表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次元の魔法   作者: キート
PR
7/20

理想に向かうために

 曇天の空の下、広がる大地に所々に生えた植物を微かな風が揺らす中、西に向かって歩く5人の集団があった。

内一人は、少し後方を離れて歩いている。知らぬ者が見れば前を歩く4人とは行き先が同じなだけで、関係がないようにも見えるし、そうとも見えない、何とも絶妙な距離を保って歩いている。

そんな男を前を歩く4人の内の一人、レイラがちらりと後ろに視線を向け、男の名をポツリと呟く。

その瞬間レイラの隣を歩く人物、フラッツがあからさまに不機嫌そうな顔をした後、レイラを見て、後ろを一瞥した。その視線に気づいた男、ユウトは表情には出さないが内心ため息を吐き、なぜこうなったか回想し始めた。









 レイラの一言がもたらした衝撃からいち早く復活したユウトは「お前…正気か?」思わず尋ねた。そんな彼女はもちろんだ、と言うような笑みを浮かべて頷く。

「え~っと、レイラ?」

「言いにくいんだが…その…」少し遅れて復活したらしい二人が歯切れ悪く何かをレイラに伝えようとする。

「突然過ぎじゃない?」

「何でそう思ったんだよ?それにまだ完全に信用した訳じゃないんだ、軽々しくそういうことは言うもんじゃ…」どこか忠告じみたことをトーンを落として言う。しかしそれを聞きながらも「だからこそだろ」はっきり言う。

「さっきも言ったように私はこいつに興味がある。もっと知りたいと思う。こいつが自分から言えないのだから、こちらから歩み寄っていくしかない。お前の言うようにこいつの素性はほとんど明らかになっていないから、怪しむのは仕方がない。だからといって遠ざけてばかりでは何時まで経っても変わらないだろ?」

「「………」」

「その所為で見つけられたであろうものや、有益なことを自ら潰してしまう。それがどれだけもったいないことか。保守的な考えでは成長は見込めないし、何も変わらない。今より先に進みたいのであれば、変わりたいのであれば、自ら歩み寄って良い所を見つけようと努力し、好き嫌いせず接していくべきだ。

一緒に行動することでしか分からないこともきっとある。そうは思わないか?」

「それは…まぁ…」レイラの言い分も分からないでもないので、肯定的な相槌をする。

「それにお前たちもこいつがかなりの実力を持っていることは、薄々かも知れんが感じ取ってるだろ?」

「まぁ、実際の戦闘を見た訳じゃないから何とも言えないだけど、そんな雰囲気はあるわね…」

「そうだな」それには二人も同意する。

「こいつは間違いなく戦力になる。これからの事を考えても、ここらで戦力を補強するのも一つの方法じゃないか?私たちがこれから先、ガーマと戦い、勝つためにも。

今のままじゃこの先勝ち続けるのは難しい。前から少し思ってた事だが、今回でそれがはっきりした。毎回ギリギリで勝利を収めていてはこちらの身が持たないし、ダメージが大きすぎる。こいつがいればそうならない可能性が無くなるとは言わないが、少しは低くなるだろ。

それにこいつほどの力を持つ奴を探そうと思っても簡単には見つけられないし、仲間になってくれるとも限らない。ここで出会ったのも運命なのかもしれないな」

「運命…ねぇ…」

「ああ、こいつ自体は信用できなくても、こいつの腕は信用できるだろ。今の私たちに必要なのは力だ。そしてこいつはそれを持っている。

それだけでいい、こいつの腕だけを見てくれればいい。私の我が儘に付き合ってくれないか?きっとお前たちの助けにもなる」そして頭を下げられる。二人は驚き、思わず顔を見合わせる。

今までこんな場面を見たことがないからだ。

 レイラの言いたいことも分かる。確かにこのままでは勝ち続けるのは難しい。一回の戦闘毎に甚大な被害が出てしまっては、先にこちらが力尽きてしまう。

その証拠に今回の戦闘ではレイラが死にかけた。いや、自分たちだけでは間違いなく彼女は死んでいた。しかしそれはここにいるユウトという男によって阻止された。貴重な戦力が失われるのを、大事な仲間が失われるのを彼が防いだのだ。そして彼自身、見ているだけで明らかに強者だけが持つ風格や雰囲気がある。それだけで強いと分かる。

その彼が仲間になってくれれば、大幅な戦力増強に繋がるのは間違いない。メリットはある。

しかしレイラがユウトを仲間に引き入れようとする理由はそれだけではない気がする。でなければここまでしないだろう。

 レイラにこうまでさせる何かがユウトという男にはあるのだろうか。それは二人には分からない。

ならばレイラの言うように、しばらく行動を共にしてから考えてみよう。

今はまだ完全に信用した訳ではないが、その時にはまた違った答えが出るかもしれない。

結論を出すのはそれからでも遅はくない、そう思った二人は小さく頷いた。

「分かった、その代りもしこの人が俺らに刃を向けることがあったら…」

「その時はどんな手段を使ってでも私が止めてみせる。我が儘を言っているんだ、それぐらい当然だろう」

それを聞き、頷くと「まぁ、レイラが一人でやることはないよ。その時は俺も戦うし」

「私も…、何ができるか分からないけど、何かできると思うから…」

「そうそう。全員でかかれば何とかなるでしょ」そう言う二人を見て、改めて良い仲間に恵まれたな、と思い、感謝の言葉を口にした。




 三人がそんな会話をしている時、ユウトは一人考えていた。

呟くようにレイラに言った台詞の後から、外界の様子が頭に入って来ずに、周りの情報をシャットアウトしてしまっていた。完全に自分の世界に入っていたのだ。

なのでルーギとカレンがユウトの気に障らないように、遠慮がちながらも自分たちの意見を言った時も、そもそも聞いていなかったので、二人の配慮は徒労に終わった。もっともそれは誰も知らず、また知る必要のないことである。

 ユウトはレイラに誘われた時、驚く半面嬉しかった。有頂天とはいかなくても、内心舞い上がっていた。

今まで何かをしようと誘われたことは数えるほどしかなく、良い所数合わせ程度にしか考えられていなかったからである。

大村でいい、それは悪気が無いながらも彼の心を傷つけた。いや、だからこそ、と言った方がいい。

自分は必要とされていないのか?いてもいなくても同じではないか?自分を必要としてくれる人がいると言うがそんなものは嘘だ。周りの人間は自分に冷たく、無関心で、何事もないように通り過ぎて行く。

誰にも必要とされず、何の役にも立たないのなら、自分は何の為にいる?そんなことを考えてしまっていた時だ。

 それはレイラが言ったように差しのべられた手だった。

自分が必要だ、とは言われていないのだが、彼にはそう聞こえた。

そう言われて嬉しくない人間などいるはずがない。誰だって『お前がいい』と言われれば少なからず嬉しいものだ。それが好意を寄せている相手からなら尚更だ。

その誘いに一も二もなく乗るつもりだった。しかしふと思った、自分はいつまでここにいられるのだろうかと。

 前にも言ったがここに来た方法だって実のところ正確には分かっていない。あれだって偶然に偶然が重なった極めて稀な事例といえ、むしろそうとしか言えない。しかし偶然の一言で済まされたくない思いもあった。

とはいえ、それが一番可能性の高いものであり、説明がつきやすい。でなければこんな漫画みたいな体験が起こる理由が説明できない。ましてやそれが自分の身に。

 しかし事実は小説よりも奇なり、ということわざがあるようにフィクションよりよっぽどフィクションな出来事に遭遇することもある。今自分がその状況になっているのだから。

そしてそんな摩訶不思議な状況から抜け出す方法が分からない。ここに来れた正確な理由が分かれば話は別なのだが。

前は考えている場合ではなかったが、今度はそうはいかない。そろそろ考えておかなければ何かと都合が悪くなる。

 行きたいと思っていた憧れの世界に理由が分からないとはいえ来れたのに、帰ることを考えるのは勿体無い半面、当然と言える。それはやはりその世界の住人ではないからだろう。

また方法が分かっていれば心にゆとりが持てるので心配の種がなくなるのだが、このままではもしかしたら一生ここにいることだって考えられる。その不安が、恐怖がユウトを襲った。

それはそれでいいと思う人もいるかもしれないが、彼はそうではなかった。いくらこの世界に順応しているとはいえ、元は異世界から来た、ここには本来いない存在なのだ。

それを理解しているのか、何となくここは自分のいるべき世界ではないと心のどこかで思い、どれだけ退屈で変わり映えのしない毎日であろうと、向こうがユウトの生きる世界だと無意識に悟っていた。

 そしてもう一つ気がかりなことがある。それは時間だ。滞在時間とも言えるだろう。

もしかしたら時間制限があるのかもしれない、そしてそれを過ぎれば強制的に元いた世界に戻されてしまうかもしれない。そんな話を聞いたことがある、というより見た。もちろんそれは映画という名のフィクションだが。

 ちなみにそれは今回のように異世界ではなく過去に行って自分が行ってしまった事、行動しなかったために決まってしまった不本意な結末。

そうなってしまった主人公が過去を変え幸せな未来、自分が思い描いていた姿になるというストーリーだ。

制限時間は12時間、それはタイムマシンだか何だかよく覚えていないが、とにかく過去に行く手段を見つけた人から伝えられたものだった。それを過ぎれば強制的に現代に戻ってきてしまう。

まぁ、ありがちといえばありがちだが、限られた時間の中でもがいて奔走し、未来を変えようとする主人公の姿が深く印象に残った。

なので、もしかしたら自分が体験しているこれもその映画と同じではないかと思う。この事象の事を完全に把握している訳ではないので、そうだとは言えないのだが、そうではないとも言えない。

しかしその映画とはいくつか違う点がある。それは先ほど述べたように過去ではなく異世界であるということ、もう一つは行き来する方法を知る人物がいないということである。

 もし滞在できる時間が決まっているのなら、一緒に行動する訳にはいかない。

その時が来てしまったら強制的に元の世界に戻ることになり、急に彼女たちの前から姿を消すことになる。そうなってしまっては心配するなと言う方が無理な話だ。

 制限時間が分からず、そもそもあるのかどうかさえ不明である。

そんな不安要素や不確定要素を抱えたままではどのみち迷惑にしかならない。ならばここでお別れをするのが一番いい考えだろう。

その後、元の世界に帰る方法を探すなり、制限時間があるのかどうか確かめるなりすればいい。このまま共に行くのは得策ではない。

そう考えるとレイラを見て、自らの意思を伝える。

「気持ちは嬉しいんだけど、お前たちとは一緒に旅はできない」そう言うと、一瞬の間をおいて三人はえ?というような感じになった。何の前触れもなく言ったためか何を言っているんだろうか、という表情になる。

「何故だ?何か問題でもあるのか?」

「ああ、ものすご~く個人的な理由が。だからそのことで迷惑をかける訳にはいかないんだ。

それに…俺は、本当はここにいちゃいけない人間だからな。だからお前たちは俺のことは忘れて、今まで通りお前たちでお前たちの旅を続けてくれ。俺も俺の旅に出るからよ」そう言ってどこか寂しげに笑う。

しかし断られることは想定内だったのか、そうか、と呟いてユウトを見る。

「だが、それは無理な話だ。お前を忘れるなんてことはこの場にいる誰もできない。忘れるにはお前の存在は大きすぎる。…というか衝撃的すぎた。そして私たちの意識に深く入ってしまっている。

それに迷惑だなんて思わない。迷惑をかけたくないという気持ちは分かる、私もそうだからな。だがそれはお前が言った事と矛盾するんじゃないか?」

「……?」何を言ったっけ?考えても思い出せないので黙って続きを待つ。

「本当に仲間の事を思っているのなら、荷を分けることも大事だと」

「…!」そうだ、そんなことを言ったような気がする。

「お前自身まだ私たちのことを信用できないのなら仕方がないと思うが、今のお前を見る限りではそうは思わない。

まだ仲間でないはないと言うならいつからがそうなのか、明確な定義があるわけでも、誰かが決めるものでもない。自分で決めるものだ。

私はお前を仲間だと思っている。たった一度の共闘でと言うかもしれないが、そうなのだから仕方がない。

お前はどうなんだ?私たちのことを」

「俺は…」どうなんだろう。レイラの言うことも分かる。

こちらは彼女たちの素性や人柄が分かっているので警戒心は特にない。信用はしているが全幅の、とまではいかない。また仲間というならどうなのだろう。まだその段階までいっていない気がする。それも己の心次第。自分がそう思えばそうであり、そう思わなければそうではない、これはそういうものだ。

