stage.8 星光竜の棲家 その6
魔法を使うにあたって消費する魔力。
基本的には時間経過で回復するが、激しく動き回るとその速度が低下し、逆にリラックスして休むと早く回復する。
その他、花香水の魔法で回復速度が上がったり、スキルでも上がる。
魔力の回復に関わるとしてアン先生は三つのスキルを教えてもらっている。
瞑想法、呼吸法、循環法である。
このうち、瞑想法は自身の中で完結するスキルで、回復量を常時強化すると同時に、能動的に使うことでさらにその速度を倍にするというものだ。
問題は残りの二つ。
呼吸法は、周囲に存在する魔力を取りこみ、自身の魔力にするスキルであり、回復量が周囲の環境に依存する。
循環法は自身が使った魔法スキルで消費した魔力の一部を回収して回復するスキルで、魔法スキルの魔力消費量に比例するというものだ。
これらのスキルが何を示しているかというと、魔力は自分の外にも存在するということである。
うさみはその点に着目し、これを利用できないかと考えた。
魔法は基本的には自分の中の魔力を使ってなんやかややるシステムである。
しかし魔力操作を覚えたときのように、身体の外に出すこともできる。そして操作可能である。コントロール魔法で玉をもてあそぶように魔力を支配して利用できればどうだろうか。
例えばこのように、真ドラゴンの魔法の起点がまず背後次に前方斜め上時間差で地面に発生することがコントロールしている魔力の揺らぎで読み取れたのとわずかな時間差で背後に水の槍が生まれ飛び出してくるがそれをかわすと正面からばらまかれるまだ属性はわからないが多分火球に動きを封じられるのでむしろ前に出ることでかわすと地面から隆起してくる土の槍もかわすことができるというわけだ。
あるいはこのように未だかわしていない後ろから迫る水の槍をジャンプしてかわすと飛んでくる竜尾を二段ジャンプでさらにかわしている間に打ち付けられる豪風をこちらも強風を起こして緩和しつつ吹き飛ばされた先には炎の壁があるので、ぶつかる前に空中を蹴って逃げるなんてことも。
つまり真ドラゴンの魔法の種類は豊富ではあるが、それでも限られており、起点がわかればそれだけでだいぶ絞り込める。そして魔法を使うにはうさみが外に出している魔力に干渉する形になるので起点がより早くわかるようになるという、魔力感知、魔力操作、魔力知覚の合わせ技といえる技術と。
外部の魔力を固定して足場にするという、疑似二段ジャンプ、あるいは空中ジャンプ、むしろ空中歩行といえる技術。
魔法を使った時外部の支配している魔力を回収して迅速に回復する呼吸法と循環法と魔力操作の合わせ技もある。うさみが思いついていない利用法もきっとあることだろう。
ともかくこの外部魔力支配とでもいうべき技術で、うさみは二歩分はやくなった。
魔法の予兆をより早い知覚すること。
地面を経由しなくとも空中を駆けること。
今は相応に集中力が必要だが、それも練習を積めば当たり前のようにこなすことができるようになるだろう。
『卵が空を駆けるか』
真ドラゴンからも感心したようなお言葉が届く。
やった。有効ってことだよね。でも卵ってなんだ。
しかし、そんな疑問はすぐに押し流される。
真ドラゴンがますます激しく仕掛けてくる!
まだまだ本気じゃないんだ。
健闘しつつも追いつめられながら、うさみは真ドラゴンの底知れなさに冷汗をかく。
おやつを提供して魔力をまいて下準備。
そこからの奇襲というつもりだったが、まだまだ足りていなかったらしい。多数の魔法の予兆に囲まれながら、しかしうさみはあきらめない。
立て続けに切れ目なく、はあっても、全くの同時にというのはない。できないのかやらないのかはともかくだ。
それなら速度で対応できる。
「【追風】!」
初手から準備してようやく発動できたこれが新魔法のひとつ。
うさみが魔法を宣言すると、その動きが加速する!
速度が急に変われば先を読んでたくさん準備している魔法もほとんど無駄になるからね!
うさみの移動を支援する風を随時起こす魔法により上がった移動速度によって、危険地帯を一気に突破する。
それでも幾つかの魔法が追尾してくるだろうし翼が衝撃波を飛ばそうとしているし星ピンクビームもいつでも撃てる状態だ。楽観できる状態ではない。
それでも。
「【砂利】!」
手の中に十数個の砂利を生み出す、ただそれだけの新魔法。余計な効果がない代わりにコストも時間も少なくて済む。そんな魔法だ。
即座にそれを、放っておけば見当違いの方向へ飛んでいくだろう、爆発する火球に投げつける。
砂利に接触すると同時に幾つかの火球が爆発し、迫りくるはずの追尾魔法を巻き込んだ。
うさみは敵の魔法を利用して、追撃を食い止めたのである。
わずかな時間差で狭い範囲で多数の魔法を扱う真ドラゴンは恐ろしい魔法使いであるが、だからこそこうして利用できるのだ。
ということを証明し、にやりと笑ううさみ。そのまま目標の通路へと、
『小癪な真似をするものよ』
突入する前に炎の壁が立ちふさがった。
うぐぐ。狙いがばれてるのが厳しいね。
とはいえ、過ぎたことは仕方がない。
行方に炎の壁を常時維持されてしまえば手詰まりだ。今のところは。
炎の壁を出してないときにどうにか出し抜くか。
出されても強引に突破するかだ。
どちらにしてもチャンスは一度と思うべき。どうにか状況を整えないといけないね。さてどうする。
などと考えることに意識を取られたのが敗因でこの時はうさみは死んだ。
しかし連続秒殺記録は止まり、この時から生存時間が少しずつ伸びて行くことになるのだった。




