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堕天のルシフェル  作者: 魔剣ダーインスレイブ
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生け贄の村と魔女イシス



「生け贄を捧げよ」

「村一番の若い女の血を神に捧げよ」


山岳に位置するその村は生け贄の儀式を古くからの風習にしていた。

不作による飢饉が起こるのは神が怒っていると村人は信じ込んでいて、神に若い女を捧げることにより怒りを鎮め、苦しみから救われると信じていた。


「ルシファー様、生け贄の儀式のようです」


生け贄の祭壇の見える丘の上にルシファーとベルゼブブがいた。


「くだらんな。生け贄など無意味だというのに」


天使や神が人間のために何かをするわけはないのだ。

この生け贄にされた若い女も、このまま天使に強姦されて、証拠隠滅のために魔女狩りにあい、やがて殺されるのだ。


今回の狙いは勿論天使だ。

女を連れ去ろうとしたところを襲いかかる手筈だった。こういう下衆なことを好んでするのは下級天使と相場は決まっている。とはいえ天使は見逃せない。

この世全ての天使は皆殺しにしなければならない。


村人は撤収し若い女一人が取り残された。

しばらく様子を見ていると、曇り雲が割れて一筋の光が照らされた。そして白き羽根を生やした天使が降り立つ。


「来たな」


ルシファーはダーインスレイブを抜いて不意打ちをしようと隙を伺っている。

そして、生け贄の女と男天使は対面した。


「さぁ、迷える子羊よ。怖がる必要はありません。私の元に来るのです」


天使は言った。生け贄の女は無反応だ。


「なにをしている?私がこいと言ったんだ早くこい」


強い口調になる男の天使。すると生け贄の女は恐る恐る天使のとこまで歩いた。


「グッフッフ、それでよい。さぁ顔を見せておくれ」


天使は生け贄の顔に被せられた布袋を取った。


「汚い手で触るな下衆野郎」


その言葉と同時に娘は天使の胸に飛び込んだ。


「ぐっ」


男天使は胸に痛みを感じた。

天使の胸には深々とナイフが突き刺さってたのだ。

だが人間より丈夫な身体を持つ天使にとっては致命傷にもならなかった。


「くっくっく、この私を殺す気だったのか?この程度で私が死ぬとでも...」

「走れ雷鳴、かの敵を撃ち貫け!」


ナイフの柄には鎖がつなげられており、

鎖を伝って走った電流が天使に直撃した。


「ぐぎゃあああああ!」


電流を受けた天使は、背中の羽根がボロボロに焦げて崩れ落ち。それを見て異変に気づく。


「お前、天使じゃないな?はぁ~天使だと思っていたのにガッカリ」


羽根は天使を模した鳥の羽根で、

男は天使ではなく、その正体は天使になりすましていた呪術士だった。


「このアマが!」


呪術士は女にむかい呪文を唱える。

しかしそれより前に女は雷の魔法を走らせた。


「ぐぎゃああああ!!!」


感電している呪術士は睨みながら女を見る。


「ぐっ...貴様、俺と同じ混血か!?何故邪魔をする...」

「あんたと一緒にされるのは不快だわ」


生け贄の女は呪術士と同じ混血種であった。

魔法を使えるのは天使と、天使の血を引いた混血種のみ。自分と同じく魔法を使うこの女を呪術士は同類だと気づいた。


「我々混血は魔法も使えぬ人間共の上位種だ。だから我々も天使が俺らにしたように脆弱な人間を好きにできる特権があるんだよ!それをわかれ!」

「生憎私は血液至上主義じゃないんだ。それをかこつけて若い女をレ○プしようなんてさ。不快だね!」


呪術士を殺す気で電撃を浴びせ続ける女、呪術士はこれは不味いと思ってか胸に刺さったナイフを引き抜こうとするが硬くて抜けない。


「くそが!どうなってやがる」

「この鎖は特別な呪術をかけてある。ちょっとやそっとじゃ抜けないから」

「チクショウ!殺してやる!」


電撃を食らいながらも呪術士は、無理矢理火の魔法を詠唱して複数の火の玉を女に放った。

迫り来る火の玉。

しかし、女の前に水の壁が現れて呪術士の放った火の玉を打ち消した。


「甘甘!」


それを見た呪術士は悔しがっていると、自分の身体が動かなくなってきたことに気づく。非常に寒い


「な、なんだ...身体が」

「抵抗されるとマジウザイからちょっと動くのやめようか」


先程まで電撃を放っていた鎖が、今度は冷気に代わって鎖を走らせていた。

冷気が呪術士を包みこんで身体を徐々に凍らせていく。


「ガッ...コノ...」


呪術士が気づいたときには遅かった。

すでに全身が霜で覆われ、血液は凝固し皮膚は凍結していた。


「アディオス!」


女は鎖を勢いよく引っ張りナイフを抜くと、胸から亀裂が入り、ヒビが拡がる。呪術士の凍った身体はバラバラに崩れ去った。


呪術士が殺される様子を眺めていたルシファーは思っていた。


ほう、中々興味深い奴だな。


