stage.1 スター平原 その4
うさみ、二度目のスター平原(北)である。
しかし、今回は先ほどとは違う点 があった。
うさみの他に人が居たのだ。もちろん警備兵のおじさんでもない。
うさみ同様、地味なシャツを身につけた、短髪の若い男性のようである。
(あれって、他のプレイヤーさんだよね)
うさみは考えた。
(ちゃーんす!)
「さて、はじめるか」
『はるさめ。』はRFOの元βテスト参加者である。
RFOというのはReFantasic Onlineの略称で、はるさめ。は『れふぉ』と読んでいる。
βテストの参加者は知識の点で新規プレイヤーより優位である。テストバージョンとはいえ、実際にRFOをプレイしているからだ。
はるさめ。はβテスト時代に培った知識を利用したちょっとしたテクニックを実行するため、スター平原(北)にやってきたのである。
平原の奥に向かって歩を進める。少し歩くと、近くと茂みがガサガサと音を立てる。
「来たな。3、2、1!」
タイミングを計って横に飛ぶ。同時に、音がしていた茂みから、バイコーンラビットが飛び出してくるのだが、はるさめ。はそれをすれ違うように身をかわしていた。
ピコーン!スキル取得のアラートだ。
《スキル:【回避】1を取得しました!》
《クラス:【初心者】のレベルが上がりました!》
視界の隅にそんな文字が現れて消える。
「ふっふっふ、狙い通り!レベル1なら上がりやすい!」
満足げに笑うはるさめ。そうしている間に、バイコーンラビットは体勢を立て直しこちらに向き直る。
「さあ、やられるまでに、どれだけ上げられるかな、っと!」
はるさめ。の狙いは、ある仕様を利用したクラスとスキルのレベリングである。
その仕様というのは、【モンスターのレベルより自身の種族レベルが低いと、得られる経験値が増える】というものだ。
種族レベルはモンスターを倒して経験値を得ることで上がる。クラスレベルはそのクラスに相応しい行動を取ることでも経験値を得ることができる。戦闘系クラスなら戦闘を、生産系クラスなら生産活動だ。初期クラスである【初心者】は何をしても上がる。そしてスキルはそのスキルが影響する行動を取ることでのみ、経験値を得られる。
これに先の仕様を合わせると、レベル1で強い敵と戦い、かつ倒さないことで、迅速に一部のスキルのレベルを上げることができる、というわけだ。
スターティアの街に隣接するマップでは北側が最も難易度が高く、同じモンスターでもレベルが高い。具体的には南が1~5、西、東が6~10、北は10~15であるというのがβテスト中に判明した情報である。
倒さなければ種族レベルは上がらず、レベル差は縮まらないのでスキルを効率的にレベルアップできる。
これを利用するために、はるさめ。はβテスト終了間際の数日間、スター平原(北)で攻撃しないでウサギモンスターの攻撃を避け続ける練習をしていたのだった。
「とはいえ、初期能力だと勝手が違うな」
死んでも、街中でチュートリアルを受けている間に能力値低下のペナルティは回復するので次の行動に支障はない。そこまで計算しての行動だ。
しかし、このタイミングで少しでも稼いでおけば次がずいぶん楽になる。はるさめ。はバイコーンラビットの攻撃の予備動作を見逃さないよう集中して攻撃を避ける。
避ける。
ピコーン!
避ける。
ガサガサ。
「二匹目来たな!」
回避しつつも少しずつ場所を移動して、近寄った別の茂みが揺れる。バイコーンラビットが飛び出してくる前兆だ!
2対1になるわけだが、直線的なバイコーンラビットの動きであればまだ対処可能な範囲。そのために練習してきたのだ。
「さあどこまでいけるかな!」
こうして回避を続ける間に一羽、また一羽とふえていくバイコーンラビット。避け続けるはるさめ。そのうちに対処能力が飽和してついに角による攻撃が……。
「ここまでか」
回避しきれない攻撃がくるのがわかり、はるさめ。は身構えた。防御のスキルを取得する狙いだ。
そして命中する攻撃。吹き飛ぶHPゲージ。一度の攻撃でHPが0になったのだ!
レベル差があるということは、それだけ敵が強いということで、10倍も差があれば一撃で倒されてしまうのは当然の話である。しかしリスクを踏まえての行動である。はるさめ。は満足してマップから消えて行くのだった。