「正直よく分からん」率直な感想を言う。

それに満足したのか、そうか、と言ってフッと笑った。

「話を戻すが、さっきお前が言った迷惑になると思っていることがお前が背負っている荷だと私は思う。そしてそれはお前が一人で背負う必要はないとも。

言いたくなければ無理に訊こうとは思わない。だが、その荷を分けられる存在に私たちはなれないだろうか?」強い視線を向けられる。

 ユウトは分からなかった。何故そこまで自分にこだわるのかと。

初対面からさほど時間が経っていないにも関わらず、何故ここまで深く入ってこようとするのか。何故俺の味方になろうとするのか。

「一つ訊いていいか?」気が付けばそう口にしていた。

「お前は何故そこまで俺にこだわる?お前らの為を思って忠告していたフラッツを遮ってまで、その事で険悪になってまで俺を引き入れようとする狙いはなんだ?」

数瞬の間の後「私は恩返しをしたいんだ」と答えた。

「お前がいなければ私は死んでいた。今私が生きていられるのはお前のおかげだ。ならばお前の為にこの命を使いたい、だがお前はそれを望んでいない。ならば私に何ができる?その時だ、その恩人は重い荷を抱え苦しんでいることに気づいた。それを少しでも軽くして楽にしてあげたい、そう思ってるんだ。

もちろんそんな程度でこの大恩を返せるとは思っていない」

「………」

「それに…何だかここで別れてしまっては二度と会えない気がしてな。だからどんな方法でも良い、傍にいたいんだ」

「そしてお前はその荷を負って誰に分けるでもなく、また一人で抱えるつもりか?

前にも言ったが別に恩を感じてほしいでも、何かしてほしい訳でもない。それに俺が救ったといってもそれはお前の命だ。俺が自由にしていいもんじゃねぇ。俺の為より自分の為に使った方がよっぽどいい。

その気持ちは嬉しいがはっきり言ってお節介だ。お前に俺の何が分かる」

「だからこれから知っていくんじゃないか」即座に返された、ある意味では真理ともいえる言葉により思わず言葉を失う。

そうだ、俺たちはさっき知り合ったばかりだ。知り合って間もないというのに互いの事が分かる訳がない。だからこれから共に過ごしていく中でそれを知っていくんじゃないか。そして絆を築き、信頼関係を構築して確固たるものにしていく。そんな単純なことを今言われるまで気づかなかった。

「こちらも嫌なことを無理強いするつもりはない。だから本当に嫌なら諦めるさ。

でも迷惑とか厄介とかそういった類のものを取っ払った時、お前はどう思う?本当の気持ちを教えてくれ。

それがどんな結論であっても本心なら私は受け入れる」そう言ってユウトを見る。その瞳は嘘は許さない、真実を言えと強く物語っていた。同時に共に行きたいんだと懇願する思いも浮かんでいた。

 元々レイラを助けるためにこの世界に来たようなものだ。もっといえばあの場で彼女が死ぬのを阻止する為にだ。

その目的を果たした今この場にいる意味はない。本来ならば出会えることは無い、出会えるはずもない人物が目の前にいるのだ。本当はもっと色々話をしたい、ずっと見ていたい、もっと深く関わって親密な仲になりたい、できればもっとその身に触れたい―――。

しかし、多くを望みすぎては碌なことにならないのはよく分かっていた。よくばっても結局何一つ自分の手には残らない、何も手に入れられない。

 二兎を追う者は一兎をも得ず、ならばここで会えただけでもよしとしよう。それ以上を望むのは許されない。だがもし一つだけ我が儘が許されるなら、俺は―――。

「一つだけ条件がある」

その言葉に全員の表情が真剣になる。それを見てやや口角を上げると

「俺は流浪の民、またいつどこへ流れるとも限らん。ふらっとお前たちの前から黙って姿を消すこともあるかもしれない。その時に俺の心配をするな、俺を探そうとするな。…それが条件だ。それを受け入れてくれるならこちらからお願いしたい」

少しの間沈黙が漂うが、ふっと笑みを浮かべると「分かった、これからよろしく頼む」と言って右手を差し出した。それにきょとんとするがすぐに意味を理解し、その手を握り返した。

 ああは言ってるが、いざいなくなったら間違いなく探すだろう、心配するだろう。

結局彼女はお人好しなのだ。警戒心を持っていても、、一度それが解かれると自分の事のように深く考え、どこまでも信じようとする。それが得体の知れない者であろうと謎に包まれた人物であろうと。

だからこそ自分は彼女に魅かれたのだろう。彼女の為に手に入れた力で彼女を、彼女の志を護るのだ。それがいつまで続けられるかは分からないが、別れの時が来るその日まで、その時まで傍にいて力になろう。そう誓う。

握った手から伝わる確かな温もりは、ユウトの中にある凍った人を信じる心を少し溶かしたような気がした。












「駄目だ」腕組みをしてきっぱり言い切る。その表情は険しく、ユウトを見る目は敵を睨むかのように鋭く、警戒を全面に出している。それを見て、ああやっぱりな、とある意味予想通りの反応が返ってきたことに内心辟易した。

 彼らは現在傷の手当てと休養を兼ねて、アンポ―ジのとある民家を訪れていた。

ユウトの同行が決まった後、先に行ったフラッツと合流する為に、その場を後にしようとした一行はこのことをどう伝えればいいか考えていた。

が、どう言ったところで反対するだろうと全員一致の答えに至ったことに思わず苦笑いしながら、結局直球で話をしようという結論になった。

「でも、あいつのいない時に決めたから怒るんじゃねぇか?」

「だろうな。だが、居たら居たでまとまらなかったぞ。これが一番いい方法なんだ、…多分」

 しばらく歩き、アンポ―ジの入り口に立つフラッツを発見する。

こちらの存在に気づいたフラッツは駆け寄ろうとするが、ユウトの姿を視界に入れた途端、不機嫌そうな表情になったことが離れた所からでも分かった。

ルーギとカレンと一言二言交わすと、チラチラと視線をレイラに向ける。だがそれに気づいているのかどうか分からないが、一度もそちらを見ることなく、彼女はユウトと会話をしていた。

そしてダミルの元へ行こうと声を掛けようとした時、その人物が彼らの前に現れた。

直後新手の敵かと戦闘態勢に入ろうとしたレイラとルーギを諌めると、前に進み出て軽く会釈すると、自分を含め全員無事であること、目的を果たせたことを報告する。それに労いと感謝の言葉をかけた後、ユウトと言葉を交わす。

ユウトが親しげに話している姿を見ると、当然知り合いだということが分かり、大丈夫だと判断すると警戒を解き、ユウトからダミルについて紹介されると、それぞれ簡単に自己紹介を済ませた。

そして事情を説明し、手当てをしたい旨を伝えると、快く了承して彼の自宅に案内された。

一通り手当てが終わり、落ち着いた頃を見計らってレイラがユウトが一行に加わる事をフラッツに伝えると、先述した反応を見せた。

 伝える役目を担ったレイラはもちろんのこと、現同行者の二人も内心まだそうかと思い、それが表情に出てしまう。

若干ため息を吐きながら「何故だ?」と呆れを含ませた声で尋ねた。

「当たり前だろ。俺はそいつを信用していない。奴の剣がいつ俺たちに向くか、俺たちを危険に陥れるか分かったもんじゃない。そうなってからでは遅いんだ。いい加減目を覚ませ」

「お前の言うことも分かるが、そこまで危険な要素を私は感じない。それにお前はユウトのことを疑ってばかりだ。それが悪いとは言わないがお前の場合は異常と言っていい。

警戒と拒絶は違うぞ。お前は明らかにユウトを拒絶している。何がそんなに気に食わない?何がお前をそこまでにする?」

「全てだ。それに俺の見立てじゃこいつはお前より強い。それがどういう意味か分かるか?

こいつの凶刃が俺たちに向かった時、それを止められる奴がいないということだ。誰もこいつに勝てないんだからな。

そしてそいつは自分の情報を明らかにしようとしていない。これでどう信じろと?」

「人にはそれぞれ事情がある。言えない理由があっても不思議じゃない。それを無理に訊き出すのは互いにメリットがなく、嫌な気持ちになるだけだ。少なくとも私はする気にはならない」

「だとしてもだ。信じてほしいならそれなりに信用してもらおうと努力するのは当たり前だ。もしくはそれに見合う対価を差し出すのは当然だ。それをしようとしないこいつは人間としても信じる気になれん」

「だからそれがユウトの力だと言っているんだ。今回の戦闘で分かったがこのまま勝ち続けるのは難しい。

強さにそこまで差がなければ何とかなるが、別組織ということは差が開いているのが普通だ。

そいつらを相手にした時勝てるのか?全員が無事でいられるのか?そんな保障はどこにもないんだ。

だがユウトがいればそうならない可能性が高くなる。それにこいつほどの力があれば戦局を有利に進められるだろう。これだけの奴、探そうと思ってもできないぞ?」

「だったら強くなればいいだけの話だろ。こんな奴に頼らなくても勝てるようにな」

「その前提があった上で私も話をしている。それに即戦力はすぐに戦力になるからそう呼ぶのであって、それを使わないのはどうかしてるとしか言いようがない。選り好みできるような立場か?奴らは待ってはくれないぞ。ならばなるべく早く戦える状態にして、戦力を増強するべきだ。

使えるものは使った方がいいに決まっている。それが即戦力なら尚更だ」

「なら、多少力のある民間人を戦いの最前線に出す気か?お前の言っているのはそういうことだぞ」

「論点をずらすな。私はユウトの話をしている」

 互いに一歩も退かず、激しい舌戦を繰り広げる。それに似た光景を前にも見た彼らは互いに顔を見合わせ苦笑し、成行きを見守ることにする。

だがこのままでは平行線を辿るだけで、何時まで経っても決着が着かない。

かといって互いに折り合いをつけて双方が納得できる妥協点を見つけられるかといえばそうでもない。

完全に意見が対立してしまているのだ。とは言ってもいずれは双方が少なからず妥協して、良い着地点を見つけなければならないのだが。

 フラッツの意見は素性の知れないユウトの同行には反対、なぜならそんな怪しい人間を同行させてはいつ後ろから刺されるか分からない、信用するに値する根拠がない、故に信用できないという当然と言えば当然の理由だ。それは人間としても、戦士としても。

 一方レイラの主張はユウトはこの場にいる誰よりも強い、つまりそれだけ戦力になるということ。戦力はあるに越したことはない、これからの戦いにはユウトの力が必要であるということ。後は助けられた恩返しだ。

彼女の場合、個人の感情による部分が強いような気もするが、戦力になるという箇所はこれもまた当然と言えば当然である。

つまりどちらの意見も正しい、故に退けないのだ。一歩でも退いてしまえば、相手に押し切られ、こちらの意見は何も通らず、全て否決されてしまう。

 オール・オア・ナッシング。敗けた方には何も残らず、勝った方は全てを手に入れられる。

今回の場合はユウトが同行できるか否かということになるが、それだけではないような気がする。

とにかくそれらを決めるため、二人は互いに主張しあい、意見を戦わせている。

 互いの言いたいことや主張の正当性が分かってしまうがために、これまでの旅路を共に歩んできた者として、そして何時までいられるか分からない、いつ戻されるか分からない不安と緊張を持つ者として、二人の間に入ることができなかった。

