1-1 三人目×××に立つ
はじめまして、稚拙な作品となりますが、読んで頂けると嬉しいです。
※R15は念のためです。
壱章ノ壱 三人目×××に立つ
確か、会社から帰宅して暗い中、Tシャツとジーパンでコンビニへ向かってたはず。
気が付くと、真昼間に舗装されてない道の真ん中で立っていた。
街灯の下に入った時に、ずいぶん周りが明るかったなと思ったくらい。
こんな所に自分から来た覚えも、来る途中の記憶も無い。
夢? でもこんな現実感がある夢なんて無いよな?
周りを見渡しても見覚えの無い風景で、妙に遠くに地平線が見える……気がする。
地平線? 自分が住んでた場所で地平線なんて見えたっけ?
「なんだここは? いつの間に来たんだっけ?」
しばらく、視線を彷徨わせて何気なく下を見ると、Tシャツとジーパンではなく、
着ている服は記憶に無い、知らない服だった。
化繊や綿製品じゃなくて、ごわごわとした植物製らしい麻織り物のような服だ。
履いている靴だって、粗末な革製のサンダル? だけ。
自分で着た記憶も無い……ここまで来ると異常な状況をやっと把握できた。
誰かのいたずら? まさかのドッキリ?
ハハハ、そんな事するような仲間も知り合いも居ない。
コンビニに向かう途中だったのに、記憶が抜け落ちているのもおかしい。
ヘンなTV番組じゃないだろうな? 犯罪染みてるぞ。
それから数十分の間待ってみたけれど、いたずらをばらしてくれる人も出てこないし、
車も人も通らない、この恰好を人に見られるのは恥ずかしいが。
しようがないので、この場所から移動する為に太陽の位置や道を見てみる。
太陽は見えるけど、東西の方角が知っている方向で合っているかもわからない。
今居る道の片方は遥か遠くに山脈が見え、その途中に深い森があるようだ。
反対には、何も……無い? いや、地平線の彼方に黄色い何か、
もしかしたら米か麦のような畑? が広がっているように見える。
とりあえず、人が居そうなので、そちらへ向かってみる事にする。
◆◇◆◇◆◇◆◇
小一時間ほど歩いている途中で、道端や視覚に入る植物を見ていると、詳しくないが、
少なくとも見た事も記憶に無いものばかり。
ここは自分が住んでいた地域では無い、
ヘタをすると日本じゃ無い、外国に居る可能性に思い当たる。
もしかして何かの犯罪に巻き込まれたのだろうか、
でも、心当たりは無いし、犯罪でもわざわざこんな場所へ? 見張りも付けずに?
「うーん、さっぱり分からん」
異常な状況にそのうち頭の片隅で突拍子もない考えが思い浮かんでくる。
絶対ありえるわけ無い、馬鹿な考えだ、と思いながらも時間が経つにつれ
それが心を占めていく。
イライラする、場所はともかく服を見れば、今回の出来事は誰かの手によって
成された事だって分かる。
その誰かが自分の目の前に出てきたら、正座させて説教がしたい。
つい殴ってしまうかもしれん、殴っていいよね?
それでも……もしも、万が一ここの世界が……『異世界』だったのなら……
ありえないと思いつつも、試しにと思い叫んでみる。
「ステータス! メニュー! ……ファイヤーボール! ……くっ……」
この歳になって中二病か! めちゃくちゃ恥ずかしい、ファンタジー物の読みすぎだ!
