3-1 三人目、物作りへの道
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参章ノ壱 三人目、物作りへの道
熊を咥えた狼君に別れを告げる。
「世話になったな。気を付けて自分達の森に帰ってくれ。長によろしくな」
「……」 おい、何とか言えよ。
何故か俺をじーっと見てる。うん? 何か言いたげだ。
「……まさか、俺に付いて来るつもりじゃないだろうな?」
そう言うと、そっと目をそらす狼君。
両手でその顔を掴み、強引に目を合わせると、その目が『暖かくなったら、ボクの背に乗って狩りをしましょう? きっと楽しいよ?』って言っているみたいだ。
コイツ……誘ってきやがる。何て素敵な考えなんだ。俺が狼に乗って槍や弓矢を振り回し、走り回って鹿や猪を狩っている。そんな自分の姿を想像した。
そうだな。すごくカッコイイだろう。人にも『狼乗りの熊殺し』って言われちゃったりして。その内、貴族が来て『素敵! ぜひ戦争で活躍して!』とか言われたりして!
……ダメじゃねぇか。
その見た目だけふわふわな尻尾をぺんぺんと叩きながら、無理やり追い払う。確かに色々助かる事があるだろう。獣関係だと無類の強さだし、狩りも楽になる違いない。
でも俺はしばらく狩りする気は無いし、森林狼なんて大きな獣を他の者が見たら、大騒ぎになる。人から攻撃されて怪我する事もあるえる。だからここで分かれた方がいい。恩は十分返してもらったしな。熊を引きずり去って行く狼君を見て、そっと手を振る。
◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は眉が隠れるように頭に布を巻き、腕をまくり職人に見える感じにした。
それから南に歩いて道に出て、そのまま東の城郭都市へ向かった。念の為、遠目で門番の顔が見たこと無いのを確認すると、鍛冶組合の認識板を取り出して門に向かう。ここから東の村は、距離は離れてなかったはず、徒歩でも不思議じゃないだろう。
門番に認識板を見せて無事に中に入った。入都記録を録られている訳じゃない、出入の矛盾から捕まることも無いだろう。俺はそのまま『東の門』で西の街イヒシン行きの乗り合い馬車を探し、明日出発の荷運びを兼ねた安い乗合馬車に決めた。
金貨一枚を出し、銀貨九枚と銅貨二十枚のお釣りを受け取る。認識板はお互い確認してある。すぐ近くの銀貨一枚の安い宿に泊まり、明日の出発を待った。
朝、起きたら昨日と同じように布で頭を巻いた。眉が隠れるだけで人相が変わると思う。朝食をとったら宿を後にし、予約をとった荷馬車に乗り込んで出発まで待たせてもらう。出来るだけ他人と顔を合わせたくないからな。
後から三人の相乗り客が乗ったら、馬車は出発した。荷物が有るからなのか、四人で満員のようだ。冒険者っぽいのが一人居てビクリとしたが、知ってる顔じゃない。それにケインの死体(仮)は、まだ見つかってはいない。他の二人は荷主なのか商人のようだ。
知り合いなのか二人でそれなりに大きい声で談笑してる。馬車も揺れてガタガタうるさいしな。冒険者は腰に短剣と弓持ち、斥侯職かな? 目を閉じて眠りに入ったようだ。おっと、じろじろ見てると余計な気を引くかもしれん。気をつけよう。
馬車は荷物だけ大きな厚手の布が被せてあって、他の客には何も無い、景色が見えて気持ちいい。尻がちょいと痛いが馬車旅なんてこんなものだ。ふと知ってる馬を思い出し、懐かしい気持ちになる。そんなに日は経っていないのにな。
イヒシンまでの旅は五日かかるらしい。道中の雪は少なくなっていて動きやすいが、荷物が有るから速度も出てない。もう少し遅れるかも。盗賊はもちろん、熊も出ない。前に聞いていた通り、旅の安全は報告という情報によって守られているようだ。
もし今何かあったとしても、今乗ってる冒険者一人ではちょっと荷が重いと思うが。それから旅の途中の食事は御者からでは無く、商人から材料を代金を払って出してもらった。一食につき銅貨五枚だった。……腹だけは膨れた。
俺は他の客と出来るだけ話をしないで静かにしてた。念には念を入れてだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
五日目の夜遅く、野営するかしないか迷う日没前にイヒシンに着いた。俺は明るい内に組合の方へ行きたかったんだがなぁ。
仕方がない。大通りを歩き、適当な食堂兼酒場に入った。中は結構騒がしく、酒を飲んでる客はヒゲ面の樽体型の職人? だらけだ。俺は適当に食える物と酒を頼んだ。おそらく酒はぶどう酒なんてお上品な物じゃなくて、いつものすっぱぬるいエールだと思うが。
腸詰の燻製と芋、黒いパンとジョッキに入った酒、それを持って来たおかみさんに声をかける。鍛冶組合の場所と良い宿が知りたいと。
「組合かい? それなら西の端に鍛冶の工房が並ぶ場所があって、その手前に大きな建物があるから行ってごらん。その建物の通りに安くて飯も旨い宿が何件かあるよ」
俺は礼を言い、銅貨を数枚握らせる。おかみさんは「あら、アンタいい男だね」とか笑顔で言ってくれるが、出来れば十年前に聞きたかった。年齢的に。
とりあえず、喉を潤すかと一口グビッと飲むと口の中に強烈な香りと刺すような味が広がる。噴出しそうになるのを何とか堪えジョッキを見る。しゅわしゅわしている割に色が濃い。琥珀色が強いみたい。ナンダコレ?