そんな時事態が動いた。

「嫌なら抜けてくれて構わない。いや、抜けてくれ」

ただしそれは悪い方向へ。

「っ!」その瞬間フラッツの表情が固まった。彼だけではない、その様子を静観していたユウトたちも同様にだ、一瞬にして場の空気が凍りついてしまった。

 二度目の別離の言葉、一度目は一時的なものであったが、今回は一時的なものではなく、復活の見込みのない、永遠を思わせる声音で通達された。完全なる別れの言葉、言われた人間の心境は察するに余りある。

それが長い時間苦楽を共にしてきた者からなら余計につらく、到底受け入れられないだろう。

そしてそれはルーギとカレンも同様だった。むしろ当事者でないからこそ、その言葉がどれだけの威力があるのかが分かった。

 その言葉がレイラの口から出た直後、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

それを言った本人は尚も続ける、しかしそれを聞いている者は一人もいなかった。

「少しよろしいでしょうか?」ただ一人を除いて。

 静まり返った空間を裂くように、おもむろにダミルが口を開く。彼にフラッツを除く全員の視線が向けられる。それに緊張するでも臆すでもなく、ユウトがここに来た時と同じような人の良い笑みを浮かべる。だがその瞳は真剣さを帯びている。

「あなた方のお話を少し聞かせていただきました。当事者ではどうしても頭に血が上って冷静に話しができない場合が非常に多いのです。本人はいつも通りでいるつもりでも議論が白熱したり、気持ちが昂っていると普段通りでいられるはずがないのです。自分にとって都合の悪いことを突かれると冷静でいられなくなり、攻撃的になる。そうすると目が曇って見えなくなってしまうのです。

往々にして状況を横から見守っている第三者の方が物事をよく理解出来るのですよ。

なに、年寄りの戯言と思って少々話を聞いてもらえないでしょうか?」

「分かりました、お願いします」

 一体何を話すつもりだ、何をするつもりなのか。この人はこの人で油断できないところがある。

あることないこと話すような人ではないことは、少ししかいなかったが分かっている。それでも自分の身の上話をするほどの仲ではないので、必要以上に話をしていなければ、言われて困ることも言ってない。

恐らく俺は信用してもいいというようなことを言うのだろうが、この状況で、この状態のフラッツにどう言って説得するつもりなのか。というか話が聞けるのか?

後はレイラに何かしら言うのだろう。何を言うつもりなのかは分からないが。

自分も何だかんだ丸め込まれた感はあるが、彼女たちを相手にした時、どう対処するつもりなのか。

お手並み拝見だな…。

ルーギの返事を聞くと話し始めた。

「まず最初に思った事はあなた方は仲が良い、互いに信頼関係で結ばれているということです。でなければああは言い合えません。

あそこまで言い合えるのは互いの事を思えているから、遠慮なく言い合えるのはそれだけ信頼している証拠になります。

嫌いな人間、どうでもいい人間ならば何も言わないでしょう。先ほどのやり取りを見ただけであなた方が共に困難を乗り越え、その度に絆を深めていったことが分かります。

仲よきは素晴らしい、しかし関係が深いが故に知らない内に踏み込んでほしくない、踏み入れてはならない場所に土足で踏み入れてしまっています。

いくら親しいといってもその人の事を全て知るのは不可能です。どれだけ努力してもあなたはその人にはなれないのですから。その人の考えや思っていることが分からない、当然です。あなたはその人ではないのですから。どこまでいってもあなたはあなた、他の誰かになる必要はないのです。

考えや性格が違うのは当たり前です。もし同じであるなら、争いなど起こりませんよ。しかしそうではない。なぜなら別々の人間だからです。

いくら親しいといっても、そこには礼儀がなければなりません。礼節を持ち合わせていなければなりません。

レイラさん、でしたね?あなたの言いたいことも分かります。いくら言っても聞き入れてもらえない彼に嫌気が差したのでしょう。そのお気持ちは分かります。しかし、それでもあの言葉は言うべきではなかった」

「……はい」

「一度口にしてしまえば、言葉に出してしまっては消すことはできません。撤回は本来ならできないのです。

言葉も使い方を間違えれば立派な凶器になります。その使い方を今一度きちんと考えなければ、あなたは見えない凶器であなたの周りの人を傷つけるばかりです」

「………」

「そして自分の考えに従わない、賛同できない者には容赦なく制裁を与える。そのやり方は、あなた方が倒すべき敵だと思っているガーマと同じではありませんか?」

「…!」

「軍門に下れば手出しはしない、しかし歯向かったり抵抗すれば滅ぼす。そうでしたね?」そこでユウトを見る。急に話を振られたユウトは多少面食らうが、話自体は聞いていたので「似たようなことは言ってましたね」と落ち着いて返した。それを聞くと再びレイラに向き直った。

「おかしな話ではありませんか。倒すべき敵の存在を消す為に、その敵の考え事打ち砕く為に戦っているはずのあなたが何故、彼らの考えに同調し、実行しているのか」

「それは…」上手く言葉が出てこない。確かに言い過ぎだとは思った。だが売り言葉に買い言葉のように口論していると言わなくてもいいことや、言ってはならないことの区別もつかなくなってしまった。

そしてそれは止まることなく、口から放たれた。それが相手にどれだけのダメージを与えるかも考えずに。

たとえ本心は違くとも、言ったことに変わりはなく、その事実は消せない。弁明をしてもそれはただの言い訳にしかならない。

 自分は冷静でいるつもりだったが、実際はそうではなかったようだ。ここで初めてダミルの言ったことの意味が分かった。

「…あなたの場合は本心ではなかったのでしょう。恐らく頭に血が上ってカッとなってつい言ってしまったことと思います。生きてる人間である以上どれだけ人の良い人間とはいえ聖人君子ではありません、なれません。

清廉潔白で心に一点の曇りもない人間などいません。そしてそういう存在を私たちは神と呼びます。

人は決して神にはなれません。しかし人だからこそできることもあるのです。

ですからあなたがその考えを持ったことを私は咎めることはできませんし、人である以上仕方がないと思います。ですが、その考えの下動く組織と戦う立場の人間が持ち合わせているのはどうでしょうか?そこでじっとレイラを見る。その瞳は正しい答えを出してくれるのを信じているようにみえる。

やがてレイラは息を一つ吐き出すと、視線を落とした。

「…そうですね。あなたの言う通りです。知らない内に私は独断専行で都合の良いように決めてしまっていた。そしてそれを邪魔するものは排除していた…。今回だけでなく、よくよく思い返せば思い当たる節がいくつもありました。…これでは奴らと同じだ」

「気にするなとはいいませんが、そこまで気に病む必要もありません。人である以上その感情を抱くことは自然なことなのですから。

誰だって自分の思い通りに進めたい、それに立ちふさがる障害は全力を持って叩き潰す。人であれ、人でなくても。しかし時と場合を考えなければなりません。ましてやそれは簡単に口に出していいことではありません。特にあなたは」

「え…?」それはどういう意味、そう訊く前にダミルが続ける。

「あなたはこのパーティのまとめ役でしょう。まとめ役が簡単にそんなことを言うパーティに力はあっても価値はありません。だからこそまとめ役には重い責任と負担がのしかかります。

しかし実績を積み、名が売れた時、その恩恵を一番受けられるのもまとめ役です。

一番大変だから一番得がある、だからやる意味がある。いやらしい話かもしれませんがまぎれもない事実でもあります。

あなたは名声や富を求めているとは私は思いません。ただ己の信念の下戦う、損得関係なしに、そう思います。そして素晴らしい人間であると感じます。

だからこそあなたを慕い、この方たちが集まった。大なり小なり思うところはあるかもしれませんが、それでもかけがえのない大切な仲間です。

そんな仲間に簡単に抜けろ、などと言ってはなりません。あなたなら私の言っている意味が分かるでしょう。

大丈夫、あなたならしっかりと役目を果たすことができます。自信を持ってください」

「はい…ありがとうございます」軽く頭を下げる。この様子は相当堪えているようだ。

「まとめ役というのは大変な役割です。しかしそれを経験した人を成長させるものでもあります。そしてその経験は必ず生きます。

しかしだからといって変に気負ったり、一人で何もかも抱え込んでしまってはなりません。まとめ役だからといって、全てをあなたが一人でやる必要はないのです。

存分に仲間を頼ってください、あなたが抱えているものを仲間にも分けるのです。それでこそ仲間ではないでしょうか。そうでなければ仲間の方も寂しいでしょう。

そしてその仲間が苦しんだり、心に重い荷物を背負い込んでいる時には、今度はあなたがその仲間を助けてあげてください」

「難儀なものですね」それまで壁に寄りかかって傍観していたユウトが、場の空気を和らげるために努めて明るい調子で言う。ダミルもそれを理解したのか同じように返す。

「そうですね、しかしだからこそ面白いと思いませんか?」

「まぁ、分からなくはないですね」そう言って順番にレイラ、ルーギ、カレン、そしてフラッツを見る。

 支え、支えられる。どちらか一方が頼り切りになって寄りかかるのではなく、互いに足りない部分を補い合い、助け合いながら共に生きてゆく。

口で言うのは簡単だが、やろうと思ってすぐに、楽にできることではない。

力が同じであればそれを早めることができるのかもしれないが、必ず多少は実力差があるもの。

そして知らない間に実力が上の人間に頼る機会が多くなり、やがて頼りきりになる、頼られるようになる。

と言えば聞こえはいいのだが、実際はただ体よく押し付けられているだけのようにも思える。

そしてそれをこなせばまた次、また次。『この間だって大丈夫だったろ?今回だって何とかなるさ』

かなり無理しても『やった』という結果しか見られず、できると思いこまれる。本人もそう洗脳されていく。

 相手が悩んでいる時に、少しでも心の重りを外してやろうと気遣ったつもりの台詞でも、言われた側は心が軽くなるどころか、むしろその言葉が期待として重くのしかかる。

失敗したら絶望させてしまう、こいつでもできないのかと。見放されてしまう、この程度だったのかと。

その強迫観念に苛まれ、自らを追い込み、身も心もボロボロになる。

そして成功することが当たり前になり、失敗が許されなくなる。誰からも評価されない、労いの言葉もかけてもらえない、自分の頑張りを見てもらえない。ならばもっと、もっと頑張れば認めてもらえると思い、その思いが空回りしてしまい、やがて実力以上のものを要求されてもできないとは言えなくなってしまう。

そして無意識の内に自らプレッシャーをかけてしまい、要求した側も悪気はなく、こちらもまた無意識の内にプレッシャーをかけてしまう。

そして誰にも打ち明けられずに、一人で何でも背負い込むことになって、身動きが取れなくなり、やがて背負ったものに潰されてしまう。

 もっとも実力以上のものを要求されるという点については当たり前といえば当たり前である。そうしなければ何時まで経っても成長できないからだ。しかしそれだって本来は自分が決めるものであり、他人に強制される謂れはない。

強制されればより重圧がのしかかり、失敗できなくなる。しかし実力以上なのだ。

将来的には越えられても、その時点では実力以上なのだ。本来だったらできないのが当然だ。

しかし何故かできると思ってしまう。それで失敗するとできなかった、自分はダメな奴だと自らを責めるのである。

 確かに結果だけを見れば失敗であろう。しかし何か掴んだ失敗と、何も掴まなかった失敗とでは天と地ほどの差がある。

 何か掴めたのなら次に生かすことができ、それを踏まえて挑むことにより、成功する確率が高くなる、成功に近づく。しかし後者なら同じ結果になるだろう、全く何も変わらず。

『何か掴んだ』それは成功の糸口なり、それに準ずるものであったりとあるが、その点だけを見れば何か掴んだことに成功した、となり、ある意味では成功したと言える。

 しかしそんな捻くれた考えを全ての人間が持っている訳ではない。なので要求した側も単純な結果だけを見ずに、内容も見なければならない。そうすれば今後の方針も自ずと決まってくる。でなければいつまでも人が育たない、結果至上主義では蹴落とす考えの人間しか生まれない。それでは更なる成長は見込めず、そこで止まってしまう。だがそれが現状だ。

