2-10 三人目、村の生活の終焉
今回も読んでいただけると、うれしいです。
弐章ノ十 三人目、村の生活の終焉
例えこの王都でも認識板を作り終えるのは明日だそうだ。準備しないといけない事があるから構わない。
そのまま頭に布を巻いた格好で武器屋を回る。何件か回った店の品揃えはさすがに王都なのか、良い物ばかりに見える。魔法剣も有ったが、今の懐具合では難しい。必要も無いからな。
イマニアムで買った、柄も鉄製の槍を一件の店に見てもらうと金貨二枚で買い取ると言われた。即、売り払う。
腰に差してある剣と出来るだけ似てる、作りが良い物を金貨一枚と銀貨五枚で買う。新しく鍛冶職人に見えるような服とサンダルも買った。弓矢は長い付き合いの物だったので手放すのが惜しかったけれど、この先の事を考えて銀貨六枚で売った。
その後適当に選んだ、別の柄も鉄製の槍と弓矢を合わせて金貨一枚で仕入れる。
槍を買った店で冒険者組合の場所を聞いてその場所へ向かう。中央の広場から東の大通り沿いの北側にあった。その近くの冒険者向けの宿を取って部屋に入ると今日買った服と腰に差してあった愛用の剣を部屋に置き、宿の者に出かけて来ると言って外に出る。
頭の布を取り、新しく買った槍と弓を担ぎ、新しい剣を腰に差して冒険者組合の建物へ向かう。
さすがに王都本部の建物だ。大きくて立派だし、人の出入りも多い。気合を入れて建物に入ると、こんな昼間なのに冒険者らしき者が沢山居た。入り口から入って正面は五人の職員が受付をしてた。服装はキッチリしてるが、それでも女性職員は居ない。
なんでこんな所まで態々来たと思ってるんだ! 憤慨して目的を忘れそうになる。左右の壁には依頼書が数多くびっしりと張り出してあって、多くの人間が見てる。ふと気が付くと、数人の冒険者が俺を見てる。顔見知りは居ないようだが?
さてと、受付に行きイマニアムから来たケインと名乗ると、俺を見てた数人とそれ以外の何人かが驚いた目で俺を見てくる。……変な噂が広がっているんじゃねぇだろうな? ミゲルの野郎。
髪の毛をぴっちりと香油で撫で付け、どこかの執事みたいな雰囲気の受付の男性にとりあえず、これを買い取ってくれと言って虎の魔獣の毛皮を取り出し、この辺りで熊が狩りたいんだが依頼はないだろうか? と言うと後ろから小声で話すのが聞こえる。
「やっぱりアイツ、『熊殺しのケイン』だぜ、虎の魔獣の毛皮だと!? 虎殺しもするのか……」
「じゃあ、あの槍が『熊一発』か! 虎の魔獣なんてすげぇな、狩るヤツ初めて見たぞ」
「それより熊狩りだ。一緒に行くと、熊に殺されても生き返らせてもらえるって聞いたぜ?」 ……無視だ無視。
「え、ええ、これですと──首の傷が大きいですが、金貨三枚で引き取ります。それと今の時期ですと熊は少ないですが、それでも何ヶ所から熊を見たと知らせが入ってます。北の森辺りからも報告が上がってますね。薬剤屋からの熊の胆嚢の依頼も出てますよ」
「よし、引き受けよう」
「……はい。詳細も聞かないとは、さすがですね。まだ案内人がいませんが、すぐにでも見つかるでしょう」
「いや、一人で殺る。明日の朝、準備が出来しだい向かう」
職員がお一人で? 無理ですよ! とか、せめて案内人を付けて数人で行って下さい。とか五月蝿かった。ええい、お黙んなさい! 一人で行かないとならんのだ!
