プロローグ
少女が目を開くと、そこには中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
《ようこそ、【始まりの街スターティア】へ]》
視界に文字列が現れ、消えて行く。
石造りの建物。正面にはメインストリートと思われる石畳の道が伸びている。空は気持ちのよい快晴。遠くに白い雲。
視線を戻して周りを見回す。
「おぉ」
質素で地味な服を着た人たちが次々と現れているが、少女はそれを気にしていない。
「なんだか視界がうるさい?消えないかな。あ、消えた」
何やらつぶやいた後、自身の手を顔の前に持ってきて、にぎにぎと動かしてみる。
次に下を向いて胸を見る。周囲の人々と似たような地味なシャツ。その内側にはささやかながら、ふくらみがあるのが見て取れる。ささやかーに。
さらに視線を下げる。ひざ丈までのズボン。白い素肌。そしてやはり地味な靴を履いた足。
「っ!」
右足を一歩前に出す。次に左足。
「おお……すごい……。すごい!」
突然叫んだ少女へ集まる視線はしかし、まだなかった。周囲はすでに喧騒に包まれていたからだ。
「よっしゃログイン成功!スタダ開始や!」「これが最新のVRか!」「ククク、ここから我が覇道が始まるのだ……!」「お兄ちゃん、どこー?」「あっ名前入力間違えてる!?」「にゃーん」「よーしがんばるぞー!」
などなどの声があふれており、少女の感動の叫びはかき消されてしまっていた。
しかし、それはもちろん少女にとっての感動そのものをかき消したわけでは決してない。
むしろ、少女の方も、周りのことなど目にも耳にも入っていない。
そうして、内から湧き上がる衝動を抑えきれずに、少女は駆けだし――
「「きゃあっ」」
直後に目の前に居た人にぶつかり、もろともに巻き込んで派手にすっ転んだのだった。
少女の名前はうさみ。金色の長髪に森色の瞳。小柄な体躯、ささやかな胸。特徴といえば尖った耳。そう、うさみはエルフなのであった。
初期装備の地味な服と小さな背負い袋、腰のベルトにポーチとナイフというその姿は、周囲に現れた者たちと共通する。
その姿が示すのは、この世界に今日、生まれ出た存在である、ということであり、それはつまり、うさみを含む彼らがプレイヤーであるということだ。
これは、本日サービスが始まったVRMMO、ReFantasic Onlineに挑戦するゲーム初心者、うさみの奮闘を描くお話である。