彼は道化師。
彼の笑顔が大好きだ。
彼が頑張る姿が愛おしい。
彼が傷つくところなんて見たくない。
彼には笑顔でいて欲しい。
君の幸せを守るためなら、私はなんでもできるよ。
君は言ったね。私に救われたって。でも、違うよ。私は君を救った覚えはないよ。君が私を救ったの。
冷たい雪の降る真冬、君は路地裏で小さくうずくまってたね。裸足で、薄っぺらい洋服着て、ダンボールに隠れるようにうずくまってた。そんな君を見てわたしは救われたの。
『なんて無様な子なんだろう。私よりも醜い子がいるわ』
ってね。自分より下の子の存在に安心したのよ?だから、笑顔で手を差し伸べることができたわ。酷いでしょう?でもそれが、私なのよ。
ねえ、覚えてる?君が初めて私の前で笑った日を。
すれ違う人達に怯えて、優しく接する大人を怖がってた。そんな君が初めて、私の前で、笑顔になった。照れたように笑い、ふっきれたように笑う君。その君の笑顔を見て私は、私は……。
そう、君のすべてを壊したくなった。君に笑顔なんて似合わない。君が笑うなんてありえない。君なんかが笑ってはいけないんだ!!君は私以上にシアワセになってはいけない、シアワセなんかにさせない。私よりシアワセにならないで。って、思った。どう?最低でしょ?
ある日一人の男が私の前にやってきて、ある話を持ちかけた。私はそれに一も二もなく飛び付いた。私は笑顔でその話に乗った。これで彼を私から開放できる。彼はもう、道化師として生きなくていい。そう思うと、心が軽くなる。
彼はもっと広いところで生きるべきだ。
彼は私なんかに縛られてはいけない。
彼はきっと私よりシアワセになるべきよ。
私なんかが、彼の可能性を潰してはいけない。
―――私は彼の障害になんて、なりたくない
例え彼が泣き叫ぼうとも、
例え彼が怒り狂おうと、
例え、例え彼に嫌われても、
それでも私は君の笑顔を守りたい。
――――――君が大好きだから。
今宵、彼が演じる最後の上演会。
彼は笑い、私も笑う。
―――――――――涙なんて、要らないわ。