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地獄飯

てけてけの怖いところは上半身だけで勝てると思っているところ。あのガッツはやばい。


「ふぅ、ようやく全員分の家具を創り終わったっす」

「お見事デス。ガルム様」


 村の住民を皆殺しにした後、俺は地獄へと帰って村作りに励んでいた。

 小人の村の村長さんは大分前に流行り病で亡くなったとのことなので、俺との付き合いがちょっとだけ長いモーリスのおっさんが村のまとめ役になった。というか、他の人がビビって、俺との調整役をおっさんに押し付けたというのが正解か。


「ガルム様。村の衆を迎えていただき、感謝の念に堪えません」

「ああ、別にいいっすよ。こっちも冥力とかいう魂魄の力が溜まるっぽいんで、ウィンウィンっす」


 おっさんの村には全員で百名くらい村人が居たので、大量の冥力が手に入った。

 その冥力を使って日本の古い農村みたいな村を創ったんだが、まだまだ力が余っている。


「ガルム様。我らに何か出来ることはないでしょうか? 何もせずに恵みを甘受するのは、気が引けるのです」

「あーどうなんすかね。何かしてもらったほうがいいのかな?」


 そういえば、食料とか自給自足してもらったほうがいいのかな。

 死神になってから生理的な欲求が全く無いので忘れていた。


「ノルサン、死者に食事とかって必要なんすかね?」

「無くても大丈夫デスけど、その場合は飢餓の苦しみだけが残りますデスね」

 

 あはー、どうやら飯は必須らしい。飢餓地獄を創るわけにもいかないだろう。

 これは畑なり水田なりを創って、食料を自作してもらわないとアカンな。


「ところでモーリスさん。お腹空いてるっすか?」

「えーと、お恥ずかしながら少し空いております。ここ一週間ほどまともに食事を取っていませんでしたので」

「一週間!?」


 なんだこのおっさん。鉄人かよ。

 俺だったら半日なにも食べないだけでしんどいわ。

 これは村人全員を集めて飯だな、飯。




「それでは両手をあわせて、いただきまーす!」

「「い、いただきまーす」」

 

 みんなで長い木のテーブルを囲み、食事を取ることにした。

 それぞれの席には白飯、鶏の唐揚げ、きんぴらゴボウ、味噌汁、サラダ、各種ジュースが置いてある。

 もちろん地獄には食材がないので、これらの食べ物は全て俺が創造したものだ。

 小人の嗜好が分からないので、モーリスのおっさんの娘であるミミとルルに色々と毒味をさせ、今回はその中でも評判の良かった鶏の唐揚げをメインのおかずにしてみた。


「う、美味い! こんな美味しいものは初めて食べたぞ!」

「父ちゃん、このリンゴの甘い汁も美味しいよ!」

「うおおおお、ここは地獄じゃなくて天国じゃないか!」

「ううっ、爺ちゃんにも食べさせたかった……」


 どうやら村人たちは喜んでいるようだ。

 本当は一流のシェフが作った至高の料理とかそういうのを創造したかったんだけど、どうやら俺が創造出来るものには限りがあるらしい。 

 疑問に思ってノルサに聞いたら、俺が生前に無意識下でもいいから構造を知っていたものだけだそうだ。

 オール電化の家を作ろうとしても、電化製品の構造がわからないので作れない。今ほど普段の勉強不足を悔やんだことはなかっただろう。


 俺の隣ではノルサがガブガブと料理を平らげている。

 最初は「私は食べなくも大丈夫デス!」とか言っていたけど、さっきミミやルルと一緒に試食をさせると、「まだ試食出来ますデスよ!」とか言って、ステルス催促をするようになっていた。

 

「さすがはガルム様。この唐揚げとやらは本当に絶品でございますデスね。このノルサ、感激致しましたデス!」

「あーまぁ、別に俺が発明したわけじゃないっすけどね。喜んでもらえたなら良かったっす」


 村人たちもモリモリと食べている。大皿にたくさん唐揚げを乗せておいたんだが、そろそろなくなりそうだ。

 小人とか言っているけど、普通の人より食欲があるんじゃないかなこれは。


「おかわりもあるっすよ。欲しい人はこっちに出しとくんで持ってって下さい」

 

