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堕天のルシフェル  作者: 魔剣ダーインスレイブ
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愛のカタチ

第六章 愛のカタチ


 愛には色んな形がある。

それは人によって様々…

100人いれば100通りの愛がある。

今日はそんな愛の話。


【レスボス島】


 本土から200kmほど離れたところに位置する島、通称レスボス島、人口100人しかいないこの小さな島に私は生を受けました。

 私の名前はレイズ=サッポー。この島の学校で子供達に勉強を教えています。私にとってここでの生活は日々充実したものでした。

「先生さようならー!」

「はい、さようなら。気をつけて帰りなさいね。」

 本日の授業を終えて、子供達を見送ると、玄関の前で私を待っている人がいた。

「終わった?」

 玄関の彼女は私に笑顔を向けて言った。

「ごめん、あともうちょっとだけ待って」

「うん、わかったよ。」

 私はさっさと教室の後片付けをして彼女のとこに向かう。

「じゃあ、行こうか」

「うん。」

 彼女はビアン=ヒュパティア。私の恋人で私が世界で一番愛している人。だけど私達には人には言えない秘密があった。そう、私達は同性愛者です。

 私は今までずっと自分は男の子だと思って過ごしてきました。そして私がその違和感に気づいたのは10歳になってからでした。胸が膨らみ、初潮して自分の身体が女だと気づいた時はかなりのショックでした。だってずっと自分は男だと思っていたんですから。

 最初このことを両親に話したら父親に殴られました。お前は女なんだ。そんな馬鹿なこと他人に話してはいけませんと、それから私は自分の気持ちに嘘をついて生きるようになりました。好きになる人は大抵女性、だけどそれを打ち明けられず恋すらできないでいました。おかしいですよね。好きな人を好きになることさえ許されないなんて、それから21歳になるまで女の振りをして生きてきました。自分の性を偽って…

 そんな人生に疲れ果てた私は島の岬から身投げしようとしました。そこを偶然通りかかった人が必死で止めてくれたのです。その時出会ったのが彼女ビアンでした。彼女の職業は詩人で、この島を仕事の関係でたまたま訪れていました。

 自殺を止められた後も彼女は私のところに頻繁に訪れて話を聞いてくれました。私は次第にビアンに心を開いていき仲良くなりました。そして私自身ビアンに段々と惹かれていたのですが、彼女の迷惑になると思いその気持ちを隠して、よき友人として彼女と接していくつもりでした。

 そんなある日私達が初めて出会ったこの場所で彼女から愛の告白をされました。

その時の私は困惑と同時に凄く嬉しかったのを覚えています。ビアンもまた女性しか愛せず私と同じ苦しみを抱えて生きてきたそうです。私に告白したのもこの苦しみから解き放たれたかったらしく、私に失望される覚悟だったそうです。私はそれが嬉しくて彼女の想いに答えました。こうして私達は結ばれたのです。

 今日は私達が出会って丁度一年になる記念日。

私達は島の岬でデートしていました。私はいつものようにビアンに言います。

「ねぇビアン。」

「ん?」

「私今ね、すっごく幸せ。」

「私もだよ。」

 私達は愛を確かめあう。もう何百回くらい聞いているかもしれませんね。それほど私の心は今満たされていたからです。

 私とビアンは互いに告白をした思い出あるこの岬で幸せを噛み締めていると、ビアンが浜辺のほうを見ながら何かを見つけました。

「ん? あれ何だろう?」

ビアンの見ていた浜辺に私も見ると確かに何かありました。それは人のようなものが打ち上げられていました。

「あれって……大変!? 人よ!」

 私はすぐ気づいて言いました。そう人間だったのです。優しいビアンはすぐに言いました。

「すぐ行こう!」

 私達は人が倒れている浜辺に向かいました。


 浜辺に倒れている人は若い青年だった。黒い髪は海でビショビショになっていて、旅人が着るようなマントを羽織っている。背中には黒い大剣を携えていた。

「漂流者だね。」

「…死んでるの?」

 私は恐る恐る聞いた。ビアンは青年の顔を覗きこむと呼吸を確認した。

「よかった、まだ息がある。死んでないよ。でもすぐに治療しないと…」

 するとその青年は近くにいたビアンの腕をいきなり掴んだ。それに私達はビックリした。青年は呟く。

「め…」

「め?」

「メシ……」

 どうやら命に別状はないようだ。私とビアンは安心しながら、この青年を自分達が住む家に連れてった。


****************


【レイズとビアンの家】


 ガツガツガツガツ!

 凄い勢いでご飯を食べる漂流者の青年。

「しかし、思ったほど元気そうでよかったよ。おかわりはいるかい?」

「頼む」

 空いたお碗を差し出す青年。彼は次々と料理を貪るように平らげていく。私達は彼の食欲を見て呆気に取られながら、青年の凄まじい食べっぷりを見ていた。そして、あっという間にテーブルの上に置いた料理がなくなった。

「ふぅ、生き返った。」

 青年は満足したかのように腹を叩く。

「す、すごい食欲だね」

 私は軽くひいている横でビアンは微笑んでいた。

「うふふ、でも見ていて凄く飽きなかったですよ。」

 テーブルの皿を片付け三人分の食後のコーヒーを用意する。その時青年が私達に名乗った。

「そういえば礼がまだだったな。助かったありがとう。」

「いえ、大事にならなくてほんとよかったです。え~と…」

「自己紹介がまだだったな。俺はルシファー、ルシファー=サタンだ。」

「私はレイズ、そして私の隣にいるのがビアンです。」

 ビアンは笑顔でペコリとお辞儀する。三人はコーヒーを飲みながら談笑する。

「そういえばここはどこなんだ? 本土ではなく島のようだが」

「ここはレスボス島、田舎の島だよ。」

「ほう、レスボス島だったのか、それは運がよかった。丁度この島にくるところだったから。」

 ルシファーの話からするとここに向かっていたそうだった。きっとこの島への定期船がここに来る途中座礁したに違いない。ここら辺の海は岩礁が多く、毎年何隻もの船が座礁しては漂流者が流れ着いてくる。大抵の人は死体になって流れ着くが、

「この島に生きて流れ着くなんてほんと運がよかったね。他の船員はどうなったんだろう?」

「他の船員? なんのことだ?」

「だって船で来たんだろ? 乗っていた船が沈没でもしたんじゃないの?」

「船など乗ってない。泳いできた。」

 その言葉に二人は驚いた。

「お、泳いで!? この島まで本土から泳いできたのかい!? 」

「ああ」

 すました顔をしながら平然というルシファー。

「ここら辺は海流があって危険なのに…」

「あまり手持ちがなかったからな。」

 手持ちがないのは事実である。それで船に乗れなかったのもそうだが、いつもならベルゼブブに乗って行くという手も使えなかった。

 ベルゼブブでは長距離は飛ぶことはできない。今までも必ずどこかでベルゼブブを休ませてから移動していた。今回は海を渡るため、途中で降りて休憩する場所はない。ベルゼブブを無理をさせるわけもいかないので、私はやれます! と強情を張るベルゼブブの制止を押しきって200kmばかし泳いできた。流石にかなり疲れて、その途中渦潮に飲み込まれてこの島に流れ着いていたのだ。