一部始終を見ていたルシファーは感心してか、女の前まで来た。


「中々の手際だな」

「あんた、誰!?」


女はビックリしている。無理もない。

ここは村の関係者以外は立ち入り禁止されている聖域だ。それを部外者が現れたら驚きもするだろう。

だが、天使ではないものの、天使を殺そうとした女に共感してか話してみたくなった。


「通りすがりの旅人さ」

「そう...」


女は有無を言わさずナイフをルシファーに投げつけた。ルシファーは紙一重でそれを避ける。


「何をする?」

「嘘バレバレ!あんた人間じゃないでしょ、一体何者?」

「......」


鋭い女だ。

隠していたつもりだったが、微かな魔力の残滓でも嗅ぎとったか


「まぁいいや、あんたが何者だろうか。嫌でも話したくさせるから」


女は鎖を引っ張ると、飛んでったナイフが方向転換し再びルシファーに向かってくる。

ルシファーは横目で戻ってくるナイフを警戒しながらまた躱そうとすると、地面がグニャリと柔らかくなり足元を取られ態勢を崩した。


「なっ!?」


女はニヤリとしながら態勢を低くし左手を地面につけていた。


地の魔法で俺の足元の土を変化させたのか


「チョイサ!」


足元に注意がそれて、ルシファーにナイフが迫る。しかし、ルシファーの予想は外れてナイフはルシファーの頬を掠めただけで通りすぎた。


「アラヨッ!」


女は更に鎖を動かすと、ナイフの軌道は有り得ない方向に曲がりルシファーを一回りする。

それはルシファーの身体の周りを回っていた。


これが狙いか!?


ナイフはルシファーの身体を何重にも回って、鎖が身体をぐるぐる巻きにされた。


「これでミノムシの完成だよ!」


ルシファーは全身を鎖で巻かれて身動きが取れなくなった。


「風の魔法か、それでナイフの軌道を自在に操ったな」

「御名答、でも気づくのが遅かったわね」


続いて女は詠唱すると手から巨大な火の玉を出した。

どうやらトドメにそいつをぶつける気らしい。


「これで終わり!」


投げつけられる火の玉。

雷、水、地、風そして火

まさか五大属性を使える混血種がいるとはな


我が主よ、感心している場合ではないかと


「それもそうだな」


体の内にいるベルゼブブに言われてルシファーは片翼を出して、無理矢理鎖をはち切った。

そして目の前に迫った火の玉を、咄嗟に抜いた剣で真っ二つに斬り裂く。


「グギャアアア!アチイイイイ!!!ルシファーテメェ絶対ワザトヤッテンダロ!」

「気のせいだ」


生きてる剣ダーインスレイブにも感覚があるようで、炎を刀身に直に受けると熱さを感じて持ち主に苦情を出していた。

炎の破片と黒い羽根が青年の周りに舞墜ちる。

黒い片翼を羽ばたかせた青年を見て女は一瞬動きを止める。


「天使の羽根...」


女はワナワナ震えだし怒りの形相でルシファーに吠えた。


「そうか、あんたが黒幕か!」


ルシファーの片翼を見て目の色を変えた女は次々と魔法を詠唱していく。

女によって作られ飛んできた氷の槍がルシファー目掛けて飛んできた。

それをルシファーは軽く躱し、続いてカマイタチの疾風魔法も放ってくる。だが直線的すぎて避けるのにわけなかった。


「レパートリーは豊富みたいだが、コントロールがまるでなっちゃいない。」

「うるさい!当たれよ!」

「ああ、そうか。だから鎖を使って動きを止めるのか。自身の苦手を補うのもいいが、少しは克服もしたほうがいい」

「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」


ルシファーは難なく避ける。

そして女の元まで接近した。振りかかる魔剣の一撃をナイフでいなしながら悪戦苦闘する女。


「キシッシ!イイ匂イガスルゼェ。コノ女、隅々マデ実ニ旨ソウダ」

「なっ!?何いってんだこの変態!」

「誤解だ、俺が言ったんじゃない」


殺意を出しながら女はルシファーを攻めたてる。


しかし、中途半端に強いな。


「とりゃあああ!」


女の放つナイフの連続突きをルシファーは躱していく。


なまじ強いと手加減しにくいな。


「うりゃあああ!」


女は蹴りも織り混ぜてきた。かなり本気だ。

だが、女は決して弱くはないが、ルシファーの敵ではないので当のルシファーは飽きていた。


ああ、なんだか焦れったい。


「これならどうだ!!!」


女は全力の一撃を繰り出した。

今までの単純な突きではなく、最高の一撃と言っても過言ではない。それをルシファーは軽々といなして...


バキッ!


「べふっ!!!」


ガントレットの拳で女の顔面を思いっきり殴り飛ばした。女はぶっ飛び、壁に叩きつけられた。

女はピクピクと痙攣して動かない。


相手が女性でも、容赦ないですね...


頭の中でベルゼブブが語りかけてきた。その言葉は軽く引いていたように感じた。


「手加減はした」


て、手加減...ですか。アレが?