 そして何より今のままではあまりに要求される側よりの意見だと思われるだろう。

自分のできる範囲でやれと言うつもりはない。時にはそれ以上のものに立ち向かわなければならない。その結果がたとえ芳しくないものであったとしても、挑む前と後では明らかに変わっているはずである。そしてそれは成長と呼ばれるものだ。

その経験を何度も繰り返し、人は大きく、強く成長していくのだ。

 時にはできないと言うことも大切だ。逃げるというのも一つの手だ。でなければ何でもかんでも背負い込んで、雁字搦めになって疲弊して戦えなくなってしまう。しかしできないと言い続けるだけでは何も変わらない、逃げるだけでは成長できない。

怖くても、勇気を振り絞って立ち向かう必要もある。だからと言って一人で無理をしてはならない。それで苦しむのは自分自身なのだから。それが常だとは言わないが、今回の場合はそれに該当する。

 前にも言ったように、このパーティはレイラが中心となって活動している。故に彼女は頼られることが多くなり、彼女もまたそれを当然だと受け止めるようになる。

最終決定権は彼女にあり、意見が割れた場合でも彼女の意見が最終的な結論であり、このパーティの指針になる。

 まとめ役というのは、その中で思慮深く冷静であり、かなりの実力を持ち合わせていなければならない。

そのために矢面に立ち、降りかかる火の粉から仲間を護るために奮闘したり、何かあった時には状況を判断し、指示を出す。そして出された側は当然その指示に従う。

誰かが中心となって指揮しなければ統率のとれない烏合の衆になり果てる。そうなってしまえば本来できるはずのものもできなくなる。逆に一つになれば、できないことでも協力しあうことで大きな力になり、達成できる。

 だがそれは誰かの指示がなければ動くことができないことにもなる。

そこに向かうため、本当だったら柄じゃないと思ってもやらなければならない。そうなると出す側の負担は倍増する。

だから結果的にまとめ役やリーダーになる人間というのは、意思が強く、心が強く、絶対の自信を持ち、カリスマ性、あるいはリーダーシップでもって率いることができる人間だと錯覚するようになる。

そしてそういう人間は当たり前だが頼られる機会が多くなる。

最初は割りに合わない、負担が大きすぎる、身に余る、と思ってもそれが続けば当然と思うようになる。

そしてそれは慣れと呼ぶ。だが言い方を変えれば感覚がマヒしているのだ。

長く続けばそれが常識だと錯覚し、頼られる人間は頼れなくなってしまう。

 俺たちは苦難を共に乗り越え、決して切れない繋がりを持った最高の仲間だ、と言うが、それは本当に仲間と呼べるのだろうか。そんなことを平気で口にできる集団は碌なものではない。

体よく押し付けられ、大変な思いをして成し遂げた、また、上手いこと押し付けて自分たちはおいしいところだけを味わっているように見える。

 本当の勝利とは一人では掴み取ることはできない。その場にいる全員の協力が必要不可欠だ。だが中心となる人間がいるのも、その人物が一番大変な思いをしているのもまた事実。

表面上は労わっても、心の中では面倒なことを押し付けた、押し付けられた。でもそれぞれ役割があるのだから手伝えと言う訳にもいかない。だから結局一人でやることになる。

 自分の役割を果たすのは当然だが、それと手伝わないことは違う。他の人のところまで手が回せるのに、自分の事しかやらないのはどう考えても怠慢だ。

指示を出す人間が苦しんでいるのなら、そうでなくても手伝うのは当然だ。しかしそれをできる人が一体どれだけいるのだろうか?

 少なくとも彼女たちにそれは当てはまらない、そして指示を出す、受ける、黙って従って意見を言わないという関係になっているということはそこには上下関係がある。

そう、今のレイラたちは仲間と言う名の上司と部下の関係ではないか。

これまでの経緯を見て、明らかな上下関係があることが分かった。しかしそれでいいのだろうか?

一方的に頼られ続けなければならないのだろうか、頼ってはならないのか。否、一方的に頼られ続ける必要はなく、頼ってはいけないなどと誰が決めた。頼りにくい気持ちは分かるが、それで自分が潰れてしまっては元も子もないだろう。

 潰れるのは弱いからだ、そんなことを言われるがそれは間違っている。だったら自分はできるのか、平気なのかと問いたくなる。できないことを人に押し付け、後は知りません。たとえ苦しんでいても自分は関係ありません等とどの口が言うのか。できもしないことを、面倒なことを押し付けて、できなければあいつは駄目だ、使えない等と暴言を吐き、批判する。何様のつもりなのか。

しかしその考えも全て的外れとも言えない。それは潰れた後ではなく、潰れる前の話であるが。

 その時に誰かに頼れていれば結果は変わっていたかもしれない。協力して、または助言を受けていればダメージは軽く済んだかもしれない。言い出せなかったのは心が弱かったからと言える。

一人で耐えることができなかったことが弱さではなく、自ら助けを求めることができないことが弱さなのだ。

本当に一人であれば心の内情を打ち明けられないから仕方がないというしかない。しかし、大半の人はそうではない。

自分が意識していないだけで、気が付かないだけで手の届くところに誰かいるものだ。

そしてその人と協力して問題を解決する。最初は言いずらいだろう、迷惑だと思って言えないかもしれない。ひょっとしたらどこかで自尊心が邪魔をして、頼ったら相手より下だということを自ら認めるようでそんなことはできないと言うかもしれない。実際はそんなことはないのにも関わらず。

だがそこを一歩踏み出して言うことができれば、二度目からはすんなり言えるようになる。そして頼られる側だった人間も、それを何度か繰り返す内に、自分だけでは解決できない問題に直面した時、その人間の存在を把握している為、頼ることができるようなる。また頼る側の人間も自分だけではと、相手を気遣い、困ったことがあったら力になると、頼ってもいいことをアピールし、良好な関係を築ける。

 協力しあうということは互いに良いところを出し合って、悪い部分を修正し、足りない箇所を補いより良くしていく。それは支え合うともいえる。そしてそれは何より互いの事を知らなければできないことだ。

故に支え合うとは互いに想いあうこと、とも言える。

それは一方的な押し付けられる関係では決して辿り着くことはできない。

こう言えば難しい、自分では無理だと思うかもしれないが、実は誰でもその関係になれる。無論自分勝手では不可能だが。

そしてそれはレイラやユウトたちも例外ではない。だからダミルは途中敢えて苦言を呈したり、やや厳しい口調で責めたりしたのだろう。だがそれは彼自身が信じているからではないか。

しかしそう簡単になれるものではない。ましてや一朝一夕などまず無理だ。長い時間をかけて初めてなれる。なろうと思ってなれるものではなく、気が付いたらなっているものなのだ。

 その過程は誰も気づかない、ある日ふと気づくのである。隣にその人間がいるのが当たり前であると。

そうなれるのはとても幸せなことだ。そしてそれがどれだけ贅沢で、素晴らしいことなのかは当事者には分からない。横で見ている傍観者、持っていない者の方がその価値が分かり、理解出来るのである。だからこそユウトも望むのだ。

そして短くはない時を共に過ごし、幾多もの戦いや試練を乗り越え、多少なりとも互いの事が分かっている、見えにくいが、その未来が微かに見えた。だからこそ持っていないユウトはそれを持とうと共に行くことを望み、傍観者であるダミルは誰よりもその僅かな可能性を信じているのではないか。

「私たちは頼られることが強さだと思っています。それは間違いではありません。ただそれだけではないのです。

頼ることもまた強さなのです。押しつけではいけません。そこに信頼関係がなければ、信じ合っていなければなりません。そうして頼り頼られるようになって初めて、本当の意味で仲間になれるのではないでしょうか。

最初から強い者などいません。様々な経験を経て、徐々に強くなっていくのです。

もちろん強くなるのにかかる時間というのは個人差があります。早い人もいれば、遅い人もいる。

早く強くなりたい、望む強さを手に入れたい、そのお気持ちはよく分かります。

しかしそこで焦ってしまってはいけません。大事なのは焦らないことです。焦ってしまっては結局何も得ることはできず、散々な結果にしかなりません。

最初から上ばかり見てはいけません。しっかり己を自覚し、前を見ることです。

…皆さんはまだお若い。私の言うことが理解できないかもしれません。でも今はそれでいいのです。

若い内はひたすらに修行に励み、様々な経験を経てどこまでも強くなろうと、強さに貪欲になって、己を高め続けてください。するとある時、私の言った事の意味が分かるはずです。

ただこれだけは覚えておいてください。人は一人では生きられません。誰でも誰かとどこかで繋がって、支え合っているのです。そしてその人を見つけたら、気が付いたら、大切にしてください。かけがえのないパートナーなんですから」そう言ってほほ笑んだ。

 本当にそんな人がいるのだろうか?いるとしたら出会うことができるのだろうか?

確かに人は一人では生きられない。例えば一回の食事に関していえば、肉や野菜、魚は育てる人、収穫する人、獲る人がいなければ、また運搬する人がいなければ食卓に並ぶことはない。

つまりその人たちがいなければ食べることができない。食べられないのであれば当然死あるのみだ。

 そもそもユウト自身、親がいなければ産まれてくることはなかった。存在すらしていない。もはや命を授かる時ですら一人ではどうしようもできない。一人では生きられない以前の問題だ。

もちろんダミルは言いたいのはそういうことではないことは分かっている。その前提があった上でだろう。

 互いに信頼関係で結ばれ、頼り頼られる存在、そんな人がいるのだろうか。

見えないところで繋がっているというが、それを実感したことはない。

今まで疎外感や劣等感しか味わってこなかった自分と繋がっている人間など本当にいるのだろうか。

 ユウトはまだ16だ。本人にとっては長くても、世間一般から見ればまだまだ短い人生しか生きていない。その16年という短い時間の中でそういう人間に出会える方が少ない。

もっとも幼い頃からの知り合いでもいたら話は別なのだろうが、残念なことに彼には幼馴染みも昔からの付き合いのある人も、特別仲の良い人がいるわけでもない。そんなものは漫画の世界でしか存在しないとさえ思ってしまう。

そしてそう思う理由は年の若さに加え、学校という狭い枠組みの中でしか生きていないからとも言える。

世の中は広い。自分が思っている以上に。学校が全てではないのだ。人生という長い時間の中でみればその時間など僅かなものにすぎない。むしろそこを越えてからが始まりなのだ。

だが彼はそれに気づいていない、学校が全てだと考えている。しかしそれも無理はないかもしれない。今までそこで生きてきた人間はそこでのことしか分からず、自分の所属する場所が居場所であり、世界であり、全てなのだ。

 いざその世界から出ればすぐには受け入れられない。自分の世界ができていて、今までいた場所とはルールも何もかも違うからだ。異質のものを理解し、取り込むのは思っている以上に大変であり、苦労する。

しかしそこを越えればあまりの世界の広さに目が眩み、自分はなんて狭い世界で生きてきたんだろうとある意味感心するのだ。だがそれは自分で体験しなければ真には理解できない。聞くのと実際に見てみるのとでは違うように。それを学校にいる間に気づくことができる人間は一体どれだけいるんだろうか。恐らくそう多くはないはずだ。大多数の人間はそもそもそんなことを考えないだろう。そしてユウトもそのうちの一人だ。だから学校というある意味特別で窮屈な場所で見つけようと躍起になっているのだ。

もちろんその中でも見つけられる人はいるだろう。しかし極めて少数であることは間違いない。

またそれをはっきり認識し、自覚できる者は更に少なくなるだろう。

それが彼の元いた世界の現状だ。しかしここならどうだろうか。

 一歩間違えれば死に至り、戦いともなれば常に命の危機に瀕し、時には己の命を顧みることなく突撃しなければならない時がある。となれば一人で行動するのはかなり危険であり、それができるのは相当な腕を持った、むしろ一人の方が自由に動けて戦いやすく、結果的に生存しやすい人間でなければ不可能だ。今のユウトのような。

だがそんな人間ばかりではない。その為単独行動はせず、徒党を組む。そうすれば負担を分けることができ、自分のやるべきことに集中でき、助け合えるので結果的に生存率が高くなる。

