stage.7 星降山の洞窟 その7
「とまあそういうわけで、おやつを取りにきたってわけなんだ」
「うっははははは!いやあ、君すごいね! 予想以上のことをやってくれる!」
うさみはゴリラと向かい合ってお茶をしながらおしゃべりしていた。
ここは迷いの森のアン先生の屋敷。
るな子とヴァル子も呼び出して、リラックスモードである。
先ほど最後のおやつを食べ尽くしたうさみ。休憩時に消費する分に加え、『精霊の取り分』によって持っていかれてなくなった果物を採りに来たのだ。やはり甘味は気分転換に必要不可欠。うさみにとってはたいした手間でもないのでためらう理由もなかった。
話題はもちろん、うさみの冒険の話である。
「いや、二日三日で本当にドラゴンの棲家まで辿りついて、少なからずやり合えるなんて信じられないよ」
「本当だよ?」
「疑ってるわけじゃないさ、それだけすごいってこと。生徒うさみ、君はとんでもないことをやり遂げかけているということを自覚してもいいと思うよ」
「そうなの?」
アン先生がなんだかうさみをほめ殺しにかかっているのだが、うさみとしてはイマイチ実感がない様子である。
うさみに言わせれば、ゲームがうまい人ならこれくらい簡単にこなすんじゃないかな、といったところか。
ゲーム初心者という自覚があり、ゲームなんだから難易度はともかくクリアはできて当然という思い込みがあり。また調子に乗りかけて叩かれるを繰り返しているので、今はそれほど自信を持っていないのだ。もしドラゴンを突破できればまた少し調子に乗るかもしれないけれども。
「まあいいや、そんな生徒うさみに、先生としてまた支援をしようじゃないか。魔法の技術が上がっているようだしね」
「やった、ありがとう!」
うさみは諸手をあげて喜んだ。ドラゴン攻略にあたって、新たな手札が増えるのは歓迎だ。ドラゴン側の底が見えない以上、こちらが戦力を増強する余地が増えるに越したことはない。
「まずは十二の魔法を贈ろう。今の魔力ならそれなりに使いこなせるでしょう」
アン先生はそう言うと、立て続けに六つの光の玉を生み出した。赤、青、黄、緑、黒、白。六色の光。
「これは、一般に使われてる魔法と同じレシピだから、癖もなく使えると思うわ」
「はーい」
胸元へ飛び込んでくる光を受け止めるうさみ。基本を修得していれば、魔法の伝授はこれだけで済む。
「えっと、エンチャント?」
「この六つは、かけた相手の能力を強化する魔法よ。熟練すると効果時間が増えるから、しっかり使い込みなさい。で、こっちが本命」
アン先生が、今度は光の玉ではなく、小さな火の玉、水の玉、風の玉、土塊、闇の玉、そしてやっぱり光の玉を生み出した。
「これは?」
「それぞれの属性をコントロールする魔法よ。魔力で属性の媒体たる現象を生み出し、自在に操作する」
アン先生は言いながら、火の玉を空中で8の字で動かしながら水の玉を細長い棒状に変形させ、風の玉を崩して水の棒に風を吹きかけさざ波を起こし、土塊を火の玉の軌道の二つの穴をくぐるような円形に変形させ闇と光の玉をくっつけて半々のひとつの玉にした。
「おおー」
魔法の曲芸に、うさみは拍手で応じる。見ていて目が回る、というほどでもないがやる側はちょっとすごいんじゃないかな。同時にいっぱいだ。
「生み出すまでもなく媒体があるなら直接操作できる。生み出す際に投じた魔力によって媒体の規模が増減して、支配する媒体の規模によって継続消費する魔力量が増えるわ。これは魔法のアレンジ、さらにはオリジナル魔法の創造の訓練のために引っ張りだしてきた魔法でね、見ての通り、無駄が多いのだけど」
つまり火の魔法、コントロール・ファイアなら、すでにある火を、もしくは魔力で火を生み出し支配して、自在に動かすという魔法ということらしい。
いちいちどう動かすかなど指示しなければならないし意識しないと支配が外れるし、維持に魔力を取られるしその量も多いという
「昔はこういうところから練習を始めたものだけど、今はレシピの伝授もできるし魔法そのものが効率化されてきてあまり重視されなくなっちゃって」
過去語りをはじめたらもういい歳だよねと、うさみは心の中で思ったがお姉さまに都市の話をするのはタブーなのは基本なので秘めておく。
「というわけで、生徒うさみ。この魔法で要領を掴んで、自分に合ったアレンジ魔法もしくはオリジナル魔法を各属性一つ以上生み出しなさい、という課題を与えます」
「か、課題」
「ご褒美用意しておくから頑張って達成しなさいな」
課題といわれるとちょっとやる気が削がれるうさみである。ご褒美には興味はあるが。
そう思いながら伝授してもらえるのを待つうさみ。しかし、伝授してもらえるようすはない。あれ?
「あ、まず自前で修得しなさいね。生徒うさみの魔力操作と各属性魔法の習熟度なら簡単だから。ほら見本はあるからね」
「ええっ!?」
無茶振りであった。魔法とか現実にないものを扱う技術を自力で覚えろとかどうしろというのか。
うさみはそんな無茶なと思いながらも魔力操作の要領で魔力を動かし修得済みの魔法を使う際の魔力の流れを参考にしつつとりあえず風を生み出してひゅるりらー。
あ、できた。
「あ、そうそういい感じ。その調子で六つ同時に自然に操作できるようになれば魔法の扱いぐんとうまくなるからそれもやっちゃって」
「やっちゃってって。軽く、言う、けど、さあ!?」
言いながら火と水の玉を生み出し土を生み出したところで風が途切れた。意識が逸れたためであろう。
半ば遊びに来たはずなのに難題をつきつけられ、うさみは頭を抱えた。
「急がなくてもいいわよ。できるということを知ってれば、ドラゴンとやり合う間に覚えられるでしょう。というより、それくらいできないとドラゴンはねえ」
そういわれればやらざるを得ない。ドラゴン攻略にあたって、新たな手札が増えるのは歓迎。それはうさみの本意であるので。
ともあれ、練習を始めるうさみであった。




