stage.6 星降山中腹 その7
うさみはドラゴンの背中に乗っていた。
「うわっと!?」
尻尾のとげが射出され、うさみは危うく回避する。至近距離を通過していくとげは、先は鋭く、半ばに釣り針にある返しのようなものがついていた。刺されば抜けなくなるに違いない。いやその前に死ぬだろうが。
ドラゴンの背中は非常に乗り心地が悪い。
なぜか。
うさみを振り落とそうと暴れているからである。
「ええい、やっぱりロデオ作戦は無理があるね。まあ魔力も少し回復できたけど」
背中の突起を掴んで張り付いていたうさみは、暴れるドラゴンの動きに合わせて跳躍し、崖へと着地。壁走りを再開する。
うさみの周りには5メートル以上のサイズのドラゴンが今16匹。彼らはうさみを敵として認識しており、当然のように連携して攻撃を仕掛けてくる。
「あれ、ドラゴン数えるのって匹でいいのかな? 頭?」
そんなことを考えながら、うさみはドラゴンの攻撃をしのいでいく。
ドラゴンは厄介な相手だ。
まず攻撃手段を複数もっている。
口で噛みつく。
翼で殴る。
翼のツメでひっかく。
足での鷲掴みに、蹴り。
尻尾でなぎ払う。
尻尾のとげを突き刺す。さらには射出する。
体当たりをしてくることもある。
そして、口から光線のようなものを放つ。
どれもこれも当たれば一撃でやられてしまう攻撃だ。その大きさから推察できる威力は並大抵のものではないだろうし、危険感知もしっかり反応しているので間違いない。
そしてこいつらは大きな翼があるくせに、翼だけで飛んでいるわけではないらしい。
というのも、羽ばたきもせず滞空することがあるのだ。
かなりの速度で崖に向かって突っ込んでもぶつかる直前にぴたりと止まったりする。
翼で殴りかかってきたときもバランスを崩さない。
どう考えても物理法則を無視したなにかの力で飛んでいる。
魔法もあまり有効ではない。
まず強風の魔法で小揺るぎもしない。
暗視能力を持っているのか、黒眼鏡も無意味。
閃光と爆音は至近距離で使えば効果があったが、茶ツバメさんと比べると復帰はだいぶ早い。
石板はもちろん砕かれるし鼻にひっかけてみた花香水も特に意味はなかった。
それらを総合して。
うさみにとっては、茶ツバメさんと比べるといくらか楽な相手だった。
一撃でやられてしまうのはいつものことである。
うさみにとって有利な点は相手が大きいことだ。
大きすぎてちっちゃなうさみを狙っての近接での連携がうまくできないのだ。
互いの身体が邪魔する上に崖もある。
うさみが相手の身体を盾に使ったりもする。どうやら味方や自身を傷つけるような動きはしてこないようで、サイズ差のあるうさみをとらえるのには苦労しているようだった。
攻撃手段が豊富であっても、身体の大きさが邪魔をする。それどころかその巨体をうさみに足場として利用される場合すらある。
光線による攻撃はどうか。
16という数の連携による遠距離攻撃。
これが掃射、あるいは連射できればうさみはもっと苦戦していただろう。
光線の速度は早い。しかし光の早さというわけではなく、またそれ以上に予備動作がある。息を吸い込むような動作だ。
さらには光線を放つ間、動きが制限され、長時間あるいは連続して放ち続けることができないらしく、インターバルをはさむ必要があるらしい。うさみが同じ魔法を連発できないのと同様に。
うさみはこの光線を初見で回避してのけた。
もちろん危険感知が仕事したおかげである。
予備動作の段階で射線を把握できたので、そこを避けて走る。
文字通り一呼吸の時間だが、もっと早いサイクルで仕掛けてくる茶ツバメさんの突撃連鎖と比べれば、いくらか余裕を持ってかわすことができる。
決して楽勝ではないが。十分な猶予。反応できるのであれば何とかなる範囲だった。
尻尾のとげによる射撃も同様だ。光線より予備動作が短いが、射出速度は低い。一度飛ばすとしばらく静止して力むような動きを取ることでまたトゲが生えてくるのだが、その間戦線離脱してくれるのでむしろありがたい。
そんなわけで、着地から疾走を再開したうさみは進路をふさぐように放たれる光線を潜り抜けたところに飛んでくるとげを頭を下げることで避けたところに上から落下同然に飛び掛かってくる一頭を空中へ跳び出す形でかわした先には尻尾が叩きつけられるので二段ジャンプでフェイントとして前方へ逃れるには速度が足りないので、
「【強風】!」
後押ししつつも崖方向へのベクトルを強化し着地したところに飛んでくる光線が4本着弾するがそこはすでに通り過ぎておりしかし正面はまた別の一頭が口を開けて待っているので上に跳びすれ違いざまに角を掴んで背中に着地すると目の前をとげの付いた尻尾が通りすぎるのでそちらに掴みかえると驚いたように振るわれる動きを使って大きくジャンプした。
「【石板】!」
こちらを狙うドラゴンの視界を遮るように出した石板を足場にしてさらに跳躍するのとわずかな時間差でに石板は砕かれるがうさみは先ほど光線を放った直後のドラゴンの頭の上に移動しており接近して攻撃を仕掛けてきていたドラゴンの集団から抜け出すことに成功していた。
そしてそのまま頭を蹴って崖へ戻る。
ドラゴン集団による接近戦を切り抜けたうさみはそのままの勢いで逃げだす。もちろん上に。
ドラゴンも追ってくる。
しかし崖にほとんど接した状態では水平方向と比べると上昇速度はあまり早くないようで、一旦、崖からの距離と速度を稼ぐためにうさみと離れることになる。
その間がうさみのチャンス。
うさみの目的は登頂だ。
上へと進むことこそ本懐。
邪魔がないうちに距離を稼ぐのだ。
すぐに編隊を組み直してドラゴンが戻ってくるのだ。それまでにすこしでも登る。
こうしてうさみは崖を進んでいたのであった。