しかし互いの意思疎通がうまくいかなければ一人の時より危険になる。だが不思議なもので同じ敵を前にし、己の命を懸けて共に戦う時、最小限の会話やジェスチャーだけで互いの言いたいことが理解でき、次の互いの動きが分かるようになるのだ。

けれどそれは一時的なもので、例えるなら火事場の馬鹿力のようなものかもしれない。神経が研ぎ澄まされているからかもしれないが、それを何度も繰り返し、常日頃から行動を共にするようになれば自然と互いが信頼しあうようになり、思い描いた理想の関係になれる。だがそれにはやはり時間がかかる。

 ダミルの正確な歳は不明だが、少なくてもユウトの3倍は歳を重ねているだろう。そこまでいけば気づけるのだろうが、そこまで待てない人が大多数ではないか。誰だって早く出会いたい、そうなりたいものだ。

 ユウトの元々いた世界では命の危機に瀕するような出来事に直面することはまずない。そうなる方が難しいといえる。しかしここでは違う。

戦士である以上、否が応でも戦いに巻き込まれ、戦わざるを得なくなる。そうすれば自然と誰かと出会うものだ。真のパートナー成りえる存在に、互いに命を預け合えるような仲に誇張ではなく、誰でもなれる。

そんな世界が羨ましい。

  自分はどうなんだろう。諦めなければ見つけることができるのだろうか。

ダミルの言っていることが分からないわけではない。彼自身薄っぺらい関係など望んでいない。互いの事を誰よりも知り尽くし、本気で相手の事が考えられ、信頼される深い関係を望む。

できるだけ早くそうなれる人と出会い、そうなりたいと思うが、絶望するには知らな過ぎて、今の段階で結論を出すのはあまりに早計過ぎる。ダミルと同じぐらいの歳までは無理だが、もう少し待ってみよう。

そんなことを考えているとダミルと視線が合う。少し笑って軽く頷く。それにどんな意味があるのか彼は知らないはずだが、理解したように笑みを濃くした。

 そして項垂れたままのフラッツを見る。

「フラッツさん、でしたよね?」その呼びかけに反応することはなく、表情からも何を考えているか読み取ることができない。しかしそれに気を悪くすることもなく「そのままで良いのでお聞きください」と続けた。

「あなたの言いたいことも分かります。見ず知らずの彼を仲間に引き入れるのは自ら危険を招くようなものだ。その彼にいつ背後から刺されるか分からない、そう考えるのは当然でおかしいことではありません。

正常と言えます。あなたは仲間の中で誰よりも危機察知能力が高く、警戒心が強い。それはあなたの誇るべき長所です。それによって助けられたことはあるでしょう」それにルーギたちが同意するように頷く。

「3対1になっても自らを曲げることなく、真っ向から戦い、意思を貫こうとしている。それは素晴らしいことであり、誰にでもできることではありません。

ですが、それも過ぎればただの頑固になってしまう。時には周りの意見にも耳を傾け、妥協できるところは妥協し、取り入れるところは取り入れ、考えを変えることも必要ではありませんか?そうでなければ間違った考えのまま突き進むことになり、やがて暴走し自らを破たんさせる。意思を変えることは大変勇気のいることです、怖いことです。でも間違ったままよりはずっといいと思いませんか?その一歩を踏み出せれば良い方向へ変われるのです。一人が怖いなら、仲間と一緒に。その仲間があなたにはいるじゃありませんか」

「………」

「それによく思い出してみてください。あなた方が出会った時のことを。…最初から信用していましたか?」

 その瞬間4人はハッとなった。特にレイラとルーギは身に覚えがありすぎるようだ。彼らは敵対とは言わないまでもかなり険悪な雰囲気だった。もっとも、レイラはさほど相手にしておらず、ほぼ一方的にルーギが突っかかっていたのだが。

しかしそんな出発点だったにも関わらず、現在は仲間として数々の戦いを共にし、背中を預け合える仲にまでなっている。

 そうだ、初めから無条件で信用などできない。何かしらの肩書や、他に頼る者がいない時など状況や条件によって変わりはするが、基本的にはないと言っていい。

たとえ現時点で共に一つの目的に向かって、命を懸けて戦うような仲であっても、初対面の時点でそんな真似ができるのかといえばそうではない。何かのきっかけや時間をかけていく中でしか信頼には至らない。初めから分かり合えるわけではないのだ。初めから全て見極めるのは不可能であり、決めるのは愚かである。

「あなたが彼と出会った時、何を思ったのかは私には分かりません。しかしその時のことを引きずって、他に考えようとしていない。

先入観は簡単に消せるものではない。そしてあなたはその先入観に囚われてしまっている、彼を知ろうとしていない、こうだと決めつけてしまっている。

レイラさんのおっしゃったように警戒と拒絶は違います。あなたのは警戒という名の拒絶です。

…あなたも彼女たちと出会った時、初めは信用していなかったでしょう、今向けてる感情とは全く別の感情を抱いていたでしょう、前感じていて印象と今とでは違うでしょう。

しかしそれは時と共に変わっていったはずです。今のあなたたちを見れば分かるように。

どうでしょう?ここは一つ、初心に戻ったつもりで、彼女たちと出会った時のことを思い出して、彼を…受け入れてみませんか?」

「俺は…」そこから先が続かない。彼も心の中で葛藤しているのだ。

 ユウトを受け入れるメリットは大きい、レイラが言ったように。しかしここまで言って今更主張は曲げられない。だがダミルの言うことも分かる。

 自分だってレイラと出会った時、信用できる奴だとは思っても、全面的とはいかなかった。やはりどこかで警戒していた。割合は違くとも、状況は同じだ。あの時自分は何を思った?何を思って彼女たちと旅をしようと思ったのか。―――刹那答えに至った。

…そうだ、そうだった。俺はレイラの力になりたかった。己の信念に従い、突き進み、いつも矢面に立って、何かを護ろうとする彼女を支えたかった。その彼女は今も何か護るために、己の信念に従い動いている。そして奴はそれを助ける重要なキーパーソンであり、レイラが必要としている。

…ならば答えは一つ。俺はレイラのために動く。あいつが必要とするならどんなものでも手に入れる、あいつのためなら仏や修羅にでもなる、どれだけ気に食わない相手でもあいつが求めるなら受け入れる。

そしてあいつにできないことをやってサポートする。奴を信じるのがレイラなら、俺は奴を疑い、監視する。少しでも妙な真似をして危害が及びそうになるなら、刺し違えてでも始末する。

レイラのためになることをする。全てはレイラのために―――。

「なぁフラッツ」そこへルーギが声をかける。

「お前の言ってることも確かだよ。でも今の俺たちには力が必要なんだ。どんな相手でも打ち崩せるだけの力が。で、この人は俺たちが求めるものを持ってる。俺としてもこの人には加わってもらいたい。

でも、お前がどうしても嫌なら仕方がない。全員が同じ気持ちじゃないと意味がないから。

そんなバラバラな気持ちじゃ目的を達成するどころか、そこらへんの奴一人倒すこともできない。それに無理やり連れてって空気を悪くしながら、ギスギスしたまま旅するのなんて息苦しくてしょうがない。そんなのは俺は嫌だ。…だからお前の気持ちを聞かせてくれないか?」

しばしの沈黙の後、ユウトを見てフラッツが口を開いた・

「俺はお前を認めない。気に食わない、信用できない。…だが、お前の力がレイラの助けになるのもまだ事実。少しでも妙な真似をしてみろ、その時は俺がお前を始末する」鋭い視線を向けて睨む。

その直後は理解できなかったが、それが彼なりの肯定の意だと分かると、場の空気が和らいでいき、一同の表情も明るくなった。この瞬間ユウトの同行が正式に決まった。それに嬉しいような複雑なような微妙な心境になる。

「フラッツ…」今回の騒動のもう一人であり、対戦相手であるレイラが神妙な面持ちでフラッツに近づく。

と、それまで緩んでいた空気がまた張りつめていった。また何か起こるのか、何をするつもりだと、先ほどまでの再現になるかもしれないことを危惧しながら見守る。

「すまなかった。私はお前に言ってはならないことを言ってしまった。私はどうも自分の理想を実現させるために、暴走する癖があるようだ。思えばそんな私をお前はいつも諌め、正しい方向へ導いてくれた。それを当たり前のように思い、当たり前が当たり前であることの幸せをいつの間にか見失っていた。

近すぎて、当たり前だったから分からなかったが、お前も大事な仲間だと今回で改めて気づいた。誰かを得る代わりに誰かを失わなければならない、そんなおかしな話はない。…誰も欠けてはならない大切な存在だ。

勝手なことは分かってる、虫が良いのも分かってる。でも、これからも私たちと共に歩いてくれないか?」

多少言い淀んだ箇所はあったものの、きちんと言えたことに少しの達成感はあるが、不安の方が大きい。

断られたらどうしようと、ユウトの時とはまた違った緊張と不安がレイラを襲った。

そんなレイラにいつも通りの表情で「当たり前だろ?俺の方こそ意地を張って自分の意見をお前に押し付けてばかりだった。お前の事を考えてなかった。…悪かった。それに決めたんだ、俺…」その先は言わなかった。

当然気になり、視線で先を促すが「何でもねぇよ、これからもよろしく頼む」とはぐらかされ、手を差し出された。

それを見て諦めたのか握手の応じ、二人は無事和解した。

「よかったですね」その様子を眺めていたユウトにダミルが声をかけた。

「ええ、やっぱり仲良くしてもらわないと変に気を使ってしまいますからね」しかしその返答を聞いて苦笑する。それを見て、求める解答ではないことに気づくが、何のことだか分からない。

「あなたを必要としてくれる人がいて、ですよ」

「…なぜそれを?」自分は彼にそういうことを言った覚えはない。なのになぜ彼は知っているのだろう。ユウトの中にある孤独を。

「顔に書いてありましたよ。誰が見ても分かるくらいにはっきりとね」そう言われた。思わず顔を押さえると、それを見て笑みを浮かべ「どこまでいっても満たされない、強いが故に敵視しかされない、強さ故の孤独。

あなたは彼らをとても羨ましそうに見ていました。仲間がいる幸福感、自分を必要としてくれる場所、人。

初めて私と出会った時はもっとそれが伝わってきました。

しかし、再会した時にはそれが薄れていた。それを見て出会えたのだと思いました。しかし、まだどこかで納得しきってない、歯切れの悪さも感じました」

「…そこまで分かるんですね」観念したように笑う。

「でもそれはあいつらの事じゃない。俺の問題です」

「もちろん分かってます。それは焦っているからでしょう」

「………」

「早く運命の人と出会いたい、その欲求は当然です。しかしそれだけしか考えていなければ盲進し、本来なら見えていたはずのものを、手に入れられたはずのものを失ってしまう。

あなたはまだこれから先長く人生を歩んでいきます。今この時など一瞬でしょう、瞬きをすればもう過ぎて見えなくなってしまうほどに。その一瞬が全てではありません。それに囚われてしまって、周りが見えなくなり、手に入れられたはずのものを失ってしまうのは本末転倒でしょう。

そしてその選択を間違えてしまえば護れるはずのものは護れず、手に入れられたものは手に入らない。永遠に。

我々は人です。間違いをすることも、過ちを犯すこともあります。しかしそこで止めてしまってはそれまでです。それ以上の進化はない。そこから一歩踏み出さなければならない。そうしなければ何時まで経っても何も変わらない。大事なことはその後どうするかです。止まるか進むか、決めるのはあなたです」

「決めるのは俺…」

「はい。本当に大切なものは目に見えず、感じにくい。一瞬の出来事を見逃すのも無理はないかもしれません。ですがそれに気づいたのなら、迷う必要はないのではありませんか?」

「…そうですね。今の段階では何とも言えませんが、もう少しだけ一緒にいられたらいいなとは思います」

「間違ったのならそれを正せばいい、壊してしまったのなら修正すればいい。そうやって繋がりを太く、強くしていくのです。

あなた方なら支え合える、頼り頼られる、互いを必要とする、そんな素敵な関係になれると私は確信しています。恐れず突き進んでください。無茶と挑戦は若者の特権です」

「はい、期待に応えられるように頑張ります。目指すべきその場所へ」

ユウトの返事を聞き、一礼すると、今度はレイラたちの元へ向かう。

「ご歓談の最中申し訳ありませんが、最後に一つよろしいでしょうか?」ダミルに話しかけられたことに気づくと、会話を止め、そちらを見る。全員の視線が自分に向いてることを確かめると「先ほどまでの無礼な発言の数々、謹んでお詫び申し上げます。本来私のような部外者が立ちいっていいことでも、口出ししていいことでもありませんでした」そう言って深々と頭を下げた。それに驚いたレイラたちは慌てて止めさせようとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな謝られるようなことじゃ…」

「そ、そうですよ!私たちは気にしてませんから!」

「むしろ感謝しています」

「そうです。あなたが諭してくださらなければ、今頃我々はバラバラになっていた。仮に旅路を共にしても心は遠く離れ、とても仲間と呼べるようなものではなくなっていた。そうなっていたであろう私たちをあなたは救ってくださった。

それに感謝こそすれ、負の感情など微塵も感じていません。ですのでどうか頭を上げてください」四人にそう言われ、ゆっくりと顔を上げた。

「ダミルさん、あなたは正しいことをした。それに我々は助けられた。あなたが謝罪すればあなたが行った事全てがなかったことになる。そうしたら我々はどうしたらいいんです?

