3-2 三人目、物作りの生活
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参章ノ二 三人目、物作りの生活
とりあえず、組合の職員の人に話を聞きに行くと言って、教えてもらった場所に向かう事にする。
昨日の夜には暗くて気付かなかったが、西の遥か向こうには高い、まるで絶壁のような山が連なっている。その手前には距離感がおかしくなるくらい高い巨木が立ってた。
まだ、そちらの方向には村があったはずだよね? その村より高い木が目立つって、どうなの? しかも一本じゃない、そんな高い木が当たり前のように何本、それこそ見える範囲に立ってる。特殊な地形なのか? んーまあ、今はいいや。
街の西の一画には鍛冶場が密集してる。二十件程らしい。商店が立ち並ぶ通りにも鍛冶屋もある。その鍛冶屋で簡単な仕事をしたり、大きな注文を取って、奥の鍛冶場へ持って行くそうだ。鍛冶士のまとめ役みたいな人が居て、名匠と呼ばれているとか。
西の門の近くにある、募集してた鍛冶場へ行く。この街の中央には川が流れてるが、その水を使っているのか、鍛冶場の建物には水車が隣接している。これは何の為だろう? 辺り中から金属の衝撃音が聞こえる。煙突から出る黒煙もすごい。
とりあえず、目的の建物は……レンガ? 大きな石を積み上げて出来た工房みたいな感じだった。カキンカキンと鉄を叩く音がする。炉のそばの金床で真っ赤に焼けた鉄を打っている一人の大地人の鍛冶士。
頭に布を巻き、腕を捲くり、金鎚を振っている。寒い時期なのに汗だらけだ。
どうやら見てると外の水車を利用してふいごを動かし、炉の火力を強めているように見える。そばにある燃料は木炭だ。石炭とか加工品のコークスだっけ? まだ無いのか使っていないだけなのか分からない。
見ててもしょうがないので、声をかける。
「こんちはー、組合の募集見て来たんだけど」 何かの面接みたい……面接か。
その大地人は、作業を一段落終え、こちらを振り向きジロリと俺を見る。その顔は熱さからなのか、汗まみれで真っ赤だった。
「草原人が弟子だと? 組合のモンは本気か? 今がいくら忙しいって、こんなヒョロイあんちゃん寄越すとはなぁ」
何だか、鬼みたいな赤ら顔、ギョロ目で言われると怖ぇな。少し髪の毛が後退してるのが、人食い鬼に見えないことも無い。もっとこう、酒飲んでガハハって陽気なイメージがあったのだが。
「俺も故郷で見たような魔法剣が打ってみたいんだ、よろしく頼むよ」
「……魔法剣って、俺らでも打てるようになるには最低十年掛かるんだが」
マジか。あ、いや本当は打てたらいいな。くらいの気持ちだったから、直ぐに打てるとは思ってないよ。表向きの理由が欲しかっただけ。
「それでも構わない。 どうか俺を弟子にしてくれ!」 ……自分のキャラじゃない。言ってる本人は、精神力がガリガリと削られていく。
「とりあえず、雑用からでいいんなら手伝わしてやるが、構わねぇか?」
「ああ、構わねぇ、ぜひ俺を使ってくれ」
こうして、俺は鍛冶士に弟子入りした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
名前はダリルと言うらしいが、『親方』と呼べと言われた。
それからの俺は親方の家に住み込みで働いてる。家と工房は離れていて、家は中央南側にある。朝早く起きるのは慣れていたから良いが、起きたら掃除をして朝食を作り、まだ寝てる親方を起こして朝食を食わせ、終わったら皿洗い。
そして工房に一緒に行く。住んでる木造の家が工房だと火事になりそうだ。一日の作業後は帰ってからは洗濯、夕食作り、たまに酒場で食事する。俺は買ってあった薬草酒に何回助けられたか分からない。親方と一緒に行くのだから、酒は強い方の酒だ……
この街の鍛冶場で使われる木炭は、西に見える巨木から作られるらしい。西の村にある炭焼き小屋で木炭にして、この街に送られてくるとか。巨木一本で、この街の工房が二十年は持つという話だ。