「しかし、ここは二人で住んでいるのか?」

「はい、私とレイズで住んでます。」

 ビアンはそう答えた。

「ということは君らは姉妹なのか」

 その問いに一瞬間があった。二人は目線を合わせ頷くと答えた。

「はい私達は姉妹なんです。」

 何かを隠してるな。

 ルシファーは彼女らの一瞬の間に気づいた。

 言っちゃ悪いが姉妹にしては二人は全然似ていない。それにルシファーには天使が持っている特有の力で相手の血の繋がりがわかるのだ。人間一人一人には目には見えないオーラがあって、オーラには色が存在する。近親であればあるほど色が近いが、他人であると色は全く違う。それは一目でわかるものなのだ。

だから彼女らが姉妹だというのは嘘だろう。なにかわけがありそうだ。しかし、彼女らの目配りも見逃してなかったルシファーは察する。彼女らは他者でありながらも固い絆で結ばれていることに。

「君らは姉妹…ではないな。」

 その言葉に二人はギョッとした。

「し、姉妹ですよ。確かに似てない姉妹とはよく言われますが…」

「ワケありのようだな。」

 ビアンが必死に取り繕うがルシファーには看破されていた。レイズは観念して呟く。

「島の人じゃないルシファーさんになら話しても大丈夫かも…」

「ちょっとレイズ!?」

 レイズは慌てる。自分達のことはこの世界では普通じゃないことだから。

「あまり他人が立ち入るのはよくなかったようだな。すまない、今のは失言だった忘れてく…」

「私達は…恋人同士なんです。」

 レイズはルシファーに真実を告げた。ルシファーは驚きもせず、真剣にそのことを聞いていた。

「そうか、それは躊躇するのはわかる。余り他人には言いたくなかっただろう。言わせてすまなかった。」

「あまり…驚かれないんですね」

「愛の形は人それぞれだろ? 他人が口出すことではない。」

 その言葉にレイズとビアンは安堵した。

「ルシファーさんが理解がある人でよかったです。」

 本来ならこんなことは今日会ったばかりの人には話せない。しかし、この青年の持っている不思議な神々しさと優しい雰囲気で話してしまっても大丈夫なような気がしたのだ。案の定彼は非難や否定をすることなく私達の関係を理解してくれていた。

 ビアンもようやくルシファーを信じてくれたようで心を開いて三人は会話を楽しんだ。それは日が落ちるまで続いた。

「あ、もうこんな時間、レイズそろそろ行かないと」

「ん? これから何かあるのか?」

 ルシファーは尋ねる。それをレイズが答えた。

「今日は私達が初めて出会った記念日なの。だから酒場でこれから友達とお祝いがあるんです。よかったらルシファーさんも行きません?」

「ではお言葉に甘えるとしよう。」

 こうしてルシファーは二人の誘いに乗ることになった。



****************


【レスボス島 町の酒場】


「彼はゲイン」

「よろしくぅ!」

「こっちがバイヤー」

「うっす!」

 肌は色黒く鍛えられた筋肉をしたなんとも逞しい男たちだった。

「で、こちらがルシファーさん。」

「よろしく頼む。」

「おう! よろしくなルシファー!」

 ルシファーはバイヤーとゲインに握手を交わす。

「二人はこの島で漁師をしてるの。」

「この近海の魚は全部俺らが仕入れてるんだぜ!」

 誇らしげに言うバイヤーとゲイン。道理で逞しいわけだ、海の男だったとはな。

「あ、そうそうルシファーさんはこっち側の人だから素で大丈夫よ」

 ん? こっち側? こっち側とはなんだ?

「んもーん! それを早く言ってよ~ん」

「最初知らない人連れてくるから慌てて隠しちゃったわーん」

「なっ…」

 あの逞しい男たちが急にクネクネしはじめて、女口調になった。

「ゲインとバイヤーも私達と同じ同性愛者です。」

 彼らは身体は男性で中身は女性だそうだ。

「こんなかわいい顔して、しかも男前! 最初見たとき興奮しちゃったわーん」

 うっ、今悪寒が走った。

「まぁバイヤー! あたしという恋人がいる前で、それ浮気よ!」

「ああん、ごめんなさい。私にはバイヤーだけだから」

「でも私もいいなーって思っちゃった♡」

「まぁ! ゲインったら! だったらルシファーも交えて今夜三人で一緒にやる?」

 なにやら彼らから誤解をされてしまったようだ。

 目の前でいちゃつくむさい男達…いや、中身は女だったか、ややこしい。

「そうそう、実は私達も今日は連れがいるのよん。あっちで飲んでるから呼ぶわね。オーイ!」

 店の奥に向かってゲインは大声で呼んだ。店の奥では人だかりができていて、若い女と大男が酒を飲んでいた。

 グビッ! グビッ! クビッ!

「ぷはーーー!」

「うっぷ! もう飲めねぇ…」

 どうやら飲みくらべをしていたようで、大男はダウンし、若い女が勝ったようだ。

「すげえぜこの姉ちゃん! これで10人抜きだ!」

 若い女は賭けをしていたらしく、あの場にいた参加者から金を巻き上げると俺らのいる席に歩いてきた。

女は俺を見て不敵な笑いをした。

「フフッ、ようやく追いついた…久しぶりねルシファー」

 女はまじまじとルシファーを見る。

「お前は…」

 とんがり帽子と胸元が強調された大胆な服装、オレンジレ色の髪に深緑の瞳をした美女だった。ルシファーは女を見て言った。

「誰だ?」

「がっ!?」

 女は放心している。

「イシス! ペル・ヘベット村のイシス!」

 イシス……どこかで聞いた気がする……駄目だ全く思い出せん。割りと最近聞いたような気がするのだが。

「まさか…忘れてたわけじゃ…」

 女はワナワナ震えている。どうやら俺と面識があるらしいが、いかんせん思い出せない。


 ルシファー様が鼻の骨と前歯をへし折った混血の女性でございます。


……ああ!? あーあーいたな、いた。確かにいた。

頭の中でベルゼブブに言われて今思い出した。

「思い出した。あの時の足手まといの女か」

「足手まとッー!?」

 ピキッ!

 イシスはコメカミに血管を浮かべる。

「なにお知り合い? ひょっとして恋人かなんか!?」

 興味津々に聞いてくるゲイン達に、イシスは激怒した。

「全然ッ違います! 知りませんよ! こんな冷血男なんか!」

 いきなりぶちギレるイシス。やれやれ相変わらず犬みたいにやかましい女だ。

 気を取り直してゲインはイシスを紹介する。

「紹介するわ。この子はイシスちゃん。今私達のとこで一緒に住んでるの」

「イ・シ・ス・で・す! よろしくね! ルシファーさん!」

 やたらと睨んでくるイシス。敵意剥き出しだな。しかし、一緒に住んでるのか。

「男二人に女一人だと、不安にならないか?」

 素朴な疑問にイシスはキョトンとして答える。

「んー? 全然、だってゲインさんとバイヤーさん凄くいい人だし、私達はルームメイトだもんねー♪」

「ねー♪」

 イシスとゲインとバイヤーは楽しそうだ。まるで女子同士の会話のように和気あいあいとしている。いかん、中身は女だったんだな。紛らわしい。

「先日、海で漁をしてたら地引き網にかかってたイシスちゃんがいたのよ。あの時はチョーびっくりしたんだから」

「なんで地引き網なんかに…」

「聞くとこの島に向かおうとしてたようなのよ。」

 どうやらイシスもこの島に向かっていたそうだ。そこでビアンが口を挟む。

「へぇ、ひょっとして定期船が沈没でもしたの?」

 当然そう聞くな。この島へは船でしか行き来できないのだ。おそらく乗っていた船が座礁して漂流したのだろう。

「ううん、泳いできた。」

 お前もか!