 新しく大皿に唐揚げを盛り付けると、村人たちが殺到してきた。

 おいおい、ゾンビじゃないんだから。もうちょっと落ち着いてくれよ。


「急がなくても、たくさんあるっすよ! そこ、喧嘩しないで下さいっす!」


 危うく食料の奪い合いが発生しそうになったが、一度に大量の唐揚げを出すと、みんな自分の分もあると納得したようだった。

 さっきは鬼のような形相で唐揚げを奪い合っていたが、みんな自分の皿に唐揚げを補充するとニコニコ顔で席に戻って行く。

 ひええ、小人とは言え食べ物が絡むと恐ろしいわ。これからは気をつけよ。




 最後に出したデザートのプリンも好評だった。甘いものは珍しいらしく、誰もが目を剥いて食べていたわ。特にノルサの食いつきが激しく、俺の隣にいるのを良いことに一人だけプリンを三個食べていた。

 大体食事も終わって、みんな食後の満足感に浸っているようなので、俺はそろそろ本題を切り出すことにした。


「あー、改めて自己紹介するっすけど、俺の名前はガルムです。一応死神やってます」


 とりあえず話の潤滑油にと軽く自己紹介をすると、ガタガタと椅子をよけながら、小人たちが平伏し始めた。


「あれ? いやそういうのいいんすけど……」

「住まいに加えて、温かい食事まで与えていただき、本当にありがとうございます。我らが信仰はガルム様に捧げます!」


 モーリスのおっさんがキラキラした眼差しで言ってきた。ノルサは隣でうんうんと頷いている。

 あー、なんだこの状況は。

 俺は死神だけど、言ってみれば新参の下っ端で、真の神様はヘル様なはずだぞ。


「えーと、みなさんとりあえず席について下さい。あとなんか勘違いしているみたいっすけど、信仰を捧げるべき相手は俺じゃなくて、冥界ニブルヘイムの女王ヘル様っす」

「おお、そうでしたか。では、ヘル様にも信仰を捧げます!」


 うんうん。俺を崇めなくてもいいけど、ヘル様を信仰するのは良いぞ。

 なんていったって俺を糞みたいな前世から連れ去ってくれた素晴らしいお方だからな。

 まさに神の中の神、ゴッドオブゴッズだ。


「そうっすね。ヘル様には毎日お祈りを捧げるのが良いと思うっす。で、それはそれとして、みなさんの仕事のことなんすけど」

「はい、なんなりとお命じ下さい」


 なんでか知らんが、村人達の忠誠心はやたらと高いようだ。俺に殺されたことはあまり気にしていないらしい。まぁでも、よくよく考えれば俺も死神に殺されたことはあまり気にしていないな。彼らも俺と同じく不幸な状況から救われたと思っているんだろうか。


「飯は食わなくても死なないらしいっすけど、腹は減るみたいっす。この後に畑か水田を作るんで自給自足してもらえますか?」

「はい、分かりました。それで税はどれくらい納めればよろしいでしょうか?」

「税……税金? いや、別にいらないっすけど」


 ざわざわっ。

 なんかやたらと小人達がざわめき始めた。

 なんだ、なんか変なこと言ったか?


「申し訳ありませんが、ガルム様。それは一体どのような意味でしょうか? 何らかの賦役が課せられるということでしょうか?」

「賦役? いや、単純に税はいらないって意味っす。自分達で食べる分だけ育てて下さい。ああ、気にしなくても作物が育つまでは俺が食料を出すから大丈夫っすよ」


 さっきまでざわめいていた小人達が今度は泣き出した。

 なんだこいつら、情緒不安定かよ?


「それは……誠ですか。おお、神よ感謝します。我々は常に貴方様に付いていきます!」

「あっ、はい。まぁ、そういうことでおなしゃす」


 よく分からんが、喜んでいるようなので良しとしよう。

 このまま小人達のヘル様への忠誠度が上がれば、信仰仲間が増えていくはずだ。まるでアイドルの追っかけをやっていた頃の、同志が増えていく気分じゃないか。

 ヘル様を応援するヲタ芸をみんなで作って、毎日のお祈りに使うのも良いな。

 俺はちょっと嬉しくなってパチンパチンと指を弾いた。


ブログで先行配信してます。

http://garmthedeath.blog.fc2.com


ブクマ&評価おなしゃす。


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