 後ろを見ると気持ち悪さ二倍の笑顔で親方が立ってる。即立ち上がる俺。両肩を捕まえる親方。助けてと目線を送り、逃がさねぇとその目で返される。
「お前さんさぁ、魔法剣が欲しいから作ってくれと、この前俺に言ったよなぁ?」
「親方ぁ、昼間から酒の飲みすぎですかぁ? いけませんぜ」
「言ったよなぁ~?」 くそっ、凄い力だ動かないっ! それでも俺は首を横に振る。
「そんでよぉ~、この前来た森人族の分も作ってやりてぇなぁと思うよな?」
「あんな面倒な注文なんて受けちゃいけません。忘れましょう」
「だからさぁ、もう一頑張りしてくんねぇかなぁ?」
聞いちゃいねぇ。
どうやら普通に採掘すれば取れるだろうと思ってはいるが、面倒臭いと。どうせなら取れる分だけ取っちまおうと言う事になったらしい。だったら行きたいヤツだけで行けばいいのに、と愚痴ると魔鉱石は欲しいが蟻がおっかねぇ、蟻を何とか出来ないか?
そんな感じで話合った結果、蟻塚見つけた俺に良い方法を考えて欲しいそうだ。こんちきしょう!
別に俺に良い考えなんてある訳無い。ただ親方達は考えるのが面倒臭いだけである。いいじゃん、蟻塚突っ込んで、皆殺しだぁ! って金鎚振り回して殲滅すれば。絶対そっちの方が早いと思う。怪我したって俺が治せばいい。そうしよう。
「いい方法思いついて、うまく魔鉱石が沢山取れたら、お前ぇに魔法剣作ってやる。加工四つ分付けてもいい」
「分かった親方、俺にまかせろ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
蟻の生態を考える。ここの蟻は巨木の樹液を吸い取って餌にしてる。毒を混ぜるか? 却下である。毒を使って万が一でも巨木に被害を与えるわけにはいかない。巣に水を流し込んだら? 川はちょっと遠いし第一、巣が川面よりおよそ二メートルは高い。
無しだな。蟻の天敵、百足じゃ無さそうだ。蟻はその巨体ゆえか数はそこまで多くない、寿命は長いかも知れない。巣の手前から掘り進めて女王蟻を攻撃……そこまで堀るのだけでも大変だ。魔鉱石を掘った方が何倍も楽だ。夜に行動しないかも知れないな。
後で、夜の蟻の行動を調べておこう。
計画を考えてる俺を、親方達が真剣な目で黙って見てる。ふふ、任せてほしい。
「……おい、なんかおかしくなっちまったぞ?」
「俺もあんなんなるとは思わなかったぜ、大丈夫なのか? あんな約束して」
「魔鉱石が足りなくて作れないなんて言ったら、ヤバいんじゃねぇの?」
「まあ、森人族の分は無しだな」
こっちを見てた親方達が何か言ってるが、集中してる俺には関係無い。俺はやるぜぇ。
考えてる最中でも、やらなければいけない仕事はある。怪我の治療だ。俺は考え事をしながら怪我人を診てた。その怪我人は蟻に噛まれ、蟻酸を吹きかけられていた。傷は深いが、それほど心配するほどでも無い。薬草を巻きつけ、回復の力を使って、
二日ほどそのままにしておけと言って終わりだ。蟻酸は服に付いたのかシュウシュウと音を立てて燻っている感じだ。何か目が痛くなるな。とりあえず危ないから服を捨てろと言って脱がした。
そう言えば蟻酸を吹き付けられた者は、今までどうしてた? 聞いて見ると木炭を突っ込んだ水で洗うといいらしい。中和? 木灰を溶かした水はアルカリ性だっけ? 蟻にアルカリ水かけて……中和してどうすんだ?。少し冷静になって考えてみよう。
蟻に近い虫で蜂なんかの対処方法はどうだろう。木を燃やして煙を燻す。ちょっと眠ってもらっている間に巣を壊し、中を確認する。うーん、やってみるか?
それから俺は、蟻が夜は活動しないことを確認し、他にいい方法が無いかを探してたりした。とりあえず、夜に巣に行き、入り口に煙を焚いて眠らす、うんよし。最悪逃げられるな。村の人に煙が沢山出る木の葉なんてないか? と聞いて見た。
「焚きつけや薪には使えないけど、松明に使うと煙が多いが火のつきが良い木があるな」
そんな風に教えられ、それの松明の木を持てるだけ買い取った。何に使うんだ? と言っていたが、鉱石掘りに使うとだけ答えておいた。見た感じ針葉樹の木で、樹脂が多くて煙が出るんだろうと判断する。
蟻塚には俺と親方と他に六人で行くことになった。皆にどんな感じでやるかを説明し、今回は試しだから、駄目でもともと。失敗したら逃げようと言っておく。俺は戦鎚は持ったが、念のために愛用の剣も持って行く。
「おう、お前ぇの剣、はじめて見たな、ちょっと見せてみろ」
まだ見せたこと無かったっけ? 俺が剣を予備として持ってきたら、それを見てそんな事を言ってきた。俺は腰から鞘ごと抜き出し親方に渡す。受け取った親方は、鞘から抜いて剣身をじーっと見てた。
「……いい剣だが、ここに欠けがあるな。これは何を切った時の欠けだ? 俺には魔獣を切ったとしか思えねぇんだが」
「何人かで狩りをした時に、虎の魔獣を切ったんだよ」
狼と一緒だったけどね。それにしてもまさか魔獣を切ったのを当てられるとは思わなかったな。さすがの剣の鍛冶士だね。
「虎の魔獣かぁ、この剣でも骨を断つのは難しいだろうな」
あ、骨ごと首を切ったのまで分かるの?
普通の蟻に煙はそれほど効かない?
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