 レイズとビアンは同じことを思った。

「だって船賃なくて、だったら泳いだほうがタダだし、いけるかな~って」

「まさか、ルシファーさんと同じ考えをする人が今日で二人もいるなんて」

「二人はお似合いね。」

「なっ!? ちょっとバカなこと言わないでよなんでこんな奴と一緒に…」

 言葉とは裏腹に満更でもないようにイシスはちょっとニヤけてる。周りはイシスの気持ちに気づいたが、当のルシファーには気づいていなかった。そんな朴念仁のルシファーはイシスに聞いた。

「何故ここにいる?」

「そりゃあ、ルシファーさんを追いかけにきたにきまってるじゃない。」

 レイズが茶化すとイシスは慌て出した。

「か、勘違いしないでよね! べ、別にあんたを追いかけてきたわけじゃないんだから! たまたまだからね!」

「お前さっきようやく追いついたって言ってなかったか?」

「ぐっ…」

歯痒そうにするイシス。やれやれ、めんどくさい人間だ。

 俺らは談笑しながら酒を飲んでいると、バイヤーからこんな話題が出た。

「そういえば帝国軍が最近駐留してるのよ。」

「帝国軍って、神聖ローマ帝国か?」

※神聖ローマ帝国とは、紀元前の昔から長きに渡りヨーロッパ全体を支配している王権君主制の一大軍事国家である。歴代の皇帝が治めている。

「そうなのよ、こんか辺鄙な島にしかも大軍で」

「確か丁度一週間くらい前かしら? なにしに来たんだろう。」

「わかんない、ただ寂れて使われなくなった鉱山に入っていって何かしてるようなの。」

 帝国軍がこの島にね…

「きっと掘りあってるのよ。私達みたいに♡」

 ゲインのジョークに全員が笑い出す。ルシファーだけがこのノリについてこれずにいた。

 そして夜は過ぎていく…


****************


【レスボス島 岬の灯台】


 酒場から解散した後、ルシファーは一人夜の岬に来ていた。今晩の寝床にするには灯台は絶好の場所だった。金がかからずにすむ。ここで一人で考え事したいのもあるが、流石に女性二人の家に男である自分が泊まるわけにもいかない。だからといってゲインやバイヤーのところは、何やら身の危険を感じる。俺の第六感がそう告げている。それにオマケでいるあの女は以前寝てるときにナイフで刺してこようしてきたことがあるしな。一人のほうが俄然落ち着く。

「帝国軍か…」

 ルシファーは先程バイヤー達から聞いた話を思い浮かべていた。

「ドウシタ、ルシファー? 高々人間ゴトキノ軍ガソンナニ気ニナルノカヨ」

 ダーインスレイブが話しかけてきた。ルシファーは頷く。

「今回この島に来たのは負の感情を感じたからだ。しかし、今回は何か異質な物を感じる。天使ではない何かだ」

 このレスボス島に来てからというもの違和感が抜けない。妙に落ち着かない感覚だった。

「妖術士カ魔女カ?」

「わからんが、それとも違う気がする。」

 どうしても気になっていた。一体この予感はなんなのかと…


 ベルフェゴール! いい加減にしないと私も怒りますよ!


そんなにカッカすんなよ。うるせえルームメイトだな。


 やれやれまたか…

 ベルフェゴールが加わってから毎日こんな感じだ。

 几帳面で潔癖な性格のベルゼブブ、かたやガサツで下品な性格のベルフェゴール、相対的な二人の相性は最悪なようだ。


 大体、貴様はルシファー様の身体の中で好き放題、我が物顔で勝手にしすぎている! この前も我が主の心臓の右心室を散らかして! 何故貴様が出したゴミを私が片付けているのだ!


 俺片付けられない男なんだわ。わりいな家政婦さん。


 聞き捨てならない言葉だ。ちょっと待て、お前ら俺の身体の中で何してるの?


 それにこの前なんか! 彷徨っている若い女性の霊魂を勝手に主の身体に連れ込み…そ、その…主の下半身の…あの部分で、み、淫らな行為を…


 言いにくそうにするベルゼブブ。それを悪びれもなく平然とするベルフェゴール。俺の身体はお前らの家か


 いいじゃねえかよ! なぁルシファー、お前からもこの頑固者に言ってくれよ。


 貴様! また我が主を呼び捨てにしたな!


 俺とルシファーは主従関係の契約は結ばないってのが仲間になった条件だったはずだぜ。ダチ公なんだから呼び捨てでいいじゃねぇかよ。


 そもそも貴様は忠義に欠ける。ルシファー様からも少しは言ってください!


「お前等…」


 なんだと貴様!


 やる気かこの便所蝿!


「俺の中で喧嘩するな! やかましい!」

 ルシファーは怒鳴った。

「友達になれとは言わんが、少しは仲良くしてくれると助かるんだがな。」

「ギャハッハ! オ前、大家ミタイニナッテンナ! マジウケルーww」

 ここにも五月蝿い奴がいた。俺の周りはやかましい奴等ばかりだ。

 ルシファーは喧嘩するベルゼブブとベルフェゴールを宥めて溜め息をつく。ほんとに困った奴等だ。

 しかし、やはり怪しいのは帝国軍だな。何故こんな辺境の島に軍がいる。一体何が目的だ。


 ローマ帝国には色々良くない噂があります。聖教会とは別に警戒する必要がありますね。


 ベルゼブブの意見に賛同だった。奴等一体何をしているのだ。


 そんなことよりやっぱレイズちゃんとビアンちゃんとこ行こうぜ~! ぐへっへ美女二人たまんねえな!


 大事な話の腰を折るなベルフェゴール! 大体貴様は…


 またベルゼブブとベルフェゴールの喧嘩が始まった。ルシファーは呆れながらも寝床に入った。妙な胸騒ぎを感じながら夜は過ぎていった。

 そして、その翌日、ルシファーの予感は的中する。


****************


【レスボス島の町のはずれ】


 昼間の町のはずれにゲインとバイヤーがいた。二人の家には飲み過ぎてか、まだイシスが爆睡しているので彼等は夜の営みができなかったので、仕方なく人けのない外で逢瀬を重ねていた。