先ほども言いましたが私たちはあなたに感謝しています。あなたのおかげで誰一人失うことなく、また、頼りになる仲間を入れることができた。あなたがいなければ成しえなかった。だからどうか、謝らないでください。自分の為に赦せないのなら、私たちの為に…」

「…あなたもおやさしいのですね」

「え?」ダミルの呟きはあまりに小さすぎたため聞き取ることができず、聞き返したのだが、何でもありませんとはぐらかされた。

「分かりました。そうまで言われてしまったのなら、これ以上は止めましょう。

私もあなた達程ではありませんが、様々な経験をしてきました。その中にはつらく、苦しく、厳しいこともありました。一人であればとっくに諦めていたでしょう、越えられなかったでしょう、立ち上がれなかったでしょう。

しかし私は一人ではなかった。私の隣には仲間がいてくれた。彼らがいたから今の私がある。求めるものを掴むことができた。

これからあなた方には様々な試練が襲い掛かってくるでしょう、時には敗れることもあるかもしれない、ボロボロになって諦めかけることもあるかもしれない。

しかし、そんな時は横を見てください。あなたと同じように戦っている仲間がいます。

己の力を信じ、仲間の力を信じ、仲間を信じ、立ち向かえば超えられない壁はありません敵わない相手などいません。己を預けられ、頼れる仲間はもうあなた方にはいます。その仲間と更に信頼関係を深め、高め合って、これからも頑張ってください。

あなた方の旅路が実り多きものであることを、私はここからお祈り申し上げております」再び深々と頭を下げた。

ダミルの言葉は不思議と心に入ってくるものがあった。それは彼が今まで様々な経験をしてきたからこそ、実体験に基づいているからだろう。いうなれば年の功が成せる業だ。

人生の先輩のありがたい言葉と激励を受け、表情を引き締めると「はい!」全員で返事をした。

これから起こる様々な試練に敗けないように、屈さないように大きな声で。



「それではそろそろお暇しよう」身支度を終えたレイラが一同を見渡して声をかけた。

「もう少し休まれてはどうです?」

「そういうわけには。それに先を急ぐので」ダミルの申し出を断り、戸口に向かって歩き出す。

「ほら、お前もだよ」椅子に座ったままのユウトを促す。

「ん?ああ」そう返すと腰を上げた。しかしその表情はどこか消化不良というか、気になってるというか、忘れている何かを思い出そうとしてる表情だ。

「それでは私たちは行きます。あなたに会えてよかった」外に出ると最後の挨拶を交わす。感謝の思いを込めて。

「私もです。皆さまが無事に旅を送れますように」一礼すると、レイラと固い握手を交わす。

「さぁ出発だ!」レイラの号令の元、ユウトを加えた一向の新たな旅が始まった。

「あ」しかしそれはものの数秒で出鼻を挫かれることになった。

その一見間の抜けた、ともとれる声に高まっていた感情が一気に萎んでいった。

しかしそんなことに気づくはずもなく、また悪びれる様子もなく、ポケットを漁っていた。何気なくポケットの上を触ったら、何かが入ってる感触が指先に伝わった。瞬間、忘れていたことを思い出した。

そしてポケットから紫の小さな袋を取り出すと掌にのせ、少しの間眺めた後、ダミルに差し出した。

「遅れてしまってすみません。色々あってすっかり忘れてました。お届け物です」それを見ると彼も思い出したのか一言礼を述べて、受け取った。

 前回武器屋に行って、取ってきて、一度戻ってダミルに会っているにも関わらず、渡すどころかその存在そのものをすっかり忘れていた。何気にその事は気にしていたのだが、まさか二度目があるとは思わず、また色々なことがあったので、頼まれた時には忘れないようにしていたのだが、結局また忘れていた。

受け取ったダミルは袋に視線を落とすとユウトを見て微笑んだ。そして彼の目の前で開け始めた。

上部を縛っていた紐を解き、袋を傾ける。すると小さな玉のようなものが転がり出た。それを見やすいように袋の上に乗せるとユウトに見せる。

 カウンターの上にあったところを取り、少し探った時の感触で形の予想はついたが、何が入ってるかまでは分からなかった。何が入ってるか気になったので、それが見れて少し嬉しくなるが、同時にこれは何だという疑問が湧いて、しげしげと眺める。

「ガラス玉…ですか?」それは袋の紫の背景によって色が変わったのかと思うほど透き通り、映していた。

それに首を振ると「これは水晶と呼ばれるものです」と答えた。

「水晶…ですか…」そう呟くと再び眺める。

 おそらく誰もが一度は聞いたことがある鉱物の名称だろう。ユウトも名前ぐらいは聞いたことがある。

しかしそれが何故ここにあるのだろうか。いや、あることについては特に問題はない。それを何故自分に見せたかだ。何か特別な意味があったか?そう思った時、その疑問に答えるようにダミルが話し始めた。

「水晶は古来より邪気祓いや精神安定、自らの持つエネルギーを高める効果があるとされ、私たちの身近にありました。

…いまこの世界はとてつもなく乱れています。いつどこで戦いが起きてもおかしくない。

そして間もなく民間人をも巻き込んだ戦乱の世が訪れ、混沌と狂気に満ちた世界になります。

しかしどんな時でも、いつの時代でもそれらを打ち払い、安定をもたらす希望の光があるものです。そしてこれはそういう人にこそ相応しい」そう言うと再び袋に入れ、ユウトの前に差し出す。

「あなたにこそ相応しい。これはあなたが持っていてください。きっとあなたの手助けになるでしょう」

「…本当に俺でいいんですか?」その問いに対する言葉はなく、ただ真っ直ぐな眼差しが返ってきただけだった。

「…分かりました。ご期待に添えられるか分かりませんが、やるだけやってみます」自信無さげな言葉とは裏腹に、覚悟を決めたような表情で言い切り受け取った。託された責任を果たさんとするように。

「ちなみにこれはもう一つの効果があると言われていますが、何だか分かりますか?」

「いえ…何でしょう?」すると微笑を浮かべ「願望成就です」と言った。

「人は何かしら必ず願望を持っています。それはあなたも例外ではなくて。

あなたの願いが何かは分かりませんが、その願いを叶えるのに役に立ってくれたら、願いが叶った時あなたの傍にあったのならこんなに嬉しいことはありません。あなたの願いが叶いますように」そう言って深くお辞儀した。

 ここまで自分の事のように自分の願いが叶うことを祈り、後押ししてくれる存在は今までいなかった。当然そうされるのも初めてだ。

大抵バカにされるか、真面目に聞いてもらえないかで、いつからか自分の夢や叶えたい願いを誰かに言うことはなくなり、口にすることもなくなり、訊かれても隠すようになった。

今も言った訳ではないので自分の願いが何かは知らないはず、なのにここまで言ってもらえるのは何故だろう。本気で応援されたことがないためどう反応したらいいか分からなかった。また、言ってもバカにされない確信があった。

世界平和や英雄になるといった大きな願いではなく、平凡で、ささやかな、冷やかされかねない、けれども強い願い。

「…ありがとうございます。俺も小さくありきたりで、でも叶えたい夢があります。…それを叶えられるように頑張ります」結局言わなかった。けれど、叶った暁にはきちんと報告しよう。それは義務でもある。

そしてポケットにしまおうとする。と、動きを止めた。

「…そういえば、これは誰のですか?」ふと疑問に思った。これはダミルに頼まれて店から持ってきたものだ。持ってきてほしいと頼むということは普通に考えればダミルの物だろう。

ならば持ち主の許可が出ているので、このまま持っていっても問題ない。だが万が一、これが誰か別の人の物であれば大変だ。ばれなければ何をやってもいい訳ではなく、ダミルに迷惑がかかる。

 ただでさえ既にユウトは色んな所から拝借している身だ。それをダミルの友人がやっているから、彼が許可を出したからとはいえ、正規の手順を踏まないで、手にしていることに罪悪感があった。

だが一言謝罪とお礼を言おうにも、本人がいないのでできず、言伝を頼むに至ったのだが。だからもしこれがダミルの物でなければ、また彼に迷惑がかかってしまう。そう思ったのだが「ご心配なく、それは私の物です」という解答を得たことにより安堵した。

「いえ、正確に言えば元、私のです。今の所有者はあなたです。ついでに言えば剣を固定しているそれも私の友人がやっている店の物ですからご心配なく。私から説明しておきますので」

「そうですか…。すみません、最後までご迷惑おかけして…」

「構いませんよ。未来ある若者に最大限協力するのは当然です。どうしてもというなら、この世界に平和をもたらしてください。それで帳消しです」

「そりゃ大変だ。でもやるだけはやります。…ん?あなたのご友人がやってるんですか?」

「ええ」先ほどは聞き流していたが、よくよく考えてみて少し驚いた。何となくダミルと武具が結びつかないから、彼とは全然関係のない人が営んでいると思っていた。と同時にあることに気づく。以前剣ホルダーの所在を尋ねた際に頼み事をされた時だ。

その時は知らなかったことにすると思っていたのだが、あれは友人だから自分から言っておくという意味だったのだ。そのことからダミルと店主は気心の知れた友人だと分かる。こういう関係も良いな。

「ではお手数ですが友人の方によろしくお伝えください。あなた方の後押しを私は決して忘れません。その恩に報いるべく全力を尽くしますと」

「承知しました。どうかお気を付けて」互いにお辞儀をして握手を交わす。

そんな二人の様子を見て、落ち着いた頃を見計らうと「では改めて出発だ!」とレイラが号令をかけた。












(ああ…そうだったな…)回想を終え、内心ため息を吐く。その顔は少し自嘲気味な笑みを浮かべていた。そんなことがあったから彼はこうして少し離れた所にいるのだ。

 ユウトは自主的にこの方法を選んだ。まだ全員から一定の信用を得ていないので、自ら距離を取り、仕掛けようと思ってもすぐには無理だということ、そして彼らに自分との接し方や関わり方を考えてほしかった。それには自分はいない方がいい。今はただの同行者だが、この距離が無くなった時、彼らと仲間になれるのだろう。

色々思うところや考えることはあるが、あのまま一人で行動し、手当たり次第に情報を集めるより、彼らと旅路を共にする方が得るものが多いように、自分の為になると思う。

(これでよかったんだよな…)そう胸中で呟くと「どうした?」不意に近くで声が聞こえた。そちらを見ると存外近い所でレイラがやや心配そうな面持ちで見ていた。

 先ほどからユウトの様子を見ていたレイラは、前方を歩くルーギたちから離れ、ユウトの傍にいたのだが、あいにく回想中だったために気づかなかった。そのレイラも何か考え事をしているようだったので、声を掛けようか迷っていたのだが。

