反逆者レイヴン
数年後...
人間の住む地上界
城下町の一画に貼り出された一枚の懸賞金の書かれた手配書を町の住人は眺めていた。
「また司教様が賊に殺されたってよ。」
「またかよ、これで6件目だぜ。またレイヴンの仕業か?」
※レイヴン=ワタリガラスの意味。
カラスより大きく不吉や不幸を呼び寄せると云われている黒いカラス
最近、各地で教会関係者が次々と殺されていた。
生存者の話では漆黒の翼を纏う人間が殺害現場付近で度々目撃されていた。
この殺人鬼の名称をレイヴンと名付け、聖堂教会騎士団から指名手配を受けていた。
「しかし、神の使いである教会の司教様を殺すなんて罰当たりな。こいつはよくてギロチン、悪くて火炙りだろうな。」
地上界の人間は信仰に絶対だ。
この罪人に天の裁きが落ちると思っていた。
「ほらどけどけ!邪魔だ」
聖堂騎士団の兵士が立て札に群がる住民をどかせ、新たにレイヴンの手配書を差し替えた。
「また懸賞金が上がったのか?」
「お前らよく聞け!この犯罪者レイヴンはこの近辺にいるとの情報があった!もしもレイヴンらしき人物を見かけたら我々聖堂教会騎士団に速やかに報告せよ!有力な情報提供の場合には銀一封を贈与する!」
「銀一封!?」
報奨の話に住民は騒いだ。
この時代の金や銀貨は高価で、
銀貨一枚で一ヶ月は飯に困らずに暮らせる。
住民はその話に目を輝かせていた。
「......しかし兵士様、レイヴンって奴の風貌は一体どんなんで?顔がわからなければ通報しようにもありません」
「ぐっ...それは」
レイヴンの姿を見たものはいるが、
顔を見たものはいない。
だからどんな人物なのか
男なのか女なのか、
はたまた大人なのか子供なのか、
老人かもしれない。
「と、とにかく!怪しいと思った奴は片っ端に報告しろ!いいな!レイヴンを隠しだてする者も処罰する」
兵士に住民は散らされる。
「しかしレイヴンとは一体何者なんでしょうか」
新米の兵士は恐る恐るベテランの先輩に聞いた。
「聞いた話だと一振で五人を斬り伏せるほどの大男とか、魔術を使い呪いで全身から血を吹き出して殺す魔女だとか...」
「そんな他愛もない噂話に踊らされるな!我々には神の御加護がついている神の尖兵なるぞ!そんな弱腰でどうするか!」
ベテラン兵士が弱気な新米兵士に怒鳴った。
****************
領主の屋敷
そこには酒を浴び、裸の美女達をはべらかす醜く太った巨漢の男がいた。
その大男の背中には純白の羽根が生えている。
彼はこの地を治める天使である。
この天使は地上界に降り、領主の屋敷に居座っては酒池肉林の贅沢三昧の日々を繰り返していた。
「ぶっひひ、苦しゅうない苦しゅうないぞ!」
「キャハハ天使様のえっち♪どこ触ってるんですか~」
「ほれここがええんか?ほれほれほれほれ♪」
「天使様に満足して頂き光栄でございます。さぁもっと酒を持て!」
次々と酒と豪勢な料理が天使の元に運ばれてくる。
巨漢の天使はさも満足そうに子豚の丸焼きにむしゃぶりついた。
「おい領主!中々の持てなしよ。我は満足じゃ」
「有り難きお言葉であります天使様」
「それよりもお前の領地にあるマゴイ村の村長の孫娘はまだこんのかのう?」
「それなんですが...」
マゴイ村とは、この土地にある小さな村で主に羊の毛を使った綿織物で生計を立てている。
そこの村長であるマゴイには一人の孫娘がいた。齢13になる少女である。
その孫娘は村一番の美少女で村の皆から愛されていた。
それを天使は自分の夜伽に寄越せと申し出ていたのだ。
「13歳の処女の身体は堪らんなぁ、破血し泣き叫ぶ姿を眺めながら健気な少女を壊したいものだブヒヒ」
気分が舞っていた天使に言いにくそうにしている領主
「して、いつ来るのだ?」
「それが...」
「なんだ?言いたいことがあるのならはようせい!怒らずに聞いてやるぞ」
「村長のマゴイが孫を天使様に出すことを渋ってまして、散々言ってはいるのですが...」
ガシャン!