女の前歯と鼻の骨が折れて、鼻血をダラダラ流しながら白眼を剥いて気絶していた。


「ちょっとやり過ぎたか」


ルシファーは心の中で申し訳なくなった。

それを気にすることもなくダーインスレイブははしゃいでいた。


「ヒッヒッヒ!食事ダ食事ダ!」


ルシファーはそんなダーインスレイブを鞘に納めた。

それに対し怒り狂うダーインスレイブ。


「ナンノツモリダルシファー!混血シカモ若イ娘ノ血ハ滅多二ナイ御馳走ダ!早ク俺二飲マセロヤ!」

「悪いがそれは聞けん。」

「ルシファー...テメェ」


不信感を募らせる魔剣、

それをルシファーは諭した。


「不服か?ダーインスレイブ」

「当タリ前ダ!テメェガ何ト言オウガ俺ハコノ女ノ血ヲ吸ウゼ!」


ダーインスレイブの目から触手が伸びて気絶した女の身体に迫る。しかし、触手は女の動脈の手前でピクピクとしながら動かなくなった。


「グッ...ルシファー貴様...」

「やめろダーインスレイブ」


ルシファーは右腕のガントレットでダーインスレイブの柄を握っていた。

ダーインスレイブは力が抜けたかのように大人しくなる。


「テメェ...コレハ重大ナ契約違反ダ...」

「最初の契約の時にこう言ったはずだ、悪しき者しか討たんと」

「コノ女ハ魔女ダ!天使ノ血ヲ引イテイル敵ダ!悪ダゾ!」

「この娘からは負の感情が感じられなかった。悪しき魂の持ち主ではない。それでもまだ納得いかないのであれば、この右腕にお前の自我を完全に封印して、ただの剣にしてもいいんだぞ」


ルシファーの鬼気迫る気迫に圧され、ダーインスレイブは諦めて大人しくなった。


ただ、そんな中でベルゼブブだけは、そこまでわかっていながら平然とぶちのめした自分の主に汗を垂らした。

せっかくの整った美しい女の顔は、前歯が折れて鼻がひんまがっている。今後一生の傷物にならないか心配だ。


「混血児は天使の再生能力があるから大丈夫だろう」


当事者の我が主は気にしていないようだ。


****************


ルシファーは村の前まで女を担いで連れていった。


「イシス!?」


村の入り口にいた女性が駆け寄ってくる。

どうやらこの混血種の女の知り合いらしい。

そうか、こいつはイシスという名なのか。


「ひどい...誰がこんな酷いことを」

「わからないが、道端で倒れていた。」


よくもまぁぬけしゃあしゃあと嘘をつく

犯人はこいつですよ

と、ダーインスレイブは教えてやりたかった。


「貴方は?」

「通りすがりの旅人だ。」

「私はネフティス。イシスをここまで運んでくれたんですね。ありがとう」

「礼ならいい。とりあえずこの女を下ろしたいのだが、重くてかなわん」

「わ、わかりました。とりあえず家に」


ネフティスと名乗る女の家に向かうルシファー

一軒の家に着き。家の中に入るとネフティスはすぐにイシスをベッドに寝かせた。


「ありがとうございます。えーと...」

「ルシファーだ」

「ルシファーさんですか、綺麗な名前ですね。」

「彼女は君の家族なのか?」

「いえ、違います。でも姉妹みたいなものかも」


このネフティスという女性は、慈しみのある人間に見えた。しかし、不思議なのは彼女は人間だということだ。

普通、混血種は人間、天使両方からの迫害の対象になりやすいのだが、彼女を見ていると混血種であるイシスを大事そうにしているように見えた。


「う......うーん」

「起きたイシス?」

「ハッ!?」


イシスはベッドから飛び起きた。


「ここは、私は一体!?」

「落ち着いてここは私の家よ」

「ネフティス?えっ、え?どういうこと?なんで私はここに...」

「この旅の方が運んでくれたのよ」

「よう」

「あーーー!?て、てめぇ!」


ルシファーはテレパシーを送った。


(ここで先程の続きをすれば、君の知り合いにも迷惑がかかるだろう。)

(てめぇ、人質ってわけか、卑怯だな。流石天使なだけはある)


夕飯時、ルシファーはイシスを介抱したお礼にネフティスから一晩泊まらせてもらうことになった。

当のイシスは大反対していたのだが、

ルシファーは気にせずガツガツ飯を食べている。


イシスは黙々と飯を頬張るルシファーを睨み付けながらチビチビとブドウ酒を飲んでいた。やけ酒したい気分なんだろう。


「イシス、お酒ばかりじゃなくてご飯もしっかり食べなさい。」

「ったく、食べてるよ」

「なんだもう歯が生えたのか?よかったじゃないか」


こ、このクソ野郎...


ルシファーの言葉は火に油を注いだ。


メインヒロインの私に容赦なく顔面ぶん殴って前歯へし折った張本人の癖に、なんでこいつは悪びれた様子もなく平然と飯食ってやがる


イシスはコメカミをピクピクさせる。


いつか絶対ぶち殺す!


「でもイシスが無事でよかった、私の代わりに行ってもしも天使様の怒りに触れてしまうのではないかって心配で...」

「天使とは話がついたよ。もう生け贄を捧げる必要はないって」


(話がついただと?嘘をつけ、バラバラに始末してたのはどこのどいつだ?)

