stage.4 迷いの家 その8
「魔法!」
魔法。ファンタジーお約束要素である。というより魔法があれば大体ファンタジー。そんなイメージでよいのではないだろうか。
ReFantasic Onlineは、その名の通りファンタジー世界を舞台としたゲームであり、ここまでにもその片鱗を見せてきた。ウサギさんがしゃべったり、ウサギさんが腕輪になったり。夜の迷いの森の動物たちもそうだ。
しかし、うさみ自身は魔法の恩恵を今のところうけていなかった。せいぜい先の動物と話せる指輪くらいだろうか。とりあえず自覚はあまりない。
「魔法っていうと、カボチャを馬車に変身させるとか!? あれって魔法が解ける時に馬車に乗ってたらどうなるんだろう?」
「つぶれるか砕けるか何事もなく別々に現れるかかな? まあ、そういうのもできるけど、今回君には優先度が低いと思うんだ」
できるんだ!
うさみのテンションが急激に上がった。
ゲームに詳しくないうさみにとって、魔法といえばおとぎ話の中のものである。有名な童話に出てくる魔法が最初に出てきたのはそのせいだ。
さてしかし。優先度とは一体?
「生徒うさみ、君が星降山を制覇したいということだから、それを踏まえて魔法を用意しておいた。カボチャを変身させるのは別の機会にするとして、今回はそこからはじめよう」
「アン先生……うん!」
アン先生の提案にうさみは大きく頷いた。
アン先生がうさみのことを考えてくれているのがうれしかったし、プロフェッショナルの意見は基本聞き入れるべきだ。
「それで、どうしたらいいの?」
「そうだね、生徒うさみは魔力の扱い自体は経験があるようだから……まずは目を瞑って」
「はい先生!」
うさみは目を瞑る。当然真っ暗だ。暗視によって夜でも闇に閉ざされない視界にあって、実は珍しい光景である。
「魔力を消費した経験はあるだろう? 時間が経過して魔力が満たされたのがわかると思う」
「なんとなく」
「その時の感覚を思い出して。魔力を感じ取るように。手を前に出して」
いわれるままにうさみが両手を前に出すと、大きな何かがそれぞれの手を包む。アン先生の大きな手である。
「いまから両手を介して魔力を流すから感じ取れたら言いなさい」
アン先生がそういうのでうさみは感覚を研ぎ澄ませ、変化を読み取れるように集中する。
すぐに違和感を覚える。両腕と胸をぐるんぐるんとなにかが回っているような。右手から入って左手へ抜けている。
「なにかが右手からきて左手から出てる?」
「そうそれ。それを今度は自分で動かしてみなさい」
「動かす?」
とりあえず念じてみる。動けー動けー。うさみのリボンがぴこぴこ動く。
「具体的にイメージをしなさい。さっき感じた魔力が、どう動くか」
アドバイスをもらったので、とりあえず先ほどと同じようにぐるんぐるん回るように念じてみる。
すると先ほどと同様に右手から左手へ、ゆっくりだが動くものを感じることができた。
「次はわたしの身体を介さないで自分だけで魔力を回してみて」
そう言って、アン先生はうさみの手を一つに合わせてから手を離す。
うさみは、両手を合わせた状態で、魔力を回転させる。ぐ~るぐ~る。
「次は手と手の間を少し離して同じように」
いわれるままに手と手の間に隙間を作る。するとなんということか。だんだん魔力が抜けて行く!
「落ち着いて。イメージして。手がつながってなくてもそこを魔力は通ることができる。通路があると」
うさみはまず教科書で見たアーク放電をイメージした。ばりばりばり。これは効率が悪い気がする。
次に、手の間にパイプがあってそれを魔力が通るようなイメージをしてみる。今度はさっきより安定した。しかしそれでも少しずつ魔力が漏れてしまい、しばらくすると回転させる魔力がなくなってしまった。
「目を開けていいわよ」
「魔力がなくなっちゃった」
目を開けると、目の前にはゴリラがいた。もといアン先生だ。声だけならきれいな女性の声なので物凄い違和感があるが、現実は非常である。ゲームだけど。
「とりあえず感知と操作はできるようになったわね」
「あれでいいの? だんだん減っていってなくなったけれど」
「精度はこれから訓練で高めればいいわ。未熟なうちは余計な魔力を使ってしまうものだし、生徒うさみは魔力の最大量が少ないから。次は魔力の回復を早める技術を教えるからちょうどいい」
「わたし、少ないんだ」
魔力の最大量が少ないといわれて気落ちするうさみ。
それもそのはず、なんといってもレベル1である。さらにMP補正は初期クラスの初心者と同等。要は初期値と変わらない。魔力増加スキルが41あるので底上げされてはいるが、元値が低いので大きく増えていないのであった。
とはいえ、いやだからこそ、回復を早める技術とやらは重要だろう。最大量が少なくても回復が早ければいいのだ、とうさみは思いなおし気合を入れて顔を上げる。
それをみてアン先生は言葉を続けた。
「それじゃ、呼吸法と瞑想法、それから魔力循環法というのを教えるから。しっかり覚えるように」
「はい! アン先生!」
こうしてうさみは地味な訓練に一晩を費やすことになった。
システム的には、魔法を伝授する、ただそれだけならば、実は30分もかからない。それをあえて時間をかけて教えたのはアン先生による肩入れの一環であった。
結果として、うさみは翌朝までの時間と引き換えに、7つの魔法と幾つかのスキルを修得し、仮にこれらのスキルを失っても自力で再取得できるようになったのである。




