stage.4 迷いの家 その11
「さて。この迷いの森は23の封印で閉ざされた結界なの。23の巨大モンスターと広場の中央の樹木が楔の役割を果たしているのよ」
「ほうほう。アン先生がやったの?」
「まさか。わたしが生まれる前からあったのよ。で、楔をすべて破壊することでこの結界は解除できるのだけれど、それはすべての巨大モンスターと、樹木を同時に排除しなくちゃいけないわ。さもないと、楔は相互に補完し合って復活する。許されるタイムラグは不明。試したことがないからね」
アン先生の講義が始まった。今度はうさみが不安を覚える。アン先生がしゃべりだすと長いのだ。うまいこと口をはさんで話を進める必要がある。
「それじゃあ、どうやって出るの?」
「いい質問ね。その答えはさっきまでやってもらっていた、巨大モンスターに団子を与える作業にあるわ」
「森で集めた植物にわたしの魔力を混ぜて作ったんだよね」
「そう、よく覚えていたわね生徒うさみ」
実際に体を動かしてやったことはそうそう忘れない。
うさみは燃えるクマさんをはじめとする巨大モンスターを巡り、団子を口に突っ込んで回っていたのだ。22か所を二晩かけて。
その団子というのが、アン先生の家の部屋のひとつに設置してある大釜で作ったものなのだ。アン先生は錬金術と言っていたが、あいにくうさみは錬金術などニュートンくらいしか知らなかった。
ざっくりいえば、魔力と材料を混合して等価交換を行う技術らしい。
その錬金術で果物や草をすりつぶして魔力を加えて大釜で煮込むと団子ができたのである。料理か。
うさみの魔力量が少なかったので時間はかかったが、過程そのものは難しいものではなかった。アン先生の側で難しいことをやっていた可能性はあるが。
「そう。森の楔となる植物に生徒うさみの魔力を混入。その上で巨大モンスターに投入することで生徒うさみの魔力を森のものと誤認させるのね。これによりこの森は君になったというわけよ」
「わたしが森になる?」
うさみは気がいっぱいある上に金色の髪をかぶせて赤いリボンを付けた何かを想像した。なんだこのクリーチャー。
「あの団子は森であると同時に生徒うさみだったわけよ。それを森として取りこむことで生徒うさみは森として受け入れられた。これにより、転移を任意で発動させずに移動できるようになったということね」
「よくわからないけどワープしないで進めるってことでいいの?」
「よくわからない……まあ、その理解で利用する分には問題ないかな。ただし、森の南側の出口につながるエリアの楔である狼に与えてられていないから」
「森の南に出られないっていうことだね」
結論にたどり着くまでが長かったが、必要なことはわかった。
つまり、北へ向かえば森を抜けられるということだ。
「最後に森の中心に魔力を打ち込む必要があるわ。それで結界をごまかすための儀式は完成するわ」
「森の中心っていうと」
「地蔵の広場の泉ね。……早く出発したいのはわかるけど、もうちょっと落ち着きなさい。餞別を用意してるから」
「え?」
さきほどからうさみがチラチラと外を意識しているのを見て、アン先生がたしなめる。
うさみ本人は自覚がなかったが、傍から見ると丸わかりである。迷いの森にはずいぶんと足止めされたのだから、仕方ないかもしれないが。
「まずその鞄に残ってる団子はもうウサギちゃんにあげちちゃって、鞄そのものはそのまま使っていいわ」
うさみのリュックなのだが、団子の材料を集めた際のことを踏まえて、アン先生が手を加えてくれたのだ。
見た目は変わらないが、大体容量りんご5個くらいだったものを、100個くらい入るようになっているとのこと。これも錬金術の仕業らしい。団子の輸送には便利だったのだが、
「あ、そうだ、鞄に入れてた団子、倒れたら減ってるんだけど」
思い出したので聞いてみるうさみ。
死んだら荷物が減るのである。いままで持ち歩かなかったので気づかなかったのだが。死亡によるペナルティなのだが、うさみはそのあたり全然知らない。
「『精霊の取り分』かしら。命を失うところを生きながらえさせる代わりに、対価を持って行くそうよ。持ち物やお金、あと魂の一部とか」
「せいれい」
精霊のおかげで復活するということになっているらしい。しかし魂の一部とは。なんかこわい。
「そうなんだ。……気を付けよう」
「それから、余った果物なんか持って行くといいわ。岩場が増えて食糧減るだろうしね」
「うん! ありがとう!」
「あと、もう一段階スキル合成していく?」
「うん! あれ、そうなるとまた鍛えなお……」
「はい、完了」
ちょっと検討、と思う前に済んでしまっていた。まあいいか、とうさみは切り替える。きっと損はないだろう。
「こんなものかな。行き詰ったり、魔法や錬金術、魔法の品づくりを本格的に修行したくなったらいつでも来なさい」
「はーい!」
「あ、それと、呪いを解くアイテムや情報があったら教えてくれるとありがたいわ」
「あ、ゴリラの?」
「ゴリラの」
うさみはなんだか慣れてしまったが、そういえばこのゴリラは偽の姿だったのだった。
「わかったよ。探してみるね」
「無理はしなくていいからね」
こうして、果物を鞄いっぱいに詰め込み、夢と希望をあふれるほど胸に詰め込んでうさみは長い滞在となった迷いの森をあとにするのであった。
なお、一度泉に寄るのを忘れてそのまま北に向かい、ワープさせられて焦ったのは秘密である。
泉に魔力を流した際には、森一帯が淡い光に包まれてとても幻想的な景色を見ることができたのだが、アン先生にうっかり忘れていたのがばれていそうでなんだか恥ずかしくなったうさみであった。