その時、巨漢の天使は豪勢な料理を全てひっくり返した。
「な~ん~だ~と~!」
みるみるうちに剣幕になっていく巨漢の天使。その瞳にはさっきまでの温厚な顔はない。
「僕ちんを馬鹿にして随分舐めたことをしてるな人間風情のくせに」
「まぁまぁ天使様♪そんな怖い顔しないで、そんな田舎娘より私達と楽しみましょうよ♪」
そう言った若い娘は天使の腕に抱きつく。しかし、天使はギロリとその女を睨み付け不快そうに言った。
「お前、ちょっとケバいぞ」
「え?」
すると女の頭からとんでもない重力がのし掛かり押し潰された。
地面には血だまりでできた丸いくぼみだけが残った。
「ひ、ヒイイイ!?」
「神を愚弄するからこうなるのだ」
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
「聖堂騎士団を呼べ!僕ちんの命令だマゴイ村を焼き払え!女子供全て皆殺しだ!ただし村長の孫娘だけは生かして捕らえろよ!あの娘は僕ちんがこの世の快と悦を身体に教え込んでやるからな!」
「ハッ!ただちに!衛兵!衛兵はいるか!」
領主はそう答えると衛兵を呼んだ。
しかし、誰も来ない。
「おい!何をしておるか!天使様の直々の命であるぞ!」
やはり誰も来ない。
「おい!」
その時、勢いよく扉が開き衛兵が現れた。
「遅いぞ!何をしていた、呼んだらさっさと来ぬか!」
衛兵は答えない。
「おい、どうした返事をし...」
すると、衛兵は突然目の前で倒れた。
驚愕する天使と領主
衛兵が立っていたとこには、フードを被った人がいつの間にか立っていた。
「な、何者だ貴様!?」
「答える義理はないな」
「な、なんだと!ええい賊だ!集まれ!」
しかし誰も来ない。
「何をやってるんだ、こんなときのために高いカネ払っているのに!」
「外にいた奴等か?それなら今頃オネンネ中だ」
まさか、数十人はいた用心棒を全員倒したのか、どれも少しは名の馳せた連中だというのに
領主はわなわなと震えていると、
その横では侵入者を気にもとめず、黙々と肉を食っている巨漢の天使。
「なんだ貴様は?」
「ようやく会えたな...」
「僕ちんを誰かと知っての狼藉か?」
「ああ、よく知っている。天使様だろ」
「なら身の程を弁えろ人間。殺すぞ?」
「殺れるものなら殺ってみて欲しいものだ」
「チッ、いるんだよな。身の程を弁えない勘違いした馬鹿が」
天使は座ったまま、重力魔法を侵入者に繰り出した。
10tの重力が侵入者にのし掛かかる。
「ぶっひひ、これが神の裁きだ」
そう、侵入者はなす術もなくみるみるうちに潰され...潰され...潰さ......れ?
「ぶっひ!?」
潰れない!?
馬鹿な!ありえない!相手は非力な人間だぞ!何故ミンチにならない!?
侵入者は重力を気にもとめず巨漢の天使の元に歩いていく。
「ぶ、ぶひ...何故だ!?なんで...」
「ぶひぶひ五月蝿いぞ...ブタが」
フードの男は右手にはめたガントレットで豪快にブタ野郎の鼻先を殴り飛ばした。
「ぶひいいいいい!!!」
その様子に呆気に取られる領主。
人間の上位種族にある天使様を恐れ多くも人間が殴り飛ばしたのだ。
「き、きひゃま!天使である僕ちんにこんなことして只で済むと思っ」
「知らないな」
「ぶひいいいいい!!!」
更に拳撃を鼻先にブチかますフードの男。
巨漢の天使は鼻血を出しながら慌てて侵入者への暴力を止めようとする。
「ま、待へ!僕ちんはてんひらそ!とっても偉いんだひょ!」
「そうか、そいつはよかったな。」
「ぶひいいいいい!!!」
容赦なく殴り続ける侵入者
巨漢の天使は口から血を吐き出していた。
「図に乗るなよ人間が!!!」
天使は詠唱するとカマイタチが発生して侵入者に風の刃が襲いかかる。
その隙に、天使は男から逃げるように離れた。
「へ、へへーん!どうりゃ!僕ちんを本気に怒らせたらこうなるんりゃ!」
至近距離で風の刃を受けたら生身の人間はバラバラになる。
当然、この男もバラバラに切り裂かれて......いるはずだった。
「う、うひょれしょ...(嘘でしょ...)」
バラバラ切り裂かれたのは男が着ていたフードだけ、そこに現れたのは
瞳の色は深紅に染まり、
肩まで伸びた黒い髮には紅の角飾りをつけ、赤と黒の甲冑に身丈は190mはある。凛々しい顔をした青年だった。
「こんなものか、天使様というのは」
「お、おまえ...ほんとに人間か?」
「人間...か、どうだろうな。人間だろうし人間ではないかもしれないな」
「僕ちんの魔法をくらって平気な人間がいるか!!!」
「そういうお前はブタなのか?他者から略奪してブクブク肥え太らせて、とても天使とは思えんほど醜い姿だ」
「りゃ!りゃまれ!(黙れ)」
醜いブタ天使が雷撃を指先から飛ばす。
青年の顔に直撃するが、青年はなんともないように立っていた。
「お前の魔法は下の下、ずっと力の制御をサボっていて初級魔法以下だな。大方お前、天使族の中でも小間使い程度しか仕事できなかった口だろう?だから地上に降りてまで憂さを晴らしていた...違うか?」
「な、なんでお前りゃんかが天上界のことを知ってるんだ!」
「やはり小物か...」
地上界に住む人間が決して知りうるはずのない天上界のことをこの男は知っている。こいつまさか天上界にいたことがあるの......ハッ!?