(うっさいな!黙っとけよ!)


「しかし、天使相手に挑もうとするのは勇気があるのか無謀なのか」

「彼女にも色々事情があるのよ」

「......」


イシスは黙っている。

私には父親はいない。母だけだ。

しかし、その母は10年前に教会に捕まり、魔女扱いされ処刑された。そのとき私の父親が天使だということを知った。

若き日の母を複数の天使が無理矢理襲ったそうだ。

その時、母は私を身籠ったそうだ。

つまり私はその母を強姦した連中のうちの一人に天使の血を引いている。

誰の子なのかわからない。

ひとつわかるのは、私の血には屑の血が流れていることだけだ。


(なるほど、そういうことか)

(ぬぁ!?)


頭の中でいきなり話しかけられてビックリするイシス。


(て、てめぇまさか!?)

(盗み聞き...いや、盗みテレパシーするつもりはなかった。だが、今のはお前が悪いぞ。テレパシーで繋がってるって言ったろ?それを忘れて勝手に語り始めるもんだから。)


「死にさらせこの変態!!!」


ぶちギレたイシスはその夜、魔法を放ちまくった。


****************


魔力を使い果たしたイシスは疲れて寝てしまった。


「すみません、でもあの子も悪気はないんです」

「悪気はないにしても殺す気で魔法をバンバン撃ってきたな」

「え?」


ネフティスは驚いた顔をしている。


「どうした?」

「い、いえ、イシスが魔法を使えても驚かないんですね?」

「旅をしていれば色々なことを経験してきた。混血だろ」

「そうですか、外の世界はイシスと同じ境遇の人が多いんですね...」


ネフティスは悲しい目をしていた。

きっとイシスのことを思っているのだろう。

やはり混血種の彼女は色々大変な想いもしてきたに違いない。


「あの子は昔から親もいなくて一人ぼっちだったんです。私を姉のように慕ってくれてます」


天使に母親が孕まされて、その母親は魔女狩りで殺されたんだ。子供が背負うには重すぎる過去だ。

そんな世の中が当たり前のように蔓延っているのが、このゼウスが治める世界だ。

胸糞が悪い。


「さて、そろそろ床につかせてもらう」

そう言うとルシファーはネフティスの家から外に出ようとする。

「どちらに?」

「年頃の女性二人いる中に見知らぬ男がいるのは良くなかろう。確か少し離れたところに馬屋があったな。そこを使わせてもらう。」

「馬屋ですか?あそこには馬はいないものの廃屋になってから全然手入れとかしてないですよ」

「構わない、寝れればどこでもいい」


ルシファーはネフティスの家を後にし、馬小屋まで来た。中はネフティスの言うとおり荒れてはいたが、寝れなくはない。

ルシファーは藁をしいて横になる。

するとダーインスレイブが話しかけてきた。


「オイ!ルシファー、ナンデコノ村ニ滞在スル必要ガアル?モウ用ハ済ンダロ?」

「なんでだろうな...何か引っ掛かる」


ルシファーは違和感を感じていた。


「マサカ、アノオテンバ女ニ気デモデキタカ?」

「それは笑えない冗談だ」


****************



明朝、


殺気を感じてルシファーは目を覚ますと、目の前にナイフが迫った。


「くっ!」


ルシファーはナイフを間一髪で避ける。

ナイフはルシファーの横を掠り枕にしていた藁を深々と刺した。


「なんのつもりだ...」


ナイフ片手に憎しみの視線を送る人物を見て言った。


「イシス」


ルシファーを殺そうとしてきた人物はイシスだった。


「ネフティスをどこに隠した!」

「落ち着け、なんのことだ」

「しらばっくれんな!」


イシスはナイフを振り回す。


「お前以外の誰がネフティスを拐うんだよ!」

「拐われたのか?」

「ネフティスだけじゃない!村の女達全部だ!昨晩のうちに誰にも気づかれずそんな芸当ができるのは天使しかいない!」

「知らん。俺じゃない」

「しらばっくれんな!天使のやることはみんなそうだろうが!」

「待て誤解だ。もし俺が女達の神隠しをやった犯人なら、犯人が普通ここで呑気に寝てると思うか?」

「問答無用!」


ほんと人の話を聞かない人間だ。

どうする、もう一度ぶん殴るか?


ルシファーはカウンターを狙うように右腕のガントレットでイシスをぶん殴ろうとする。

しかし、ルシファーの拳はイシスの顔面の前で止まる。


「なに?」


よく見ると自分の腕には糸が絡み付いていた。


「同じ手が食らうと思った?御生憎!」


イシスはそう言うとルシファーの顔面をぶん殴った。

天使の血を引いてるだけはある。女でありながらも人間よりも腕力がある。


「昨日のお返しだ」


拳をつきだしたままイシスは言った。

しかし、ルシファーはそれをまるで蚊に刺された程度にしか感じていなく。平然としていた。


「くそ!これも効かないのかよ!」


イシスはナイフに切り替えて攻めに入る。

糸は丈夫な鋼鉄線でできていて、中々に協力に絡み付いている。しかも昨日のぶち切った鎖のこともあり学習したのか、御丁寧に鋼鉄線に硬化の魔術も編み込まれている。これを引き千切るのは手こずりそうだ。


だが、ルシファーはこんなことをしている場合ではないと思っていた。


元凶たる呪術士を殺したのにも関わらず、この地にまだ負の感情が消え去っていないってことは、他に原因があるってことだ。つまり...


