2-4 三人目、村の生活で泣く
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弐章ノ四 三人目、村の生活で泣く
熊の襲撃がほぼ怪我人無しで終わったと思えたわずかな時間。直後にまさかの狼の遠吠え。その意味を信じたくなかったのか、皆が茫然自失となってしまった。俺は少しだけ早く復活し、今来た道を走り戻る。
川向こうに犬らしいシルエットが見えた。でも犬なんて可愛らしいモノじゃない。今まで見た狼より体高で二倍弱程の大きさがある。冬毛なのか白い灰色に見える。
狩人の一人が森林狼だと叫んだ。目を合わせると逃げて行くような、草原の狼と違うのか。甘く見てるとこの場に居る者が全滅の恐れがあるかも知れない。
普段は森の奥深い場所で縄張りを作り、三十頭近くの群れで狩りを行うらしい。人を襲う事など聞いたことは無いらしいが、目の前の大きさを見れば誰だって恐怖に震えるだろう。
今でも松明の明かりに照らされて、群れの数が増えているように見える。こんな暗い中で判断出来ないけれど、少なくとも今でも十頭は超える。
俺は迷っていた。もしも森林狼が襲ってきたら、撃退は難しい。襲って来ないなんて安易な考えは出来ない。例えここで戦っても丸太の柵は、今度は逆に向こうが有利になるだろう。
少しの逡巡の後、俺は狩人達に向かって静かに下がり村へ逃げろと言った。皆は驚きに目を剥き、一斉にこちらを見た。
「村に帰って、村の者を一ヶ所に集め沢山の焚き火を炊いて防御を固めろ。村長宅が良い」
無言で聞いてた一人が、俺はどうするんだ? とばかりに目で訴えかけてくる。俺は目をそらして狼の群れを見た。
「ここで残って戦っても、皆が疲れているこの状況だと撃退も難しいだろう。狼に慣れている俺が足止めする。ほら、さっさと行け!」
狩人達と目が合わせないように怒鳴り、村へ逃がす。申し訳ないと言う雰囲気が後ろから漂ってくる。……俺も村から怪我人なんて出したくないからな。
狼の群れはまだ川を渡っていないが、いつこちらに向かって来るか分からない。俺は松明を持ってゆっくり川の方へ移動した。群れの目を引き、狩人達を追わせない為に。
川 縁まで来て、松明の光が狼の群れを捉えた。
……二十頭近く居るだろう。一頭一頭の迫力が熊の比じゃない。例え俺がその一頭だけと戦っても勝てる気がしない。俺は犬派なんだがなぁ、と余りに現実味が無い光景に妙に落ち着いた気持ちになってくる。どうやら自分の死が近いらしい事を感じてるみたいだ。
ゼピュローラと一緒にもっと旅がしたかったなぁ、とか考えていると群れから一際大きな個体が進み出て、そのまま川を渡って来る。すでに俺の頭を超える大きさだろうか、毛皮の色は灰色を通り越して銀色に見える。どうやら群れのボスらしい。
弓と槍はとても通用しそうも無い。それらを雪の積もった地面に投げ捨て、腰の剣を抜き放ち両手で構える。そう言えば、剣を狼に向けるのは召還されたあの日の夜以来だったな。そんな事を思い出しながらボス狼の行動を見据える。
躊躇無く進んで来るので、俺もじりじりと下がり相手の隙を伺う。あまりの恐怖でおかしくなったのか俺の心の中は穏やかだった。
遂には川を渡りきり、俺の前に居る。その間は五メートルも無い。お互い目を合わせて逸らさない。ボス狼が脚を少し曲げた。
来る! 俺は覚悟を決め、剣を振り上げて──
「神さま、どうか我々をお救い下さい」
「誰が神様じゃ! もとい、狼がしゃべったぁ!?」
襲い掛かると思っていたボス狼は、そのまま地面に伏せ、俺に意味が分からない事を訴えてきた。また混乱スキルか。
もうヤダ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
やっぱりさー、こう言う場面だとさ、頭の上にオオカミの耳だけ生えた綺麗な女性か、カワイイ女の子がね?
「たすけて欲しいワン」とか「ワフン」とか「ウォフ」とか、普通こうじゃね?