草むらの木陰でゲインとバイヤーはイチャついている。

「もう、駄目よゲイン」

「んん、もう我慢できないよ」

 興奮する二人の横を複数の大きな足音が聞こえた。

「ゲインちょ、ちょっと待って!」

 ゲインがバイヤーを制止する。

「なによ? どうしたのバイヤー」

「あれあれ!」

 ゲインに促されてバイヤーは横の公道を見ると、そこにはローマ帝国の軍隊が進軍していた。

「げ!? ローマ帝国の軍じゃない。」

 二人はその行軍を眺めていると、軍隊の中央に控えていた豪勢な馬車が二人の横を通りすぎた。

 馬車の中から誰かが手を出すと、外にいて行軍していた従者の一人が馬車まで走っていく。

「おい、止めろ」

従者は馬車の中にいる人物から命令を受けて軍隊は行進をピタッと止まる。そして停止した馬車から白い鎧を着た男が出てきた。

 黒い髪にバイヤー達程ではないが背も高く体格もいい。精錬な顔つきをした美男子だったが、その目付きはギラギラしていて、まるで野獣そのものだった。

 白い鎧の男はバイヤー達のほうに歩きだし、二人に声をかけた。

「おい、貴様ら」

「は、はい! なんでしょうか」

 ゲインとバイヤーは男口調に戻して本性を隠した。これは彼らなりの処世術なのだ。相手はあからさまに軍隊の上の方にいる人物だろう。何者なのかは知らないが礼儀よくする。

「真っ昼間から男同士で何をしていた?」

「ははは、俺達は体術の練習をしてたんですよ」

「ほう、体術とな…俺には男同士で身体をまさぐりあってる風にしか見えなかったぞ?」

 二人はビクッとする。ローマ帝国では同性愛は禁止されている。もしバレればローマの法律で死刑は免れない。二人の顔に緊張が走った。

「よもや、同性愛者…ではあるまいな?」

「な、なな何を冗談を言ってらっしゃる。帝国の方といえどそのような誤解を招く発言は勘弁し…」

 鎧の男は前に踏み出すとゲインの左目に指を突き入れた。

「きゃああああ!!!」

 いきなりのことで咄嗟に反応できず悲鳴をあげるゲイン、それを鎧の男は不敵に笑う。

「なんだ? 女みたいな悲鳴をあげて、まるでそっちが本性だと教えてくれてるようなものだぞ?」

「ゲインに何をするんだ! やめろぉ!」

 バイヤーは怒り狂い鎧の男に殴りかかる。それをまるで飛んでいる虫を払うかのようにバイヤーの拳を軽く捌いて、みぞおちに拳を入れた。

「ぐおっ!?」

 重い…とんでもなく重い拳だ。

バイヤーより小柄なくせに、鎧の男は拳ひとつでバイヤーは地面に膝をついた。

「うっぷっ!」

 内臓まで達した一撃だったようだ。バイヤーは嘔吐物を地面にぶちまける。

「体術の鍛練不足じゃないのかぁ? ただのジャブだぞ」

 この時点で鎧の男は自分達より格上の存在だと気づいた。

 鎧の男はうずくまっているバイヤーに容赦なく足蹴にした。その一発一発には殺意が込められた重いものだった。

「ゲフッ! ゲフッ!」

 血反吐を撒き散らすバイヤー。助骨が折れて骨が肺に刺さったようだった。

「や、やめてッ!? バイヤーが死んじゃう!」

「フッハッハッハッハッ! 泣け! 叫べ! 汚物共が!」

 必死に男を止めようとするゲインに、男はゲインの髪を掴んで膝蹴りを顔面にいれた。

「ぐふっ…」

 ゲインとバイヤーは男の前に為すすべなく倒れた。

鎧の男は満足そうに二人を見下ろして待機している兵士を呼んだ。

「連れていけ」

「ハッ!」

 鎧の男に命令されて兵士はゲインとバイヤーを連れてった。

 そしてその翌日、町の中央広場にてゲインとバイヤーは磔にされ処刑された。


****************

【町の中央広場】


 二人は全裸で逆さに磔にされており、陰茎の部分には無数の釘が刺されていた。そして体中の至るところに拷問されたような傷痕がいくつもあった。なんとも惨い殺され方だった。

「あの人達同性愛者ですって」

「嫌だわこんな片田舎で同性愛者が隠れ住んでいたなんて」

 ローマ帝国では同性愛は禁忌とされ、異端とされ迫害の対象にあった。その禁忌を破った者は粛正される運命にあった。

 帝国軍の兵士が広場に集まっていた住民に告げた。

「我々はローマ帝国軍がこのレスボス島に来たのは諸君らも知っての通りつい先日になる。今回我々軍の任務は異端討伐である。」

 住民達はざわめいた。この平和な島で異端者が出るなんて思わなかったからだ。

「静粛に! 昨日、我々軍は異端者を二名発見しこれを粛正した! この島に隠れている異端者がまだいるはずだというのが帝国の考えだ。よって今より島にいる全員に一人づつ尋問を始めることになった! これより異端討伐をはじめる!」

 ローマ帝国軍が異端討伐を始めようとしていた。不安がる住民の中にルシファーがいた。

「ケッケッケ、ドウヤラコノコトノヨウダッタナ。」

 ルシファーの第六感である人の負の感情を察する予知能力に似た力は、この軍による異端討伐を示していた。

「やることは決まった。」

 ルシファーはダーインスレイブを携えて帝国軍が駐留しているという鉱山に向かった。


****************


【レスボス島 鉱山跡地】


「ここか…」

 ルシファーは鉱山に来ていた。大分使われてなかったのだろう。寂れた鉱山だった。

 しかし妙だな、何故軍はこんなとこを駐留している? 駐留するだけなら、ここ以外に他にも拠点にできる場所なんていくらでもあるはずだ。ここじゃなきゃいけない理由でもあるのか。

 鉱山の入口付近にはローマ帝国軍の野営地が設置されていた。数人の兵士が見張りについている。

「警備は二人か…」

「コロセ! コロセ!」

 ダーインスレイブが血を欲しているようだが、それを無視して一気に二人の見張りに近づく。

「何者だ!? ぐわっ!」

「き、きさ…ぐはぁ!」

 無益な殺生は極力避けるルシファーは、手慣れたように二人の見張りの後ろ首を手刀を当てて一撃で気絶させる、そして他の兵士に気づかれぬよう鉱山の中に入り込んだ。

 鉱山の中はすでに鉱石を取りつくしていたのだろう。発掘の機材は錆び付いていてもう何十年も使われていない様子だった。

「ゲインの奴の言った通りだな。この鉱山は廃棄されているようだ。」

 辺りを調べていくうちに、ルシファーはある形跡を発見する。どうやら線路の跡のようだ。ここだけつい最近できたようで比較的真新しい。トロッコでも使って奥から何かを運び出したようだ。

「何かを運んだ跡だな。」

「そうみたいね。何を運んだのかしらね?」

 いつの間にかルシファー横にイシスがいた。

「お前、ここで何をしている?」

「何って?」

「何故ついてきた?」

「別に、あんたがコソコソして不審だからちょっとついてきただけ。それにあんたのことだからローマ帝国相手に一戦交える気でしょ? 私だってバイヤーさんとゲインさんの仇とりたいもん!」

 イシスの目には怒りが溢れていた。当然である。この島でできた友達があんな無惨な殺され方をしたんだ。気持ちはわかる。

「仕方ない、離れるなよ。それに俺の狙いは軍の司令官だ。頭をとれば他の兵もこの島から引き上げるだろう。」

「わかった。」

 イシスはあまり納得はしてなかたが、島にはレイズやビアンもいる。彼女らが次の異端討伐の対象になるのはわかっている。彼女らの安全のために軍をこのレスボス島から引き上げさせるのがベストな選択であった。