元凶は他にもいる


それしか考えられない

それを頭に血が昇っているこの娘に説明しても聞く耳持たないだろう。そして俺の予想が正しければ、拐われたネフティスと女達の命が危ない。

魔力の消費が激しいが時空間転移魔法をするしかないか、


ルシファーはイシスを相手にせず、時空間転移魔法を発動させると、黒い羽根を周囲に撒き散らして突然と消えた。


「なっ!?」


困惑するイシスを余所に、ルシファーは生け贄の祭壇に向かった。


「生け贄はまだ終わっていない」




****************





生け贄の祭壇


そこでは昨日とはうって変わり禍々しい儀式が行われていた。

もう数人の村の娘達が生け贄になり、

首が切断された裸の女の死体がいくつも転がっていた。


流れた血はプールのようになっていて、

血のプールから一人の天使が現れた。


「プハァ~たまらないわ~ん」


血塗れになりながら現れたのは醜い姿をした太った女天使だった。


「ずいぶんと下衆な趣味をお持ちだな」


祭壇に着いていたルシファーは、ご満悦の女天使に話しかける。


「おや、人間にしてはいい男じゃないの。つまみ食いしちゃおうかしら」


ルシファーは辺りを見回す。

凄惨で残虐な光景だった。なんらかの儀式でも行われている最中なんだろう。血の匂いにむせびこむ。


「女の天使とは珍しいな、大抵は男の天使共が強姦するために生け贄を求めるものだが」

「まったく下衆な考えよね。天上の男どもはこの私を見ずに人間如き糞のような女にうつつを抜かすんだもの。信じられないわ」

「なんだモテない嫉妬か?」

「嫉妬?ウフフやぁねえ。なんでこの私がブスに嫉妬なんかしなきゃならないの?」

「じゃあ何のために生け贄を求める」

「決まっているでしょ美容のためよ」

「美容だと?」

「新鮮な若い女の生き血をこの身に浴びれば、肌が潤い若返り効果があるんだよ。こいつらブスは私のためにいるようなもんさね!」


薄汚い笑いをあげるババアの天使。

あまりにも醜いので不快に感じる。

ルシファーは魔剣ダーインスレイブを即座に引き抜いた。


「よかったなダーインスレイブ。久々のご馳走にありつけるぞ」

「熟女ナンカ、ゴ馳走ナモンカ、腐ッテソウデ腹壊サナイカ心配ダ」

「同感だな」


ルシファーは剣を抜いたままババア天使に近づく。


「若くいい男に迫られるのは悪くないけど、ガッつく男は嫌われるよ!」


ババア天使は浴びてた血を凝固させて棘にし、ルシファー目掛けて串刺しにしようと血の棘を飛ばす。


棘をダーインスレイブで受け止めると、血の棘はみるみるうちにダーインスレイブの中に吸い込まれた。


「ヒッヒッ旨ェ旨ェ!」


血を使った魔法はダーインスレイブには無力だった。

それを見てババア天使は、相手が只者ではないと気づく。


「あ、あんた、何者だい!?」

「今から死ぬ奴に名乗っても無駄だ」

「むかつくクソガキだね!」


ルシファーは血を躱しババア天使の元に一気に辿り着くと、剣を振り上げた。


「死ね」


そしてババア天使の顔面を斬りつけた。


「ぐぎゃあああ!!!」


雄叫び声をあげるババア天使。

しかしそれも束の間、天使は血液に姿を変えて崩れ墜ちる。


「なーんてな!こっちさ!」


背後から現れたババア天使が、魔法により凝固された血液の塊をルシファーに叩きつけた。


「ぐっ!?」


背後からの攻撃にダーインスレイブの吸収が間に合わず、直撃を受ける。


「幻覚か」

「そうだよ、私の得意な魔法さ」


幻覚使いか、厄介だな。


「幻覚ということは、それで村人を操って拐ってきたわけか」

「村の連中だけじゃないさ、私の代わりに生け贄を集めるために操っていた混血のマヌケもさ!」

「あの呪術士はお前の差し金だったとはな」

「あの役立たずのおかげで私自らが出張らなくちゃいけなくなっちまったってのによ!」


ババア天使はすかさず血を弾丸にしてありったけルシファーに飛ばした。

ダーインスレイブで吸収するにしても、血の弾の数が多すぎて全部は防ぎきれない。

そう思ってルシファーは、片翼を出して離脱した。


「漆黒の片翼...なるほど、あんたがあの有名な反逆者レイヴンかい?」



一方、祭壇の物陰からその光景をイシスが息を殺して見ていた。ルシファーを後から追いかけてきていたのだ。


「レイヴンってあいつが?」


イシスは信じられないでいた。

教会を敵に回して次々と教会関係者を粛清している神の反逆者レイヴン。

そのレイヴンの正体が、実は天使だったなんて夢にも思わなかった。


「もっとも、うちら天使間ではルシフェル=サタナエルと呼んだほうがいいかい?この裏切り者め!」

「昔の名だ。今はお前ら天使に不幸を運ぶ(レイヴン)だ。」


アラレのように飛んでくる血の弾丸を、ルシファーは高速で移動しながら避け続ける。

ルシファーは冷静にババア天使の戦力を分析していた。血を操るのならば、血がなくなれば攻撃の手立てもないだろう。ルシファーは天使の足元にある血が枯渇する時を待っていた。