顔を真っ赤にして恥ずかしさに死にそうになる。
そして、八つ当たりなのか、それがそのまま怒りに変わってくる。
俺をこんな場所に連れて来た元凶の誰かに軽く殺意が沸いてくる。
もし万が一ここが異世界だったのなら、居るか分からないが、
「魔王側に協力して、この世界を滅ぼしてやる……」
──おっと、まさか今の言動を見られていないだろうな? と周りを見回すと
いつの間にか、自分の斜め後ろに白い上等に見えるローブを着た、
いかにもそれっぽい金髪の色白美女が少し申し訳無さそうに立っていた。
雰囲気が普通じゃない、それに後ろ頭に目立つ光輪がある、翼はないが。
あー……このオーラはアレですな、天使じゃなくて女神様ですわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「異界からの者よ、まずは謝罪を、そして今の状況を説明しましょう」
やっぱり異世界なのかと、思いながらも、この状況を受け入れる。
へへーと地面に膝を付き、手を合わせて祈る恰好をする。
色々と知りたい事はあるけれど、とりあえず話を聞いてからでもいいよね。
「今回の召還は、この大陸の王国の人間によるものです」
あー 王国の召還? どこかの物語みたいだ。
「今回の儀式で多数の者を召還しようとしたのでしょう。
私は一人目が召還された時に初めて気付き、二人目、三人目で途中介入して
四人目以降は阻止しました。
すぐに召還陣を書き換え、次元をつなぐ召還門を閉じましたが、
それでも今回、間に合わなかったあなた達には、
謝らなければいけません、申し訳ありませんでした」
言ってる事は耳に入るけど、理解出来ていない、他に二人も居るの? 被害者が。
驚愕の説明と、女神様からの謝罪とに混乱しながらも質問する。
「召還って事は、やはり魔王とか、世界の崩壊とか人類に危機が迫っているのですか?」
「いいえ、そんな者は居ません、危機どころか平和と言っていいでしょう。
本来、召還陣も召還門も二千三百年前の星の破滅を防ぐ戦いの為の物、
その昔の戦いの相手もすでに滅亡しました、今では召還は無意味なモノなのです。
それに今回、あなた達を召還した王国がしようとしてる戦いの相手も、
姿は多少違えども同じ大陸の仲間、同じ種族の『人間』なのです。
つまり王国はただの侵略戦争の駒としてあなた方を呼んだに過ぎません」
勇者が活躍するような、魔王とかの相手じゃない?
無意味な召還に、無関係な侵略戦争?
魔族との戦いでもなくて?
自分達は戦争の為の兵隊として呼ばれたのか。
うそん、マジか、ショックだわー
「残念ですが一人目は召還の儀式に付随する『力』を与えられ、
軍隊を率いる勇者として王国に身柄を拘束され、二人目も力は与えられましたが、
影響が出ないように別の大陸に飛ばしました、三人目であるあなたも、
力を付随する前に飛ばして、今この場所に居るのです」
ん? 力ってチートみたいな? ちょっと欲しいかも。
「あの、力とは何でしょう? もしも、私が思っているような力なら、
出来れば頂きたかったと思うんですが……」
「力とは、この世の理から外れた捻じ曲がった、大きな力です。
しかし、その大き過ぎる力ゆえ、それを持つ人間を破滅に導きます。
この星への影響も大きすぎて、遠くない未来、百年も経たずに崩壊するでしょう。
星をただ見守るだけの私でも、破滅まで許す事は出来ません」
なるほど破滅か、結構な影響力があるんでしょうね、
力というかチートをもらえないのはちょっぴり残念ですが。
「でも、二人は力も持っていますが、大丈夫なのですか?」
「一人、最悪二人くらいの命短き者の力なら、破滅への事態にはならないでしょう」
服が変わっていたのは、次元を超える時に変質してこちらの常識的な物になったらしい。
それから女神様は申し訳ないが、元の世界に戻すのは無理とのこと、
他の次元から人を行き来させる力なんて禁忌だと言われた。
今回の召還はどうなってんの? と、思ったりしたが。
その元凶たる王国にも罰は与える事はしないと説明された、不干渉が原則らしい。
王国の事はムカツクし、天罰が無いのは残念だけど、でも女神様のせいじゃないから、
怒れないしな。
そっかー帰れないのか……しかし、妙にさばさばとした心境になる。
所詮一人暮らしの冴えないサラリーマン、向こうでやり残したことも無い。
その後、女神様から地味目な鞘に入った剣と三リットルくらいの水袋と長い紐の付いた布袋、
その袋の中にあるチーズのような保存食と火打石、それと多少の貨幣を貰った。
頂いた物は山脈が見える、途中の森の近くにある村に住んでいた、
村人の遺品(盗賊に襲われて村が滅んだ!? )との事。
こんな近くに盗賊が普通に出るんですか、おっかねぇ……
それと女神様、分かってましたが結構ドライな御方なんですね。
その言動で分かる通り、星が滅ぶ様な事が無い限り、ほとんど介入することなどしない。
俺にしてくれた事も、この世界に無理やり召還されて生きていく力も無いから特別らしい。
最後に羊皮紙? で作られた巻物をくれた。
街に着くまでに読むようにと言われた、なんだろね?
「その道をまっすぐ行けば、少し大きな街に出るでしょう。
それからは貴方の好きなように生きなさい、王国に復讐するのもいいでしょう。
この世界に八つ当たりしても影響は少ないので大丈夫、生き方はあなたの自由です」
……女神らしくないおっかない事を言われました、どん引きです。
王国に天罰を希望はしましたが、自分がするとなると出来ないかも。
先ほどは自分、魔王の~とか言ってましたが、やっぱり出来ません、ムリっす。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。