「だけど、妙じゃない?」

 イシスは疑問に感じていた。それはルシファーも同じだった。

「ああ、兵がいなさすぎる。」

 軍の野営地にしては兵士が少なすぎた。先程気絶させた二名以外いないような気がした。

「どうやら本隊のほうは留守のようだな。」

 そう、本隊はもぬけの殻だった。

「どこかに出てるのかしら?」

「さぁな…ぐっ!?」

 突如ルシファーの頭の中にフラッシュバックのような稲妻が走った。それは無惨に殺されていくレイズとビアンが映った。

 この感覚は…

「ど、どうしたのいきなり!?」

 イシスが心配そうに聞いてくる。だがルシファーには聞こえていない。

 ルシファーの第六感が告げていた。これからまた悲劇が起こることを予知した。ルシファーは急いで踵を返して鉱山の入口のほうに走った。

「ちょっ! いきなりなんなの!?」

「急いでレイズ達のとこに戻るぞ!」

 ルシファーとイシスはレイズ達の元に戻る。


****************


【レスボス島 学校】


「な、なんですかあなた方は!?」

「グヘヘヘ、ずいぶん色っぺぇ先生じゃねぇか。こんな田舎に置いておくには勿体無いくらいの上玉だぜ。」

 学校に沢山の帝国軍の兵士が集まっていた。子供達は怯えている。その中心に子供を庇うようにレイズがいた。

「俺らは異端を探している。島の人間全員を調べよとあの御方の命令だ。ガキだろうが老人だろうが全員だ! 見つけ次第首を跳ねるよう言われてる! 拷問してでも口を割らせよともな。」

「そんな、この子達は異端なんかじゃありません! それを拷問して無理矢理言わせようだなんて…」

「それがローマの法だ! お前らは帝国のために命を差し出す義務がある!」

 レイズは迷っていた。多分この人達の狙いは私だ。もしも私が名乗り出ればこの子達は助かる…でも…

「先生…」

 子供達は怯えている。その姿にレイズは躊躇いを棄てた。大事な生徒を守りたいという一心が彼女を突き動かしたのだ。レイズは兵士の前に立ち自らが犠牲になろうと決心した。

 ごめんなさいビアン…私の分まで生きて、でも貴女ならきっとわかってくれるよね。

 レイズは兵士のほうに歩き出す。すると泣いていた子供達が叫んだ。

「先生!」

「行かないで先生!」

 生徒達は必死に呼び止める。レイズは目に涙を浮かべながら子供達を見ていた。

 みんな…強く生きてね。

 それがレイズの別れの言葉だった。

「んぁ? なんだ先生さんよ。」

「私がこの子達の代わりに行きます。それでこの子達には手を出さないでください。」

 兵士はレイズの身体をイヤらしく眺める。

 中々そそられる身体をしていやがる。

 兵士は悪いことを考え下卑た顔をしながら言った。

「いいぜぇ、そん代わりに先生の身体を隅から隅まで調べさせてもらう。俺ら20人で先生をじっくりたっぷり朝まで大人の授業をしてもらうぜグッヘッヘ」

「ぐっ…わかりました。」

 20人いる兵士達が歓喜した。

「ひゃっはっは! 今夜は楽しむぜぇ~連れてけ!」

 レイズは手枷をつけられると兵士の後ろに連れて行かれる。

「さーてーと」

 兵士達が子供のほうに向かっていた。それを見たレイズが慌てる。

「なっ!? 子供達には手を出さなって約束したじゃない!」

「手は出さないさ、その代わり下の手は出すがな。」

「そんな、約束が違う!」

「若い美人の先生に加えて、ガキどもも犯れるなんてさ、今回の任務は役得だぜ。」

 劣情に駈られた男達は幼子まで手を出す気だった。男達の下衆な性欲の捌け口として。レイズは祈った。もはや自分のできる力が及ばない。奇跡を信じて祈るしかなかった。

 神様…天使様…どうかあの子達を助けて…

 兵士の手が怯える子供達に伸びる。するとその手が宙に飛んだ。

「ぎゃあああああ!!!」

 現れたルシファーがダーインスレイブで子供達に手を伸ばす兵士の腕を切断した。

「な、なんだと!?」

 兵士達はいきなり現れた敵に驚いて剣を抜く。

「ル、ルシファーさん!」

「ギリギリ間に合ったようだな。」

 ルシファーは兵士を睨むと、その溢れ出る殺気に圧されて兵士達は怯む。するとイシスも息を切らせて駆けつけた。

「遅かったな。」

「ぜぇ…ぜぇ…ちょ…と、あんた走るの速すぎ…」

 また増援が現れたことにより兵士達はイシスに警戒した。それに呼応してルシファーとイシスは武器を構える。

「足を引っ張るなよ。」

「その口、誰に言ってるのかしら?」

 ルシファーとイシスは兵士達に向かっていった。

「敵はたかだか二人だ! ローマ帝国に刃向かったことを後悔させてやれ!」

 敵の指揮官に促されて兵士達はルシファー達に襲い掛かる。

「うじゃうじゃとウザい!」

 イシスはそう言って鎖つきナイフを投げると、ナイフを風の魔法で操作する。そしてナイフの柄についている鎖は兵士達を囲むように円上になると5人の兵士を縛り上げた。イシスはすかさず詠唱した。

