stage.6 星降山中腹 その9
何度かの練習と確認、検証を行い、うさみは決断を下した。
次で突破する。
その為に。切札を切る。
切札とは何か。
それはうさみが今まで個人的感情を理由に封印していたものである。
「【クラスチェンジ】!【ウサギ】!」
虹色のエフェクトに包まれて。
うさみの姿が変容する!
頭のリボンが本物のうさみみに変化。
足元からハイヒール。網タイツ。バニースーツ。そしておしりの上に白いふわふわ尻尾!
つるん!ぺたん!すとーん!
凹凸のないその姿は、いわゆるバニーガールの服装だ。残念ながら色気はない。
これこそがうさみの切札。ウサギさんフォームである!
「うーん、ハイヒールなのに全く動きに違和感がないんだよねこれ」
軽く体を動かしてみる。
超初心者と比較して、少しばかり体が軽く感じられる。超初心者は能力補正がないとのことなので、当然といえば当然だ。
体が軽い。ジャンプするときの速度と最大距離が上がっている。狙い通りだ。
ハイヒールの謎は解明できていないが、まあ問題ないだろう。ゲームだからかと思われた。
「るな子!」
更なる切札、るな子を呼び出す。
どしたん? とばかりにうさみを見上げるるな子をうさみは抱きあげ、後ろ向きに頭上へ乗せた。ちょうど耳の間に挟むように。うさうさ合体である。
前足でぽむぽむうさみを叩くるな子。なにするの高いですよ。といっているのだろうか。アン先生の動物の言葉がわかる指輪があればわかるのだが。
「るな子、後ろ危ないって思ったら教えてね」
るな子が頭上にはてなマークを浮かべるのと、うさみが発進するのは同時であった。
つまりうさみは死角をるな子に補わせようと、そう考えたわけである。
そしてそれは一定の成果を発揮した。
うさみ史上最大の速度で崖を駆けのぼるうさみと、ぷるぷる震えながら、たしたしとうさみを叩くるな子。ちょっとやめてきいてない。そんなことを言いたそうにも見える。
すぐ脇すぐ後ろそして目の前を光線が、尻尾のとげが、過ぎ去ってゆく。
うさみは舞い踊るようにくるくると隙間を抜けて行く。
一見無駄な回転であるが、これも必要経費である。進行方向のみを注視していては後方からの長距離砲への対処が遅れてしまう。それを予防するために、あちらこちらへ視線を飛ばす。
一度視線を切ってしまうとそちらへの意識も薄れ、状況の再把握が必要になり判断も遅れてしまう。
車の運転の際によそ見をしたりスマホをいじるのと同様だ。とても危険な行為。命がけ。
しかしそれでも今回の場合は必要なリスクであった。
そして許容できる範囲のリスクであった。
二種の射撃攻撃はそれぞれ予備動作とインターバルがある。
その隙を使って常時360度を把握する。
これによって範囲外からの射撃を視覚で確認、対応しきる。
その為のバニーさんの封印解除。
認識の遅れを機動性の更なる向上でカバーする。
こうして前へ前へと進むのだ。
そして登れば登るほど。敵の数は増えて行く。
自然、突破の難易度が上がっていき、うさみもよそ見走行の余裕が減ってくる。
そんなときに飛んでくる、死角からの狙撃。
しかし今度のうさみはそれを余裕を持って回避する。
なぜならば。
頭上のるな子がびくぅっと硬直して教えてくれるのだ。びくぅっ!
避ける。
もはやるな子はうさみの頭部への足による打撃はあきらめ必死でしがみ付いていた。時々天地が九十度とか百八十度とか二百七十度とかひっくり返るときと、なんかものすごい風が吹くときはうさみが支えてくれるのだが、そうでないときは押さえてくれない。
なので必死でしがみ付くのだが、しがみ付くような脚部の作りをしていないので不安定である。ぷるぷる。それでもなぜか落ちないのだがこれは一体いかなる力の働きか。
そしてうさみの後ろをじつとみつめる。
奴らが撃ってくる兆候があると身体を固くする。マジこわい。当たったらどうなるの。死ぬの?
ああ、くるッ!びくぅっ!
するとうさみが動きを変えて、そして光線がすぐ脇を通っていく。かすめもしない。でもこわい。
これはうさみさんお説教案件ですよ。
ああまたッ!びくぅっ!
「みたいな感じかな、るな子ありがとねッとお」
るな子のサインを合図に後方へ回った個体の位置を確認しここに来ると危ないという場所から退避しつつ勝手な想像を垂れ流すうさみに、るな子が後脚でたしたしと抗議する。あまり余裕ないのにお怒りが恐怖を上回ったのか。
「あとでご褒美揚げるから頑張って!」
今思いだしたけどウサギってストレスに弱かった気がする。大丈夫かな。何度も使えない手段だよねこれ。
なんてことを考えながら、すでに最高記録を更新し進むうさみ。
途中やはりドラゴンの巣らしき岩棚がいくつか見えたがそちらを気にする余裕はあまりなくこれをスルーし。
そしていつしか前方の景色に変化が訪れる。
「あ、霧……いや雲かな?」
高い山だと雲がかかることがあるのは周知のこと。山頂から雲を見下ろす写真なんかも見たことがある。つまりそれくらい登ってきたということか。
「でも、雲ってこれは助かった?」
雲は視線が通らないほど濃く厚い。これはここから先状況が変わるということだ。
敵が視力に一定以上の重きを置いて飛行・射撃を行っていることは、閃光の魔法を受けた反応で確認済みだ。
雲の中に入ってしまえば死角からの射撃の心配はなくなる。というか逃げ切れるに違いない!
うさみはそう考えて、近づいてきた雲への突入を決める。
足止めをさばき牽制のとげを見切り本命の光線を後ろに加速する。
突入。
ばぢ。
うさみは、目の前が真っ暗になった。




