目を閉じて
テッドは目を閉じて、耳を澄ました。
「ねえ聞こえるかい? 足音だ」
真っ暗で窮屈な中でその足音は響いた。
マリーは外壁に手を当てた。
「ようやく会えるのね。待ち遠しいわ」
「半年間待っていたからね。こいつめ、ずっと姿を隠している」
マリーは口元をほころばせた。
「ようやくご対面だな。嬉しいかい?」
「ええ、もちろん! 始めは気のせいかとも思ったけど、どんどん気分が悪くなって、身を引きずられてるみたいだったわ」
「今はどう?」
「まだ重いわ」
2人は声を忍ばせて笑った。
「テッド! 待っていて。連れ出してみせるわ」
「ああ、待ってる。付いて行きたいけど、僕は邪魔みたいだからね」
「そんなこと言わないでよ。あなたがいてくれて本当に嬉しいわ」
マリーの手をとって囁いた。
「心配するな。いつもバーゲンで見せる強さを思い出せよ」
「ふふっ、意地悪ね」
テッドの白い歯が覗いた。
「いっておいで」
眩しすぎるほどの照明がパッと一斉に付いて、マリーの姿が照らし出される。
彼女の皮膚に貼りつく汗がキラキラと光り、鼓動して上下に揺れるたびに紅潮した肌を滑り落ちた。
強すぎる光は熱を生み出しているが、彼女の汗の理由はそれではないだろう。
暗闇に光は届かない。
マリーは未だ見ぬ顔を思い浮かべた。
どことなくテッドに似ている。
でも見たことのない顔は、霧が晴れるように霧散した。
緑色の服とマスクをつけている、天使か悪魔かわからぬような誰かがやってきた。
彼はマスクをとり、隠されていた笑みを見せた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
テッドは自分で笑っていることに気づいたろう。
ああ、マリーに会いたい。