「鎖を伝え熱よ! かの者らを焼き滅ぼ…」

「待て! 殺すな!」

 ルシファーがイシスを制止する。いきなり止められたもんだから舌を噛むイシス。

「ひ、ひきなり、なにひょ!」

「子供達が見ている。子供の衛生上によくない。」

「真面目か!」

 イシスは突っ込むと呆れながら詠唱を代えた。

「だー! もうわかったわよ! 走れ雷鳴、かの敵を撃ち貫け!」

 鎖は兵士達を一気に締めつけ、鎖を伝わった電撃で兵士達を感電させた。

「ぐぎゃあああああああ!!!」

 死なない程度に魔力を抑えて5人の兵士を気絶させる。

「あの女、妖術を使うぞ!?」

「魔女か!?」

 兵士達はイシスに恐れ出す。それを見たイシスは得意気になってルシファーにむけて言った。

「どうよ!」

 速攻で五人も倒したことにドヤ顔をするイシス。しかし、ルシファーの足元にはすでに10人ばかしの兵士達が倒れていた。

「まだ五人か遅いぞ。」

「嘘でしょ!?」

 訓練を受けているとはいえ所詮は人間。天使であるルシファーにとって敵ではない奴等だった。

「ほう、中々やるな。これは手応えがありそうだ!」

 そこへルシファーの目の前に身長が200mある大男が立ちふさがった。先程命令を出していた指揮官だった。ルシファーは大男に問う。

「なんだお前は?」

「ハッハッハ! 俺様は帝国軍第十一席、怪力無双のバニシング様だ!」

 力こぶを見せてアピールするバニシング。しかし、ルシファーは動じない。

「なんだ喋るゴリラか。」

「生意気な小僧め! 俺様の怪力で貴様の頭なぞ握り潰してやる!」

 バニシングはルシファーの頭を掴んだ。そして自慢の怪力で頭を潰そうとする。

「脳みそブチ撒けて死ねぇい! 我が殺人技のエンジェルクラッシャーを!」

 バニシングは指先に力を込めた。

「ルシファーさん!?」

 レイズが叫ぶ。目の前でルシファーが殺されようとしていたからだ。

「ふんぬううううううううう!」

 しかし、ルシファーの頭は潰れない。

 な、なんだこいつの頭は!? まるで岩石を握ってるようだ…

 中々潰れないので、ルシファー平然としていた。

「握り潰すんじゃないのか?」

「くっそ!」

 逆にルシファーが大男の頭を掴んだ。

「なにがエンジェルクラッシャーだ。クラッシュできてないぞ。」

 ルシファーは指先に軽く力を入れる。するとバニシングの頭は締め付けられて悲鳴をあげた。

「ぎゃああああ! いたい! いたい! 放して!」

 ルシファーはバニシングを痛めつけてから指を離すとバニシングは頭を抱えてその場に膝をつく。そこをすかさずルシファーは顔をつかんで引き寄せる。

「ひ、ひぃ!?」

「さて、色々喋ってもらおうか」

 ルシファーはダーインスレイブを大男の横顔に添えると尋問を始めた。

「お前ら本隊にしては数が少なすぎる。本隊はどこだ?」

「だ、誰がてめぇなんぞに!」

「そうか…」

 ルシファーは兵士の耳を切り飛ばした。

「ぎゃああああああ!」

 その光景を見たレイズと子供達は思わず目を伏せた。

「よく聞こえなかったのか? ならもう片方の耳もいらないな。」

 ルシファーは残った耳にダーインスレイブを添える。

「言え!」

「言います言います! 本隊はもう一人の女を捕まえに行きました!」

 あっさりと吐いたバニシング。ルシファーは掴んでいた顔を放してバニシングを突き飛ばす。

「消えろゴミが」

「ひ、ひぃぃぃ!」

 バニシングは恐れをなして逃げていった。残った五人の兵士も指揮官が逃走したので慌てて逃げ出した。イシスはルシファーを見ながら納得いかなそうに聞いた。

「あんた…子供達の衛生上によくないんじゃないの?」

「悪いことしたら耳が飛ぶってことを子供達に教えたまでだ。」

「こいつ…」

 減らず口を並べるルシファーに呆れるイシス。

「そんなことよりビアンが危ない。」

「そ、そうでした。ビアンが、ビアンが!」

「私が子供達を見てるからレイズさんは早くビアンさんの元に!」

 ビアンの恋人であるレイズを気遣ってかイシスはレイズの同行を促した。ルシファーも承諾して、イシスに子供達を任せて、ルシファーはレイズを連れてビアンの元に向かった。


****************


【レイズとビアンの家】


 ビアンは夕飯の準備をしていた。そろそろ授業を終えて恋人のレイズが帰ってくる頃合いだからだ。ビアンは自分が創った詩を鼻歌で奏でながらレイズの帰りを待った。

 今日はレイズの好きなグラタンにしたから、レイズ喜んでくれるかな。

 ビアンは腕によりをかけて料理をしていたのだ。すると、玄関のドアが開いた音がした。

「あ、レイズだ♪」

 レイズが帰ってきたと思い、ビアンは煮込んだスープの火を消してから笑顔で玄関へ出迎えた。

「おかえりなさい!」

 しかし、そこにいたのはレイズではなかった。

「えっ…」

「待ち人じゃなくて残念だったな。」

 そこには白い鎧に身を纏う男が立っていた。男の眼はまるで獣そのもので、ビアンはこの男のただならぬ雰囲気に恐怖を抱いた。

「だ、誰ですか…?」

「別に余が誰であろうが、貴様には関係ない話だ。」

 我が物顔で部屋中の物を漁る鎧の男。

「安っぽい醜悪な食器だ。平民風情には身の丈にあってるとは思うが、しかし醜悪だ。」

「さっきから何なんですか! 出ていってください!」

 ガシャン!

 鎧の男は手にしていた食器を床に落として割った。その音にビクッとするビアン。

「そーいえば」

 男はわざとらしく何かを思い出したかのように話始めた。

「この島の教師はさぞ美しい女だとか、されどそんな美貌を持ちながら男の一人もいないそうだ。それに周りには男の陰が一つもない。」

 この人…レイズのことを知っている。

「この島の男が玉なしなのか、あるいは女は男に興味ないのか、お前はどう思う?」

 ビアンは台所にあった包丁を男に見えないように掴んで背中に隠す。

「男を知らぬおぼこであれば、俺の女にしてやろうか。たまには田舎の女も悪くはない。よき慰みものになるであろう。」

「レイズに手はださせない!」

ビアンは包丁を握りしめ男に斬りかかった。

「ふん!」

 鎧の男は避けるまでもなく軽く女を平手打ちし、ビアンは床に倒れた。

「きゃあ!」

「何故そんなに必死になる? 他人なのだろう? それともその女に何か特別な感情があるのか?」

 ビアンは鎧の男を睨みつける。この男、私達の関係を知っている。それを察して鎧の男は語り始める。

「そう、初めからお前らが異端者であることなどお見通しだ。昨晩お前らのお友達から色々聞かせて貰ったからな。」

「えっ…なんですって…」

 まさかゲインとバイヤーが私達のことを話したの?

 鎧の男は昨晩のことを思い返しながら笑っていた。

「中々滑稽だったぞ。あの汚物共ちょっと痛みを与えてやったら色々話してくれたよ。痛みは人を素直にさせる。痛みこそが人間の真理だよ。だからあの異端者どもはお前らを裏切った。」

 ビアンも広場で晒されていたゲインとバイヤーのことは知っている。酷い拷問の痕があった。ビアンは男に怒りの目で叫んだ。

「なんでこんな酷いことをするの…私達が貴方達に何をしたっていうのよ!」

 ビアンの叫びに男はこう答えた。

「それが帝国の法だ。俺の定めた法だ。それに従わぬ愚民は殺すまで。」

「あなたの定めた…法?」

 ビアンは歯を食いしばる。

「そんなの絶対おかしい! なんで同性同士が結ばれることがいけないの! 女性が女性を好きになることがそんなにおかしいの? ほんとにおかしいのはそんな法だから!」

「女が女を好きだと……実に気持ち悪い。」

 床に唾を吐く鎧の男、そして忌々しそうにビアンを見下ろす。

「俺に問うたな女。俺からもお前ら異端に聞いてみたいことがあった。お前は女の癖に女が好きだという、ならお前は男なのか? お前は一体どちらなのだ?」

「私は…一人の人間よ…」

 思わぬ答えが返ってきたので鎧の男は笑いだした。

「なんだそれは? 質問の答えになってないぞ。俺はお前は男か女かと聞いておるのだ。」

「その二つしか考えられない貴方にはわからないでしょうね。人を愛することに男も女も関係ない。愛は肉体ではなく性別でも推し量れないものなんです。大事なのは人の、人間の心なんです!」

