stage.6 星降山中腹 その1
「ぴょん、ぴょん、うさぎがぴょん」
星降山麓を駆け抜け、新たなエリアに入ったうさみは、子ウサギるな子を頭に乗せて、相変わらず跳ねていた。
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――迷いの森から星降山麓へ入ると植性が変わっていき、徐々に木々が少なくなっていった程度で、特筆することもなく駆け抜けられたのだ。
途中、気配も危険も感じられる場所も多数あったのだが、わざわざ近寄る理由もないので気配を消してさっさと駆け抜けたのである。
もちろん、迷いの森のボスを取り巻きこみで無傷であしらいつつ団子を口に突っ込んだのち逃走して生還してのけられるなどという変態的な能力がなければ、あっさり駆け抜けるようなことはできなかっただろう。
そして山麓を抜けたところで崖に突き当たったのだ。
「うわあ、どこまであるんだろ」
九十度ありそうにも見える、実際には七十か八十度くらいの切り立った崖である。断崖絶壁と言ってもいいだろう。上を見ても切れ目は見えず、左右も同様。というか上の方、ネズミ返しのように出っ張ってすら見える。ところどころに木が生えているのも見える。
よもやこの崖をフリークライミングをせよとでもいうのだろうか。
「うーん、この高さの崖を登りきるのは、ちょっと想像できないよね」
とりあえず崖面に寄ってみる。
緩やかだった上り坂が、急に角度を付けて崖となる。
ほぼ岩肌で、手をかけられそうな場所がないわけではない。
うさみはちょっとした木や数メートルほどの小さな崖くらいなら登ったことはある。しかし本格的なロッククライミングは経験がない。というかあったとしても、単独で道具もなしでというのは無茶が過ぎる。そうでなくても、ちっちゃいうさみの短い手足ではフリークライミングの難易度はどうしても上がる。
「じゃあ、跳ぼうか」
なのでうさみは跳ねていくことにしたのだ。
地面をキック、空中へ。空中で二段ジャンプ、崖へ。崖をキック、空中へ。空中で二段ジャンプ、崖へ。崖をキック、空中へ。空中で二段ジャンプ、崖へ。崖をキック、空中へ。空中で二段ジャンプ、崖へ。崖をキック、空中へ。空中で二段ジャンプ、崖へ。崖をキック、空中へ。空中で二段ジャンプ、崖へ。
「お、いいかんじじゃない?」
ぴょんぴょんしながら自賛するうさみ。この勢いで登っていけば上まで登るのに沿う時間はかかるまい。
などと思っていたその時。
危険感知が仕事をした。
「うわっと!?」
高速で飛来してきた何かを避ける。
見えない方向からであろうと、多少の攻撃は回避するのは余裕である。四方八方を囲まれて連携して襲い掛かってくる迷いの森のボス&取り巻き軍団を相手にすることに比べれば何ということもない。
足元が地面であれば。
「あ」
方向転換に二段ジャンプを使用してしまったうさみは中に投げ出されてしまう。大ピンチ。
そして悪いことは重なる。
先ほどの飛来物の再来だ。
「小鳥?」
それは小型の鳥だった。猛禽の類ではない。おそらくツバメか何かだと思われる。曖昧なのはうさみがそこまで野鳥に詳しくないことと、例によってデフォルメされていることだ。飛び方を見ればツバメに見えるのだが、色が茶色系で目が半月状。「へ」の字ではなくその逆の形でついている。これはつまりお怒りだ。
そしてなにより、危険感知が仕事したということはあの小鳥サイズでもうさみを害する危険性があるということ。突撃してきたのもその証拠。
「風の魔力を纏ってるのか」
飛来する茶ツバメさんを視てうさみがつぶやく。
アン先生の授業のおかげで、魔力にもいろいろあることを知り、見分けられるようになっていた。
風の魔力を纏って突っ込んでくる。あたる。うさみは死ぬ。
こういうことだろう。
風の刃を飛ばしてくるよりはなんぼかマシだ。ここが空中でなければ。
「【強風】!」
自身に風をぶち当てて、茶ツバメさんの軌道からはずれる。
茶ツバメさんのほうに風を当てて吹き飛ばすのも考えたのだが、相手が纏う風の魔力がどう作用するかわからないので安全策である。
かわされた茶ツバメさんは弧を描きながらちゅぴー! と鳴く。すると、どこからともなく二羽目が現れた。
「わかったよー。出直してくるよ。ばいばい」
手を振りながらの自由落下。
現在位置からのリカバリーは難しいと判断し、うさみは一時撤退を決意した。回避を優先するあまり、すこしばかり崖から距離を取りすぎたのだ。
次は心構えもできることだし、もう少しうまくやれるだろう。いや、やろう。
そう心に決め地面へと加速していき、
「【強風】!からの【石板】!ついでにぴょん!」
激突の手前で強風による減速、さらに石板を出してそれをキック。からの二段ジャンプの三段減速の後、華麗な(うさみ基準)着地を決めたのだった。
10.0(うさみ基準)。




