2-3 三人目、村の生活で疲れる
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弐章ノ三 三人目、村の生活で疲れる
鹿肉は脂が少ないし、生だとに腹 痛起こす事があるから、焼くか煮込みにするねぇと、近所のおばちゃんに言われて、生ハム計画が駄目になった鹿の襲来の次の日。
燻製も作ることはあるけれど、最近は猪が良く獲れ、そちらの方が美味しいから鹿肉はすぐに調理して食べてしまうそうだ。
俺は昨日の狩りの疲れで昼間は家で休んでいる。もろちんゼピュローラの世話は他の人に頼まず、朝早く自分でやった。大事な家族だからね。
村長から、怖い目にあったが怪我人も少なかったし、鹿肉が大量に手に入ったので宴をすると聞かされた。大量と言っても、村全部に行き渡る訳じゃないからという事だった。
なるほど。でも、あの時に怪我人が居たのか。疲れてたから、気付かなかったよ。聞いて見ると擦り傷ぐらいだから、気にしなくて良いと言われた。
宴は夜にするそうで、一番の稼ぎ頭だった俺は見張りの仕事をしばらく免除してくれるとか。夜の見張りは大変だからね。他の者には悪いと思いながら、その言葉に甘える。
暇になった俺は、昨日の事もあったので 鏑 矢 を作ってみようと思う。確か笛の様になってたはず。適当に大き目のどんぐりの形に木材を削り、なんとなく穴を開けて見る。これを矢の先に付けるんだよな。
試しに先端に口をつけて吹いてみると、ホーと鳴った。……ホーじゃねぇよ。腰砕けになりながらも、矢で撃てばどうだろうと、外に出て矢の先端にどんぐりモドキを取り付け真上に向かって射ると、ホヒョーと鳴っただけだった。
自分のセンスの無さに絶望しながら村長宅に行き、鏑矢の説明をすると納得してもらえた。それなら村の中に笛作りが上手い者が居るから、協力してもらったらどうだと、そこへ連れて行ってもらった。
会って見ると、四十手前のおじさんでハニーブロンドと言うのだろうか、蜂蜜色の金髪とヒゲを生やしていた。俺の顔は知っていた様で、鏑矢の説明をするとその工作を二つ返事で受けてもらえた。……ウェイドと名前を聞かされた。
高くて大きな音が必要と言い、試しに俺の試作を天に向けて射ってみる。なるほど面白いなと言って真剣に飛んでいく矢を見てた。ぜひがんばって素晴らしい鏑を作って欲しい。
夜になり、村や森の見張りの人間以外が村の中央に集まる。村人は全員で三百五十人くらいと聞いている。この時期はやはり暇なのだろう。臨時とは言え、鹿肉が獲れての宴だ。楽しみにしていたらしい。
鹿の料理は煮込みや腿を丸ごと窯でじっくり焼いた物、何かの果物と野菜で漬け込んだ肉の串焼きとか色々出て来た。のん兵衛のオヤジ共は、いつも通りにジョッキと肉の串を両手で持ち、陽気に騒いでいる。酒を飲まない人達も美味しそうに料理を食べてる様だ。
俺は念のために酒を断って鹿肉を堪能してた。確かに脂は少ないが新鮮なのか臭みが少なく、噛み応えがあってうまいと思う。鹿刺は食べた事はあるが、それとは違った旨さがあるな。
昨日の防衛で、一緒に居た見張りの者や後から来た狩人達も居て、アンタ狩りも出来るんだなとか、槍捌きが只モンじゃ無いとか言われた。どうやら俺はこの村で、治療が出来るゆかいな配達人で通ってたらしい。……それでいいよもぅ。
からかわれながら鹿肉をもりもりと食べてると、ウェイドが物が出来たと言って、鏑を持って来た。どうやら中をくり抜いて空洞を作らないと駄目だったらしい。乾燥した硬い木で作り直したら音が良くなったと得意気だった。
俺は感謝して受け取った鏑を吹いてみると、ぽぉぉぉっ! って思ったより大きくて高い音がした。おお、すごい。周りの連中は、何だ? 笛か? 一曲吹けとか言って絡んで来て五月蝿かった。よっぱらい共め。
どうせ全員に話してもしょうがないし、酔っ払っいも居るからと村長だけに話をする。これを何本か作るから、重大な事があったら見張りをする者に射ってもらえば良い。先端は怪我が無い様に、丸めておくから村の中心へ向かって射ってくれと。