もう、ひと舐めしてみる。……エールに蒸留酒が混ぜてあるぞ。まわりの客を見る。皆顔が真っ赤になってもこの強い酒を飲んでる。こいつらバケモンか。
恐れ戦 きながら、芋とパンを先に食べ、腸詰をつまみにチビチビと飲んで酒を消化する。他の客が絡んで来て、飲みっぷりが悪いなガハハと五月蝿い。
こっちに来るんじゃない! 酒を残すと店に悪いから、こっちは必死で飲んでるのに! はぁー、この街だと毎回酒に(飲むのが)困りそうで、今から頭が痛い。
金を払って店を出る時に、おかみさんからアンタが職人に見えたから、いつも通りに強い酒を出してしまった。普通の人向けにぶどう酒があったからそっちにしておけばよかったねぇ。とか言われて、今度から酒場に入る時は職人風は止めようと魂に刻んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐおぉぉぉ、頭痛ぇぇぇ」 日の光が差し込むベッドの中で悶えてた。
イヒシンに着いた翌日、今までで最悪の朝を迎えた。
言われた場所に行き、組合の建物を確認した後、近くの宿に泊まった。銅貨五十枚だったが、ベッドは良かった。イマニアムだと銀貨一枚は取りそうだ。しかし、今は朝食は取れそうにない。宿の人から二日酔いに良い物あるよと薬草酒を勧められた。
今回はタダで良いからと、木匙一杯分を差し出され、口に含む。口の中に強烈な青臭さが広がるが、強い甘みが足してあって飲みやすい。薬草を若い蒸留酒と蜂蜜で漬けて作るらしい。
ホントは銅貨十枚は取るんだよ、と笑顔で言われて苦笑しながら礼を言う。確かに楽になった気がする。この街に居るなら小樽で仕入れておいた方が良いかもしれない。宿主に聞いて見ると作り方が特殊で、木で作った樽では駄目になるらしい。
出してもらった薬酒瓶は、牛乳瓶くらいの大きさの焼き物に入った物だった。それを頼んで銀貨二枚で譲ってもらい、宿の代金を銀貨一枚、謝礼込みだといって渡した。
宿を出て、鍛冶組合に向かう。これからが本番だ、気合を入れて中に入る。建物の中には何故か冒険者風の者が数名、受付で何やら話をしてるようだ。少し離れて別の受付に聞く。年齢の見当のつかないヒゲ面……大地人と言うらしい。の職員だ。
「昨日、この街に来たケ……けふっ、スマン。オスカーだ。仕事を探している」
「ほぉ、草原人で鍛冶の仕事探しか、珍しいな」
そちらからは草原人なんて呼ばれてんのか、初めて知った。まあいい。
「ああ、故郷の街で見た魔法剣に感動してな、それで鍛冶職人を目指してる」
「なるほどなぁ、……それなら今、手伝い兼弟子を探してるのが一人居るな」
そう言って一枚の依頼書を見せてくれた。
『雑用、掃除、洗濯、飯作り、目覚まし兼弟子、一人募集』
──なんかヒドクね?
汗臭い世界にようこそ……
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




