stage.6 星降山中腹 その3
「あ、巣があるんだ」
うさみが崖を登ったり下りたり落ちたり駆けたりしていると、鳥の巣らしきものを発見した。
茶ツバメさんの巣であろうことは想像に難くない。
ツバメの巣といえば高級食材だったはずだが、材料は土とか枝のようなので、食材にするのも無理だろう。軒下とかにあるやつだ。
うさみが巣に接近したせいか、茶ツバメさんの攻撃が激しくなり、仲間呼びも激しくなり、なんだもうかひどいことになってきたので、一旦撤退してほとぼりをさますことにする。
「日も暮れるし、そろそろ突破したいところだけど」
崖のふもとまで降りて腰を下ろし、るな子を呼び出してナイフで割った果物を分け合って食べながらそんなことをつぶやくうさみ。
太陽の傾きからして間もなく夕暮れ、そして夜になることだろう。
うさみとしては、暗くなるのは別に構わない。夜でも見える目があるからだ。非常に便利でありがたい。
しかし、夜になると敵の傾向が変わるのではないかということを危惧していた。
最初の平原も、迷いの森もそうだった。
どちらも厄介さが大きく上がる。どちらも群れになるのだ。
茶ツバメさんが夜群れて襲ってくるかどうかはわからない。ツバメであれば多分夜飛ぶような鳥ではないと思うが、ここはゲームの中でもあるし、絶対はない。
しかし、厄介な方へ性質が変化する可能性は濃厚だ、と考えていた。
明るいうちに崖を突破してしまおう。その先で夕方、夜になるだろうが、それまでに休めそうな場所があればそれでよし、なければないで夜のツバメさん(仮)の相手をした後でもそれは変わらない。
厄介ごとの数は少ない方がいいのだ。
朝まで時間を置くという選択肢がないあたり、うさみの猪突猛進さがよくわかる。
ともあれ、魔力の回復を確認し、黒眼鏡と花香水をかけ直し。るな子も腕輪に還す。この子食べてばかりな気がする。大丈夫かしらん。
そしてうさみは上を眺めて一呼吸。
「さて、それじゃいくよ!」
駆けだした。
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結論から言えば、目的は達成された。
一気に駆け抜けるつもりで保険を考えず、魔法も前進のために使用して、スタミナと魔力の配分を計算しつつ進める限界まで進もうとしたところ。
岩棚を発見したのである。
ただし、岩棚は崖から2メートルほども張り出しており、駆けあがっていくと上下がさかさまになってしまう。
歴史の授業で教わった高床式倉庫のネズミ返しのように出っ張っているこの地形をなんというのだったか、うさみは登山用語に詳しくないので知らなかったが、このオーバーハングも二段ジャンプを利用してうまく乗り越えることに成功し、岩棚の上にたどり着いたのだった。
「あれ、ついてこない?」
たどり着いたのはいいが、追撃があるものと思い次の動きへと移ろうとしたところで、茶ツバメさんがついてこないことに気がついた。
何か理由があるものと考え、その何かを探してあたりを確認する。
すると見覚えがあるものが見つかった。
「あ、お地蔵さま」
「うさみ、お疲れさま。因果の始点を移すかい?」
お地蔵様がねぎらってくれる。迷いの森のことを思い出し、ここは安全地帯なのかなと、うさみは考えた。どちらにしても落ちれば脱出できるのでとりあえず一休みはできるだろう。
そして復活地点変更の打診であるが。
「お願いします」
「こころえた。それ!」
即答ではい。
迷いの森から再スタートはもはやそれほど難しくないが、それなりの距離はあるので面倒だ。
目的地に近いここに変更するのをためらう理由はなかった。
「カカカ。ではね」
「はーい!」
お別れを告げて静かになるお地蔵様に、うさみはなむなむ、と手を合わせた。
そして改めて岩棚を観察する。
岩壁から2メートルほどの幅の岩棚で、5メートルくらいの広さがあった。つまり5、6人が寝転がれる程度はある。
よく見ると、この岩棚の上下で岩の色が変わっているのがわかる。上は灰色が強く、下は茶色っぽい。地層の変化というやつだろうか。地学は詳しくないのでうさみにはなにかそんな感じ、としかわからない。
そして崖の左右に30センチほどの奥行きの岩棚が続いていた。どうも向かって右側は登り、左側は下っているようで、
「もしかして、この岩棚どこか下から続いてて、ここまで辿ってこれたんじゃ?」
うさみは真実にたどり着いてしまった。
苦労して駆けあがってきたのは何だったのか。
きっと岩棚の切れ目があってそこを跳んだり一人が落ちかけてもう一人がどうにかその手を掴みふぁいとー!と叫びながら引きあげたり、そんな想定のステージだったのだ。
うさみはなんだか損した気分になった。
しかし、実際にそれをするとなると、足場の悪い細い道を登りながら、風を纏うツバメの襲撃に対応しなければならないので、難易度は十分以上に高い。
落ちればもちろん命の危険があるので思い切った動きはできないし、武器を振り回すのも難しい。魔法で対応するにしても、魔力は無限ではない。普通のプレイヤーであれば相応以上に苦戦する地形効果である。
一方うさみは崖を駆けるというあまり普通ではない技術を身に着け、自在に走り回ることができ、落下しても対応できる。
もはやうさみに限って言えば細い岩棚の道にとらわれるよりも自由に崖を駆ける方が簡単ですらあるだろう。
それ以上となると、ツバメと同等以上の機動性で空を飛べるとかでないと有利とは言えない。
なのでうさみの直行さは今回いい仕事をしたといえる。
しかし、うさみはそのことに気づかなかった。
そういったことに思い至る前に、それが目に入ったからだ。
「う、わ。絶景……!」
それは沈みゆく夕陽だった。
岩棚は南方に面している。太陽は西側、やや南寄りに沈んでいっていた。地球と同じだとすれば、ここは北半球で今は夏かそれに近い季節なのだろう。
眼下には広大な森が広がり、真っ赤に染まっている。
地の果てからは太陽が大きく赤く。
「るな子」
思わず見入っていたうさみは、思い出したようにるな子を呼び出した。
呼び出されたるな子は夕陽見つめるうさみを見上げ、そして自身もその赤い瞳を同じ方向へ向けた。
そうして太陽が沈むまで、一人と一羽はじっとその景色を堪能したのだった。




