stage.6 星降山中腹 その2
まずうさみは、魔法の有効性の確認から始めることにした。
「【強風】! うーん、これならなんとか使えるかなあ」
強風の魔法で突撃してくる茶ツバメさんに対し、横殴りの風を発生させる。すると、十分な幅、突撃軌道をずらすことができることがわかった。
しかし、早すぎると修正されてしまうので、タイミングは重要だ。また、魔法の直後相手の軌道が変わるので、自身の位置取りもより気にする必要がある。ずらした軌道にうっかり自分からツッコむのは間抜けすぎるからだ。
正面から強風をぶつけた場合は全く無駄に終わった。纏っている風の魔力のせいだろうと思われる。
石板の魔法はあっさり砕かれてしまったのでお話にならない。石板は攻撃には無条件で破壊されると考えていいのかもしれない。うさみとお揃いである。
閃光の魔法はなかなか有望だった。
相手がこちらを向いているため直撃するのである。目が見えなくなった茶ツバメさんは攻撃をあきらめて一時撤退するのだ。
しかしその際、ちゅぴーと鳴いて仲間を呼ぶのである。数が増えるのは加速度的に難易度が上がるのでよろしくない。なんせしばらくしたら復活するわけで。
まあ緊急回避用だろう。
黒眼鏡を茶ツバメさんにかけるのも視界を奪う意味では便利であるし、そこそこの時間もつのでほぼ戦線離脱させられる。何よりグラサンかけたデフォルメツバメはなかなかのゆるキャラ臭がしてほんわかする。
問題は詠唱時間。はじめは約5秒ほどだった詠唱時間は習熟につれて今では約3秒ほどに短くなっているのだが、それでも連発するのは大変だ。なんたって跳んで跳ねての最中なのだ。舌噛みそうになる。何度か噛んで詠唱失敗もした。また、詠唱中はほかの魔法を使えないのも困る。
それに一度に1羽しか無力化できない点もある。もちろん無力化すると仲間を呼ぶので差引ゼロ。詠唱時間をかけて体勢に変化なしというのはどうだろう。
爆音はやばい。とにかくやばい。
寄ってくる茶ツバメさんはみんな墜落するのだ。
ただしすぐに近隣一帯の茶ツバメさんが群れをなして襲い掛かってくる。数羽落とすのに数百羽動きだすのでは話にならない。
連発するにはうさみもつらい。耳が良すぎる弊害だ。
気絶して墜落したらしい個体も落下中に気を取り直して復帰してくるのでもうどうにもならない。
全部おびき出して落としてその隙に一気に駆け上がる……ちょっと間に合いそうにない。
花香水は激しい運動中だと効果が薄れるのだがそれでも魔力回復速度を上げてくれるので便利である。
なお水をかけてみたが風に吹き飛ばされた。
さらに、うさみが使う魔法全体の弱点として、同じ魔法は一定のインターバルを置かなければ再使用できないというものがある。
修得してすぐのころは10秒はあったその時間は習熟に連れて短縮され、今では5秒ほどまで減っている。減ってはいるが十分長い時間だ。強風を打ちまくれるならそれで概ね解決するのだがそれはできない。
同時に魔力もそれほど潤沢ではない。最大まで回復した状態から空にしようと思えば1分かからない。
基本的に魔力は時間経過で回復し、休息中だとその速度が増加するなど様々な条件で変化する。実のところうさみの魔力回復速度は、アン先生に仕込まれたスキルのおかげで早い方だ。
それでも、好き放題連発できるかというと決してそんなことはない。
結局のところ、魔法に頼り切ることはできないのである。
「ぴょん、ぴょん、うさぎがぴょんっと」
そしてうさみは崖を跳ねる。
正直なところ、足場が安定しないのは厄介だ。
しかし、不意打ちを警戒する必要がない点で、森の中と比べるとずいぶん楽なのだ。
敵の攻撃は直線的で、危険なラインはうさみにははっきり把握できていた。
ならばあとは随時ルートを組み立てながら登っていくだけである。
跳躍の回数を増やし、小刻みに移動するのがコツだ。攻撃の隙間に入り込んでいき、また崖により近づくことで茶ツバメさんの攻撃角度を制限していく。
もちろん相応に集中力が必要だ。障害物走のタイムロスを削っていく作業に似ている。無駄を限界まで省き、必要十分なルートを構築していく。
「っと、【強風】!」
ミスをすれば魔法でリカバーできるという安心感がある。
使い勝手のいい強風を多用する形になるが、次点で石板も使う。石板は二段ジャンプにつなげられるので便利なのだが、頼りすぎないよう意識しないと魔力が厳しい。
その次の閃光までいくことはまずない。余裕があれば黒眼鏡を押し付けていきたいが、そこまでの余裕は残念ながら手順的にも魔力的にもあまりない。
最悪の場合は爆音を撃って自由落下で逃げられる。どうも、高度によって縄張りがるのか、一定以下の高度まで追ってこないのだ。おかげで失敗してもゆっくりやり直しができる。
花香水は継続使用して効果を得ている。大変便利だ。中毒にならないか、などとうさみはちょっと不安を覚えている。
そうして挑戦を繰り返すうちにわかったのだが、最大の問題は物凄い疲れるということだった。
集中力が必要であるのとスタミナの消費という両面だ。
それでも落下しては登り、登っては落下を繰り返し、だんだんとより上へ、より上へと記録をのばしていく。
体の動かし方も洗練されていき、省力のために魔法を使ったり、それで魔力を使いすぎてやりなおしたりと試行錯誤をひたすら繰り返した。
その結果、うさみは鼻歌混じりに崖を駆けあがるように登ることができるようになったのである。




