2-7 三人目、村の生活での栄光
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弐章ノ七 三人目、村の生活での栄光
意識が戻ってくると体中が痛い。それに口の中が青臭くて苦い。毛皮が針金で出来たような馬に乗ってる気分……うん?
目を開けると目の前には銀色の毛とピンと立った狼の耳。頭がまだ、ぼーっとしてたが、何とか思い出してきた。でもベッドの毛が硬くてがっかりです。それに口の中が……薬草が突っ込まれている!? 何て雑なんだ。
俺が気が付いたのが分かったのか、長が歩きながら気絶した後の事を教えてくれる。今は暗くなってしばらく経つ。虎を仕留めて、その屍骸も他の狼が運んでいる。俺の道具も持って来てくれているとか。槍は折れちゃったけどな。
空を見上げれば、上弦の月が出ていて少し明るい。俺は乗せてくれてた長に降ろしてもらい、自分の体を確認する。うわー、ボロボロだ。腕には大きな爪の痕。服も破れているし血だらけ、目では見えないが背中と顔にも傷が残っているだろう。
特に背中の傷が深かったらしく、薬草を背中に塗りこみ、俺の口に含ませたらしい。森に生えている特別な薬草だとか。でもどうやって口に含ませたのか、とても聞く気になれなかった。
長はともかく、周りの狼達はそれなりに傷があった。虎の爪だけなら狼よりすごかったもんな。ため息をついて、自分の傷口に回復の力を使う。うむ、一瞬で消えた。顔や、体が硬くて苦労したが、背中にも手を伸ばし力を使った。
ふと気が付くと、長を始め、回りの狼達が俺を驚いた表情で見てる。
「それは、まさか英雄様の力!?」
違います。
いつの間にか使えるようになったんだ、と説明した。それに回復しか使えないんだと。他の者には黙ってくれ、出来るだけ頼らないでくれと、怪我した狼達を治療しながらお願いする。
何故か狼達の目がキラキラしてる気がする。……俺はそっと目を伏せた。
森の境界線付近、村に近い川の場所で俺の道具と熊の毛皮、肝心の虎の魔獣の屍骸を降ろしてもらった。こんな大きな虎を運べるって森林狼ってすごいね。
皮を剥ぐつもりだが、肉はどうする? って聞いて見た。食えない事も無いが、魔獣の肉は美味しく無いから食べないと言われた。そう言えば何で魔獣と言われるの? 普通の獣と魔獣、それと長みたいな狼との違いは?
「魔獣は、魔法を使う 獣 。そのままに魔法が使えます。例えば虎の魔獣の力は『水』。自分の体に流れる血を操って怪我を治したり、池や川の水を動かして魚など獲ったりします。私は魔法は使えない普通の獣です」
……普通じゃないです。通訳の魔法使ってますよね? そう、口から出掛かったが、何とか抑えて黙ってた。うん、女神様の眷属だから、聖獣って言った方が相応しいよね。
俺はにこにこしながら、話を聞いてた。そうか、虎が今まで生き延びていられたのは、その魔法の力のおかげなのか。確か防水コートも虎の魔獣の毛皮で作られた物だったな。
もう遅いから、長達は戻って欲しい。そう言って狼達を見送った。もう感覚が麻痺しているのか分からないけど、他の村人に見つかったら、大騒ぎだからね。
この礼は必ず近いうちに。そんな事を言ってる長に、鹿を沢山獲ってしまったから要らない、と断ったが、長の目は何かを考えている様子でコワイ。いや、別に悪い事では無いだろう。多分。おそらく。無いことを希望します。
今から虎の処理は時間が掛かるし、見つかるのも怖いから、この場所に置いて行こう。狼達も分かっているはずだ。と適当な木の陰で雪の中に埋め、折れてしまった槍の残骸を差しておいた。
それからは川を渡り、見張り小屋の人間に森で迷って帰るのが遅くなったと演技スキル(自前)を発動し、村の自分の家に帰る。馬の世話は誰かがやってくれていたようだ。申し訳ない。
ゼピュローラもブヒヒーンと怒ってた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
