stage.4 迷いの家 その3
「そのへんにかけておくれ。その座布団使っていいから」
戸をくぐると、そこは土間になっていた。左右の壁には棚やフックが設置してあり、におそらく農具や工具と思われる道具が雑然と置いてある。
その先では一段高くなっていて、そこからは板が張られてあった。
「あ、そこで靴脱いでね」
「あ、はい」
土足禁止って靴すら履いていないゴリラ自身はどうなんだろうと思ったが、本人……本ゴリラ? が良いのなら気にすることもないだろうと思いなおし、指示に従って靴を脱ぐ。
その部屋は左右に戸が2つずつ、奥には窓がある板の間で、中央に囲炉裏があった。田舎の古民家といった風情である。
「この格好だと椅子と机っていうのは使いにくくてね」
「はあ、なるほど」
キョロキョロと部屋を見回しているうさみを見て、ゴリラが肩をすくめてそう言った。
そうしてるうちにうさみは座布団が部屋の隅に積まれているのを発見し、持って来てゴリラの正面に正座する。
「さて、まず最初に断っておくけれど、この姿は私の本来の姿じゃないんだ」
「なんと」
衝撃の事実。というほどでもなく、ゲームの設定なら何でもありだよね。とうさみは思った。
とはいえ、手が込んだ設定なのでなにか意味があるのかもしれない。
「すると、わるい魔法使いに呪いをかけられたとかそんな感じ?」
「まあ大体そんな感じ」
そんな感じか。おとぎ話のようだ。とすると、王子様のキスで呪いが解けたりするのだろうか。
「王子様のキスで呪いが解けたりするの?」
「残念だけど解けなかったね」
「そっかぁ」
試したのか。そしてダメだったのか。王子様ご愁傷さま。
うさみは残念そうに肩を落とした。リボンのうさ耳もペちゃんと倒れている。ちょっとワクワクしていたのにはしごを外された気分であった。
「そういうわけで、この変化の魔法を解くためにこの森に引きこもって研究をしているのがこのわたしなんだ。そうだねえ、アンとでも呼んでくれたらいいよ」
「偽名?」
「略称かな」
わりとうさんくさいゴリラ、アン。せっかくなのでうさみも真似をしてみる。
「それじゃあ、星降山に登頂するためにこの森を通りすがったのがこのわたしなんだ。そうだねー。うさみとでも呼んでくれたらいいよ」
「偽名?」
「芸名かな?」
うさみはゲームで使う名前をなんて呼べばいいのかわからなかったので、とりあえず芸名と答えてみた。
そしてアンとうさみはしばし見つめ合い、同時に噴き出した。
「うはははは、君、うさみ、面白いね。というか、どうやってここまで来たの?」
「えっへっへ、走ってきたよ。地下帝国パラウサから」
「ちかていこくぱらうさ?」
「ウサギさんの帝国だよ。あっちの平原の地下にあるみたい」
「マジかー、世の中広いな」
どうやら森の賢者様も地下帝国パラウサのことは知らなかったようだ。
うさみは言ってよかったのかと一瞬考えたが、もう言っちゃったし仕方がないと即座に思いなおし、気にするのをやめた。
「それで、森の中で迷って困っているんだけど、アンは、森を抜ける方法を知らない?」
「ふむ、そうだねえ」
アンはそのごつい手で顎を撫でつつうさみを上から下まで舐めるように観察する。
うさみは頬に指を当て、小首をかしげる。
「どうかした?」
「いや、うさみのような未熟なエルフが、よくもここに無事たどり着けたもんだと思って感心してさ」
何を指して未熟と言ったか、うさみは身長は発育のことだと受け取ったが、実際には種族レベルのことをアンは言っていた。うさみの種族レベルは未だ1である。
さらに、そもそも全然まったくこれっぽっちも無事ではなく何十回も死んでいるのだが、それをここで言っても始まらないと思ったので、うさみは胸を張った。
「ちっちゃくてもがんばったので!」
腰に手を当て、ふんす、と鼻息荒く言い切るうさみを、アンは目を細めて見つめ、
「うん、すごい。森を抜ける方法、教えてあげてもいいわよ。ただし条件がある」
「条件?」
「ここのことを他言しないこと。親しい仲間に言うくらいならいいけれど。大勢来ると面倒が増えるからね」
「そんなことなら」
即決で了承するうさみ。わざわざ隠棲している相手であるし、はじめから言い触らすつもりはなかった。さらにいえば言い触らす相手もいない。いないのである。
「といっても、うさみ、君のチカラじゃ星降山制覇はむずかしいよ。なんたってあそこはドラゴンの領域だからね」
「ドラゴン!?」
ドラゴン。ファンタジーのお約束。最強の生物で、倒されたり願いを叶えてくれたりするやつだ。でっかい爬虫類系で空を飛んだり飛ばなかったりする。
うさみはあまり詳しくないが、難敵であることは予想できる。なんといってもドラゴン。神話や英雄譚の花形の敵役である。
また何十回か死ぬかもしれない、というよりそうなるだろう。
「大変なのはこれまでもそうだったし、これからもそうだろうけど。ドラゴンがいてもいなくても関係ないよ。行くって決めたから行ってみる」
しかし、何度も死んだとしても絶対に行けないということはないだろうとうさみは考えていた。
ゲームだもの。難しくても突破できないことはないはず。
そう思いながらうさみはアンを見つめ返した。行ける行ける。っていうか行く。行くもんね。
「うははは、いい目だ。うさみ、君はとんでもない奴だね。いいよ、いつもはここに迷い込んだ子は口止め料代わりにここの道具をくれてやって追い返すんだが、君には星降やめに抜ける道を教えた上で道具もあげよう。」
「道具?」
「ええ。森の賢者の住まいだからね、ちょっとした便利な道具があったりなかったりするのよ。何でも一つ持って行くといいよ」
言われてうさみは部屋の中を見回した。