「大丈夫か?」再びレイラが尋ねた。よほど自分は考え事に没頭していたらしい。神経が鋭敏になり、周囲の気配を察知することに長けているはずの今の自分が気づかなかった。彼女も気配を消して近づいた訳ではないだろう。そんなことをしても何の意味もない。単純に自分が気づかなかっただけだ。そのことに苦笑を浮かべると「何でもないさ」と言い彼女に笑いかけると、何事もなかったように再び歩き出した。

レイラもそれ以上は詮索せず、立ち止まっていたために距離が開いてしまったルーギたちに追いつくべく、速足でユウトに近づくと手を取って、そのまま彼らの元に向かった。

 そうして集団の中に無理矢理入れられたユウトは、それでもささやかな抵抗をみせ、一番後ろに着いた。

隣を歩くレイラをじろりと睨むが、彼女はどこ吹く風でユウトの視線を受け流した。

(何を言っても意味ねぇな…)諦めたユウトは一つ息を零すと、黙って彼らの後に続いた。

 しかし、しばらく歩いたところで何かの気配を感じた。それは自分たちを追ってきているような気がする。だが周りは障害物のない見晴らしの良い場所なので、何かあればすぐに分かる。実際振り返ってみても怪しい影や人は見えない。

そして自分以外、特に自分に一番近い感覚を持っているであろうレイラが何の反応もみせず、気づいてる様子はないので気のせいかと思いつつ、何かあったらすぐに動けるよう警戒は怠らなかった。

 だが景色が少しづつ変わり、点々と岩山が出現し始めるにつれ、その気配は濃くなり、数も増えていった。明らかに自分たちをマークしている。

さすがにこれにはおかしいと思ったのか彼らも何かいると感じ、周囲への警戒を強め、忙しなく視線を飛ばした。

その時、ユウトが立ち止まり「そこにいるのは分かってる。こそこそしてねぇで出てきな!」と大声で啖呵を切った。

すると岩陰からぞろぞろと武装した集団が姿を現した。その数およそ10人弱。

その中から一人の男が前に出ると「やぁ旅のお方たち。ここを通りたければ有り金と持ち物全部置いてきな。そうすりゃ命は助けてやる」余裕の表情でユウトたちに迫った。

「お前らのような輩にくれてやるものなどない。そこをどけ」レイラは前に進み出ると、男の要求を突っぱねた。

するとレイラを見た男は、じっくり値踏みするように眺めると、ほう、と感嘆の息を漏らした。

「なかなかの上玉じゃねぇか。そっちの娘も結構な器量だ。気に入った。お二人さん、お前たちが俺らのところに来るならこいつらは見逃してやってもいい。なぁ?」後ろを振り向き、仲間たちに問うと、野太い歓声が挙がる。

「マジかよ!?全然良いぜ!なぁ!」

「ああ!あの女たちが手に入るんなら男共は見逃したって釣りがくらぁ!」

「へっへっへ…どっちからいただこうかなぁ…」

「バカ野郎、お前のだけじゃねぇよ。先走んな」

「うっせ!早いモン勝ちだ!」

「どっちでもいいから早くしてくれよー!」そんな声が次々に飛んでくる。

「ゲス共が…!」思いっきり顔をしかめて、嫌悪感を全面に出し、汚物を見るような目で男たちを見る。

「ふざけるな!貴様らなんぞに手出しはさせん!レイラに指一本でも触れてみろ!この世から消し去ってやる!」フラッツが普段ならしない表情で激昂し、怒鳴るが、それを意にも介さず「どうする?お仲間はこう言ってるが、この人数相手に戦うのは得策とは言えねぇな。他人よりまずは自分がこの場から出ることを考えねぇと。ま、その度胸は認めてやってもいいがな」

「………」

「安心しろ、約束は守るぜ?お前らも悪いようにはしない。たっぷり可愛がってやるから俺たちと一緒に楽しもうぜ?」レイラに尋ねるが

「心配するのはお前たちの方だ。こいつらはお前らごときにやられるほど柔じゃない。それにお前たちの手に落ちるくらいなら死んだ方がマシだ」強くそう言うと剣を抜いた。

「交渉決裂か…。まぁそれもいい。ならその眼で、お前の大事な仲間が無残に死にゆく様を見てるがいい」と言い互いに臨戦態勢に入り、今にも戦いが始まろうかというその時「まぁそういきりたつなよ」と、およそこの緊迫した場には似つかわしくない軽い調子の声が響き、その主がレイラの横に移動した。

「ユウト…」

「ここで戦えばお互い無事じゃすまない。こんなところで命を落とすなんざナンセンスにも程がある。お前だってそう思うだろ?だからここはお互い見なかったことにしないか?そうすりゃ誰も傷つかん」

「おいユウト!」突然割り込んできてそんなことを言ったものだから、思わず詰め寄る。

「まぁ黙っとけよ」それをあしらうと相手の反応を窺う。

「確かにお前の言う方法もあるが、残念ながら無理だな。狙った獲物は逃さん主義でな。それにこんなチャンスも滅多にない。逃す手はねぇな」

「そうか…」

「つーわけでお前の意見は却下。精々楽に死ねるように祈ってな。お前らに代わって俺らが大切にしてやるからよ」そう言うと再び男たちもニヤニヤし出す。

「無駄な戦いはしたくねぇんだけどな…」そう呟くと目を閉じて軽く息を吐き出すと。そしてゆっくり目を開け、鋭い眼光で相手を睨んだ。

「なら仕方ねぇな。死にたい奴はかかってきな。逃げるなら今の内だぜ?」そう不敵な笑みを浮かべて挑発した。その瞬間男たちは怒号を挙げユウトに襲いかかる…、と誰もが思っていた。

だが実際は誰も動けず、自然と薄ら笑いも引っ込んでいた。

なぜならかつてと同様に凄まじい闘気と威圧感を放ち、迂闊に手が出せる相手ではない、一歩でも動けばその瞬間自分たちの命はないと本能で悟ったからだ。これこそこの世界での『ユウト』なのだ。

「随分なめられたもんだな…。ガキが、粋がるなよ。そんなこけおどしが通じるとでも思ったのか?」それでも今更退くわけにもいかず、あくまで自分たちの方が有利だと思わせようとするが「だったらかかってきな。口先だけじゃ説得力ねぇよ」と冷静に返した。

 二人のやり取りを見ていたレイラは今度こそ闘いが始まると思い、剣を握りしめた。

「レイラ、お前は下がってろ」不意にそう言われた。一瞬何を言われたか分からなかったがすぐに理解すると「何故だ?私も闘わなければならんだろう」当然抗議するが「まだ本調子じゃねぇだろ。傷は治りかけが一番油断しやすい。ここは俺に任せてお前は休んでな」そう一瞥すると相手へ視線を向けた。

「もう大丈夫だ!私は闘える!私も…」なおも言い募るが「俺から見てもまだ全快だとは思わないな」フラッツが口を挟んだ。

「休むことは動くこと以上に大切だ。無理して後々まで響くのはお前としても本望ではないだろう?」

「ぐっ…」思わず言い淀み、それでも言葉を繋げようとするが「それに任せろって言ってんだから任せりゃいいだろ。こいつが闘うところを俺は見たことがない、実力を見るいい機会だろ」

 ハッとした。確かに闘う姿は見たことがない。あの時も実力の高さは窺わせたものの、実際の力はどれほどなのか分からない。それでも強いことは分かる、その程度だった。

手合せしようにも何かと理由をつけて行わず、結局ここまで来た。

確かにフラッツの言う通り実力を見るにはいい。だが相手が相手なので、一片程しか見ることはできないだろう。それほどまでに一見しただけで明らかな実力差があった。しかしそれでもいいから見たいと思う。

新たな仲間の実力を。

「…分かった、任せてもいいか?」渋々ユウトの提案を了承した。

「勿論だ。ついでに他の奴らも手出しは無用だぜ」振り向かずに答えた返事を聞くと、フラッツと共に後ろに下がる。

「相談は終わったか?ならまずはお前から死ね!」その合図と共に、一斉にユウトに襲いかかる。

 まず最初に向かってきた相手の攻撃を後ろに少し身を退いて躱すと、続けざまに繰り出される攻撃を右へ左へ時に屈んで、体を捻って最小限の動きで躱す。それはまるで舞いを舞っているかのように優雅でしなやかで、それでいて全く無駄のない完璧な動きだった。

「こ、こいつ…ちょこまかと…」ユウトの動きに翻弄され、イライラしながら男たちは息を荒くし、ユウトを睨む。

 一方ユウトは最初と特に変わりはなく、勇ましい表情で黙って見ていた。

「じゃあ今度はこっちの番かな?」そう言うと腰に差した二本の内、一本を引き抜く。それをしばらく眺めると「これだけで充分だろ」ニヤッと笑った。それは本来なら二本使うはずのところを一本しか使わない、つまり手加減するということだ。

それを理解した男たちは額に青筋を浮かべて「ナメやがって!ぶっ殺してやる!」口々にそれぞれ叫ぶとユウトに向かっていく。

今度はユウトも戦闘態勢に入り、猛然と向かうと、交錯する瞬間、急ブレーキをかけて相手に空振りさせると、顔面を殴り、後ろへ殴り飛ばし、何人かを巻き込む。

続けて柄頭で顎を殴り、肩口や頭部を攻撃し次々と戦闘不能にしていく。

そしてものの一分もしない内に全滅させ、男たちが横たわる真ん中にユウトが立っていた。

その一部始終を見ていたレイラたちは、誰一人として口を開くことはできず、身動きできなかった。

 ある一定以上の実力を持った者ならば、対峙しただけで大体の実力は分かる。それは力を隠していてもそうだ。しかしそれだけでなく、一つの動作を見ただけでも分かるという。

一目見ただけで強いことは分かっていた。しかし実際に闘う姿を見て、自分たちの認識がいかに甘いかに気づいた。今まで感じていたものは彼の持つ実力の表面的な、いや一部に過ぎない。

 最小限の動きということは相手の動きを完全に見切り、反射ではなく、きちんと自分の意思で動く必要がある。もしくは相手の動きを先読みしなければならない。それにも相当の修練がいる。実力差があっても簡単にできることではない。

 躱して反撃するのであればレイラたちにもできる。躱すだけならそう難しい話ではない。

しかし避ける瞬間どうしても力が入ってしまい、相手の攻撃をギリギリでなく、少し体から離れた所で避ける。そのためにはどうしても余分に動く必要がある。それが安全だからだ。

もっとコンパクトに動けば余計な力は使わず、反撃もしやすく、体力も温存できる。

頭では分かっていても実践することはなかなか難しい。それは命のやり取りの中で感じる恐怖や高揚感、様々な感情が入り乱れ、心が不安定になるからだ。だから何事においても平静を保つことは重要なのだ。

 ユウトを見るとどうだろう。余計な力は使わず、非常にリラックスした様子で躱している、自然体と言ってもいい。それを意識的にも無意識でも行うのはかなりの技量が必要になる。

おまけに相手の攻撃が自分を殺すかもしれない力を持っているにも関わらず、それを保っていられるのだ。全く動じていない。

更にそれだけでなく、攻撃も今何の攻撃が一番効果的か、どれをすれば有利になるかを瞬時に判断し、相手の隙を見抜き、相手と接触する一瞬にのみ力を入れ、それも最小限に抑え倒している。これらを瞬間的に、全て行える人間が一体どれだけいるだろう。もしかしたらあれが理想的な戦い方かもしれない。

 しかしこれも彼の力の片鱗なのだろう。まだまだ余力を残しているように見え、ひょっとしたらウォーミングアップにもなってないかもしれない。それほどまでに今見ただけで、そう思わせる力があった。