ブタ天使は青年の顔にどこかで見覚えがあった。
それは今から数年前、
地上界の人間と恋に落ちた堕天使がいたことを、
禁忌を破った罰により、
片方の翼をゼウスにもがれ、
人間になった憐れな大罪人のことを...
「お、お前はもしかして...ルシフェル!?ルシフェル=サタナエルか!」
今ハッキリと思い出した。
黒き髪に、深紅の瞳、頭には角飾りをつけたその風貌、
かつて大罪人として、天上界全域にルシフェルの顔が載ったリストが出回っていた。
そのリストの人物だった。
「ルシフェル=サタナエルだろ!そうなんだろこの大罪人が!この天使の面汚しめ!」
「違う」
「はぁ?何とぼけてやがる!お前の面は天上界各地で知れ渡っているんだぞ!天上界に楯突きやがって」
「違う、私は天使族の名の象徴である『エル』を捨てた。今の私は...」
青年は腰に差した黒い大剣を引き抜き
ブタ天使の足を一閃に切断した。
「ルシファー=サタンだ」
「ぎゃあああああああああ!!!」
切断された足を抱えてのたうち回るブタ天使。
「なんで!なんで僕ちんの足!あしがああああああ!!!」
普通の剣では天使を斬ることはできない。
しかし、ルシファーの持つ大剣だけは違った。
「ヒヒッ...ヒャッヒャッヒャ!旨エェ!旨エゾ!血ダ血ダ!モット!モット俺ニ飲マセロ!!!」
大剣が喋った。
剣の鍔の部分には赤黒く充血した大きな眼がついている。
まるでその剣は生きているかのようだった。
「落ち着けダーインスレイブ...いま好きなだけ吸わせてやる」
「ヒャハッハッ!血血血血!天使ノ血ハ旨エェヨォォォ!!!」
ダーインスレイブと呼ばれる魔剣は血を渇望するかのように禍々しいオーラを放っていた。
それを見て恐怖したブタ天使は逃げようと翼を広げ飛ぼうとした。
しかし、飛べない。
自らの体重の重みで飛べなくなっていた。
「あ、あれ?あれぇーーー!?」
「散々肥え太ってきたから飛びかたも忘れたか」
「オイ!ルシファー、コイツジタバタシテ食事ノ邪魔ダナ。動ケナクシロ」
「そうだな」
するとルシファーは、右肩を脱力させた。そしてルシファーの右側の背中には
漆黒の片翼が生え始めた。
「か、片翼の天使...」
領主は見いった。
大きく広げられた黒い翼がとても美しかった。
黒い羽根が宙を舞う。
「あ、あああ...」
「翔べ...」
黒き翼から一斉に発射された無数の羽根が矢のようにブタ天使を射抜いた。
「ぎゃあああああああ!!!」
なす術もなく無慈悲に、容赦なくブタ天使の身体を貫く黒き羽根
わざと急所を外し、急所の回りにある肉だけを切り裂いていく。
血塗れになり瀕死のブタ天使は流れゆく自身の血に身体をピクピクと震えさせている。
すかさずもう一方の足を切断した。
「ぎゃあああああ!!!」
続いて手を...
「ぎゃあああああ!!!」
続いて残った手を...
