stage.4 迷いの家 その6
「ただいま……って、あーっ!?こっちは食べちゃダメっていったのに!」
夜の森にうさみの声が響く。
迷いの森、ウサギさんの広場。
木々の隙間から漏れ落ちる月の光で、銀色の毛皮が煌めく。
ウサギさんの広場には、かのウーサー三世陛下に匹敵するサイズの銀色のウサギさんが鎮座しており、その周りを黒ウサギさんと三本角ウサギさんがわちゃわちゃと取り巻いていた。
「んもー。銀さん、こっちは持って行く分だから食べないでって言ったじゃない」
広場の一角に様々な果実と植物が積み上げられており。
それを銀色のうさぎさんこと銀さんがおいしくいただいていたのである。
周りのちいさなウサギさん(といっても50センチ以上ある)たちはうさみに叱られて焦っているが、銀さんはぷいとそっぽを向いてうさみから離れただけだった。
収穫しなければならない数が多く、うさみには持ち切れなかったため、一時的に置かせてもらっていたのだが。
「お地蔵さまのところよりはマシだと思ったんだけど……んもー。銀さんはもー」
はじめはお地蔵さまの広場に集めていた。
しかし、不特定多数の動物が立ち寄り、食べてしまうのだ。これでは集まるものも集まらない。
そこで閃いたのがウサギさんの広場に保管することである。
ウサギさんであれば多少は言うことを聞いてくれるため、お願いしておけば大丈夫だろうと。
念のためお土産兼お願い料として適当に果物なども別途用意していたのであるが。
しかしそうはいかなかったというわけだ。
「あう。夜に取るようにってあるやつを根こそぎ食べちゃってるよ」
あずかった図鑑には採取の方法が記されており、その中に時間帯を指定してあるものもあった。
夜中になると光る草や、色が変わる果物、朝方にのみ咲く花などわかりやすいものもあれば、見た目で理由がわからないものもあった。先ほど確保した梨もその一つである。
その中でも、夜を指定されているもののみが食べ尽くされてしまっていた。銀さんの好みだろうか。
「とりあえずこの後もう一回取りに行かないと……それはそれとして梨は死守しないと。どうしようかな」
もう一度狼の広場に梨を取りに行くのはご免こうむりたいところだ。
「そもそもアン先生のところに持って行く手段が問題なんだよね。夕方にしか入れないんじゃ1回で持ち込まないといけないだろうし……なにか作ってみる?」
うさみは少し考えた。
樹を削って箱か何か。ナイフ一本で作れというのは心もとないにもほどがある。
蔓の類をうまいこと編んで籠か何か。作れるかもしれない。これだ。
あとは籠を作って改めて必要な植物を回収するまでの間梨をどうするか、だが。
「リュックに入れて木の高いところに引っ掛けておけばいいかな」
銀さんが大きいとはいえ、それでも届かないところにあれば食べられはしないだろう。
そうと決めるとうさみはひょいひょいと跳ねて木を登っていく。
太い枝に足をかけてジャンプ。空中でジャンプ。次の枝へ。
この二段ジャンプというものは非常に便利であった。
自分の意思でジャンプしたときに、そして一度に一回だけしか有効ではないが、空中を蹴って移動できるのだ。
一度のジャンプで届かない場所へも届くようになる。手足の短いうさみにとっては非常に助かる。
さらに、二段目のジャンプで蹴る方向はうさみの意思にで決められる。最初は慣れなかったが、慣れてしまえば前後左右、そして上下。空中で任意のタイミングで方向を変えられるのも大きいし、上方向を蹴って下向きにジャンプすることで着地を早めることができるのも大きい。
一時的に足が遅くなったり、難しい挙動がうまくいきにくくなったが、『鍛えなおせ』とのことでもあり、また、すでに一度身に着けた技術でもあり、体の動かし方そのものは体験している以上、改めて鍛えなおすのは初めて身に着けたときと比べれば容易である。
さらに言うなら、ウサパワーを使わずとも、脱兎スキルが機能しているし、他新しくスキル合成で得たスキルもあるため、もともと機動性はそこまで落ちていないのだ。
一週間過ごした場所であるので、うさみ本人に知識と経験も相応にあるのも併せて、死亡回数もそこまで増やさないうちに鍛えなおしは順調に進んでいたのだった。
「るな子!」
リュックを樹上に隠した後、森の中へ入ったうさみはるな子を呼び出す。
ぷ。
現れたるな子はうさみの意図に答え、ぴょんぴょん跳ねて茂みに首を突っ込む。
うさみはそれを追いかけて、るな子がかき分けた茂みの奥に目的のものを見つけ出す。
「ありがと!またあとでごほうびあげるね!」
るな子を虹の光に戻し、見つけた目的のものを採取する。
それはいわゆる雑草に見える。うさみはようやく見分けられるようになってきたが、図鑑があっても雑多に生える草の中から必要なものを選び出すというのは最初はさっぱりであった。
どれも雑草にしか見えない。光っているとか特徴的なものならともかく、何というか普通の草の識別はなかなか難しい。
夜の森で敵を警戒しながらというシチュエーションもあり、それだけに集中できるわけでもなかった。
そこでるな子の力を借りることを思いついたのは、地下帝国パラウサでウサギになるために必要な技術を教えられたときのことを思い出したからだ。
『食べられる草を見分ける技術と、採って食べる技術』を覚えろということだった。
ウサギにクラスチェンジできたということは、おそらく果物を採って食べていたことで条件を満たしたのではないかと思うけれども、問題はウサギさんなら草を識別できるらしいということ。
ならばるな子なら? と試してみたのが正解だったのだ。
るな子はやはり賢いと思う。図鑑とうさみの説明で、きちんと必要な草を見つけ出せたのだから。
そうやって力を借りて採取しているうちに、うさみもだんだん見分けがつくようになってきたのも収穫である。きっとスキルというのが上がっているのだろう。
ともあれこうして草を採取して回っていたのだ。食べられたのでやり直しだけれども。
「あ、先に籠作らないと運べない!?」
リュックを置いてきたのをうっかり忘れていたうさみであった。
そして、どうにか翌日の夕方には間に合い、お世辞にもうまいとは言えない手製の籠っぽいものを大量に抱えて、アン先生の家に戻ることができたのだった。