こちらを見ていた周りの人間も、
「一人で熊狩りに行くだって!? 信じらんねぇ……」
「さすが熊殺しだ。きっと匂いで熊を探せるんだぜ。そうに違いねぇ」
「ああ、槍捌きが見てぇ。俺も一緒に連れて行ってくれねぇかな……」
好き勝手に言ってるが、聞こえない振りして強引に引き受けた。『熊殺しのケイン』がここで熊狩り依頼を受けたと、話が広がるのが目的だった訳なのだが、何故か自分へのダメージが大きかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日の朝、頭に布を巻き、腕をまくって鍛冶組合の建物へ行って銅製の認識板を受け取る。顔がにやけそうになるのを堪えるのに苦労した。その後一旦宿に戻り、ゆっくりと朝食を取る。今日の行動を考えると胃が痛いが、やり切らないとな。
それから冒険者の格好で荷物を待ち、世話になったと礼を言って宿を出る。
『北の門』の町まで行く馬車を探すと、そちらへ直ぐに出ると声を張り上げて合図の鐘を鳴らしてる御者が居た。銅貨十五枚払って乗り込む。
馬車では相乗りになった冒険者が俺をじろじろ見て、何か話そうとしてるのを見ない振りをして目を閉じ、ひと寝入りする。これ以上の面倒は御免だ。
昼中頃には北の城郭都市を門番に認識板を確認されながら通り過ぎる。一人で歩いていたからか、こんな場所で歩きでどこへ行くんだ? と聞かれ、ちょっとそこの森まで熊狩りに。と答えると一人の番人は笑っていたが、もう一人は事実だと理解して驚愕してた。
太陽が二つ分動いたくらい北の道を歩き、東に森が見える手前まで来た俺は周りを見ながらヤツを探す。俺の考えが合ってたら居るはずなんだけどなぁ。アォーン……とりあえず遠吠えのマネなんぞやってみる。思ったよりめちゃくちゃ恥ずかしいなコレ。
しばらく待っても来ないので、もう一度大きく遠吠えしようと、「ウォオ」まで言ったら、後ろから「ヴォフ」と声がする。あわてて振り返ると『何をやっているんですか?』みたいな顔をした森林狼が居た。
「西の森に居た森の狼族の?」
「ワフッ」
「さっきの俺の遠吠え聞こえた?」
「ワフン!」
「聞こえたんなら、すぐに遠吠えを返さんかい!」
恥ずかしくて腹が立ったので、その森林狼にヘッドロックをかける。もちろん狼には効かないのでじゃれてると思ったのか、尻尾を振り回して喜んでる。しっかし毛が硬ぇな。
「まぁいい。君に指示を与えます。熊を探して来て下さい!」
「ウォオオオン!」 何故か『あっちですよ、ダンナ!』みたいな顔をして駆けて行く。
「何で直ぐに分かるの!? え? 食べようとしたら俺の声がした?」 あぶねぇ! もうちょっと遅かったら計画が台無しになるところだった。慌てて狼を追いかける。
あ、ちょっと待って! まだだから! 熊はまだ襲っちゃダメだから!
それから俺は昨日買った服に着替え、狼に探してもらい、近くに居た鹿を狩った。その後は毛皮を剥ぎ取り、今まで着てた服を血だらけにしながら鹿肉を詰めていく。
不思議そうに見てる狼にもお裾分けで腿肉を与える。美味しそうにボリボリ骨ごと食べてる。狼君、とてもワイルドですね。改めて熊の所へ連れて行ってもらい。見える所まで来たら、鹿肉が詰まった俺の服を熊の方に放り投げ。そこから下がって様子を見た。
本来なら、一人で熊の近くになんて、頭がおかしいとか言われかねない。あ、いや、組合で色々言われてたっけ? ……考え事をしてると狼君と目が合う。『まだダメなの?』そんな表情だ。君らホント熊大好きだな!
しばらくすると、血の匂いに気付いたのか熊が鹿肉入りの服を引っかいたり、噛み付いたりして中の肉を食べ始める。いい感じにボロボロだ。ある程度の解れ具合になったら、一緒に見てた狼君に指示を出す。
「殺っちゃって。あ、血は流さないようにお願いします!」
ワフッと言う返事をしたと思ったら、あっという間に牙を剥いて飛び掛り、熊の頭を……丸齧り!? ゴキッという音と共に熊が少しの痙攣後、沈黙した。すげぇ……でも、まだ食べちゃ駄目だからね。
その後は服の爪痕、牙の傷をもう少し増やして、余計な肉を取り除き、血の染みを追加した。それから槍と弓と新しい剣を狼君に噛み折ってもらって辺りに投げ捨てた。冒険者の認識板を服の所に置いて偽装工作完了である。本当は古い方がいいのだろうが、
今持ってる剣はイマニアム南の村人の遺品だし、女神様からいただいた物だから、ちょっと捨てられなかった。
やっぱり戦争になんか関わりたくない。騎士レストが来た時には、もう断るつもりでいたけど、あの場で拗れると更に面倒になりそうだったからね。ならさっさと自分で動いて情報が広がる前に終わらせた方が良い。封蝋の巻物は気になるけど、ここに捨てていく。
……決して、森人族との面倒事を起こしたくなかったからでは無い。
女神様からの巻物と、金貨三枚、解体用ナイフを一本、塩と香辛料、それから保存食を少し持ったら、他の物を袋に入れたまま投げ捨て、西の街イヒシンへ向かって出発だ。ところで女神様の巻物を狼君に見せても反応無しだった。何の力がある訳じゃないのか?
それからまずは南に向かって歩き、東の城郭都市に入り、そこから西の街イヒシンまで乗合馬車で行くつもり。狼君がこっちを見て、『背中乗って行きます? 三日で行けますよ?』 みたいな表情をしてた。魅力的だったが、行くまでに凍え死ぬので却下だ。
狼君に、熊は遠くへ持って行ってから食べて欲しい、皮や骨は埋めて欲しいとお願いした。もしも俺を殺した熊が他の獣に喰われたと知られたら、大騒ぎになるからね。
そう俺、ケインは今日ここで死んだ。これからはオスカーとして生きていくのだ。
──それは村での生活が終わったという事だ。もう、戻ることは無いだろう。
弐の章 終わり
三章も半分くらい準備出来ました。
引き続き、明日も投稿したいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