徐々に血液が少なくなってきていた。

ババア天使もそれに気づいてか、ルシファーに言った。


「なんだい、ひょっとして時間稼ぎのつもりかい?だとしたら残念だけど無意味さね!」


ババア天使は両手を広げて血のカッターを作り出す。

そして、後ろにいた村娘の首をカッターで跳ねた。


「チッ、そういうことか」


首を跳ねられた娘は倒れ、切断された首から大量の血を流した。

その血は再び天使の足元に流れ込み補充される。


「ストックは沢山あるんだよ!戦闘が長引けば長引くほど、無関係な生け贄が死んでいくよ!」

「外道が」


新たな血を得て、再び血の弾丸をありったけ飛ばしていく。イシスはそれに凍りついた。

このままでは人質にされた村の人達は全滅だ。

いや、それだけではない。ネフティスがあの人質の中にいた。しかも、あのババアの天使のすぐ後ろに控えている。次に血を補給するとしたら間違いなくネフティスが殺される。

イシスは焦っていた。

あの男と天使の戦いを見ていて、あの二人は桁外れに強い。次元が違っていた。

天使ってここまで能力が高いだなんて思わなかった。

天使なんて余裕で狩れると思っていたのに...くっそ!


そうこうしている内に、ルシファーが血の弾を避け続けることにより、天使の足元の血の残量がまた少なくなってきた。

このまま傍観していてはネフティスが危ない。


幸い、あの天使はあいつに釘付けでこっちには気づいていない。


イシスはナイフに風の魔法を込めて天使に向けて投げつけた。


よし!殺った!


しかし、ナイフが天使に当たると、天使の身体は血液に変わり消えた。


「えっ...」


血を使った幻影だった。


「いつの間にかネズミが一匹紛れ込んでいたわね」


後ろから声をかけられ、イシスは振り向くと

そこにはババア天使が笑いながらイシスを見ていた。


「気配には気づいていたんだけど、どこに潜んでいるか場所まではわかんなくてねぇ。でもちょっと隙を見せたらコロッと引っ掛かってくれたんで楽しいわ」


まんまと騙され居場所がバレてしまった。


「あ......」

「じゃあね、お嬢ちゃん」


血のカッターを出してイシスに襲いかかる。


あ、私死んだ...


そう思ってしまった。

そしてカッターが目の前にくると目を瞑った。


あれ......痛くない?


恐る恐る目を開けると、そこにはルシファーがいた。

ルシファーが血のカッターからイシスを庇い、背中を斬られていた。


「ぐふっ...」

「あ...あんた...どうして...」


ルシファーの背中から血が流れていた。

かなりの深手を負ったようだ。


「お前は魔法に頼りすぎだ。だから魔力を探知されて動きが読まれる.....」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!大怪我してるじゃない!」

「カスリ傷......にしては、少しばかしデカすぎるか?」


ルシファーは苦い顔をしていた。


「ホッホッホ!これは棚ぼたですわ!馬鹿な小娘庇って、ようやく一手与えられたのですもの」


ババア天使は笑顔で笑い出す。


「嬉しいか?」

「はぁ?」

「こんなカスリ傷一つで歓喜していて」

「ムキー!ほんと生意気なガキね!」


しかし、まずいな血を流しすぎた。

時間を掛ければ掛けるほど不利になる...か、

仕方ない。


「ダーインスレイブ、リミッターを外す。」

「ケッケッケ!アレヲヤルノカ?久シ振リニルシファーノ血ヲ飲メルゼ!」


そう言うとルシファーは右腕のガントレットを外す。

ルシファーには右腕がなく、ガントレット自体が義手を担っていた。


ルシファーはダーインスレイブの柄を右腕の切断面に添えた。すると剣から触手が伸びてルシファーの切断面に肉を浸入させる。


「ぐっ!」


凄まじい痛みだ。

内側から肉を抉られ、血を吸われていく。


「旨ェェェ!ヒャッハッハ!旨ェェェヨルシファー!!!」


ダーインスレイブは歓喜して発狂している。

みるみる内に触手がルシファーの右腕を取り込んでいく。まるで寄生されてるように見えた。


「な、なんだいありゃあ...」


ルシファーの右腕とダーインスレイブは一つに融合し変貌を遂げた。右腕から剣が生えている。

そう形容するしかなかった。


「レイヴンの名の由来を教えてやる」


そう言うと、ルシファーの身体が崩れて六十羽の黒い鴉となる。黒い鴉の群れが一斉にババア天使に襲いかかり、すれ違い様にダーインスレイブの剣筋が鴉の群れから飛び出て天使を斬りつけた。


