stage.3 迷いの森 その6
赤い光が、森を焼き尽くす。
という錯覚を覚える。
森に差し込む光の色が赤くなるのは夜が近づいてきている証である。
「げげげ、もう夕方かあ」
タヌキさんを追いかけていたうさみは、思わず声を上げた。
迷いの森は時間によってその様相を変える。
昼間でも十分厄介なのだが、夜になるとますます難易度が上がるのだ。
今そこに居るタヌキさんも、それは同様で。
ひらりひらりと舞い落ちてくる一枚の木の葉が、タヌキさんの頭の上でぴたりと止まる。
かと思うと、ぴょいんととんぼ返りするタヌキさん。
着地したときには、陶器の酒瓶を片腕で抱え、二本の足で立っていた。
「ファンタジックっていうか、むかしばなしって感じだよね」
横文字タイトルなのにちょいちょい和風混ぜてくるのはどうなんだろ。
そんなこと思っている間に、フラフラと千鳥足で歩きはじめるタヌキさん。
二本足のタヌキさんというのはどうにもコミカルで、見ていてなごんでしまうのだが、これが見た目にそぐわぬ危険性を持つ。
うっかり近づくと、酒瓶でぶん殴ってくるのだ。
酒瓶で殴られるというのはいろんな意味で衝撃だった。もう一回殴られるのはご免なのであまり近づきたくはない。
うさみはどうしようかと考える。
タヌキさんの移動速度が落ちているので追いかけやすいのは確かだが、夕方という時間帯の間に確認しておきたいこともある。
しかしやっぱり、タヌキさんが変身するシーンを見たのは初めてで、このまま追って行けば何か起きそうな予感もするのだ。
少し迷った末、これも何かの縁とタヌキさんの追跡を選ぶ。
確認は翌日でもできるだろうということで。
「でも大丈夫なのかな? フラフラだけど」
今までのパターンだと、泉から帰る動物は、他の広場を避けていた。積極的に他の広場に顔を出そうとはしないらしい。
それでもわざわざ泉にやってくるのだから、何か意味があるのだと思いたい。
大体、ノーヒントで森に閉じ込められるというのが理不尽なのだ。
出られなくなる以上、そしてゲームの障害として迷いの森があるというなら脱出方法とそのヒントは森の中にあるはず。
それらしい手がかりは、広場ごとに分かれて棲む敵と果樹。
そしてワープ。行先が決まっているもの、条件で変化するもの、条件がわからない、ランダムかもしれないもの。
あとはお地蔵さまと泉だ。
見落としがなければこれだけの手がかりから脱出の方法が導き出せるはずである。
そうでなければゲームとしてフェアではないだろう。
うさみがメタな思考に意識をそらしていると、呑兵衛タヌキさんが姿を消した。ワープしたのだ。
うさみも慌てて後を追う。
とはいえ急ぎすぎると追いついてしまって酒瓶クラッシュをくらうことになってしまう。
ワープの手前で一呼吸。
それから一歩踏み出した。ワープ。
酒瓶タヌキさんはいなかった。
さきほどうさみは、ゲームとしてフェアではないだろうとかなんとか考えていたが、この世界に迷いの森だけしかないのであれば、その考えにも一理ある。
しかし、ReFantasic Online内の世界はもっと広い。最寄りのスターティアという街もあるし、地下帝国パラウサも存在する。
迷いの森と呼ばれ、周囲に危険な場所として知られているのでれば、質・量はともかく森の外にも情報が存在しているということである。
RPGの基本である情報収集をしていれば、迷いの森に関して、いくらか知ることができていただろう。
曰く。
迷いの森には賢者が棲んでいる。
曰く。
黄昏の刻に不思議な場所に誘われることがある。
知っていればもっとはやく、たどり着けていたかもしれない。
知らなかったから、七日間で成長できたのだとも言えるかもしれない。
どちらにしても、うさみにとって重要な出会いが、すぐそこまで迫っていた。




