stage.6 星降山中腹 その6
「さて、それじゃあそろそろ先に進もうか」
存分に子ウサギるな子と遊んだうさみは、そうつぶやいて立ち上がる。
これから先、どうするべきか。結論が出たのだ。
うさみの考えでは先に進むには2つのルートがある。
ひとつは岩棚の道をたどるルート。
おそらくはこちらが正規ルートであり、ゲームが企図する目的地につながっていると思われる。
それはこの休息所といえるお地蔵さまの広い岩棚という傍証が裏付けにもなっている。
麓をもう少し探索していれば、登れる岩棚が見つかり、茶ツバメさんという障害を潜り抜けながらここまで登ってくることができるというギミックなのだろう。
狭い足場を落ちるな危険の状態で襲撃をかわしながら辿っていくのはきっと大変であることだろう。
もう一つはここまでうさみが登ってきたように崖を直接登っていくルート。
こちらはショートカットであり、玄人向けのルートであると思われる。
茶ツバメさんの襲撃をまっとうなロッククライミングを行いながら回避するのはうさみの想像力の範疇では不可能である。数もそうだし根本的に機動性が違いすぎて話にならない。ただでさえ落ちれば死ぬような高さに達するのに、攻撃を受けても死ぬ。死ぬのに回避は無理となればなんらかのブレイクスルーが必要だ。
正規ルートは別にある。
だがうさみはそのルートを通らないで崖を登ってくることができた。
ということは、うさみはそのなんらかのブレイクスルーを得ているということだ。
それはなにか。
二段ジャンプだ。とうさみは思う。
二段ジャンプがなければうさみは茶ツバメさんの襲撃にきっと屈していた。
魔法も有効な対策であるが、なくても頑張ればなんとかなる。でも二段ジャンプがなければ壁走りの術(うさみ命名)はできないのでやはり無理だ。あるいはうさみの何倍もの魔力と魔力回復力があればいけるかもしれないが、うさみは持っていない。
きっといくつかの方法があって、二段ジャンプによる壁走りの術はその一つなのだろう。ともかくこのスキルのおかげでショートカットを使えたのだ。
二段ジャンプを覚えさせてくれたゴリラ先生万歳。あ、アン先生だ。万歳。
で、あるからして。
この先もショートカットルートを進むのがいいだろう。アン先生に感謝しつつ。
せっかくブレイクスルーできるスキルを身につけているのだ。活用しないのはもったいない。
それに狭い足場にこだわって進むよりも自由に動き回れる方が気分がいい。
というわけでうさみは今までの調子で崖を進むことにしたのである。
なお、ここまでのうさみの考察には事実と異なる部分が多数ある。あるのだが、大枠では正しい。
正しいのだが、やはり根本的な誤解があるため、この先で大きな苦難にぶち当たることになる。
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うさみのドラゴンに関する知識はそれほど多くない。
通り一遍程度のことしか知らないのだ。
とりあえず、爬虫類系で羽が生えて空を飛ぶイメージがある。
そして存在をアン先生から教えられている。星降山にはドラゴンが棲むと。
なので、今、目にしている生き物が、ドラゴンだと。そう判断することは当然のことであった。
一見して翼のの生えたトカゲである。
全長は5メートルを超えるだろう。ただ、三分の一から半分くらいは尻尾。また翼長は全長より大きいように見えた。
前足はなく、一対の翼がそれにあたるのだろうか。翼といっても羽毛が生えているものではなく、またコウモリのような多段折り畳み式のそれのようでもない。恐竜図鑑でみた翼竜のものが近いだろうか。半ばにカギヅメがついている。
後ろ脚はがっしりしていて、鳥の足の構造に似ているようだ。翼についているものよりも立派なカギヅメが恐ろしい。
頭部から後方へ向かって大きな角が2本生えており、顔は爬虫類顔(悪)とでもいおうか、いかにもなトカゲを狂悪にしたような顔だ。小さな角あるいはトゲがたくさん生えており、悪人顔に仕立てているのだ。そしてあの縦に割れたような目がぎょろりとこちらをにらむ。爬虫類苦手な人はたまらないだろう。悪い意味で。
そして尻尾の先には鋭そうなトゲが生えている。縮尺からして30センチ?いや50センチくらいあるだろうか。あんなものが刺されば人間は生きていられまい。
全身は灰色のウロコに覆われて、これは岩肌の色によく似ていた。保護色だろうかとうさみは思う。
でかくて強そうで怖そう。三拍子そろった凶悪な敵。
今まで立ちはだかってきた敵はどこかファンシーだったり、カッコ良かったり(個人的理由で狼は怖いがデフォルメの仕方としてはカッコいい系だとうさみも思っていた)、どちらかといえばプラス方向に補正がかけられているのに対して、このドラゴンはマイナス方向に補正をかけたデザインに思える。
もしかしたら男の子はこういうのカッコいいように見えるのかもしれないが、うさみとしてはいかにも悪役風、嫌悪感をかきたててくるこういったデザインはあまり好ましいと思えなかった。
とはいえ、ここまで露骨なのはきっとそれを狙ったデザインであろうから成功しているといえるかもしれない。
「これがドラゴン……!」
崖を駆けるのを再開したうさみの前に、まさに強敵の風格をもって現れた新たな敵。
うさみは驚きをもってこれを迎えた。
なぜならば。
「いっぱいいるんだけど!?」
その数が、見える範囲で10を超える数存在していたからであった。
まさかドラゴンがいっぱいいるとは思っていなかったのである。




