stage.6 星降山中腹 その4
空のグラデーションの中に光がぽつぽつと現れ、いつしか漆黒を背景に散らばる無数の光という光景へと移り変わる。
月のない夜だった。初日は満月だったことを覚えているので、現実の地球と同じ周期であればすでに下弦の月を過ぎているはずである。
ということは月の出は深夜を過ぎてからということになるだろう。今見えないのはきっとそういうことだ。
うさみは星空を見上げていた。
思えばもう10日ほど経過するわけだが、夜空をじっくり眺めたのはまだ二回目だ。
初回はその後、犬……ではなく狼に追いたてられてそれどころではなくなったので、気分的には初めてということにしたい。
じっくり眺めてみるが、地球の星の並びと同じかどうかわからなかった。うさみはごく一部星座しか見分けがつかないからだ。
北斗七星とオリオン座くらいしか覚えていない。
そして北方は崖があって見えないし、オリオン座は季節と時間帯で見えなくなるのでとりあえず今は見えないとしか言えない。
というか、そもそもここが北半球か南半球かも不明で、それどころか惑星であるかどうかもわからない。このゲームの中の世界でそこまで細かいことを設定しているかといわれれば、この星空を作りだしたくらいであるからきっとそれくらい考えているだろうと思えた。覚えていたらあとで調べてみようかと思える程度にうさみの心に残ったのだ。
まさに、星が落ちてきそうなほどの満天の……いや、半天の星空だ。南半分しか見えないのがいかにも惜しい。
ほらあそこの星も瞬いて、まるで落ちてきそ……
「ってあれ、本当に落ちてきてない?」
うさみがつぶやくと、子ウサギるな子が足元で頷いた。
遠目であるのでじっと見ていないとわかりにくいが、星空から星が一つ、ゆっくりと落ちてきている。
「え、なにあれ流れ星みたいに早くないし、どういうことなの?」
その速度はゆっくりに見える。一瞬夜空を切り裂く流れ星ではなく、フラフラといった様子で徐々にこちらに。
「え、え!?」
その星はゆったりとした速度で落ちて、いや、降りてきながら明滅を始める。
その様子は、何かを伝えよう、というものではなく、今にも切れそうな電灯の明滅を想起させた。
そして、うさみの目の前を通過してさらに下へと、
「あ、ととと」
落ちて行く前に我に返ったうさみが差し出した手の上にふわりと降り立った。
それは淡い光だった。うさみの【閃光】のような、あたりを強烈に塗りつぶそうとする強烈な光とは違い、柔らかな、そしてか弱いと表現すべき光。
そんな光が今まさに、うさみの手の中で明滅し、消滅しようとしているように見えた。
「え、あ、どうしよう!?」
慌てるうさみ。何が何だかわからないが手の中に今にも消え去りそうな命(?)がある。
何かしなくてはいけないような尚早に駆られるが、混乱してどうすればいいのかわからない。
そんなとき、
たしっ!
と、るな子が地面を叩き、うさみの足にコツンと頭突きをしてくる。
それはまるで、落ち着けと言っているようで、うさみはひとまず深呼吸をする。焦った時はとりあえずこれだ。空気を入れ替えて頭も切り替える。
「ん、これは……」
改めてみると、その光は魔力の塊であることが感じ取れた。魔力知覚は現実ではない感覚なので不意を突かれるとうっかり忘れてしまう。
塊といっても極か弱いもので今にも消えそうであるということは間違いない。
であれば。
「これでどうかな?」
うさみは魔力の扱いの基本を思い出し、手の中にに魔力をゆっくりと集め、極弱めに循環させてみた。
すると掌の中をゆっくりと廻る魔力が光に吸い込まれていく。
それを確認して、徐々に費やす魔力を増やしていくうさみ。
光は、うさみの魔力を喰らい、徐々に力を取り戻していくように見えた。
そうして、うさみの魔力が心もとなくなってきたころに、光は力強さを取り戻し、岩棚全体を照らしだすほどになったのだった。
「まぶしい」
うさみが言うと慌てたように放つ光を弱め、淡い光に戻ってくれたのだが。
それでうさみは光と意思疎通できそうだと判断し、話しかけてみることにした。
「えっと、お星さま?」
空の星は極めて遠い場所にある恒星の何年も前に放たれたものが地球に届いたものであり、間違っても目の前にあるような光る何か……謎の光……未確認発光体のようなものではないという知識はうさみにも当然ある。
しかし、ここはゲームの世界であり、また、星空から星の光に紛れて落ちてきたは光というシチュエーションがうさみのメルヘンな部分を突っついた、という面もあるにはある。だが、うさみには目の前にあるものがどういったものか直観的に識別する能力が身につきはじめていた。
これはおそらくスキルというやつのしわざだろうなとうさみは思っているが、それはこの際関係がない。
ともかくその直観に従えば、目の前に居るのは星なのだ。
はたして、それは正しかったらしい。
光が頷くかように縦に揺れたのだ。
「わたしの言うことがわかるんだね」
縦に揺れる光。
「わたしはかみさまだよ」
横に揺れる光。
「はいが縦でいいえが横だね」
縦に揺れる光。
「お星さま、どうして落ちてきたの?」
はいといいえでは答えられない質問に、お星さまは戸惑ったように不規則に動き、歪な円を描いたのだった。




