stage.6 星降山中腹 その8
9/3誤字訂正
うさみの目的は移動である。
そして、移動すればしただけ、新たな敵が現れる。今まで戦闘に気づいていなかった個体が、戦闘域の移動で気がついて寄ってくるのだ。
一方、一度うさみを捕捉した個体は移動してもついてくる。
うさみを襲う敵の数は順調に増えていた。
数が増えると今まで対処できていた攻撃も、危険度が上がる。
接近してくる敵集団は複数のグループに別れ、時間差でうさみの進行を妨害してくるようになった。
切り抜けたところに降り注ぐのは光線と尻尾のとげによる射撃だ。
どうやら、うさみの能力に敵も適応してきているらしい。
戦術的な動きを取りつつある。
敵が連携して動くのは最初に出会った角ウサギさんのころからだが、足止め、誘導、偏差射撃に飽和爆撃と手札の種類の多さに、うさみは焦り始めていた。
茶ツバメさんよりチョロいなと思った過去の自分を心の中で罵倒する。
「見通しが甘いんだよう!」
思わず口から漏れていた。そんな現実逃避をしている余裕もなくなりつつあった。
うさみの武器は機動性と知覚能力である。
二段ジャンプと魔法による立体機動で崖を駆け回る。その速度は、今の相手であるドラゴンの動きと比べて遜色ないレベルである。
完全な空中戦であれば、手も足も出ないだろう。だが、崖と激突することを相手が嫌うため敵の本領が発揮されていないのだ。
気配察知と危険感知、そして魔力感知によって敵の挙動と攻撃範囲を知覚できる。
これがなければ後ろを見もしないで攻撃をかわすなんて芸当は不可能だ。
攻撃の範囲と、殺傷力を発揮するタイミングがわかるので、当たらない場所に体を押し込む。
それだけでなくより前へと進める場所へ。次の攻撃で行き詰らない場所へ。わずかな隙間を乗り継いでいく。
簡単な作業ではない。一瞬の気のゆるみが命取り。読み違えても命取り。
体は思う通りに動く。きっとゲームであり、スキルの力でもあるだろう。
必要なのは集中力と精神力だ。
一つだけ気楽なのは失敗しても死ぬだけだということ。
だから敵の懐に飛び込んだり攻撃がくるとわかっている場所を一瞬前に抜けたりなどと思い切った無茶もできるのだ。
そしてその無茶をしても、気のゆるみがなくとも、読み違えがなくとも。
詰むときは詰む。
うさみが寄ってきた集団を突破して、加速したその時だ。
突如現れた光線の殺傷範囲が、うさみの行先を貫いていた。
「あ」
マズい、と思ったが、かわせるタイミングを逸していた。
思わず斜線をたどってにらみつけるうさみの目に、発射の予備動作を完了し、今まさに放たれた光線が――うさみに命中した。
そしてうさみの目に前が真っ暗になった。
迷いの森を出て初めての死亡であった。
「感知できる範囲外からの攻撃かあ」
お地蔵さまの岩棚で、大の字になって上を眺めながら、うさみはつぶやいた。
光線の攻撃範囲は直線で、直径30センチほどの円柱だ。多少数が集まって連携、飽和攻撃されても、飽和しきれないので割とどうにかなる。隙間を抜けるか発射前に範囲を抜けるかできる。飽和攻撃といって飽和攻撃になり切れない。もどきである。
しかしその射程が、うさみの知覚範囲を超えることが、今わかった。
うさみの超能力か何かですかといわんばかりの知覚能力がスキルによるものであることは本人も自覚するところである。気配とか明確に感じ取れるなんて武術の達人とかあるいはお話の中の世界の話。
もちろん現実のうさみにそんな能力はない。森で活動する間に修得し、その感覚に慣れてはきたが外付けの能力だ。
そして認識できる範囲は半径30メートルを超えるくらい。これだけあれば森の中なら困らなかったのだが。
「空は広いからなあ」
遮るものが何もない場所では30メートルという距離は必ずしも頼りにならない。
自分の視界内で発射してくるのであればどこを狙っているかわかるのだが、見えない且つスキルの範囲外で発射された光線を避けるのは至難だ。光線より早く動ければともかく、うさみはそこまで早くない。
一応30メートルの時点で認識できるがそれではもう、ちょっと間に合わないのだ。
「とりあえずもう一回行ってみよう」
起きあがったうさみは再挑戦。
死んだ。
「が、学習してる……手ごわすぎぃ!」
空に向かって吠えるうさみ。
何が起きたか。
数が集まった時点で距離を取られ、少数の足止めと尻尾のとげによる牽制の上で遠距離多方向からの光線を浴びせられたのだ。
完全に知覚できる範囲を見切られてしまっている。
近接攻撃を仕掛けられる数が少ない分、動きやすくはなった。光線主体なので攻撃を受ける頻度そのものは下がっている。なので進行速度はむしろ上がっている。
しかし。
見えてる範囲はかわせるが、どうしても死角はできてしまう。
「ぐぬぬ」
岩棚であぐらと腕を組んで考えるうさみ。
進行速度が上がった分、快適になった面もあるのだ。この難題をクリアできれば一気に進めるかも、という期待がある。
より遠くまで認識できるように意識してみる。おーけー。やるだけやってみよう。
後ろに目があれば。ないない。少しでも広く視界を取れるように動きまわるか。
もっと閃光を連発できたら。魔力が尽きる。
もっと魔力があれば。うーん。
「とりあえず片端からやってみようか」
こうしてうさみの死亡上等のごり押し攻略が再開されたのだった。
迷いの森突入時ぶり3度目であった。