「ぎゃあああああ!!!」
容赦なく蹂躙していく。
天使の断末魔に領主は耳を抑え、
残虐な光景に目をつぶった。
「あ......あああ、た、助け...て......助けてください」
泣きながら懇願するブタ天使
もはやそこには先程までの天使の威厳はない。命乞いする只のブタだった。
「お、お願いしま......す、命だけは...命だけは...」
「お前はそうやって命乞いをする人間を今まで何人殺してきた?」
ルシファーはダーインスレイブを天使の腹に深々と突き刺した。
「げほっ!」
「旨エ!旨エェヨォ!ルシファー!」
突き刺したダーインスレイブは天使の血を貪り食う。
「いたいいたいいたいいたい!」
しばらくダーインスレイブに餌を与えてから、血の気がひいていく天使の顔を確認して、腹に突き刺した剣を横一文字に切り裂くルシファー
ビチャビチャビチャ...
切り裂かれた腹から腸がこぼれる。
「げほえはぬやまたあなさ!!!」
言葉にならない声をあげるブタ天使。
ルシファーはそれを見てウンザリとする。
「憎いと思っていた天使の末路がこうも憐れに見えるものだとはな。だが同情はせんが」
「ひゅうぅ...ひゅうぅ......だず...げでぐだざい...ごめんなざい...」
ブタ天使はまだ息があった。
天使族は長命だ。
だからこれ程の身体を壊されても中々死なない。
しかしそれは、
死にたくても死ねないことでもあった。
激痛を感じたまま、
苦しむしかないのだ。
「お前ステーキはレアとミディアムどっちが好きだ?」
「レ......ミディアムです!」
質問の意味がわからなかったブタ天使は、ルシファーを見上げていた。
ルシファーは微笑みの顔をブタに向けながら右手に紫色の焔を出して、
その焔を天使に向けた。
「獄炎よ、業火により、かの者を焼き尽くせ、デモンズフレイム」
小さく呟くと、紫色の焔は獣に象り、天使に襲いかかる。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!ぎゃあああああああああああああ!!!」
燃え盛る焔は一瞬でブタ天使を包み、
脂肪を燃やす。
「あ......あ......あ......」
瞬く間に細胞を燃やし尽くし巨漢の体が小さくなっていった。
そして黒焦げになったヒトガタができた。
ルシファーは黒焦げになった巨漢の天使を魔剣ダーインスレイブで切り払った。
粉々になる天使の死体は灰となった四散した。
ルシファーの黒い羽根が舞い散る。
その姿はまるで漆黒のカラスのようだった。
「レ...レイヴン...」
領主はその時、この男の正体がわかった。
教会に敵対し、神に仕える者を殺め回っている神の反逆者
その名はレイヴン
まさか、レイヴンの正体が天使だったなんて夢にも思わなかった。
天使が天使を殺す...
ありえない光景を目の当たりにして領主は終始呆気に取られていたが、
ハッと我に返り、笑顔でルシファーにすり寄る。
「さ、流石は天使様!よくぞ私を救ってくれました!」
ルシファーは領主を見つめる。
「私どももあの天使にはホント困っていたのです。貢ぎ物を催促するわ、すぐ気に入らないとうちの使用人を殺すわで」
ルシファーは領主の言い分を黙って聞いていた。
「天使のくせにブクブクブクブクと肥え太りやがって、まったく醜いブタ野郎でした!そんなブタから貴方様はこの私をお救いして下さったのですね!感謝の言葉もありません!この地の領主として民を代表して御礼を申しあげます」
先程とはうって変わって手のひらを返すようにルシファーに媚びを売る領主
「是非とも我が家に滞在していってください。酒も女も充分に取り寄せておきます。天使様には我が家名に神の御加護を承りたく...」
「ふぅ...まったくもって醜いな」
「へ?」
ルシファーは溜め息をついたと思ったら、領主の指先をダーインスレイブで斬り落とした。
「ひぎゃあああああ!?何をなさるのです!」
指をなくして地面にのたうち回る。
それを見ながらルシファーは言った。
「天使であればお前は誰にでもへこへこするのか?お前が今まで天使のためと、自分の領民から明日をも生きることが困難な者から税や食料を巻き上げ、妻や娘を拐い領民を苦しめた。」
「わ、私はただ天使様に喜んで頂こうと...天使様の幸せは領民どもの幸せでもあると...」