「!?」


しかし、斬りつけられた天使は血の人形になり崩れ去る。また偽物だったが、それでもルシファーの猛攻は止まらない。

鴉の群れは旋回して再びババア天使を襲い。

すれ違い様に二撃目を斬りつけた。


「ホッホッホ!無駄よ無駄よ」


二撃目も血の人形だった。

鴉の群れになったルシファーは三撃目、四撃目とババア天使の作った血の人形を乱れ斬りにしていく。


「無駄な足掻きはみっともないわよ!」


放たれる血の弾丸

それはルシファーの真芯を捉えて放たれたが、

着弾すると同時に、鴉は散らばり、血の弾丸はそのまますり抜けた。


黒い鴉の群れがまた一つに集まり人の姿を模していく。


「無駄だ。お前の攻撃は当たらん」

「なにかっこつけてんのさ、それはこっちも同じだよ。いくら斬りつけようが生け贄の血が有る限り私は無敵......」

「足元を見てみろ」

「んあ?足元?」


ババア天使は自分の足元を見て驚愕した。

アレほどあった血のプールがまったく無くなっていて枯渇していたからだ。

ダーインスレイブが斬った際に、魔法により人形精製で使われた大量の血を、あの一瞬の間に魔剣は一気に吸い取っていた。


「馬鹿な!そんな馬鹿な!?」

「これでお得意の身代わりはなくなったな」

「勝った気でいるなよ、私にはまだ生け贄どもが...」


ババア天使が近くにいた生け贄のネフティスに手をかけようとした瞬間、天使とネフティスの間に黒い壁が阻んだ。


「な、なに!?」


鴉である。

大量の黒い鴉の群れがババア天使の前にふさがり、天使の回りを飛び回る。まるで渦を巻くように、それは端から見るとまるで黒い竜巻のようだった。竜巻の渦の中心に天使がいる。


「しゃらくさい真似を」


天使は強引に渦に手を伸ばすと指が吹き飛んだ。


「ぎょへぇ!?」


天使は手を押さえる。

この黒い竜巻は突風によるものなんかじゃない。

天使は自分の千切れて血が吹き出した手を見ている。切れたというより、噛みきられたものだった。

中にいる鴉に啄まれたのだ。


こ、これじゃ出れない...


「わざわざ補給させると思うか?」


どこからともなくルシファーの声が聞こえた。

ババア天使は手を押さえながら周囲を見た。


「ど、どこだ!で、出てこい卑怯もの!」

「やれやれ、貴様に言われたくないな」

「黙れ!このビチグソ野郎が!」


ババア天使は吠える。しかし、その顔には恐怖しかなかった。

すると鴉の竜巻が更に早くなった。天使は慌てふためく、回転している鴉の渦の中心が狭くなってきたのだ。次第に壁がドンドン迫って来る。


「あ、ああああああああああ!!!」


鴉の竜巻の中に巻き込まれ、ババア天使は遥か高くに巻き上げられた。

所々を鴉に啄まれながら激痛で悲鳴をあげる。

上空に打ち上げられたときには、ババア天使はボロボロだった。複数の鴉に啄まれて身体のあちこちに生々しい傷ができている。


「ぐっ......はっ......」


宙に投げ出されたババア天使はすでに虫の息だ。

あれだけいた鴉は消えて、黒い竜巻は消滅した。

代わりに鴉は一直線にダーインスレイブに集まりだして、魔剣の刀身は黒い光を放ちながら禍々しい魔力を帯びる。


ババア天使は落下しながらルシファーを見た。

これから起こることがどんなことか予想が、いや嫌な予感がしかしていない。

魔剣の切っ先から放たれる尋常じゃない魔力。

あれは魔法剣だ。堕天使如きがなんでこんな異常な魔力を持っている!?


「お前は...」


落下し続ける先には魔剣を構えたルシファーがいる。


「修羅...」


ルシファーは言葉を紡ぐ。

全てを屠る必殺の一撃を


「化け物かーーー!!!」


絶叫にも似た天使の叫び。

ルシファーは落ちてきた天使にむかい、闇の剣を振り上げ叫んだ。


「煉獄!」


放たれたルシファーの魔剣の一撃

ルシファーの絶技、修羅煉獄により放たれた一筋の黒い光がババア天使を包み込んだ。


「ぎゃあああああああ!!!」


ババア天使は黒い光の中に消えた。


膨大な魔力が弾けて、周囲を衝撃波が走る。

イシスは近くにあった岩盤を掴みながら衝撃に耐えていた。

辺りは闇に包まれ、青空が一瞬夜に代わった。

それほど凄まじい力だった。


「な、なんて奴なの...あいつ」


巻き起こる衝撃波が次第に止んでいき、空には青空が戻った。


ルシファーは地面を見下ろしながら立っていた。

足元には、両手両足が吹き飛んで死にかけたババア天使がいた。


「......ひゅう...ひゅう......」

「やはり三割じゃこの程度か」


たったの三割であれほどの魔力、こいつの潜在能力はどれだけ底が知れないんだ...