虎狩りを果たした次の日の朝、明るい場所で自分の体を見ると、細かい傷と結構目立つ血の跡がひどかった。慌てて傷を治し、ケトルの残り湯で体を拭いた。疲れててよく確認もせずそのまま寝たのがまずかった。
血で染みが付いたボロボロになった服を暖炉で燃やし、虎に止めを刺した剣を手入れした。ほんのちょっと欠けてる気がする。ゼピュローラの世話はしっかりと。まだご機嫌斜めだ、狼臭くてスマン。
あー、槍の代わりも手に入れないとなぁ。返し付きの杭は一応持ち帰ったが、一個は折れかけてたので燃やした。残りの二本も使うことは無いだろうと物置の肥やしになってもらう。熊の毛皮も血と泥でグチャグチャ。丸めてこれも物置に片付けた。
解体用のナイフを持って森に向かう、その途中で会った村長に、昨日帰ってくるのが遅かったみたいで心配したが、ちゃんと帰って来てたから安心した。近い内に鏑矢を試しに使ってみるから一緒に来てくれ。とか色々話した。心配掛けてスイマセン。
兎狩りに向かう狩人達には、虎狩りはどうした? とからかわれたが、笑いながら怖かったから二度とやらんと返しておいた。俺、結構本音で話してるが。
昨日、埋めて置いた木の陰の、虎の雪を退かすとカチカチに凍って硬くなってた。あちゃーと思いながらもナイフでギコギコ切れ目を入れていく。やってみると脂肪が固まって案外楽に捌けてる気がする。
ふーむ、狼達に噛み付かれて、かなりの傷だらけと思っていたが、思ったより傷が少ないな。これが魔獣としての力? 戦いながら力を使ってたのかもな。すげえ。
皮を剥ぎながら、魔獣の力に関心する。でも今回は防御依りの魔獣で良かったなぁ。攻撃向きの魔獣なんて居たら、ちょっと怖くて戦う事など出来ない。
首の傷痕が大きくて残念だが、命が掛かってたからしょうがないよね。それでも思ったより傷が少ない毛皮が取れたと満足してた。
ふと気が付くと後ろに誰かの気配。やべ、狼達の事があったから油断してたわ。村人なら何て言い訳しよう? 狼達に襲われて死んでた事にするかな? とか考えて振り返る。
そこには軽装に身を包み、腰に俺の剣より長い、騎士剣と言われる長剣を持った、どう見ても軍人さんである。後ろには道案内でもしてたのか、顔見知りの狩人が驚いた顔でこっちを見てる。
軍人さんの方には怖くて目を合わせられない。怖いと言ってもこれからの面倒事の方だがな。それでも無心になって聞いてみよう。もしかしてただの散歩かも知れないよな。……ぜひそうであってくれぇ!
「こんにちは、ようこそ西の村へ。騎士様とお見受けしますが、どの様なご用件で?」
目を合わせて聞いてみる。灰色の髪に碧眼の鋭い目をしてる。間違いない、この目は人を殺してる目ですわ。
「……この村にかなり出来る者が居ると聞いてやって来たのだ。しかし村中を回ってみても、それらしき者は見当たらない。まあ、噂程度だと思っていたからな。しかし──」
そう言って俺が剥いだ虎の毛皮を見る。狩人も見てる。俺は無視する。断然無視だ!
「そうですか、ところでどうして森の方へ? 森林狼が出るので、危険だからこちらには立ち入らないようになっていたはずですが……?」
「狩り人の者に頼んで連れて来てもらった。森林狼は昔から神の使いの象徴。一目見たかったからな。だが、それよりも面白いモノが見つかったようだ」
くっくっく、そう言って騎士の人は悪代官みたいな笑い方をして、あごに手を添える。すごい、悪役が板に付いてますね。
「ああ、これですか? どうやら狼達に襲われて殺さ「首の所の傷は、剣に依るモノだな? かなりの腕じゃないと、そんな切り口にはならないだろう」……」
俺、ピンチなん?
無い知恵絞って、三章を書いております。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