「天使が今まで人間を救ったことがあるか!いい加減目を覚ませ!」
領主にはルシファーの言っている意味がわからないでいた。
ルシファーは諦めて言葉を代えた。
「領主、お前は天使のためと、連れていくために邪魔だった娘の両親を、娘の目の前で斬り殺した。その罪、死をもって償え」
「て、天使様!私が何をしたというのですか!私は天使様のために...」
ルシファーは領主の首を切り落とした。
首から鮮血を吹き出して倒れる領主
「外道が」
ルシファーは呟いた。
魔剣ダーインスレイブは下卑た声で笑っていた。
「ゲハッ!ゲハハ!ルシファー俺様マダ食イ足リネエ、コイツ喰ッテイイ?」
「早くしろ」
「ゲヘッゲヘッ!オヤツオヤツ!」
ダーインスレイブはルシファーの手から独りでに離れると、領主の死体に群がり、眼から伸びでた触手針で領主の首元を突き刺し血液を飲んでいく。
ルシファーは、魔剣を残し屋敷から去っていった。
****************
翌朝、
広場には民衆がごった返していた。
「号外!号外!領主様がレイヴンに殺されたよ!」
「嘘でしょ!?」
「嘘じゃないさ!領主のとこに聖堂教会騎士団が踏み込んだときには、領主の首なし死体があったってさ。奇怪なことに死体は干からびていて血の一滴もなかったそうだ」
「でもなんでレイヴンが領主様を...」
「領主は根っからの信仰厚い信者だったってのが有力な線だ。だからレイヴンに狙われた。現場には黒い羽根が落ちてたらしい」
「でもこれで少しは税の負担も減るかしら?ここ数年は税金が上がってから生活が苦しかったのよ」
「領主様のとこに長い間奉公に行っていた娘や妻も戻ってきたし、領主が死んでくれたおかげだな」
「滅多なこと言うんじゃないよ!領主様がお亡くなりになって、この先ここに住むうちらはどうなるんだい...」
「それには心配及びませんよ奥さん。この街は今後聖堂教会が管理します。これは貴方がたの領主様が熱心に布教していたため、教皇様が特別にお計らいをしてくれたのです」
「でも領主様のとこにいたって噂の天使様はどうなったの?」
「なんでもレイヴンを追い払ってくれたそうだ」
「流石は守護天使様だわ!あの悪名高いレイヴンを退けるなんて」
人だかりには領主殺しの話で持ちきりだった。
フードで顔を隠したレイヴンこと、
ルシファーは、その話を黙って聞いていた。そこへダーインスレイブが人間には聞こえないテレパシーでルシファーに話しかける。
「オイ、ルシファー。オマエ、アノ豚ニ追イ払ワレタコトニナッテルミタイダゾ」
「聖堂教会が隠蔽したんだろう。天使が賊に殺されたなんて世に知れたら民衆が不安になるからな」
「クッケッケ!人間ッテノハコウモ、クダラナイ世間体ッテノガ気ニナルミタイダナ。」
「それが人間だ。彼らは弱い、何かに依存しなければ生きてはいけない種族だ」
「随分人間ッポイコト言ウヨウニナッタナ?レイヴン」
「その呼び名はやめろ。好きじゃない」
「レイヴンレイヴン!クッケッケ!」
「人をカラス扱いとは失礼なことを言う輩もいたものだ」
ルシファーは不満を漏らしながら街の出口に向かう。
「オイ、ルシファー!イイノカ?アノ村ニ戻ラナクテモ」
「何故行く必要がある」
「アノ村長ノ娘ナカナカ可愛カッタダロウ!アノ娘キットオマエ惚レテタゼ!今戻ッテ両親ノ仇ダッタ領主ヲブッ殺シタノハ俺デスッテ言エバキット、オマエニ股ヲ開イテクレルゼ!」
「くだらない」
「クダラナイコトアルカ!処女ノ女ヲ味ワエルンダゼ?堪ンナインダロ?」
「本当に下品な剣だ。血の吸いすぎで昨日の豚野郎に似たんじゃないのか?無性にへし折りたくなってきた」
ただ理不尽に愛する者を天使に奪われた自分とあの娘の境遇が重なっただけだ。
そう思ったことはダーインスレイブには伝えず、ルシファーは答えた。
「元々ここにいるという天使を始末する目的で来ただけだ。領主を殺したのはついでだ。彼女には一宿一飯の恩もあったからな。」
「ツマランマスターダ。糞真面目ダナ」
ルシファーと魔剣ダーインスレイブは街を出て、街道に出ると分かれ道があった。
「ドッチニ行クンダ?」
「北だな、北の地に強い負の気配を感じる」
迷うことなく北の地を目指して旅を続ける。
神に対抗できる力を持った仲間を集め、
いつの日か愛する人を奪った
神々を根絶やしにするため
堕天使ルシファー=サタンの旅は続く。