ババア天使は意識がかすかすになりながらも戦慄していた。


「さて、最期の懺悔は済んだか?」

「お、おのれ...ルシフェル=サタナエル」

「この村の生け贄の儀式は終わりだ。最期の生け贄は天使の血をもって締めるとしよう」


ルシファーはダーインスレイブを、五体不満足なババア天使の厚い脂肪のついた腹にぶっ刺した。


「ぐふぅ!?」

「ヒャヒャヒャヒャヒャ!血ダ!血ダ!」


ダーインスレイブはババア天使の血を飲み始める。


「あ、ああ...あ...や...め...てぇ...ぐでぇ...」


じゅるじゅるじゅる


「あ、ああああ......干か...らび...る...」


魔剣ダーインスレイブが血を一滴も残さず吸い尽くすと、そこには巨漢だったババア天使の面影はなく、骨と皮だけの干からびた死体が残された。


「ゲップ!」

「久々の天使の血はどうだった?」

「脂質ガ多イシ、血糖値モ高イナ。胃モタレシソウダ」

「中々辛口だな。」


ルシファーはガントレットの義手をつけ直す。

そして立ちくらみに襲われる。


「ぐっ...相当吸ってくれたな」

「ヒッヒッ、アト少シデ魂ゴト食エタノニナ」


ダーインスレイブの解放は爆発的な力を生み出すが、血の代償が必要な諸刃の剣だった。

ガントレットには魔剣の浸食を抑えこむ封印礼装の効果があり、普段は魔剣を操っても支障はないが、

外しただけでこれ程の疲労感があるとは、だが切り札を使わざる負えない程に今回の敵は手強かった。


ルシファーは魔剣を納めて歩き出す。

邪悪な存在が消えたことにより、最早この地に留まることがなくなった。

次の天使を狩りに、そのままこの地から離れようとしたとき、背後から声をかけられる。


「待て」


呼び止めたのはイシスだった。

ルシファーはため息をついた。


「ふぅ、またお前か、まだ続きをやりたいのか?全く、狂犬みたいな人間だな」

「違う!そうじゃない、どうして私達を助けた!」

「一宿一飯の恩を返しただけだ」

「誤魔化されると思ったのか?ふざけるな、それが同族を殺す理由になるか!教えろ!なんで天使のあんたが天使と戦う!何が目的だ!」

「人間に答える気はない」

「なら、力ずくで喋らせてやるよ!」


そのとき、ルシファーは神速の速さでイシスの首元に剣を突きつけた。イシスはあまりの速さに一歩も動けなかった。


「なっ...」

「これ以上こちら側に足を踏み込めば命はない。それが興味本意なら尚更な」

「興味本意...なんかじゃない」


ルシファーは剣を納めるとイシスを素通りし去っていく。実力の違いにイシスはただ黙って見送るしかなかった。

そしてイシスは、去り際に見えたルシファーの横顔をずっと見つめていた。




****************



「あのクソ野郎ほんとむかつく!」


あの戦いから次の日のことである。

ネフティスと村の女達は意識を取り戻し村に戻っていた。生け贄の祭壇がなくなり、村はもう生け贄の儀式を行うことがないとわかると、村中歓喜し平和が訪れていた。そんな中でイシスは不機嫌そうにネフティスに言った。


「そんなに気になるなら追いかけたら?」

「なっ、べ別にそんなんじゃないし!ただ...」

「ただ?」


ネフティスはニヤニヤしながらイシスを見ていた。


「な、なんでもないから!」

「またまた~あの人の横顔がカッコよくて惚れちゃった?」

「もうネフティスの馬鹿!アホ!オタンコナス!」


くっそ!なんかモヤモヤする!ネフティスが変なこと言うから。


そしてイシスはある決意をしていた。


「ネフティス、私旅に出るから」

「ついに愛しの人を追いかけるのね!ああ、なんてロマンチックなのかしら」

「そんなんじゃないから!」


いつか村を出るつもりだった。母の仇であり、私の血に流れる憎い天使を探すつもりでいたからだ。

今は村の生け贄による悪しき風習が終わり。

ネフティスも危険に晒されることもなくなったわけだから、憂いなく旅に出れる。

べ、別にあいつに会いたいわけじゃないからな!


「か、勘違いするなよな!旅をしてけば、憎き敵に会えるかもしれないから」

「はいはい、そういうことにしときますよ」


ネフティスは笑いながら言った。


「善は急げっていうでしょ!ほらほら早く早く!」

「そんないきなり言われても、まだ準備とか...」

「そう言うと思って旅の準備しておいたから」

「え?嘘でしょ」

「マジよマジ、さぁ早く追いかけないとルシファーさんとはぐれちゃうわよ!」


なかば強引に荷物を渡され家から追い出されるイシス。


「まったくもう、いつも強引なんだから」


それが私の姉のいいところでもあるんだけどね。


ネフティスに見送られてイシスは村を出た。

旅の行き先は決まってないが、まずは南の方角に向かう。

あいつが向かっていったのは南の方角だ。

きっとあいつを追えばいつか目的の天使に出会えるはず。


それだけではない。

イシスはずっと気になっていたことがある。


どうしても忘れられなかった、

あの時みたあいつのあの横顔、


なんか......あいつの目、

すごく悲しい目をしてたから...


こうしてイシスは旅立つことになった。



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