でさー、その子の頭をこう、なでなでして、こう言うの。
「いいだろう。うむ、やわらかい毛だな」とか言って撫でるの。ついでに耳なんかムニムニしちゃったりして。
──決してこんな針金みたいな硬い毛じゃ無い訳よ。俺は鼻水まじりの涙を流して説明してた。
混乱を通り越して、暴走してた俺は何故かボス狼を撫で回し、その毛皮の硬さに理不尽な文句を言ってボス狼を困らせている。
あの一触即発だった雰囲気から、謎のイベントが発生してた。どうやら森林狼達は俺に頼みがあるらしい。それで態々村の近くへ来たのか。
熊の襲来からの狼の訪問だったから襲撃だと思うよな。君らタイミング悪過ぎ。下手すると狩人達と一緒に矢を降らせてたよ。もっとも矢なんて効きそうに見え無いけどね。
混乱が収まった俺は、ボス狼に先ほどの言葉の真意を聞いてみる。
「なんで俺が神様なんだ? 特に何かした訳じゃ無いはずなんだが……」
「我々の神様は空の上に居られます。その御 目を閉じたり開いたりして、我らを見守ってくださってます」
……ん? 見守る? 心当たりがある。でも閉じたり開いたり? なんの事──
「もしかして、丸く青白く光ってたりするアレ?」
俺は空に浮かぶ月を思い出し、ボス狼に聞いてみる。
「はい。今は見えませんが少しずつ開いて行き、丸くなって、また閉じて行くのです」
なるほどな。月か、でも神様って? あ、見守る神様……女神様!? 女神様は月に居るのかよ! 月に居て、この星を見守って居るのか。そりゃ見やすいわな。どっちかと言うと、月のリゾート地でこの星を眺めながら優雅に過ごしてるイメージが強いが。
「まあ、それは良いとして、ところで俺を神様と言ったのはどうしてなんだ? 俺は普通の人間でしか無いんだけど」
「我ら狼は『見守り』の神様の光が見えます。その光が神……貴方様から出ているのが見えるのです」
「なんですとぉ!?」 俺、見えないよ?
「特に貴方様の御目と御 髪から光があふれて見えます。ですから貴方様が神様と思いまして」
頭が光ってる!? ……落ち着け俺、頭じゃ無い。髪の毛だ髪の毛。ふー、まだ慌てる年齢じゃ無い。
しかし、目と髪か。あー、女神様に言ったわ、目と髪の色変えてくれたわー そうか、女神様の力が強すぎて、人間には見えずとも狼には分かっちゃうのか。
「光が見えるのは、お前達だけか? 他の者には見えないのだろうか」
「我ら狼族は、遥か昔から『見守り』の神様の眷属ゆえ、その為でしょうな。我らは大昔にあった大きな戦いの時に神様の手伝いをした。と聞いております」
あの滅亡の危機にあった時の戦いに、狼達は協力したのか。すごいな、女神様の眷属なだけはある。もう少し話を聞いてみた。
「大昔の戦いの中で、勇者が居たとか戦いの相手を倒しまくった者が居たとか、聞いた事はあるか?」
「はい、神様が連れて来た英雄様方ですね。大きな力を使い、戦いを勝利に導いたと。そしてこの地に残り、命尽きる時まで穏かに過ごしたと聞いております」
ふむー、昔の勇者さん達も召還されたけど、戻れなかった訳ね。でも最後は平和だったみたいだから、それは良かったのかな?
それから他にも色々と聞いて見た。初めて狼に遭遇した時、一匹だけで襲ってきたのは何故か?
「群れから巣立った若い雄が、力試しに人間にちょっかいを掛けてると聞いた事があります。それに草原に住む狼達は人間達の飼う獣を襲う事があるとか、貴方様を見て肝をつぶしたでしょうな」
何故、お前……何か失礼だから、長と呼ばせて貰おう。長は人間の言葉を話せるのか?
「我らは『見守り』の神様の眷属。その中でも、英雄様と親交が深かった森の狼族は、『見守り』の神様の丸い時にその光を浴びて、それが千を数えた時に大いなる知恵を授かる。そう言われております」
月の光を浴びて話せる様になるのか、何かすごいね。千回って多いのかな? 他の群れにも長みたいな者が居るのだろうか?
「さて? 我ら森の狼族は群れを作り、鹿を育て、その縄張りの森からほとんど出ませんでして、話せるようになった者は御先祖様しか見たことはありませんなぁ」
ん? ちょっと待て、今何て言った? 鹿を育てるって言ったよな。
「遥か昔の英雄様が、人と争わないように森で鹿を増やし、それを糧として縄張りを守れと」
鹿の養殖! 勇者さんすげぇ! あ、やべぇ、もしかすると昨日の鹿の群れって……
「はい、我らの鹿だと思います。それに関係して貴方様にお願いが御座います」
ぎゃあああ! 面倒事の依頼はいやぁぁ!
月面リゾートは憧れます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