「ほ~う、心ねぇ」

 鎧の男はビアンの髪を鷲掴みにして顔を近づける。

「ぐっ!?」

「つまりあれだな。心の前には性をも超越したモノだと…そう言いたいわけだな? フフフ、実にくだらぬ。」

 笑いがこみ上げてくる。しかしそんな男をビアンは憐れに思った。

「可哀想な人…」

「なんだと?」

「愛のほんとの意味を知らない貴方は今まで愛されなく育ってきたのかと思うと、可哀想に見える…」

「ほほーう…」

 ビアンの憐れみを向けた眼に鎧の男はピキッと頭にきた。男は懐から貝殻を取り出す。

「これを見ろ。」

 鎧の男はビアンの目の前に貝殻を見せつけた。しかしそれはただの貝殻ではない。貝の口に鋭利なカミソリがついていた。それを見て震え出すビアン。

「これはな。異国の地に赴いたときに先住民が使っている皮剥ぎのための道具だ。先住民はこれでアザラシなる動物の皮を剥いで肉を食すらしい。」

 ビアンはこの男がこれから自分に何をしようとしているのかを察して震える。

「なら余が見極めてやろう。貴様の中身は男なのか女なのかこの目で見させてもらうぞ」

 拷問器具の貝殻でビアンの肉を削ぎ落とす。

阿鼻叫喚の悲鳴をあげるビアンに容赦なく肉を削いでいく鎧の男。血が辺りを染め、男の白い鎧はビアンの返り血で赤く染まる。それはビアンが死ぬまで行われた。

 しばらくし、ビアンが動かなくなると男は手を止めて確認する。

「ふん、もう死んだのか。壊れるのが早い玩具だったな。」

 鎧の男は絶命した女の股を開き中身を見る。

「なんだ……やはり女ではないか。」

 鎧の男は満足して家から去っていった。

 そして、その数分後ルシファーとレイズが遅れて到着する。

 ルシファー達が家の前までくると、そこは異様な空気が漂っていた。

「オイ、ルシファー」

「ああ、血の匂いだ…」

 ルシファーは嫌な予感がして、そして急いで中に入ろうとするレイズを止めた。

「待てレイズ! 中に入るな!」

「でもビアンが!」

「俺が先に入る。敵が潜んでるかもしれないからな。」

 ルシファーはレイズを家の外に待機させて先に中に入った。そこはむせかえるような匂いが立ちこめていた。

 中はもっと血の匂いが酷いな。

 家の中は荒らされていた。食器が床に粉々にされ割られていた。そして、奥のほうにそれはあった。

「まさか…」

 全身の皮を剥がされた死体が部屋の中に転がっていた。死体の背丈や状況から考えてもこの死体が誰であるかルシファーは一目でわかってしまった。

 これが…あのビアンなのか、なんて惨いことを…

 ルシファーは怒りに震えた。あまりにも残忍な殺され方をしたビアン、それをやった相手に心底怒りを感じていた。

「ビ…アン?」

 ルシファーは背後に気づいて後ろを振り向く。そこには放心して立ち尽くしているレイズがいた。レイズは心配になりルシファーの言うことを聞かず部屋の中に入ってしまったのだ。

「見るな!」

「きゃあああああああ! ビアン!? ビアン!!」

 レイズは取り乱した。ビアンの身体はズタズタに抉られていて見るも惨い殺され方だった。

「きゃああああ! ビアン! どうして!? なんでビアンが!? あっあああああああ!!!」

 ルシファーは暴れるレイズを無理矢理抑え込んで家から出る。そして、レイズはルシファーに担ぎ上げられたまま泣き叫ぶ。ビアンが置いてある自分達の家を見ながら絶叫をあげ続けていた。


****************


【レイボス島 岬の灯台】


「どうだ?」

「うん、ようやく落ち着いたみたい。今はゆっくり寝てる。」

 ルシファーとイシスとレイズは岬にある灯台の中にいた。ビアンの死に発狂していたレイズを止めてなんとかこの灯台の場所まで来ていた。

「取り敢えず、ここで隠れていればしばらくは見つからないだろう。」

 話はルシファーから聞いていた。イシスは俯きながら泣いていた。

「バイヤーとゲインに続けてビアンさんも…こんなの酷すぎる…」

 会ったのは最近だが、彼らはとてもいい人達だった。それを立て続けに失うなんてイシスにも相当堪えていたようだった。

 ルシファーはダーインスレイブを携えて灯台から出ていこうとする。そして、泣いているイシスに告げた。

「お前は彼女から目を離さないようにしろ。彼女を一人にしておくのは危ない。お前がそばに居てやれ。」

 ルシファーは黒い片翼を出すと、そこから一枚の羽を千切る。それはみるみるうちに姿を変えて一羽のカラスになった。

「なにかあればこのカラスに言伝を言って飛ばせ。俺のところまで飛んで行って知らせてくれる。」

 ルシファーは塞いでいるイシスにカラスを置いておくとドアを開いた。すると背後からイシスが弱々しく聞いてきた。

「あんたはどこに行くのよ?」

「俺は行くところがある。」

 そう言ってルシファーは出ていった。イシスは止めなかった。ルシファーがどこに行って、何をするのかを知っていたから、それに今のルシファーは凄く怖い顔をしていたから。


****************


【レスボス島 鉱山跡地】


「グフフ! ようやく来たな待ちわびたぜ!」

 そこには片耳に包帯を巻いたゴリラのようなデカイ図体をした兵士がいた。

「やれやれ…」

「昨日は不覚をとったが、この怪力無双のバニシング様が今度こそ貴様を捻り潰してやる!」

 ルシファーの身の丈程ある斧を振り回してバニシングは叫んだ。

「懲りない奴だ。」

 ルシファーは剣を抜いた。

「昨日てめぇに千切られた耳の怨み! 100倍にして返してやる!」

 バニシングは自慢の斧を近くにあった岩にぶつけ粉々にする。

「どうだ! この破壊力! 俺様の怪力に自慢の斧を合わせたら敵なぞおら…」

「雑魚に構ってる時間はない。」

 ルシファーは一瞬でバニシングの懐まで飛んで斧を真っ二つに切り裂いた。

「ぬあ!?」

 あまりにも一瞬すぎて腰を抜かすバニシング。そこでようやく格の違いに気づいた。ルシファーは腰を抜かしているバニシングの横顔に剣を添える。

「さて、昨日と同じ光景になったな。」

「がっ、あががががが…」

 ルシファーが鉱山に来たのは敵の司令官を仕留めるためだった。しかし、ここにいるのは雑魚一匹だけ。

昨日来たときにあった帝国軍の野営地は跡形もなくなくなっていた。

「お前一人か? 他の奴等はどうした?」

「お、おおお俺一人です!」

 すでに何かを運び出した形跡もあり、すでにここでの用件を済ましたのだろう。ならばこの鉱山はそれほど重要な拠点でもない。軍にとってここはもう用済みらしい。

「一足違いで本隊は引き上げたようだな。」

 なら仕方がない。さっさと本隊を追うとしよう。

 ルシファーはバニシングの顔を掴んで尋問を始める。

「一度しか言わないからその片っぽしかない耳をかっぽじってよく聞け。本隊はどこに行った?」

「知らねえ!  知らねえんだ!」

 ルシファーは大男の残った片耳を容赦なく削ぎ落とした。

「ぎゃあああああ!」

「顔のパーツ全て削ぎ落としてやろうか?」

「嘘じゃねえんだ! 昨日女を拉致るのをしくじったから、俺はあの方から信頼を失った! だから何も聞かされていねえ! 拉致を邪魔したお前の首をあの方に差し出すまで俺は軍に戻れねえんだ!」