そのユウトはどうだったのだろう。誰にも敗けない絶対的な力を持ってることは分かっているが、実際にそれを振るったことはない。うまく使えるのかという不安もあった。

以前も闘いという闘いはしておらず、結局自分の力を把握しないままだった。そして今回が初めての実戦である。

 自分の力を試したい、知りたいと思う一方、なるべく闘いたくないのは事実なので交渉してみたものの、予想通り断られてしまう。今度は威嚇して戦意を失ってくれることを期待したが、一瞬怯んだものの、恐怖を感じながらも己を守るために、逆に襲いかかられてしまう結果になった。

そのため仕方なく闘うことにしたのだ。しかし別の不安もあった。本当に倒せるのだろうか、逆にやられてしまうんじゃないかと『優斗』の部分が顔を覗かせていた。

だが実際に闘ってみればそれはなりを潜め、相手の動きが止まって見えた。更に広く視野を持つことができたので一人だけでなく、全員の動きを把握でき、また相手の動きも先読みできたので、刻々と変わる戦況を読み、立ち位置を間違えることなく、動き続けた結果レイラが感じたことになった。

 身体の動かし方も、力の入れ方も考えるではなく直感的に、本能で悟ったので、変に考える必要がなく、まるで自分の身体が自分のものじゃないような錯覚を覚えるほどに、想像以上の動きができた。それは普段からは考えられない。

 また攻撃面でも同じだった。拳も剣撃も必要な力を即座に判断し、狙った箇所へ寸分違わず入れることができた。

最初からそうだったが、剣も手に馴染み、気にならない、心地よい重さだったので、剣に慣れるという基本的な過程を必要とせず、まるで手の延長の感覚で扱うことができた。

色々感じたことはあったが、一番に思った事は身体が自然に動くことだった。考えるよりも前に身体が動いている。もはや身体が戦闘に慣れ、無意識に近い。身体の部位一つ一つからしっかり動かすことができ、また思った以上に動ける軽さ、そう体が軽く感じたのだ。それが理想的な動きができた大きな要因かもしれない。

 ここまでは完全に自分のペースで思い通りにできたが、打ち合いはどうだろう。

これまでとは違った事が要求されるため、難しいように感じる。しかし失敗する気は微塵も起きなかった。

自分の力を試したい、どんなことでもできる、そんな確信があった。

「後はお前だけだな」リーダー格の男を睨む。その視線には殺気が込められていて、思わず怯み、数歩後ずさった。だが退く気はないのか「少しはやるようだが、その程度では俺には勝てん」と強がると剣を抜いた。

それには何も答えず、しばし睨み合いが続いたが、やがて同時に動くと最初の一撃を相手に入れるべく、またそれを防ぐために互いの剣が衝突した。

(思った以上に衝撃がくるな…)相手と鍔迫り合いになっている最中、そんなことを思っていた。

しかし力と力の真っ向勝負はしていないので、うまく力を逃がし、伝わる衝撃を最小限にして負担を減らした。

その後も何度も打ち合いが続いたが、いや、一方的に打っているのは相手の方で、ユウトは防御に徹していた。

 最初の一撃で、攻撃すればすぐに勝負が終わってしまうことに気づき、感触を確かめるために、少しでも実戦に触れていようとわざと長引かせていた。しかしこれ以上は無駄だと悟るやいなや一気に攻めに転じ、相手の剣を払って大きく体勢を崩すと、無防備になった腹部へ痛烈な一撃を叩きこんだ。入った瞬間男は息を詰まらせ、呻いた後、ゆっくり倒れていった。

 またもや一同は驚きのあまり声が出なかった。一向に攻めないユウトを不審に思い、隙を探っているのかと思っていた。しかし互いの実力の差が明らかであれば少しでも早く勝負をつけようとするだろう。相手との差ぐらい彼であればすぐに分かる。長引かせるメリットはない。

別の狙いがあるのか、それともこれがあいつの戦い方なのかと思っていたら、突如として動きも雰囲気も一変した。

剣を弾いたところまでは辛うじて見えたが、その後の攻撃は全く見えなかった。気がついたら彼の剣が男を捉えていた。そのあまりの速さに何が起こったのか分からなかったが、男が倒れた時、ようやく理解できた。

 知らずに止めていた息を吐き出す。一瞬で決着がついた、それを初めて見た。

これほどまでの力の持ち主が加わってくれたことは心強い、しかし同時に危険だとも思った。

互いの利害関係が一致してるわけでも、目的が同じなわけでもない。向こうがどういう腹積もりなのか、何を思って同行しているのかは分からない。こちらが半ば強引に引き入れたようなものだ。

彼がもし自分たちに攻撃するようなことがあったら、レイラは自分が止めると言ったが、恐らく無理だろう。

彼女では到底太刀打ちできる相手ではない。いや、全員でかかったところで結果は同じだろう。それほどまでの力の差を見せつけられた。

 願わくばそういう日が来なければいいと思う。だが、その時のことを本気で考えていた者がいるとは本人を除いて誰も思いもしなかった。

「終わったぜ」呆けているとそんな声がかかり、我に返った。見ると剣を鞘に収め、何事もなかったように立っているユウトがいた。どう声をかけようか迷っていると「すげぇんだなあんた!」ルーギが興奮気味に話しかけた。

「ありがとよ。なるべく戦闘は避けたかったんだけどな」

「仕方ないだろ、あんな奴らじゃ。それに向こうが絡んできたんだからこっちは悪くない。あんたも気にすることはないよ」

「そうそう。ああいう奴らは一度痛い目に合った方がいいのよ。身の程を知れってことね」

「キツイな…。けどケンカ売る相手は選べよとは思うけどな。どう考えたってあいつらじゃ勝ち目ないんだから」

「そうだな。とりあえず無事でよかった。別にどこもケガしてないだろ?」そんなことを話していると「ユウト」レイラが入ってきた。

「まず礼を言おう。お前のおかげでこちらも無駄な力を使わずに済んだ」

「別にいいよ。俺が勝手にやったことだから、礼を言われるほどのもんじゃねぇ」

「そうか」フッと笑みを浮かべる。しかしやや真剣な表情になって「聞きたいことがあるんだが」と尋ねた。

「答えられる範囲でなら」きちんと予防線を張っておく。ヘタなところまで踏み込まれないようにするためだ。

「そんなに難しい話じゃない。たださっきの闘い、あれはお前の本気か?」

「…質問に質問で返すようで悪いんだが、あれが本気に見えたのか?」

「まさか、かなり手加減してると思ったよ。覇気も殺気も感じなかった。攻撃する瞬間は少なからず発生するはずなのにな。ああ、最後はちょっと出てたな」

「あそこはちょっと力いれたからな。お仕置きはあれぐらいやらないと」

「お仕置き?」そこで眉間に少し皺が寄る。何を言ってるのか、その意味を確かめるように。

「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味さ。もっとも何をされたか分からん内に倒されてるんだから、目が覚めたところで訳分からんままだろうな。そう言った意味ではお仕置きになっていないかもな」

「…つまり止めは刺していないと?」

「ああ、殺すことが全てじゃない。そんなことを続けてたらおかしくなるよ」

それには全員驚いた。しかしよく見れば血は一滴も流れていない、つまり全員気絶しているだけだ。

だがそれに納得してない者もいるわけで―――。

「結局貴様も甘ちゃんか。殺さねぇでどうする、逆にやられるぞ。いや、お前がやられる分には一向に構わねぇ、むしろ死んでくれ。それに俺たちを巻き込むな。

ルーギの不手際のせいでレイラが殺されかけたことを忘れた訳じゃねぇだろ。俺たちを殺したいのか」

「忘れた訳じゃないさ。むやみに殺す必要はないと言っているんだ。それに報復なんて思いつかないほどの力の差を見せつけた。あんな奴らでもどうやったって勝てないことぐらい分かるさ」

「分かってないな。あのような下賤な連中自体生かしておく必要はない。ああいう奴らがいるから治安は悪くなり、似た考えの輩が集まり増長し、やがてガーマのようになる。お前は間接的にそれに加担したんだ」

「ならそれごと叩き潰せば問題ない。その連中を一掃すればいいだけの話だ。どんな奴がきても俺は敗けねぇよ」

「…驕りは目を曇らせ、やがて足元を掬われるぞ。やられるなら俺たちの関係ない所で勝手に死んでくれ」

「もちろん、その時が来たらそうするさ」不穏な空気が漂い、一悶着起きそうになったが、何となくまとまった。

 それはフラッツが曲がりなりにもユウトの実力を認めたからだ。そのため、敵意剥き出しにはならず、争いの種はないも同然だった。それでも文句を言わずにはいられなかった。もっとも衝突しなかったのはもう片方に争う気がなかったからである。

「話はまとまったようだな」レイラが言う。彼女もフラッツがユウトに必要以上に突っかからないか危惧していたが、このぐらいなら許容範囲だろう。安堵の表情をみせる。

「正直私もフラッツと同意見だ。しかし心のどこかでは殺めることが全てではないと、それ以外の方法はないかと思っていたが、そうも言っていられないのが現状でな。仕方がなくだ。

危険因子の息の根を止めることは自分を守ることに繋がり、仲間を、大切な人を守ることになる。だからこの世界では常識なんだ。しかしそうはしない、それがお前のやり方なんだな?」

「ああ、んなことばっかりしてたら誰もいなくなっちまうよ」

「そうだな。お前は既に培ってきた様々な経験に基づいて辿り着いた確固たる信念や戦い方がある。そしてそれを貫けるだけの強さを持ってる。それに私がどうこう言える立場じゃないが、それでも一つ言うなら、それがいつまでも通じる訳ではない。どうしようもないことが、いつかそれを変えなければならないような大きな決断を迫られることもある。見逃した相手に殺されるかもしれない、いくらお前が強いといっても絶対にそうならない保障はない。それでもお前は自ら定めた道を往くか?しばし沈黙した後、口を開いた。

「それが俺だ。俺は殺すも殺されんのもどっちもごめんだ。

人は変われるもんさ、殺すってことはそこでそいつは終わりだ。更生の機会は永久に失われてしまう。どんな人間にも生きる権利ってのはあるんだ、それは勝手に奪っていいもんじゃなぇ。もちろん人を傷つけることを何とも思わんクソ野郎には相応の罰を与えなきゃならんけどな。

俺たちだって元はたった一人の人間から産まれたんだ、分かり合えるなんてキレイ事は言わないがその努力はできるだろ。対話をするんだ、そして理想に近づけていく。それが人間のすることじゃねぇかな」

「………」

「どうもこの世界は命を軽視する傾向が強いようだな。自分もまたこの世界にある一つの命であることを忘れて。

お前たちの言いたいことも分かるが、そんなことをしていった先にあるのは孤独だと思うぜ。それじゃ楽しくねぇだろ、一人じゃ何にもできないんだからな。

それにお前らだって敵対してたんだろ?それでも今はこうして手を取り合える仲間になってる。

逆に、例えばレイラがルーギを殺めてたらお前はこうして笑えてなかったかもしれない」

「…!」

「人の一生なんて他人はもちろん、当人すらどうなるか分からねぇ。ある奴との出会いが良い方向に進むこともある。同じ信じるならそっちの方がいいと思うぜ?」ニヤッと笑った。それに釣られるように微笑を浮かべると「そうだな。ならお前がそれを信じさせて、証明してみせてくれ。それまで私はお前と共にいる」

「…期待すんなよ」そう言うと歩き始めた。

 この男もまた譲れぬものを持っている。それはこれまでの道程で得てきた、辿り着いた末のものだろう。その一端に触れることができた。しかしそれで満足することなく、更に先を目指して進んでいる。その先にあるものを見るために、己を高めるために。

 これだから出会いは面白い。自分にはないものを持つ人と関わることで、新たな刺激をもらい、自らの糧とし、成長できる。それは人としてだけでなく、人生も豊かにしてくれる。

出会えてよかった、心の底からそう思える日もそう遠い未来ではないだろう。

これからどうなるか不安もあるが、それ以上にどうやって歩いていけるか、いこうかという楽しみの方が大きい。

レイラたちはそれぞれ顔を見合わせて頷くと、その背に追いつくために走り出した。

こうして彼らの旅は始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