stage.8 星光竜の棲家 その10
お互いに、最終局面がどうなるかは、理解していた。
通路を守る炎の壁を、あのスキルを使って突破する。
その為に、全身金色に染まったるな子を連れているのである。
わかっていたとしても、星光竜は炎の壁を立てる。
すでに保険として炎の壁を立てさせられた。
たとえば氷の壁であったり、石の壁に切り替えてしまえば、うさみの目論見はついえるだろう。
だがそれは、すでに一歩譲っているというのにさらにもう一歩譲るということである。
それは竜の矜持が許さなかった。
さらには、氷であろうと石であろうと、別の方法で通過することは不可能ではなく。であればあえて炎のままで、正面から目論見を叩くことこそ王道である。
あのスキルの弱点は見えている。
うさみとるな子が必要であり。
連続使用はできず。
そして効果中、3秒間は行動できない。
さらに、範囲攻撃のみしか無効化できない。
つまり、どうにかして効果中移動し、どうにかして3秒間、範囲攻撃以外の攻撃を受けないようにする。
この二点をうさみが達成できるかどうか。
加えて言うなら、うさみの魔力が尽きるまでに、である。
そういう問題なのだ。
なので、星光竜は回避される前提で肉体による攻撃および衝撃波によって牽制し。
範囲ではないが無数の射撃型の魔法攻撃をばらまいて追い込み。
とどめに範囲攻撃をぶちかます。
そういう戦術でうさみを攻めた。あのスキルを使ってしまえば暫時突破の心配はなくなる。範囲攻撃を耐えた動けないところで射撃を受けて死ぬだろう。
しかしうさみはそのすべてを、最小限の魔法の使用で切り抜けていた。
エンチャント魔法を全部まとめた【フル・エンチャント】。
行動速度を後押しする【追風】。
反応速度を上げる【雷迅】。
体感時間を底上げする【加速】。
四つの魔法で高めたはやさ。
そして満月の夜で最高潮なのにデスペナルティ解除でさらにドン。
いまや速度に限っては今の星光竜に匹敵する、どころか大きく上回っていた。
「えっへへ。早さが、足りてる!」
『馬鹿な……』
星光竜は驚愕していた。
前日とは二段も三段も違うそのはやさに、先読みの上を行かれ、あるいは魔法の発動を見てから避けられる。
小さきものがこれほどの力を持つというのは尋常ではなかった。
しかし思えばうさみの行動は初めから尋常ではない。何度も殺され格の違いを見せつけられて、なお今ここに立っている。であればこれだけの存在になるというのはむしろ正しいことなのか。
逃げる先を潰していたのが徐々に追いかける形に移行していく。
これはよくない傾向だと星光竜は感じるが、度重なる修正も追いつかない。
しかしそれでもうさみに必要な3秒の時間を作りだすことは適わない。
単体狙いの魔法の雨のなかに徐々に空間制圧を目的とした範囲攻撃に比率が増えて行く代わりに、うさみの行動可能範囲から目標地点近辺が外されて行く。
星光竜が初期の戦術を切り替えたのだ。
3秒間、単体狙いの攻撃を受けないですむ状況を作るというのが作戦目標のひとつであるので範囲攻撃の割合が増えるのは歓迎だ。だが行動範囲が狭まる点でいただけない。
ここはすでにうさみにも星光竜にも狭すぎる空間。押しつぶされる危険がある。
そこでうさみは切札を1枚切ることにした。
「ヴァル子!……るな子!」
星の光がうさみの腕の中、るな子の白金を照らしだす。
そしてるな子が前足を必死につきだすと、紫色の光が星光竜を包み込んだ。
『なるほど、星の子と月の兎の力を借りるか。だが我に眠りの魔法など効きはせぬ』
星光竜を包む光が消え失せて。
なお悠然とたたずむ姿が現れたとき。
うさみが5人に増えていた。
るな子もちゃんと増えており、ヴァル子はすでに消えている。
「「「「「さあここからが本番だよ!」」」」」
5人そろってビシッと星光竜を指さし告げると、各自散開駆けだした。
『なに……!?』
5人が5人とも掌握した魔力を身に纏い、気配が魔力に埋もれて判別できない。
星光竜は焦った。何百年ぶりかのことである。
咆哮を放てば容易に吹き散らせるだろう。
しかし今まっすぐ進む一体が本体であった場合、追撃が間に合わない。
まずは足止めが必要だ。
行方をふさぐ形で魔法を放つと今度はまた別の一体が先をうかがう。
それを防ぐとまた別の……。
完全に後手に回った!
星光竜は歯噛みした。
この星光竜が追い込まれるとは! それよりもどうやって魔力を調達した!
分身の術で星光竜の目をごまかすのは無理だった。
なので自分の方を分身の術と同様の条件に持ってくる。外部の魔力を掌握して操作することで外面上、魔力の塊としかわからなくなっているのである。
最初に魔力を吹き飛ばされてどうしたものかと思っていたが、予想以上に体が動き、余剰の魔力を抽出できた。
うさみの行動中減っていた魔力。あれは自ら放出していたのだ。
満月効果か、精神力も魔力回復量も底上げされて、予定以上にことが進んだ。
そして5人分身へ。
集中力を使うがそれでいい。
ここが押し時だからである。
ようやく取れた先手の機会、ここで押さずにいつ押すというのか。
5体のうさみによる波状攻撃を阻む星光竜。ここにきて今出せる全力を振り絞っていた。そしてついに、一体を捉え、とどめの魔法を放とうとしたその時だ。
別の一体に魔法が蹴り散らされる。
魔法を蹴り散らせるということは、つまりこれが本体か。
いや、本体が分身をかばうか。守られた方こそ本体では。
そんな一瞬の迷いをついて、さらに別の一体が駆けだす。
もはや間に合わない。ならば、
轟ッ!
咆哮が轟いたよりも
「【二兎を追う者は一兎をも得ず】!」
うさみがスキルを使ったのはわずかに早かった。
その時うさみは一番離れていた一体であり、星光竜の咆哮の予兆を感じ、いままで使わなかった全速力で宙をかけ、慣性と風の後押しに任せて炎の壁に飛び込んだのだった。