 必死に弁明するゴリラ野郎。

 どうやら嘘はついてないようだな。

「だから命だけは…」

「駄目だ」

「ひ、ひぇぇぇ!」

 ルシファーは大男の首を跳ね飛ばした。

無駄な殺生を嫌うルシファーであったが、今のルシファーは冷酷な殺人鬼に代わっていた。

「仕方ない、ベルゼブブに乗って上空から本隊を探すか。」

 ルシファーは鉱山から出ると、一羽のカラスがルシファーの元に飛んできた。それは先程イシスに託したカラスだった。ルシファーはカラスを腕に乗せた。

「イシスからか…何事だ?」

 カラスの口からイシスの言伝が話された。


 ごめんルシファー! レイズさんがいなくなっちゃったの! 少し目を離した隙に、どうしよう…


「チッ、あれほど目を離すなと言っておいたのに!」

 ルシファーはベルゼブブを呼び出すとすぐに跨がった。

「ベルゼブブ急いでくれ!」

「わかりました我が主よ。少し飛ばします。しっかり掴まっていてください!」

 ベルゼブブは急上昇し空を飛んだ。ルシファーは深刻な表情を浮かべていた。

 レイズの精神は不安定だ。何をするかわからない。

もしもビアンの仇討ちをしに行ったとしたら相手が悪すぎる。戦闘経験のない彼女には無謀だ。

 ルシファーは急いで町に戻った。



****************


【酒場】


「こりゃあまたべっぴんさんだね! あんたなら結構稼げるよ!」

 売春宿の店長はそういうと女を酒場まで連れていく。女の格好はセクシーできらびやかな衣装に身を包んでいた。化粧をしているが、それはレイズだった。

 今回、帝国軍が駐留するというので軍から慰安の募集がかけられていた。それを知っていたレイズは、寝たふりをしてイシスを欺き、帝国軍の集う酒場に来ていたのだった。

 レイズは女の武器を最大限に利用し、帝国軍の司令官に近づいて殺そうと慰安婦に成り済ましていたのだった。全てはビアンの仇討ちのためである。

自慢ではないがレイズは容姿には自信があった。大抵の慰安婦はランク分けされて、上玉ほど上の地位の人間のところに回される。案の定、レイズはその容姿から上玉にランク分けされローマ帝国の司令官の元に送られた。

 売春宿の店長から司令官の従者に引き渡されて、司令官の部屋まで向かう。レイズは胸元に隠したナイフを持ちながら緊張していた。これから人を殺そうとしている。レイズは今まで人を殺したことはない。だから正直かなり怖かった。だけど無惨に殺されたビアンのことを思いだし、憎しみでなんとか我を保てていた。そんな内に司令官のいる部屋の前までくる。

「陛下、夜伽の女を連れてきました!」

「入れ」

 レイズは部屋に入ると、そこにはワイングラスを片手にした白い鎧を着た男がいた。

「ほう、辺境の女にしては中々の上玉だな。」

 この男がビアンを…

 レイズは怒りに我を忘れそうになったが、無理矢理その感情を抑え込んだ。

 今は駄目、まずは隙を見せるまで我慢しないと

 レイズは自分に言い聞かせて笑顔で答える。

「イシスです。不束者ですが今夜は宜しくお願いしますわ陛下様♪」

 自分の名はバレているかも知れないのでイシスの名を勝手に騙った。

「よい、ちこうよれ。」

「失礼します。」

 レイズは鎧の男の横に座る。男はまじまじとレイズの顔を見た。

「なるほど、近くで見れば見るほど美しい女だ。帝都でもそちほどの美しい女はいまい。」

「まぁ、陛下様ったらお戯れを」

 談笑する二人、鎧の男は続けざまこう言った。

「だが、同性しか好まぬというのは何とも勿体無いな。」

 レイズはその言葉に凍りつく。男の眼はまるで全てを見透かしているようだった。

「殺気が駄々漏れているぞ女」

 レイズは胸元に隠していた短刀を引き抜こうとした。しかしレイズが短刀を引き抜く前に首をガシッと掴まれ、男は片手でレイズを持ち上げる。

「がっ……はっ……」

 なんて力なの…

 首を絞められている間に短刀を引き抜き男を刺そうと思えば刺せそうに見えるが、男の腕の力は異常で、男の指に手をかけて抵抗しなければ首の骨を折らるだろう。

「俺は幼少の頃から常に暗殺されそうになっていてな。だからこういうのには非常に鼻が利くんだ。だが俺に近づいてくる女の暗殺者はごまんといたが、それに比べるとお前はお粗末すぎるぞ。」

「がっ……」

 正直侮っていた。相手の方が数倍上手だった…

「あの異端者の片割れか、仇討ちに来たわけか」

 鎧の男はレイズを投げ飛ばし壁に叩きつける。

「ああっ!」

 鎧の男は不敵な笑みを浮かべながらレイズを見下ろしていた。レイズは男に睨みながら言った。

「なんでビアンを殺したの! 答えて!」

「あの女が愛などとほざいたからだ。」

「愛のどこがいけないの! 人を愛し合うことがそんなに悪いことなの!」

 鎧の男は鼻で笑う。

「同性同士の分際で愛だと? 見るに耐えんな汚物」

 男の眼はまるで全てを憎んでいるかのように冷めていた。そして男は告げた。

「愛などこの世に存在せぬ。あるのは肉欲のみ。愛などまやかしに過ぎん。まして雌同士、雄同士だぁ? 気色悪い!」

「私は…ビアンにとっては男だった…」

「男だと? くっくっく、笑わせるお前は女なのだ。」

「いいえ違います! 私は男です。身体は女かもしれません。でも心は! 心は男です! それをようやく理解してくれて、心のそこから私をほんとに愛してくれた人がいた。それを貴方が引き裂いた!」

 鎧の男はレイズの腹を蹴り飛ばす。

「ぐふっ…」

「御涙頂戴全くつまらん、不愉快だ汚物。」

 鎧の男はレイズの髪の毛を掴んで自分の真理を言わせようと強要した。

「さぁ言え。私は女であると!」

「私は…男だ…」

 レイズは痛みに耐えて自分の主張を貫いた。それを見て男はいいことを思い浮かべた。

「あくまで自分を男だと言い張るか? 面白い。ならそれは虚実だということ、その身をもって教え込んでやろう。」

 鎧の男は手をパンッと鳴らすと隣の部屋に控えていた兵士がゾロゾロと入ってきた。

「兵共よ、俺からの褒美だ。この男と憚る女を犯しつくせ!」

 レイズの顔が青ざめる。兵士達は歓喜しレイズまで迫る。

「や、いや! 来ないで!」

 そして獣と化した集団はレイズに襲いかかった。


 翌日、ルシファーとイシスが見たのは町のゴミ捨て場に捨てられた、全裸でぼろきれのようにされ無惨に死んでいたレイズだった。

 レイズの身体には至るところに生傷と、雄の体液が散りばめられていた。何が行われていたのか想像に固くない。イシスは目に涙を浮かべていた。

「ひ、酷い…」

 行為の最中に首を絞められて殺されたのだろう。レイズの首にあとが残っている。

 ルシファーはレイズの死体を抱えた。

「ベルゼブブ」

「はい、わかっております。」

 ルシファーはレイズをベルゼブブの背に乗せるとベルゼブブは落とさないようゆっくりと飛翔し岬の灯台のある方角へ飛んで行った。ルシファーは無言で何処かへ行こうとした。それをイシスは涙を払ってルシファーに言った。

「ついてくるなって言われてもついてくから」

「好きにしろ。もう言わん。」

「絶対に許せない」

「同感だ。」

 ルシファーとイシスは帝国軍の拠営地に向けて歩き出した。


****************


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