肝心の鍛冶場では掃除を始め、木炭を準備したり、鉱石を持ってきたりする。時折調子が悪くなる水車を直したりもしてた。当分は金床で鉄を打つなんて出来ないだろう。
最初の方は筋肉痛で苦しんだり、腰痛や工房にこもる熱の暑さでげんなりしてたが、回復魔法をうまく使って何とか弟子としての雑用を続けてた。親方に散々怒鳴られながらそんな生活を一ヶ月程続けた。
ある時、酒場でまわりの話に聞き耳を立てていると、今はアチクの北の村近くの魔獣討伐が行われているが、それで終わりじゃない。大きな争いが近づいている。それの為に準備してるだとか、そんな噂話が聞こえてくる。
しょうがないとは言え、何となくやってみたくて鍛冶士に弟子入りしたが、それが戦争に関係するとは思わなかったな。でも考えれば当たり前か、武器も鉄ヨロイも鍛冶の仕事だもんな。
ヨロイ関係は工程が多くて、弟子の数が多い大きな工房が数件で、まとめ役の指示により色々な部位を作り出すらしい。ウチの工房は何を作っているのか? と親方に聞くと、今まで片手剣や大剣とか長剣を作っていたそうだ。
だが最近弟子が独立してしまい。相鎚が居なくなってしまった。だから、今では一人で作れる、鏃や槍先、短剣作りなどをやっているそうだ。お前ぇには、まだちょっと早いが鏃作りをやってもらうと言われた。
教えてもらいながら工房の隅でトンテンカンと鉄を打つ。槍先みたいな鏃の大きい物も作った。これは大型の石弓、弩で使う物だろうか? 手は直ぐに肉刺だらけになったが、痛いと仕事にならないので当然こっそり回復した。
最近は工房が暑いこともあるが、知り合いに見つから無いように髪を短くしている。ヒゲも伸ばすつもりだったが、何だか人相の悪い泥棒ヒゲみたいになってしまい、恥ずかしくなって止めた。しばらくすると工房で働く生活にも少しは慣れた。
「……お前ぇ、思ったより根性あんな」 おっ? お褒めいただいたようだ。しかし、もしもこの世界に来た時、最初がここだったら逃げてた自信があるよ?
「また俺も剣が打ちてぇし、お前ぇも魔法剣を作るつもりなら、近くで見てた方がいいだろう。少しずつでいいから相鎚やってみろ」
「へぃ! 親方」
最初に親方の短剣作りを近くで見て、音と間を覚えろ。俺がここだと言った間で打つようにしろ。と言われた。──カンカン、ガン! カンカン、ガン! と言うリズムで打っている。まずはタイミングを覚えさせて、その後から片手剣を打つらしい。
俺に何とか持てる大鎚を試しに振ってみる。──大丈夫かな、間違って親方の頭に直撃しないよな? 無言で親方を見る。大鎚を構えたまま、自分を見てる俺に何か感じたのか、親方も無言だ。二人で目を合わせて頷きあう。
やられたらやり返す。……目がそう言ってるように見えた。おっかねぇ。
音が違う、間が悪い、しっかり当てろ。怒鳴られながら相鎚を振るう。恐ろしく厳しい。でも鍛冶をやってる! って感じで気分がいいな。記憶にある刀打ちのように何回も折り返したりはせず、二枚の板をそれぞれ打ち、後で合わせて一つの剣にするらしい。
親方は刃になる部分をガンガンと打っていく、調整をしながら。しばらくすると俺に打てと言われ、また相鎚を打つ。汗びっしょりになりながら打っていると最後に親方が何かの油が入った桶に打っていた鉄を入れた。水じゃ無いけど焼入れかな?
その後は出来具合を見たり、炉に入れたりしてる。後は磨ぎ出すから、掃除でもしてろと言われた。とりあえず終わりか? ふらふらしながら水をのどを鳴らして飲み汗を拭った。毎日水浴びで済ませているが風呂に入りたい。有ればだけど。
それにして、長時間の相鎚は疲れた。
すべて想像ですが、
木の高さを考えたり、重量を考えたり、それから取れる炭の量を計算したり、
作れる鉄の量を考えて、すべてボツにしました。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