今度顔役に話して置くから、一回やってみようとか、ついでに矢に色付きの紐を付けて目立つようにしたらどうだとか、色々有意義な話が出来た。真面目で誠実な村長で大変結構。
騒がしくも楽しい宴の最中、見張り小屋の方から慌てて走って来る者が居る。森から熊が出たと。
──鏑矢は直ぐに使う事になるだろうと思っていたが、連日の襲撃は想定外だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
狩人以外の人間は、熊相手にするのは危険だったから残ってもらった。狩人も酒を飲んでいて、顔が赤い者が何人か居たが、顔そのものは真剣な表情だった。熊の怖さを良く知っている本職の人間だからだろう。
「ゴアァァッ!」
見張り小屋のある辺りに近づくと、大きな獣が発する野太い咆哮が聞こえる。他の二人は大丈夫なのだろうか? 林を抜け現場に辿り付くと、辺りに火の付いた薪が転がっていた。どうやら逃げながら火鉢の薪を熊に投げてたようだ。
二人は丸太の影に隠れながら必死で熊を威嚇している。追い詰め様としている熊は、前に何人かのパーティーで狩ってた様な四メートルクラスじゃないが、それでも三メートル半はあるだろう。
一緒に来た狩人達に、無言で熊の反対側の丸太へ回り込むように手振りで指示し、俺はその反対の熊の背中側に走りながら弓と鏑矢を取り出す。その意図が分かったのか狩人達はそのまま黙って向かう。
熊は二人を追いかけながら、ガリガリと丸太を削り、踏み倒している。見張りの二人は松明代わりの薪と槍を振り回して、必死な顔で威嚇している。
狩人達が位置についたのを確認した後、俺は熊の頭上を人に当たらない方向へ向かって鏑矢を射た。
「ビィイイイイッ!!」
使った自分もびっくりするほど大きな音が、この暗い夜空に響き渡る。熊を始め、見張りの二人と狩人達も首を竦めて驚いてた。……驚かせてゴメン。
心の中での謝罪と共に普段の矢を準備して、驚いて立ち上がり、こちらに振り向いた熊の腹目掛けて流血狙いで矢を射た。頭蓋骨やあばら骨に弾かれる事を心配して骨が邪魔そうな所を外しての事だ。
二射目は射たずに弓を投げ捨て、狩人達に手振りで合図して攻撃してもらう。思い出したように狩人達が弓を射はじめて、こちらに来るかもと思ってた熊が改めて狩人の方に振り返りつつ向かっていく。
俺も横に回りこんで、丸太を遮蔽物にしつつ隙あらば槍で突こうと構える。見張りの二人はすでに狩人達の後ろに逃げてた様子。
四つん這いになって、今にも狩人達に襲い掛かろうとしてる熊の後脚を斜め後ろから槍で付く、直ぐに離れると熊がこちらに咆哮を上げ、爪を振り回して来る。そこを横合いから狩人達の矢が襲い掛かる。
熊の体に何本もの矢が刺さり、血を失い過ぎでいたせいか、もう機敏な動きが出来なくなっていた。狩人達も距離を詰められる事無く攻撃していて、俺はたまに熊の注意を逸らす役割で済んだ。
結局、狩人達の矢が尽きて俺が槍で突き殺す事で仕留められたのは、何時間も過ぎた気がした頃だった。もしかすると一時間も経っていないかも知れないが。
念のために槍を目に突き込み、止めを確認してからやっと俺達は脱力した。防御柵として丸太を立てて置いて良かった。あれが無かったら少なくない犠牲者が出てたことは想像に難くない。
落ちてる矢を拾うとか、熊の処理を血抜きだけしておくとか、ヘトヘトになりながらも済ませ村へ帰る道に向かう。まだ少し体力に余裕の有りそうな見張りの一人に村に走ってもらい、他の者への報告と荷車の手配を頼んだ。
残りの者で熊の討伐を 労 い 、とぼとぼ歩いて帰る。今日はもう見張りは良いだろう。疲れてて注意散漫になっても困る。
あ、鏑矢どこ飛んで行ったっけ? 後で探し出してウェイドに量産を頼まないとなぁ。
もう面倒事が済んで、明日からの事を考えてた。そんな時だった。
狼らしい獣の遠吠えが聞こえたのは。
ミスが無いように何回も読み返していますと、
ストーリーが客観的に読めなくなって、後で恥ずかしい思いをすると言う……
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。




